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個性が集まり力になる
建築・家具・布・宿の
数寄者たち

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「お金がいくら儲かったとか、可視化しやすいじゃないですか。だからみんな経済的な合理性をものさしにしがちなんですけど、それで豊かになれるかどうかは別で。ぼくらは、多様性が生み出す非効率な価値をもっと育んでいきたいと思っているんです」

そう話すのは、SUKIMONO代表の平下さん。

SUKIMONOは、島根県江津(ごうつ)市に拠点を構えるデザイン集団です。

地元の素材を使うことにこだわり、建築や家具、雑貨など、さまざまなものづくりを展開してきました。

そんなSUKIMONOが昨年の夏にオープンしたのが、土地の素材や手仕事を伝える宿「Showcase Hotel KASANE」。

さらに今年の春には、起業や創作、教育などの目的で地域に滞在する人のための宿「ロイノハコ」もオープンしました。

今回は2つの宿の運営スタッフを募集します。

平下さんの言う「多様性が生み出す非効率な価値」とは何か。

一緒に考えながら読んでみてください。

 

江津市について事前に調べていると、「東京から一番遠いまち」という情報が出てきた。厳密には、本州内で鉄道を使った移動時間がもっともかかるまち、とのこと。

飛行機を使っても、出雲空港からバスと電車を乗り継いでおよそ2時間半。海岸沿いを走る山陰本線に揺られてのんびり向かう。

最寄りの浅利駅で降りると、SUKIMONOのスタッフの方が車で迎えに来てくれた。その流れのまま会社を案内してもらうことに。

広い敷地内には、倉庫のような数棟の建物が並んでいる。もともと石見焼の窯元だった設えを活かして、オフィスやギャラリーとして利用しているそうだ。

この建物の2階は、キッチン付きのコワーキングスペースとサテライトオフィスを自社で設計・施工。通路を進んでいくと布製品の工房があって、軒先には染めの下処理のために干された白い布が、風にはためいている。

向かいの別棟は、木工機械の並ぶ家具工場。大音量で好きな音楽を流しつつ作業していた職人さんも、手を止めて「こんにちはー」と挨拶してくれた。

さまざまなものづくりの現場がぎゅぎゅっと集まったテーマパークのようで、なんだかもうすでに楽しい。

一通り案内してもらい、話を聞いたのは代表の平下茂親(しげちか)さん。みんなからはシゲさんと呼ばれている。

地元の江津市で鉄工職人として働いたあと、宮大工の専門学校と大阪芸術大学で設計を学び、アメリカ・ニューヨークへ。デザイン会社で経験を積み、2011年にUターン、翌年にSUKIMONOを立ち上げた。

「ニューヨークって、才能のある人は山ほどおるんですよ。個の能力で目立とうとしても限界がある。一方で、その人だからこそわかる、インターネットでもなかなか辿り着けないような情報には等しく価値を見出してくれる場所でもあって」

「自分の場合それは何かと言ったら、地元の伝統工芸や産業、文化だろうと。そのルーツを掘り下げていくことが、この先グローバルにおいても確実に価値を生んでいくだろうと思って、11年前にこの会社をつくったんです」

たとえば、このあたりで生産されてきた石州瓦は、寒冷地を中心に全国的なシェアがある。ここへ来る電車の窓からも、鮮やかなオレンジの屋根が明るい街並みをつくっているのが見えた。

地域で増えつつある空き家は、リノベーションすれば商店や住宅として生まれ変わる。歴史ある建造物が取り壊されるときには、大黒柱や梁などを譲り受けることも。

それに都市からの遠さでさえも、捉え方次第で価値になる。

そうした価値を、いかに形に落とし込めるか。SUKIMONOはそんな問いと向き合いながら、建築の設計、施工、さらには家具や雑貨づくりへと幅を広げてきた。

「うちはこの地域のものをなるべく多く使うという縛りを設けていて。そうすると、自ずとこの地域らしいものができるんです」

SUKIMONOには、設計士や大工、家具職人、ファブリックデザイナーや現場監督など、多様な人たちが集まっている。

その現場の人たちに対して、細かな指示を出さないというのも平下さんの考え方。

「指示されたものをつくるだけの働き方になったら、お金はもらえても豊かになれない。その時々のジャズセッションみたいな感じで、全体がひとつのメロディーになっていればいいんです」

「すっごい嫌いなのが、バックキャスティング的な考え方ですね」

バックキャスティング的な考え方?

「5年後こうなりたいから今これしてます、みたいな。不安は減るかもしれないけど、それ楽しい?って」

「ビジョンなんかはどうでもいいというか。幸せになりたいな、ぐらいでいいんじゃないですかね。そのための方法論はいくらでも変わっていくし、今この瞬間、モチベーションが上がるやり方で一生懸命やったらいいのかなと思いますね」

宿づくりに関しても、平下さんは現場のスタッフに裁量を委ねている。

舞台は1350年以上前、聖徳太子の時代に修行僧が発見したと言われる有福温泉。

歴史ある温泉街の一角にたたずむ廃宿をリノベーションして、昨年の7月末、地元の素材や手仕事を体感する宿「Showcase Hotel KASANE」をオープンした。

「廃墟寸前の温泉街でいったら、日本のなかでトップ10に入るんじゃないかな。既存のやり方はもう通用しないので、新しく産業をつくらないといけない。生き残っていくためには、やりながら失敗しながら、常に考え続けなきゃいけない環境だと思いますよ」

さらに今年の春には、おなじ有福温泉内に2軒目の宿「ロイノハコ」もオープン。

こちらは宿泊費を抑えたドミトリー中心の宿で、中長期で滞在したい人をターゲットにしている。

「バーカウンターとダイニングがあるので、たとえばここで1週間お店やってみませんか?って。それでまちに溶け込んでもらえたら、次来たときにはこの辺の空き家を使って『お店やろうか』って話になる人も出てくると思うんです」

江津市では、廃校を活用したアーティストインレジデンスがスタート。地域に残る伝統文化や産業、食材や郷土料理などを活かして、起業・創作する人を呼び込んでいきたい。

また、地方の保育園に家族揃って滞在する「保育園留学」も、江津市内の子ども園ではじまろうとしている。

「有福温泉が今から草津や伊豆のような観光地になることは、まずない。そうじゃなくて、都会にはない教育環境や、この土地ならではの資源を求めて、その過程で温泉地に滞在する。そんなモデルをつくっていきたいんですよね」

今回募集するのは、これらの宿を運営していくスタッフ。

チェックイン・アウトや予約の対応、清掃や設備の維持管理など、基本的なオペレーションにももちろん関わる。

ただ、「それだけに留まってほしくない」と平下さん。情報発信やイベントの企画運営などにも関心を持って、この地域を一緒に盛り上げていってほしい。

「うちは、まちづくりが標準装備の会社です。自分たちが幸せになろうと思ったら、『本来行政がやることでしょ?』とか言ってられないんですよ」

「今回の募集も、単純に『こんな宿を一緒につくりましょう』っていう話じゃなくて。人口80人の有福温泉を、宿を起点にデベロップしていく。自分たちのまちは、自分たちでおもしろくしていく。そういうスタンスを楽しめる人がいいですね」

 たとえば、宿の運営をしながら、夜はバーテンダーをするとか。朝食や夕食のプランをつくるとか。

訪れる人とのコミュニケーションを楽しみながら、自分でどんどん企画を立てて実施してみたい人は大歓迎。反対に、宿泊業だけに専念したい人は合わないと思う。

 

「Showcase Hotel KASANE」の立ち上げから携わっているスタッフの稲積さんも話を聞かせてくれた。

前回の日本仕事百貨での募集をきっかけに入社した稲積さん。それまでは20年以上にわたってライターの仕事をしていた。

「もともと家具や手仕事が好きで、藍染めの体験に行ったり、古材で棚をつくったりしていたんです。好きなものが詰まったSUKIMONOで、かつ新しいホテル事業を通じて地域と関わっていけることに興味を持ちました」

当時の募集はKASANEのオープニングスタッフ。ただ、最初に現地を訪問したときには、まだ改装している最中だった。

「なんとかオープンに間に合わせた、というところからのスタートで。今も日々進化中という感じですね」

たとえば、スイートルーム「点線」には当初、背の高いテーブルと椅子を設置していた。ただ、床に藍染のやわらかなクッション素材を採用したことから、より安心してくつろいでもらうため、座卓に変更したそうだ。

ほかにも、共用部にはフリードリンクコーナーを新たに設置。野菜ジュースや挽き立てのコーヒー、ハーブティーなどを用意して、チェックイン後はいつでも気軽に楽しめるようにした。

宿を運営するなかで、「もっとこうしたい」と思ったことをすぐに反映できるのは、家具や内装も自分たちでつくれるSUKIMONOならではの強みだと思う。

「20年以上やってきた仕事を変えて、まったく知り合いのいないところに一人で乗り込むのは、不安も大きかったです。でも今は、チャレンジしてよかったなと思っていて」

「ホテル部門はわたしも含めて2名なんですが、少人数なので意見も言いやすいです。家具部や建築部とも協力しつつ、どうすればもっとよくなっていくかなって、毎日ふつふつと情熱を燃やしながら楽しんでいます」

どんな方と一緒に働きたいですか。

「SUKIMONOがやっているホテルということで、自分たちでつくった家具とか、染めた小物も多いですし、島根県内のいろんなつくり手さんたちが関わってくれています。たとえば石州瓦の会社さんとか、和紙の工房であるとか。スイートルームの中庭は、地元の庭師さんにつくっていただいたりだとか」

「そういう方々と一緒に、ほかにはないものをつくりたい。宿を通じて、地域を盛り上げていきたい。そこに情熱を持って、一緒に切磋琢磨していける熱い方がいいですね」

AIやさまざまなテクノロジーが普及して、一定レベルの表現やものづくりを誰もが手軽に実現できる今。

平下さんの言う「多様性が生み出す非効率な価値」は、もしかすると、そうした技術が浸透していない地方にこそ見出せるのではないかと感じました。

似通ったまちなみが増えていくなかで、その土地に残り続いてきたものを活かし、そこにしかないものをつくる。多彩なつくり手たちとともに、地域に新しい価値を生んでいく。

そんな挑戦に情熱を注げる人を待っています。

(2022/2/14 取材 2023/10/20 更新 中川晃輔)

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