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傷ついてしまった床や壁。壊れてしまった家具や置物。
長く使い続けたいものを、以前のように美しく、より長持ちするように生まれ変わらせる。
高い技術力を武器に、補修の仕事に取り組んでいるのが、株式会社REPAROです。
今回は、さまざまなものの補修を手がける補修アドバイザーを募集します。
経験は一切求めません。職人としての道を極めるために、一生懸命努力し、学べるかどうか。まずはそこに尽きると思います。
東京・練馬区。
REPAROの工房があるのは、大泉学園駅からバスで10分弱の場所。池袋からだと30分ほどで到着する。
周囲はスーパーなどがある住宅街で、会社はあまり多くなさそう。マンションの1階にREPAROの工房兼事務所を見つけた。
引き戸を開けると、カーペットが敷かれた空間に、作業中の家具がいくつか置かれている。
出迎えてくれたのは、代表の岡﨑さん。お会いするのは、前回の取材以来。工房の一角にセッティングした机を囲んで、話を聞かせてもらう。
「今年オフィスを移転したんです。前回の取材のときよりだいぶ広くなったでしょう」
REPAROの設立は2006年。岡﨑さんが補修の仕事をはじめて8年目のときに、会社を立ち上げた。
一口に「補修」と言っても、仕事内容はさまざま。
たとえば、新築マンションの入居前に行われる補修。大人数の体制ですべての部屋に入り、工事中についてしまったキズを、長期に渡り直す会社もあるそう。
社員5人と少人数体制のREPAROは、そういった大型案件は受け付けず、ハウスメーカーや不動産会社からの案件を複数並行して受けていくスタイル。
個人の住宅に出向き、床や壁にできた傷や穴を直したり、工房に持ち込まれた家具や陶器を直したり。
不動産会社から、賃貸物件の退居後の補修を依頼されることもある。
「現場に出ずっぱりの日もあるし、終日工房にいる日もあるので、仕事のメリハリがあると思います」
「自分も正直、毎日同じようなものを直す補修だったら、たぶん辞めてるんですよね。いろんなものを扱いたいっていう気持ちがあるんです」
最近、新たな取り組みとしてYouTubeでの動画配信をスタート。
REPAROの補修がどんな方法で行われているのか、わかりやすく紹介されている。
反響は大きく、技術を実際に習いたいという人たちに向けて、講習会も開催中。月に2回、半年間かけてじっくり、REPAROの技術を一から伝えている。
「世の中には、たった数日でそう高くないレベルの補修を教える講座もあります。でも、そういうのって掃除しただけで取れちゃったりして、やり直しの依頼が結構あるんですよ。この実力じゃお客さんに出せないからって、うちで改めて技術を習い直したいという方もいます」
筆の使い方ひとつで、仕上がりはまったく異なってくる。講習会では、動画で見せていない部分まで、社員総出ですべて伝えていくという。
「僕もいい歳なんで、業界全体をレベルアップしてから引退したいなって。補修業界を古いと思う人もいるかもしれないですけど、人間の『直したい』っていう欲望って、なくならないはずなんです。だから、この仕事はなくならない」
この仕事は、なくならない。
「壁や床なら張り替えることもできるけど、家具は使い続けたかったら直すしかない。だから、お客さんからもめちゃくちゃ感謝されるんです。タイムマシンとタイム風呂敷が発明されない限り、補修の仕事は存在し続けるって、僕はよく言うんですよ」
求められるものに応え続けるため、REPAROでは技術はもちろん、接客にも手を抜かない。
お客さんと話す練習も兼ねて、その人自身や家族のことなど、仕事中に社員に質問することは多いと話す岡﨑さん。人となりをわかったうえで、その人に合った指導をしていきたいという思いもある。
「特に個人のお客さんからはよく話しかけられるんですよ。そのとき、『今作業に集中しているんで答えられません』とは言えない。手を動かしながら、丁寧な言葉遣いで話す練習をするんです」
「ただ、いきなり多くは求めません。最初数ヶ月は、とにかく技術を伸ばすためにどうするかを徹底的に考えてもらえれば大丈夫。その次のステップとして、人として成長していくことを教えたいと思っています」
スタッフが集まるタイミングで、岡﨑さんは日頃からいろいろな話をするという。今も、仕事に向かう姿勢の話になると、より熱量が上がったのを感じる。
「仕事をするうえでは、気づきと不安が大事なんです。この仕上がりでREPAROの基準に追いついているかな、ほかの人ならもっとできるのかなって」
「自分のやり方が合っているか不安に思ったら、どんどん質問しなさいと伝えています。答えを聞いて、先輩と一致していればいいんだから。それを繰り返すうちに聞かなくてもわかるようになっていくんです」
実際の補修はどんなふうに行われていくんだろう。
新卒で入社して2年目の堀部さんに聞いてみる。
「この写真が、今手がけているチェストの作業前のものです」
そう言って見せてくれた写真に写っているのは、斜めに大きく亀裂が入ってしまった扉。
まずは扉の歪みを直すのが補修のスタート。次に、傷をパテで埋め、凹凸がわからないようにヤスリをかけて高さを合わせていく。
その後の着色では、経年変化でもとの塗装が剥がれた部分の風合いにまで色を合わせていく。
「近い色を一回塗るだけだと、のっぺりした全然違う色になってしまいます。まずは明るい部分の色を塗って、その上から少しずつ濃い色を重ねていきます」
もともとスプレーで吹きつけ塗装がされていたものなので、吹きつけられた粒を筆で再現するつもりで、細かな点で塗料を載せていく。
作業が完了したものは、色はもちろん、手で触ってみても、大きく傷が入っていたとは信じられない仕上がり。
着実に努力を重ねていけば、1年ほどでこのレベルまでは達することができる。
今や貴重な戦力となっている堀部さん。どんなきっかけでREPAROに興味を持ったのだろう?
「子どものころから絵を描くことやものづくりが好きで、高校までは美術系の学校に通っていたんです。ただそこで、創作の難しさにぶち当たってしまって。クリエイターとして仕事をしていくのは自分には厳しいと、一般の大学に進学しました」
「でも就職活動の段階になって、働く自分をイメージしたときに、やっぱり手を動かせる仕事をやりたいと思うようになって。職人の求人を探しはじめました」
そんななか、5年前の日本仕事百貨の記事でREPAROを見つけ、直接問い合わせた。
最初、岡﨑さんには「新卒なら、まずはいわゆる一般企業を経験したほうがいい」と断られてしまったそう。
「そう言われたけれど、別の会社は結局受けなかったんです。自分がやりたいものが見えているのに別のルートを選んだら、うまくいかなかったときに言い訳ができちゃうと思って」
「働くなら自分が納得した会社がいい、もし失敗するとしても、自分の責任で選んだところがいいと思って。ほかの職人の仕事を見ていくなかでも、REPAROならずっと続けていけるんじゃないか、続けてみたいという気持ちになって、また連絡をしました」
もう一度、面接を経て内定。車での移動が必要だったため、運転免許も取得したそう。
入社してからは、一人で現場作業ができるようになるため、技術の特訓と運転の練習をする毎日。
現場作業があれば自宅から直行し、終わり次第帰社するのがREPAROの働き方。
研修期間の3ヶ月は、工房で基礎を習ったり、先輩の現場に同行したり。休みの日も自主的に練習して、基礎となる技術の土台を固めてきた。
「今見れば、ここまで書かなくてもと思うんですけど…」と言いながら見せてくれたのが、ステップシートというもの。
工程ごとに、どんな目的のためにどの道具を使い、どう手を動かすか、各々が自分なりの表現で書き込んでいる。
あえてマニュアルをつくらないREPAROでは、仕事に慣れるまではこのステップシートが作業の手引きとなる。
「工房にいるときは、目の前のことをやって、疑問があれば気軽に聞くことができるんです。現場に一人で出てようやく、自分で考えなきゃならないことの多さに気づくんですよね」
この補修にはどの道具がいいのか。色はどう重ねていくべきか。工事中の現場だと、現場監督から「ここも合わせてお願いしたい」と、急に依頼を受けることもある。
「以前同行中に、質問が少ないって注意を受けたことがありました。作業方法や部材ひとつとっても、これなんですか、どうやるんですかって、まずは興味を持って質問すること。それが現場での対応力につながっていくので、すごく大事だと思います」
「興味を持ち続けられないと、キツい仕事かなと思います。興味の持ち方を教えるのは無理なんですよね。でも、知りたいという気持ちがあれば、壁にぶつかったときも助けになると思います」
そう話すのは、一番のベテランスタッフで、課長の向(むかい)さん。
これまでの採用では、面接で言葉を尽くしても、技術を身につけるための苦労がなかなか伝わらず、ミスマッチにつながることも多かったという。今回の選考には、補修体験も組み込む予定。
「技術を伸ばすには、探究心が何より大切なんです。実際に体験してもらって、『もっとうまくやりたい』という気持ちが生まれるかどうかを見てもらえたらいいかなと思いますね」
新卒で入社して14年になる向さん。その間、独立したスタッフや、地道な練習に耐えられずに短期間で辞めていったスタッフは何人もいた。
ここまで続けてきた向さんの原動力はなんだったんでしょう?
「年次を重ねても足りない部分を社長が指摘してくれたり、後輩の指導に責任を持つようになったり、張り合いがあることは大きいですね。ステップが上がることにちゃんと刺激があって。難しい案件を社長から引き継ぐこともあるので、今でも勉強には終わりがないです」
「あと、仕事自体が好きっていうのは一番根底にあります」
たとえば、と話してくれたのは陶器の補修。バラバラになって工房に持ち込まれることもあり、直す前と後の違いがわかりやすいものの一つ。
「しっかり直してお渡しすると、お客さんの反応がすごくよくて。『あれだけ割れてたのに』とか『さらに大事にします』っていう言葉をもらえることもあります。勝手ではありますけど、単にものを直しただけじゃなくて、相手の気持ちもなおすような気持ちになりますね」
ものを直すだけじゃなくて、心までなおす。
技術だけでなく、人としてのあり方まで大切にするREPAROだからこそ、その言葉から、説得力を感じました。
技術を身につけていく道のりは、鍛錬と表現してもいいかもしれません。諦めずに地道な努力を重ねた先に、ずっと自分の身になり続ける、一生ものの力が手に入るのだと思います。
(2024/7/2 取材 増田早紀)