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高温の窯で溶かしたガラスを棹(さお)で掬い上げ、形を整えながら息を吹き込む。
冷却、飲み口の加工・研磨・焼き入れ、拭き上げ。それぞれの工程を経て完成したグラスは、検査を経て、梱包される。
すべて人の手で行われているのに、ひとつとして動きに無駄がなく、流れるように作業が進んでいく。松徳硝子の工場を訪れて、一番印象に残ったことでした。
「僕らは工房ではなく、工場です。つくっているのは作品じゃなくて製品。規格に当てはまる品質のものをどれだけの数つくれるか。そこにプライドを持ってやっているんです」
代表の齊藤さんは、そう話します。
代表作「うすはり」を中心に、ビールグラスや日本酒用グラスなどのガラス食器を製造している松徳硝子株式会社。
今回は、最終工程である検査と出荷の担当者を募集します。
目立つ仕事はあまり得意じゃなくても、コツコツと目の前の仕事に取り組むことは好き。そんな人に知ってほしい仕事です。
南千住駅前から続く大通りを5分ほど進み、角を曲がって一本細い道に入る。住宅街のなかに真っ黒な外観の工場が現れた。
「松徳硝子株式会社」の看板が掛かった入り口からおじゃますると、代表の齊藤さんが迎えてくれた。
大正11年からガラスを生産してきた松徳硝子。長年の拠点だった錦糸町から、新たに建てたこの工場に移ってきて約2年が経つ。
案内してもらったショールームには、数々の商品が並んでいる。
松徳硝子の代表作は、「うすはり」。
厚さ1mmもない、極めて薄いグラス。器にじゃまをされることなく、ダイレクトに飲みものの味を楽しむ体験ができると人気なのだそう。
国内外の飲食店やセレクトショップなどでも取り扱われている。
「どんなふうにつくられているか、一通り案内しますよ」
齊藤さんとともに2階へ上がると、ワンフロアの工場になっていて、ガラスづくりの工程が一望できる。
一番奥のスペースで行われているのが、「玉取り」と「吹き」と呼ばれる工程。
高温の窯で炊かれたガラスを棹で巻き取り、息を吹き込んでグラスの核となる玉をつくる。その玉を金型に入れてさらに吹き込むと、グラスの形に成形される。
かつて電球用ガラスを製造していたころから培ってきた、薄く均一にガラスを吹く技術が活かされているという。
「窯の中のガラスって、常に変化してるんですよ。職人を見ると、慎重に吹いてるじゃないですか。あれはガラスの状態を観察して、どう吹けばいいか見定めているんですよね。一定のリズムでやってもなかなか同じものはできないから、ガラス製造はややこしいんです」
吹き上がったガラスは80分ほどかけて冷却し、飲み口の部分を切断・研磨。さらにバーナーで炙ることで、なめらかな口当たりのグラスが完成する。
工場にいると、機械音は常に鳴っているものの、話し声はほとんど聞こえてこない。
流れるように動くみなさん。ここにいる全員が、自分が次にするべきことをわかった上で、黙々と動いている感じがする。
2010年に松徳硝子へ入社した齊藤さんは、3年半前に代表となった。
さまざまな改革に取り組んできたなかで、とくに大きかったのが、「計画主体の生産体制」への変更。
以前は、とにかく稼働ありき。ざっくりとした予測で在庫をつくり、そこから出荷していくスタイルだったけれど、それだと生産効率があまり高くなく、休みもとりにくかった。
お客さんからの受注窓口である販売部門が注文を取りまとめ、「いつまでに何を何個つくってほしい」と製造部門に社内発注するかたちに変えたことで、効率的に仕事がまわるようになったそう。
コロナ禍をきっかけに、帰宅ラッシュを避けるべく、特例で終業時間は1時間繰り上げ16時に。現在も特例は続いていて、よい成果が出続けている限りは継続するそう。効率のいい動きを意識するようになったことで、短い時間でも品質や生産量が維持できているという。
「収益構造が改善したことで、休日も段階的に増やすことができて、社内の雰囲気もよくなって。他業種からしたら当たり前のことかもしれないけれど、うちにとってはすごく大きな変化でした。昨年は特に成果を実感できる業績となり、数年ぶりに賞与も出せましたね」
「儲かる会社にしたいって言い続けてきたんだけど、ようやく『儲かってます』って言えるようになって来たかな。今はこの状態を継続して、足場を固めていく時期です。そうすれば、また次のステップに行けますから」
完成した製品が「松徳硝子のグラス」として販売できるかどうか。
最後に品質をチェックし、梱包・出荷まで担うのが、今回募集する検査・出荷担当。
「製造と同等かそれ以上に、ブランドをつくり、工場を経営する上で重要な役割」と齊藤さんは話す。
新しく入る人の直属の上司となるのが、三浦さん。検査・出荷担当が所属する販売部門の課長を務めていて、齊藤さんとともに新しい会社のあり方を模索してきた中心メンバーのひとり。
「商品検査とグラスの拭き上げがメインの仕事で、新しく入る人も、まずここをしっかりできるようになってほしいと思っています」
製造過程でついてしまった水垢や汚れを落としながら、一つひとつ目視で検査。小さな傷があれば研磨機で直し、規格に満たなければ不良品に落とす。
最後に商品シールを貼って梱包し、倉庫へ運搬。注文に応じてそこから出荷される。
「ガラスって普段あまり扱わないし、うちのはとくに薄いので、初めは加減がわからなくて怖いと思うんです。一日に何百個も扱ううちに、良品不良品の違いもだんだんわかるようになるので、まずはガラスに慣れてもらうところからですね」
検査のゾーンでは、みなさんが集中してガラスと向き合っている。
頭よりも高く掲げて、光に当てながら品質を確認。検査項目は何十もあり、それでも判断がむずかしいものは、最終的に齊藤さんも交えて、出荷可能かどうか話し合うという。
「自己完結しないで、みんなに相談できることが一番大事だと思います。これ出荷して大丈夫かな?って思ったら、自己判断しないで、必ず相談する。それがきちんとできるメンバーが、結果的に長く働き続けてくれています」
「今のチームの雰囲気、すごくいいんです。それぞれが常に先のことを考えて、作業効率を意識して。誰かがお休みのときは、じゃあどうしようかって自然とみんなで考えて」
仕事終わりに残って明日の作業を確認している人がいたり、倉庫の不要な段ボールを自主的に片付けてくれる人がいたり。
それぞれが責任感を持って、前向きに仕事に取り組んでいる。
「あまり変わり映えしない仕事なので、コツコツ続けていける人が合っていると思うんです。そのなかにも彼女たちはやりがいを見つけてくれて、日々正確さもスピードも突き詰めている。齊藤も私も、そういうところを見逃さないように、評価していきたいと思っています」
続いて話を聞いたのは、日本仕事百貨の記事をきっかけに約3年前に入社したおふたり。コツコツ働く、を実践している方たちだと思う。
林さんは、IT業界で10年ほど働いたのち、松徳硝子へ入社した。
「IT業界の流れは一通りわかったので、なにか新しいことをやってみようと転職活動を始めて。体力があるうちに身体を動かす仕事がやりたかったのと、伝統的なものづくりの仕事に関わってみたいと思っていました」
「記事では、社長や三浦さんの人間味や仕事への想いがすごく伝わってきて、わたしもここで働いてみたいと思いました。面接では社長がすごく熱心に説明してくださって、社内見学に1時間もかけてくれて」
「ただ、組織図を見せてもらったとき、ベテランと若手に偏っている印象だったので、抜けていっちゃう人も多いのかな、と思ったんです。それを質問してみたら、当時の働き方の課題とか、厳しい部分も正直に説明してくださったのが印象的でした」
実際に働きはじめてとくに大変だったのは、スピード感をもって検査を進めること。
どうすればもっと速くなるか、今も先輩にアドバイスをもらいながら日々取り組んでいるという。
「自分がうまく動けて、全体の仕事もうまくまわったときは、すごく達成感があります。自分の作業が終わったらこっちに入ろう、とか先読みをして。みんなで協力し合ってきれいに片付いて、就業時間にすべての仕事を終えられたときは、とてもやりがいを感じます」
一見、個人作業中心に見えるけれど、効率よく確かな仕事をするには、チームで協力することがとても大切なんだと思う。
「エントリーするときに、『特別ガラスや食器に関心があるわけではないんですが』って書いたんです。そうしたら社長から『正直な方ですね』って返信がきて(笑)。あ、なんかいい会社かもなって思いました」
そう話すのは、新卒で入社した三浦由倫香さん。課長の三浦さんと同じ苗字なので、由倫香さんと呼ばれることも多い。
現場で実践しながら、身体で仕事を覚えてきた。
一日中立ち仕事で、グラスを高く上げて検査するので肩も凝る。入社したころは、家に帰っても疲れて何もできない日が続いたそう。
「最初は、自分が見たグラスは本当に出荷して大丈夫なのか、一つひとつ先輩に確認したいくらいでした。すごく検査に時間がかかっていたんですけど、毎日見続けるうちに少しずつ違いがわかるようになってきました」
自分の仕事ができるようになってきてからは、チーム全体に気を配れるよう意識している。
「先輩方って、すごくいろんなことに気がつくんです。目の前の作業をしながらも、常に次にすることの準備ができている。わたしも後手後手にまわらないよう、がんばってついていこうと思っています」
もうすぐ備品がなくなりそうだから、補充しておこう。自分の作業が終わったらどこのサポートに入ろうか。
黙々と手を動かしながら、頭の中でいろんなことを考えているんだと思う。
由倫香さんは、日々の仕事のどんな部分にやりがいを感じるんだろう。
質問してみると、しばらく考えてから答えてくれた。
「正直、まだあんまりわかんなくて。入社したばかりのころは、どこに走ればいいかわからない、けど走らなきゃいけない、みたいな気持ちもあったんです」
「でも、今は仕事ができる上司や先輩を見ていると、こんなふうになれたらいいなと思います。やりがいとは少し違うんですけど、目指す場所があるので。わたしみたいな人でも、3年やればちゃんと走っていけるようになります、って伝えたいです」
体力をつけるために、由倫香さんは歩いて会社に来るようになったんだと、あとで齊藤さんが教えてくれた。
学生時代から学んでいるドイツ語を活かした仕事や、商品開発など、挑戦の幅も広げつつあるという。
成長の機会を与えてもらえるのも、日々の仕事に一生懸命取り組む姿が評価されているからだと思う。
地道な努力はきっと実を結ぶし、それを必ず見ていてくれる人がいる。
地に足をつけて、自分の仕事と向き合う人たちが集まる、気持ちのいい職場だと思います。
(2023/1/6取材 増田早紀)
※撮影時はマスクを外していただきました。