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愛おしいハンカチ

「ハンカチが愛おしいんです」

取材中、オールドファッションのみなさんが何度も話していたこの言葉。

その愛おしさは、ハンカチ一枚一枚に関わる人たちの想いから生まれるものだと思います。

オールドファッション株式会社は、ハンカチを中心に身近な日用品をプロデュースしている会社。

ハンカチ専門ブランドの「H TOKYO」「swimmie」をはじめ、天然繊維でつくられたトランクスや靴下など。

どのアイテムも自分たちの考えを活かしながら、職人さんと一緒につくっています。

今回募集するのは、丸の内にある「H TOKYO」と、上野・日本橋・東京駅構内にある「OLD-FASHIONED STORE」の販売スタッフ。

一枚のハンカチに込められた想いを、どう伝えるか。

まずはオールドファッションが大切にしているものを知ってほしいです。



向かったのは、東京駅すぐそばのKITTE丸の内。

その3階に、オールドファッションが運営するハンカチ専門店「H TOKYO」がある。

シンプルなものや、花柄やユニークな絵柄が施されたもの。お店を彩るハンカチは、見ているだけで楽しい気分になる。

「店内に並ぶハンカチのほとんどは、代表の間中やスタッフのアイデアから生まれたオリジナルです」

そう声をかけてくれたのは、エリアマネージャーの出川さん。

三宿本店の店長と広報も兼任している。

早速、店内を案内してもらう。

ハンカチに加えて、中央の作業台にはミシンとカラフルな糸。購入したハンカチはお店で刺繍もできるそう。

私が手に取る一枚一枚について、出川さんはコンパクトかつ丁寧に魅力を教えてくれる。

「これ、なんの柄だと思いますか?」

きれいに畳まれたハンカチからは、柄がまったく予想できない。

広げてもらうと… あ!

「豆大福なんです(笑)。こうやって広げて楽しめるものもあって。ハンカチっておもしろいんですよ」

オールドファッションは2007年に設立。もともとバイヤーとしてハンカチの仕入れ担当をしていた代表の間中さんが立ち上げた。

「間中から何度も聞かされて私たちの身に沁みこんでいるのは、顔が見えて仲間と思える人たちと仕事をしたい、という想いで」

間中さんは生地から縫製まで、製造過程の一つひとつに、自分たちの考えを理解してくれるパートナーを探し訪ねた。

たとえば、創業当初からあるスタンダードなシャツ生地のハンカチは、生地の産地として有名な兵庫・西脇や静岡・浜松で織られた生地からつくられている。

国内で一から生地をつくってもらうこともあれば、イタリアやスイスから仕入れた生地をハンカチに加工することも。

縫製の多くは横浜の小さな工場でおこなわれていて、正確な四角い縫い目からは、職人の技術と気遣いが伝わってくる。

「間中は工場や取引先の人に、すごく熱い気持ちを持って話すんです。だからむずかしいオーダーをお願いすると、『しょうがない、間中さんのためにやってみよう』となってくださることも多くて」

そんなこだわりを感じられるのが、社内のハンカチ研究会。布のこと、ものづくりのこと、接客のこと。扱うテーマは毎回さまざまだそう。

以前、長く関わりのあるハンカチ工場へ見学に行ったときのこと。

その工場では環境に配慮して、川から引いた水で糸を染めて布を織り、使った水は微生物の力で薬品を落としてから川に戻している、と教えてもらった。

「私たちのハンカチは製造過程にある話がどれも良いものしかなくて。ハンカチ自体が光っている、というか。胸を張っている感じがするんです」

会社のことやハンカチのことを、楽しそうに話す出川さん。

入社したのは5年前。前職は大手小売店で販売職をしていた。

店頭に並ぶ商品は、つくられた想いや背景まではわからないものばかり。それらをただ販売することに、違和感を抱いていた。

「接客が不得意だと思っていたから、むしろはじめは心地よかったんです」

「でもだんだんと、心から好きだと思えるものをおすすめしたいと思うようになって」

そこで思い浮かんだのが、オールドファッション。

「催事で初めて出会ったとき、ハンカチの手触りの柔らかさや優しさ、デザインの豊富さに感動しちゃって。ずっと忘れられなかったんです」

その後、日本仕事百貨の記事から応募して入社。

今は全店舗のマネジメントと、本店の店長やSNS発信も担っている。社内で一番肩書きが多いそう。

「一人ひとりがいろんな仕事をできるので助け合えますし、この人数だから生まれる温かさを感じます」

現在、社員は30名ほど。全員の意思疎通をはかるにはいい規模だそう。

「みんな社長って呼ばずに、間中さんって気軽に話しかけますし、間中が持ってきた企画にも、思うところがあればみんな遠慮なく言える。そこから意見を出し合って練り直したりして。風通しはすごくいいですね」

たとえば、全スタッフが商品やイベントの企画提案ができる、プロポーザル制度。

今、販売されている「マンガチ」では、ある漫画家さんを中学生の頃から好きなスタッフが企画に関わって完成した。

「間中は楽しいことを常にやろうとする人で。たとえば、ハンカチ屋にとって3月は送別品が多くて一番の繁忙期なんですけど、そんな私たちがてんてこまいなときに『お花見しようよ!』って明るく言ってきて(笑)」

「そのときは、ひー! ってなるんですけど、結局参加したら楽しいし、そのポジティブさに救われるときもあるんです」

オールドファッションのハンカチは、スタッフみなさんの明るい雰囲気も纏っているように感じる。



「みんなが同じ方向を向いているというか。一緒に何かをやりたいと思える人が集まっている気がします」

そう話すのは、日本橋店と上野店の店長で、入社6年目になる石渡さん。

前職は飲食店で長く働いていた。

日本仕事百貨を見ていて、偶然出会ったのがオールドファッション。

「こんなお店あるんだって思いました。思い返すと、幼稚園の頃のハンカチがまだ手元にあったり」

「自分にとってハンカチは大切なアイテムかもしれない。もしかしたら仕事に向いているのかもと思ったんです」

無事採用され、初めて触れたハンカチの世界。

デザインはもちろん、つくり手のこと、生地の知識やお手入れ方法、手触りや吸水性の経年変化など、覚えることはたくさんあった。

「はじめは、刺繍のオーダーが大変でした」

名入れが多い刺繍は、お客さんの選んだハンカチに刺繍のイメージを聞きながら、フォントのデザインや糸色を提案していく。

「いろんな色や強い柄が入っているものだと刺繍が見えにくかったり、生地によって刺繍がきれいに入らなかったりするものもあって。困ったときはほかのスタッフにも相談します」

「お客さまと迷う時間も楽しいので、一緒に悩んで一緒に楽しもうという気持ちでいれば大丈夫だと思いますよ」

プレゼント用として求められることも多いハンカチ。

贈る人の趣味を聞いたり、写真を見せてもらったり。どんなものが喜ばれるか、お客さんに寄り添った提案も大切だと感じたそう。

石渡さんのお気に入りは、ハンドロールという仕上げが施されたもの。

ハンドロールとは、こよりをつくるようにハンカチの周りを巻きながら縫っていく縫製のことで、慣れた職人でも1時間で3、4枚しか仕上げることができず、縫製のなかでも希少価値は最高峰だという。

「職人の方の手縫いで、ふっくらとした縫い目がランダムに入っているんです。一針一針、縫ってくれたんだと思うと、愛おしくてかわいくて」

「その技術を持った方がご高齢で、後継もいないそうで。その方が辞めてしまうとなくなってしまう技術なんです。だからこそ、出来上がってきたものを見ると、より愛おしさを感じます」

見て感じられるこだわりと、それが生まれるまでのストーリー。石渡さんの一言で、目の前のハンカチの見方がガラッと変わる。

「自分たちがつくっているんだ、という想いがみんな強い会社ですね。作家さんの背景とか、いろんなことに興味を持てる人だといいと思います」



最後に、入社歴が浅いスタッフの方にも話を聞いてみる。

話してくれたのは、日本橋店の大塚さん。入社して3年目になる。

オールドファッションのファン歴は、入社前から遡ることおよそ9年。

「かわいいお店がある! って催事で出会って。そのときは一枚だけ買って帰ったんですけど、やっぱり気になってまた別の日に行ったら、刺繍を入れられるというのを知ったので、入れてもらいました」

そのとき刺繍したハンカチを、うれしそうに見せてくれた。

…もしかして、ナオミキャンベル?

「学生のときのあだ名です(笑)。刺繍を入れたら、自分だけのめっちゃ特別な一枚のような愛着が湧いて」

「入ってから知ったんですけど、私がファンだったから社員のみんなは『ギャップがあったらどうしよう』って心配していたそうで」

実際はどうでしたか?

「ギャップはなかったです。むしろ好きだったものにこれだけ深みがあるんだって、あらためて確認できた感じでした」

入社後はすぐ店頭に立つのではなく、まずは商品に対する想いを学ぶことから。

スタッフには一枚に込められたこだわりを、お客さんにしっかりと伝えることが求められる。

同じ接客でも、それまで経験してきた飲食店とは違いを感じた。

「飲食店のように、目的があって来てくださるお客さまばかりではないので、買いたいと思ってもらうことがすごくむずかしくて」

意識して見ているのは、お客さんがハンカチをどう手に取るか。

触っていたら生地の感触を確かめたい。広げようとしていたら柄を見たい。裏を見たら値段を知りたい。見た動きに応じて声をかけていく。

「まだまだ私は引き出しが足りないんですけど、先輩たちは知識量もすごいし、お客さまへのお声かけもすごく自然で。先輩の接客もずっと観察しています」

ファンだった大塚さんは、今やその魅力を伝える立場に。

「ふらっと立ち寄ってくださったお客さまから『あら、このハンカチかわいいわね』って言われて、話が広がっていくときがすっごく楽しくて」

「かわいいでしょ、うちの商品かわいいでしょって、心の中で思いながら(笑)。私もファンだから、その気持ちを共感できるとうれしいんです」

印象に残っているのは、あるお客さんとのエピソード。

「先日、何回か接客したお客さまが閉店直前に、『あなたあなた!』って走ってこられて。『このあいだ買ったハンカチ、プレゼントしたらすごく喜んでもらえたのよ!ありがとう!』って、それだけ言って帰られたんです」

「お客さまがお店で過ごす時間って一瞬なんですけど、商品がいいから記憶に濃く刻まれるんだろうし、わざわざまた来て伝えてくれるぐらいうれしかったんだろうなと思って」

なかには、今日はこのハンカチを持っているんだ、とうれしそうに見せてくれたり、営業先でハンカチを褒められたことを教えてくれたりするお客さんも。

「その人の人生のいい部分をお裾分けしてもらっているような、ハッピーな気分になりますね」



みなさんの話を聞いていたら、いつしか私もハッピーな気持ちになりました。

愛おしいと思うものを、心からおすすめする。

だからこそ、ハンカチもスタッフのみなさんの笑顔も、キラキラと輝いているのだと思います。

(2023/4/27 取材 小河彩菜、2024/9/13 更新 阿部夏海)

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