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ここまでできる
ここまでやりたい
上へ上へあげていけ

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「どんどん壊されていく町家を、どうしたら住み継いでいけるんだろう」

俊平さんの思いは、たくさんの仲間たちとともに、13年間旅を続けています。

2011年には、紀寺の家がはじまりました。解体予定だった築100年の町家5棟を改修して、現代の町家暮らしを体験できる宿に。

その後、町家暮らしを日常にしたい人のための賃貸事業を展開。

2023年には、俊平さんの実家の隣りにある旧南都銀行・紀寺支店が、シェアリングコミュニティスペース「bird bird」に。

ゆっくりじっくりと、奈良市紀寺町(きでらちょう)の風景を育む株式会社スペースドットラボで、ともに働く仲間を募集します。

紀寺の家の接客・調理・掃除を中心に、田植えやお土産づくりまで。町家暮らしの支度をする仕事です。

働く人の興味に応じて、さまざまな仕事を相談されることもあります。言葉が好きならば、雑誌への寄稿を相談される、といったように。

自分のできることを0から1へ、1から2へ、3へ、4へ…と広げることもできますが、ここでの仕事の基本は「1」を深めること。

限られた時間のなかで、今日はどこまで町家を掃除できるのか。どうしたら、もっときれいに拭けるのか、もっと早くたためるのか。

接客・調理・掃除という毎日の仕事を、昨日よりも今日、今日よりも明日、明日よりも明後日と、モチベーションを上げながら働く。

そうして、5軒の町家を住み継ぐなかで、自分にもまちにも、たしかなものが積み重なっていく時間があります。

 

紀寺の家に到着すると、入社4年目のひなこさんが迎えてくれた。

まずは、町家を改修した宿を案内してもらう。

5つある町家の一つ、角屋(つのや)の町家に入ると。

「もう名残にさしかかっていますが、庭で三葉つつじと椿(つばき)を楽しんでいただけます」

「この間、椿のがくをとりました。実ではなく、木に栄養がいくようになります。これからは雑草も伸びていくし、庭仕事がいそがしくなりますね」

植物の手入れも、仕事の一つ。

関東のベッドタウンに生まれ育ったひなこさんは、庭師さんにも教わりつつ、入社後に一つひとつ身につけていった。

町家には、こうした四季折々の仕事がある。

「今日やること、週でやること、月でやること、1年でやること。紀寺の家には、4つの仕事があります」

春は、布団や座布団、制服であるワンピースの衣替え。そして、部屋に虫が出ないように対策をしていく。6月には、田植えと梅干しづくり。朝食でお出しする玄米は自分たちで育てている。

梅雨が明けると、暑中見舞いを書いていく。盆地の暑い夏を乗り越え、秋は正倉院展。開催に伴って、多くのお客さんが奈良を訪れる。12月になると年賀状を準備し、2月は宿をお休みして、1週間の大掃除を行う。そして、3月からふたたびお客さんを迎えていく。

ひなこさんが入社したのも3月だった。大学生活に悩み、一度区切りをつけ仕事を探しているときに、紀寺の家の募集を見つけた。

「文化を守る仕事がしたいと思っていたので、町家を残すために宿を運営していることにすごく惹かれたんです」

フローリング育ちのひなこさんにとって、紀寺の家は新鮮そのものだった。

「町家にはどんな良さがあって、どんな景色があって、どんな暮らしがあるんだろう?想像が膨らみました。カフェとして町家を残す方法もあるけれど、もともとは家。住んでこそ良さがわかるように思いました」

紀寺の家では接客・調理・掃除のすべてを自分たちで行う。

「なにかと体を動かす仕事です。勤務時間だって流動的。朝6時半から朝食をつくることもあるし、仕事終わりが夜7時を過ぎる日もあります」

「1年間のリズムをつかむまでは大変でしたね。あらかじめ覚悟はしていましたけど、やっぱり体力はいる仕事です」

読書好きということもあり、雑誌への寄稿など、言葉をあつかう仕事も任されていった。

「そうして、できることを増やしていくことも魅力的ですけど…」とひなこさん。

「やっぱり、接客・調理・掃除という毎日行う仕事が、町家を残していくことにつながる。そのことに、わたしはすごく魅力を感じて働いています」

お皿洗い、ベッドメイキング、お部屋の掃除。一見すると単純にも思える仕事の一つひとつに、“ちょっとしたこと”が隠れている。

たとえば、朝食に使うおひつ。

「お湯や洗剤を使うと傷んでしまいます。まずは水に浸けてから、たわしで洗います。でも、長時間水に浸けっぱなしだと、今度はカビてしまうんです」

ピッと座布団のしわを伸ばす。タオル掛けに収まる幅でタオルをきれいにたたむ。

これらの“ちょっとしたこと”は、一通りまとめられている。

「これまで働いてきた先輩たちが一つひとつ試行錯誤を重ねながら、マニュアルという形にしてくれたんです」

入社して最初の数ヶ月間は、マニュアルを頭に入れつつ、体に根づくまで何度も繰り返していくことになる。

大変さと達成感を交互に感じつつ、一通り仕事を覚えたあとは、どんな気持ちで日々働いていくのか。

ひなこさんに、4年目を迎えた今の気持ちを聞いてみる。

「もっと、もっと、って思っています」

「もっと早くできるようになろう。もっときれいに出来るようになろう。もっと精度を高めていこう。日々そう思って働いています」

きっかけは、研修を担当してくれた先輩。

「限られた時間のなかで、すごく細やかに仕事をされる人でした。昨年卒業されたんですが、今もわたしの目標です。あの人のようになりたいって、いつも頭に浮かべています」

研修中、こんなことがあった。

マニュアルの通りにベッドメイキングを終えると、先輩から「最後に庭から見ると、もっとよくなるから」と声をかけられた。

言われた通りに確かめると、掛け布団に隠れていたマットレスのふちが、ちょこんとはみ出ていた。

「それは、先輩だけの“ちょっとしたこと”でした」

「基本の仕事はマニュアルに書かれているけれど、それを越えてどこまでやるかは、働く一人ひとりに委ねられています」

マニュアルに頼らず仕事ができるようになったら一人前、ではない。紀寺の家はそこからがはじまり。

だからこそ、誰と一緒に働くか、が大事だ。

「自分一人だったら『ここまでかな』と思うときも、一緒に働く仲間がいるから『わたしはここまでできる』『わたしはここまでやりたい』『もうちょっと』って。『ここ』を上へ上へあげていく気持ちで一緒に働けたらうれしいです」

 

13年間かけて、「ここ」を積み重ねてきた人がいる。代表の藤岡俊平さんだ。

「宿泊業の経験がないまま、紀寺の家をはじめました。2011年にオープンした時は、マニュアルもなくて。毎日毎日試行錯誤を重ねながら、『ここ』を築こうとしていました」

俊平さんは、生まれ育った紀寺町で町家が次々取り壊されていくなか、2011年に紀寺の家を開業。

奈良市はじめての町家一棟貸しということもあり、大きく注目を浴びる。

けれども、オープンから10年を迎え、目新しさが薄れるにつれて、メディア掲載もぱたりと減った。

町家一棟貸しの宿が急増したことで、「住み継ぐために、現代の町家暮らしを体験する」というコンセプトが、伝わりきらない場面も出てきている。

あらためて、紀寺の家の価値はどこにあるのかと考えた。

「あたらしさで話題をつくろうと考えた時期もありました。家具を新調しようかな、新たに町家をリノベーションしようかな。けれど、あたらしさはずっと続くものではないからね」

「これまでどういうお客さまが訪ねてくださって、わたしたちはどのように接してきたのか。ここで日々重ねているものこそが、価値だとわかったんです」

紀寺の家には、13年の間に訪れたお客さん一人ひとりの記録が重ねられている。

たとえば、こういうもの。

朝食にどんなものを食べていただいたか。どの町家に泊まられたか。どの季節に来られて、どのように過ごされたか。

春に泊まられて吉野に桜を見に行った。冬に来られてお水取りを観覧した。連泊されるので、洗いもの用にキッチンスポンジをお持ちした。コーヒー用にミルクをお出しした。それから、他愛ない会話の数々。

顧客情報と名づけるのは味気なくて、どこか思い出のようなもの。

日々を重ねることの大変さも、俊平さんは身をもって知っている。

たくさんの給与をお渡しできるとか、勤務時間が短いとか、けっして条件の優れた仕事とは言いがたい。それでも、ここで働きたいと集まってくれた人たちが、紀寺の家を13年間支え続けてきた。県外からわざわざ移住した人も多い。

「かんたんには解決できない課題に対して、みんなで取り組んでいきたい。町家の良さが伝わり、それが残る世の中にしていきたい」

「だからこそ、一緒に働く人がわくわくする場面を、たくさんつくっていきたいんです」

 

俊平さんは、紀寺の家から歩いて30秒ほどのところで「bird bird」をはじめた。

ここは旧南都銀行の紀寺支店。1階はシェアダイニング、2階はコワーキングスペースとシェアオフィス、そして屋上はシェアサウナ。

同じ空間を誰かと使うことで、働く人も、住んでいる人も、訪れた人も。自然とつながりが生まれる場所が紀寺町にあったらいいと思った。

「銭湯のような場所、と言ったらイメージがわくかな?」「これから働く人がここで羽を休めつつ、空高く飛んでいけたらいいな」

3月のオープンに向けて準備を進めてきたのが、ちひろさんとあきえさん。

「bird birdは“0”をつくっているところ。はじめるって、こんなに大変なんですね」と、奥に座っているちひろさん。

現在は、コワーキングスペースの利用規約の作成、会員登録の仕組みづくりから、お客さん対応、掃除まで行っている。

「紀寺の家が積み重ねてきたものも、みんなからの期待もあるなかで、どういう形になるのか、試行錯誤しています」

オープン初日には、紀寺の家で働くスタッフが休日にもかかわらず、ふらっと立ち寄ってくれた。

「すごくうれしかったな。ふだんの顔を見れたのもよかった。そういう場面、たくさんつくっていきたいです」

シェアダイニングで、レストランとカフェバーを切り盛りするのが、料理人のあきえさん。

あきえさんは、自身が仕事で大変なとき、何度もごはんに助けてもらった経験がある。

「乗り越えたい時期って、必ずあるよね。おいしい料理をほおばっている間は、気持ちを皿の上に持っていけるし、隣りあった人と話すことでも気持ちが緩んで、よく眠れるようになったりね」

13年目の紀寺の家、そして1年目のbird bird。

紀寺町にある2つの場所で、自分たちが提供できる価値を日々見つめて働く人たちがいます。

安心して、働いていただけたら。日々の積み重ねが、あなたを上へ上へとあげていく。そんな時間がここにはあります。

(2023/4/6 取材 大越はじめ)

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