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あなたのふるさとになる宿

「滝の音が聞こえますよね。そこから水路を引いて、敷地内を通って下に流れる多摩川まで続いているんです」

「お隣のおばあちゃんの家にいちじくの木があって。葉っぱなら何枚でも採っていいよって言ってくださって、デザートに香りづけで使っています」

東京・奥多摩のダイナミックな自然と、長年続いてきた集落の営み。そのなかに溶け込むように、建物をつくり、自然と人との関わりを生んでいる場が「Satologue(さとローグ)」。

訪れる人たちにとって、ふるさとのような場所になるように。そんな想いを込めてつくっている施設です。

ここにあるのは、築130年の古民家をリノベーションした建物で、地元の食材を味わうレストラン。ほかにも薪で温まるサウナや、奥多摩の自然環境を再現したビオトープ、ワサビ田や料理に使う野菜を育てる畑も。

奥多摩に根づく文化を、五感で体験することができます。

来春の宿泊棟のオープンに向けて、ホテルのサービススタッフと調理スタッフを募集します。

運営するのは、沿線まるごと株式会社。日本全国で地域創生事業を展開している株式会社さとゆめと、JR東日本の共同出資会社です。

この場所に身を置いてみたい。少しでもそう思ったら、まずは読み進めてみてください。

 

中央線で立川駅を経由し、青梅駅からJR青梅線に乗り込む。

平日の朝。登山やトレッキングに向かう人たちで、多くの席が埋まっている。

終点の奥多摩駅から2つ手前、鳩ノ巣駅で下車。

駅から車で5分、歩くと20分ほど。滝の音がよく聞こえる川沿いにSatologueはある。

「まだオープンして数ヶ月ですけど、毎日たくさんのお客さんが来てくださって。胸を撫で下ろしています」

うれしそうに館内を見渡すのは、さとゆめ、そして沿線まるごと株式会社代表の嶋田さん。

Satologueの構想がスタートしたのは、約5年前。

利用者が減り、過疎化が進む沿線地域の活性化を目的に、JR東日本とさとゆめが共同でプロジェクトに取り組むことに。

そこで生まれたのが、沿線の駅を起点にその地域全体をホテルに見立てる「沿線まるごとホテル」のモデル。

駅の改札がホテルのフロント。風景を楽しみながら散策し、古民家を改修した宿へ。

地元の食材を活かした料理や、住民と一緒に里山を散策するようなアクティビティも楽しめる。

そんな沿線まるごとホテルの第一弾として、ここ青梅線沿線でのプロジェクトが進行中。

今年5月に、レストラン「時帰路(ときろ)」と、併設のサウナ「風木水(ふうきすい)」がオープンした。

今後は、近隣に計10棟ほどの宿泊棟が順次オープン予定。

将来的にはほかの沿線にも、まるごとホテルのモデルを展開していく。

「1万人が1回だけ来るのではなくて、100人が100回来る、1000人が10回来るような場所をつくりたい。何回も通ってもらって、思い入れを持てる、ふるさとのような場所になればいいなって」

小さいころ連れてきてもらった場所に似ているな。おばあちゃんの家って、こんな感じだったな。

訪れた人が記憶の断片を思い出すような、豊かな情緒が感じられる体験を提供していきたい。

「ここで過ごすなかで、どこか懐かしい気持ちになったら、きっとまた来たくなる。次に来たときには、帰ってきたような気分になる。それを繰り返すことでふるさとになっていく」

ここで働く人たちは、地域の物語の語りべだと、嶋田さんは話す。

「言葉で伝えることもあれば、山を歩いたり食事をしたり、体験を設計することでも地域の営みを伝えていきます」

「それと、自分自身も物語の登場人物なんですよ。『こんな山の中でわざわざ働いているのはどうしてだろう?』とお客さんは興味を持って、コミュニケーションが生まれる。その出会いも、また来たいと思わせる体験のひとつになるはずです」

 

現在働いているのは、サービススタッフ2人と、シェフが2人。全員が30代の若いメンバーだ。新しく入る人たちは、この4人とチームとして動いていく。

サービススタッフの末水さんと秋山さんは、二人とも前回の日本仕事百貨の記事を読んで入社した。

まずマネージャーの秋山さんが、庭を案内してくれることに。

「今のところレストランはランチのみで、コース料理を2部制で提供しています。食事の前には、同じ回のお客さま全員とお庭の散歩に行くんです」

建物を出て、同じコースを歩く。

「奥に見える骨組みが、もうすぐ着工予定で、春にオープンする宿泊棟です。ここにはツインのお部屋が4つできる予定です」

かつて川魚の養殖をしていたこの敷地には、今も大小10個ほどのいけすが残っている。

「いけすのなかに池をつくって、奥多摩固有の植物を植えたビオトープをつくっています。水がきれいだからか、小さな魚やアメンボ、蛍も、生き物たちが自然とここに辿り着くんですよ」

「畑では、お料理に使う野菜を育てています。なるべく固有の環境に近づけようと、隣の青梅市から運んできた土を撒いています」

こんなふうに15分ほど敷地内を散策してから、食事をいただくという。

コースは全5品ほど。奥多摩エリアの生産者のもとを直接シェフが訪れ、仕入れてきた食材が中心だ。

前菜の鮎のコロッケに添えられているのは、さっき畑で見たハラペーニョの葉っぱ。お好みでちぎって、一緒に食べる。

メインディッシュの和牛にかけるソースは、スタッフみんなで仕込んだ味噌がベース。食後のお茶には摘みたてのハーブを。

それぞれの背景まであわせて説明してくれる。先ほどの散策とも相まって、おいしさをより深く感じられる。

「料理の内容は、シェフたちが工夫して、季節の移ろいに合わせて少しずつ変化させています。今日の午後は二人で梨農家さんのところに行って、秋の仕入れを相談するそうですよ」

こちらからの質問にも答えながら、滞りなく説明してくれる秋山さん。実はサービス業は未経験で、以前はデザインに関わる仕事をしていた。

奥多摩の自然や子育て環境に惹かれて、国分寺から家族で移住してきたのが2年前。

1時間ほどかけて職場に通うなかで、住むだけでなく、働く時間も奥多摩で過ごすことはできないか。そんなふうに考えていたときに出会ったのがSatologueの求人だった。

「20代のときに世界一周の旅をしたことがあって。いろんな国で自分がもてなしてもらった経験を、観光に携わることで返していきたいという想いもあって、挑戦してみようと思ったんです」

入社しておよそ1年。最初は、ついていくのに必死だったそう。

「マネージャーという役割ではあっても、自分だけが業界未経験。ほかの3人の足を引っ張らないように、すべてを素直に吸収しながら勉強してきました」

「最初はメニューを説明するだけでも緊張するし、体力的にもキツくて。営業が終わったらソファで倒れてましたね (笑)。未経験だとそれなりにしんどいとは思うけれど、頭ごなしに怒るような人はいないので、ついてきてくれたら絶対に戦力になれるはずです」

これから入る人は、まずはレストランでの一連の仕事を先輩たちから学んでいく。

あわせて、宿のオープンに向けてホテルサービスのオペレーションも考えることになる。チェックインから清掃対応、アクティビティの検討まで、担う範囲は幅広い。

決まりきったことはなく、現場の裁量も大きいので、アイデアを出し合いながらより良いかたちを目指していきたい。

 

一緒に働くサブマネージャーの末水さんは、建築業界を経て、大手リゾート会社で働いていた。

「Satologueでは単なるレストラン・ホテル運営ではなくて、さまざまなことをやります。水路がうまく流れていなかったら手を突っ込んで掃除もするし、館内に虫がいたら外に逃がす。どんな仕事もお客さまに直結するんだって思ってもらえたらいいですね」

前職の赴任場所は、山口県の長門。本職のホテルでの接客に加え、まちの活性化プロジェクトにも関わっていたという。

「それまで縁もゆかりもなかったんですけど、その土地を知って、好きになって、ふるさとができたような感覚になって。自分にとってガラッと人生が変わった経験でした」

出身は東京の葛飾区。地元に戻りたいと考えはじめたタイミングで、Satologueの求人と出会った。

「憧れていたんですよ、ふるさとに。田舎に帰省することがない幼少期だったので。でも山口に行って、自分のふるさとじゃない場所もそうなり得るってわかりました」

「同じような境遇の方や、海外からのお客さまが来たときにも、温かい気持ちだったり、地域の文化を伝えられる人でありたいなと思います」

Satologueの運営に欠かせないのが、地域の人たちの存在。

静かな住宅街に観光客の車が行き交うようになるだけでも、大きな変化。それでも理解を示してくれるのは、このプロジェクトに関わる人たちが長い時間をかけて丁寧に関係性を築いてきたから。

新しく入る人も、地域の人たちのことを大切に考えてほしい。

「わたしは歩いてすぐの集落に住んでいて。ホテルマンというより、この地域の民のつもりでいるので。ここの人たちが長年続けてきた生活を、一緒に過ごしていきたいと思っています」

野菜や果物をお裾分けしてもらったり、畑の隅でおしゃべりをしたり。庭の木の葉が電線にかかって危ないからと切ってあげたり。

一つひとつの経験が、訪れる人たちに地域の魅力を伝えていくための糧になる。

 

いま、畑の管理を手伝ってくれているのが、地元住民の佐藤さん。ほとんど毎日ここに通っているという。

「この近くのパン屋さんに遊びに来たときに、たまたま工事しているのが見えたんです。何をやっているのか聞いたら、いろいろと教えてくれて」

「そのときは会社を定年退職したところで、いろんな挑戦をしてみたい、社会の役に立つことがしたいと思っていたかな。ダメもとで、なにかお手伝いできることありますか?と聞いたら、ぜひぜひと」

あくまで自分が楽しいからやっている、と笑う佐藤さん。

「この地域に住んで30年、緑と自然が好きなんですね。奥多摩が好きだから関わりを持ちたいし、若い人たちがやっていることを応援したい。みんなの手が回らないことをちょっと手助けする。それが自分も面白いんです」

写真が恥ずかしいから、と記事には出ていないものの、地域にはほかにもSatologueと関わりを持ってくれている人たちがたくさんいる。

 

「大事なことを3つ挙げるとしたら、笑顔、謙虚、コミュニケーション!って感じです!もう、それがあれば十分じゃないですか」

最後に、元気に教えてくれる末水さん。そうだね、と隣で笑う秋山さん。お二人の生き生きした表情が印象に残った取材でした。

愛される場所に育っているのは、ここに関わる人たちの人柄あってこそ。

Satologueの世界観に共感できたら。そして、この人たちと一緒に働いてみたいと思えたら。青梅線に乗って、ぜひ奥多摩にやってきてください。

(2024/9/5 取材 増田早紀)

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