渋谷のMIYASHITA PARKにある、小さなハチ公のモニュメントを囲む円形のベンチ。
これは、「渋谷の方位時針|ハチの宇宙」というアート作品。誰でも触れることができるパブリックアートは、気づかないところでわたしたちの生活に彩りをもたらしています。
「日頃からいろんなデザインやアートに触れていれば、だんだんといい家具や照明がほしくなっていく。消費されるものではなく、自分が満足できて、誇れるものを手に入れたい。そういう人を一人でも増やすことが、ものづくりのいい循環に欠かせないと思っています」
「いわゆるデザインやアート、素晴らしいものづくりが身近にあることが人生にとってどれだけ豊かなことか。それに気づいてもらうためのタッチポイントを、日本全体に増やしていきたい」
そう話すのは、デザイナート代表の青木さん。
日本最大級のアートとデザインのフェスティバル「DESIGNART TOKYO」の運営のほか、企業とクリエイターのコラボレーション提案、各地のイベントのプロデュースなど。アートとデザインを切り口に、さまざまなつながりを生み出しています。
今回、「DESIGNART TOKYO」の運営を中心に、さまざまなプロジェクトに関わっていくスタッフを募集します。
仕事内容は、進行管理や予算管理、関係者とのやりとりなどを担う、いわゆるプロジェクトマネージャー。
経験を活かしてクリエイティブの業界に飛び込みたい人や、小さな組織で自分の力を発揮したい人に、挑戦してほしいです。
外苑前駅から、オフィスビルや飲食店が並ぶ通りを歩いて5分ほど。
奥に青山霊園の緑を望む、緑の格子が可愛らしい建物の一室に、デザイナートのオフィスが入っている。
毎年、イベントのボランティア募集で取材をしているけれど、今回は正社員の募集。どんな話が聞けるだろう。
出迎えてくれたのは、代表の青木さん。穏やかな口調で、一つひとつ丁寧に説明してくれる方。
アートピースや書籍に囲まれた打ち合わせスペースでお話を聞く。
青木さん含む6人の発起人が資金を出し合い、デザイナートを立ち上げたのは2017年。
活動の軸となるのが、今年で8回目になるアートとデザインのフェスティバル「DESIGNART TOKYO」。
東京都内のショップやギャラリー約100ヶ所を会場に、アーティストの作品を展示。約20万人が来場する、日本最大級の回遊型イベントに成長している。
「“舞台装置”として、若手から大御所までいろんなクリエイターのチャンスをつくっていくのがDESIGNART TOKYOです」
「みんなが夢中になる新しいクリエイティブが増えて、ビジネスも潤滑にまわる。そんな双方の化学反応が起きやすい状況をつくっていきたいと活動しています」
そんな考えをもとに、さまざまな事業を展開。
たとえば、スクール事業の「DESIGNART LAB」。ミラノサローネの代表など各界の第一人者を講師に招き、ブランディングの視点からクリエイティブ人材を育成する講座を開いている。
そして近年増えているのが、企業のブランディングやイベントのプロデュース。
最近では、マンションデベロッパーの株式会社大京のプロジェクトに関わった。
自社のあるべき姿や目指したい姿から、「2050年の未来の暮らし」をデザインするというもの。
株式会社電通がブランディングを主導し、デザイナートはクリエイターのアサインと、展示の際の空間演出を担当した。
「これは移動する大型マンションで、各地を巡りながら常にいろんな人と交流ができる。仕事やプライベート、趣味など、いろんな側面を持つことが人の幸福度につながりやすいという考えから生まれたそうです」
この作品は、昨年のDESIGNART TOKYOでお披露目。
展示方法まで含めたブランディングを提案できるのが、デザイナートの強みでもある。
「我々は世界中にクリエイティブネットワークがあります。ただ紹介するだけではなく、この建築家とインテリアコーディネーターならいい掛け算が生まれますよ、などと導き出す。その企業が躍進しやすくなる提案ができます」
コロナが明けたこと、団塊の世代から新しい世代に会社の主体が移り変わったことで、社会には大きな変化が生まれはじめているという。
「たくさんの競合がいるなかで、自社ならではの持ち味でどう変革していくか。課題を乗り越えるために、外部の力を借りて思い切った変革に取り組む企業が増えていて、クリエイティブへの関心も高まっている。僕らも相談をもらう機会が増えています」
ここ数年、業務が多岐に広がり続けていることもあり、新たに社員を募集することになった。
これから入る人がまず取り組む仕事は、今秋に控える「DESIGNART TOKYO 2024」。毎年のこのイベント運営が仕事の軸になるので、しっかりと経験を積んで、ほかにつなげていってもらいたい。
今年のテーマは「Reframing 〜転換のはじまり〜」。今の当たり前や、決められた枠を一度壊して再構築することで、これからも変わり続けられるのではないか。そんな想いが込められている。
「メインビジュアルは、日常的に目にするオブジェクトを回転させて撮影しました。それだけでまったく違う印象になって、ひとつのアート表現になっています」
そう教えてくれたのは、スタッフの坂本さん。
DESIGNART TOKYOの出展者とのやりとりや、SNSや動画などのコンテンツの進行管理やディレクションを主に担当している。
年明けから動き出し、今は出展者がおおよそ決定したところ。これからガイドマップやWebサイトの準備がはじまる。
10月の会期に向けて、出展者や展示会場とのやりとりやトークセッションなどの企画など、いそがしさが増していく。「気づいたらメールが100件溜まっていた」というような時期もやってくるのだとか。
「運動会の二人三脚みたいな感じですね。常にほかの人の様子を見て、声をかけあいながら進まないとうまくいきません」
昨年、坂本さんが力を注いだ企画のひとつが、出展者である乃村工藝社のPR動画とインタビュー記事の制作。
展示したのは、産業廃棄物から生み出したビニール製のファニチャー。
作品をムービーの中でどう伝えていくか、どんなインタビュー内容が来場者の興味を惹くか。先方の意向に添いつつ、見せ方の提案やモデルと制作スタッフの選定、インタビューなどを全般的に坂本さんが担当した。
「100組ほどの出展者のうち、PRのコンテンツ制作までやるのは10組程度。ですが、それぞれアプローチは全然違って、どこも思い入れが深いものになります。出展者によっては、まだ作品が完成前で、工場での制作風景を撮影することもありますね」
「来場者さんは、作品がどうしてつくられたのか、どんなストーリーを持っているのかに興味を持つ方がすごく多くて。コンテンツでも、出展者がどんな想いでつくっているのかを意識して伝えたいと思っています」
前職はアートギャラリーで働いていた坂本さん。当時の経験は活きていますか?
「前職で、展示制作もWebサイトもSNSも広く関わっていたので、やっていることは近いなと思います」
「ただ、ひとつ大きく違うのは、デザイナートは関わる人数がとっても多いこと。インターンのチーム編成やマネジメントは、ここで初めて経験しています」
DESIGNART TOKYOには、毎年インターンやボランティアなど30名ほどのメンバーが関わり、準備や当日の運営を行なっている。
「毎年メンバーが変わるので大変です。年齢や仕事、キャラクター、いろんなバランスを見て、かなり綿密にチームメンバーの構成を考えています」
「みんな半年くらい一緒に活動して、またバラバラになる。でも、せっかく関わってもらうんだから、この期間を振り返って『大変だったけどいい経験だったな、今に活きてるな』と思ってもらいたい。なにかのきっかけになるように、役割やチーム編成を考えていくのは充実感がありますね」
そう続けるのは関戸さん。DESIGNART TOKYOでは、スタッフ同士の情報整理や収支管理など、全体のまとめ役を担っている。
入社して3年。最初は、右も左もわからないところからイベントを形にしていった。
「1年目よりも2年目、2年目よりも3年目。去年の反省をどう活かしてより良くするのか、来年のためにどれくらいの利益が必要なのか。現実と結果をすり合わせることが自分の役割だと捉えています」
「主な担当は、スタッフそれぞれのストロングポイントを見ながら決めています。個人ができることを積み上げて、全体をつくっていくやり方が多いですね」
仕事内容は、いわゆるプロジェクトマネージャー。スケジュール管理や資料作成など、同じような仕事をするなら、自分の興味関心のある業界で働きたいと思う人は多いはず。
仕事の基盤をアートやデザインの領域に置きたい人にとっては、絶好のチャンスになると思う。
先日、大阪では「Osaka Art & Design 2024」というイベントを開催。複数の大手百貨店が実行委員会となり、デザイナートがプロデュースを行った。
百貨店のフロアとまちなかのスポットで展示を行い、大阪のまちを巡りながら、アートやデザインと出会う。今年で2回目になる周遊型イベントだ。
DESIGNART TOKYOでの経験を活かして、開催にあたり必要な情報やコンテンツを一から提案。とくに昨年は前例がなかったため、地域のギャラリーやインテリアショップ、デザイン事務所に関戸さんと青木さんが自ら足を運び、出展者や協賛を募っていった。
「地域には、長く続くデザインやアートのイベントがなくて、発表の場を求めて東京にクリエイターが出ていってしまうという課題もあって」
「いろんな期待を背負ってスタートしたイベントなので、形にしなきゃいけないプレッシャーもありました。でも東京で培った経験が活かせる場面がたくさんあったし、その先に喜んでくれる方がいるって実感できたことは印象深いというか、やってよかったですね」
取材中、スタッフのおふたりが話をしているあいだ、代表の青木さんがじっくり耳を傾けていた姿が印象に残っています。
二人のことを信頼していることが伝わってきたし、日頃から、相手を引き立たせる役割に徹しているデザイナートだからこその姿勢なんだろうな、と感じました。
そんなふうに考えながら帰っていると、偶然出会ったのがパブリックアート。
モニュメントの前のベンチに腰掛けて、写真を撮る赤ちゃんとお母さん。デザイナートが目指したい未来は、こんな風景が日本中で当たり前にあることなんだと思います。
クリエイティブが身近にあることで、きっと人々はもっと豊かになっていく。そんな考えに共感できたなら、ぜひこの活動を広げていく一員になってください。
(2024/06/07 取材、2024/09/04 更新 増田早紀)