学ぶ楽しさ、働く楽しさは、誰かに与えられたものじゃなくて、自分で見つけていくから生まれていくんだと思います。
生きがいだって同じこと。
でも、経験を積んで、歳を重ね、新しいことに挑戦することに腰が重くなってしまったとき、楽しみを自分で見つけていくのは難しくなることもあるかもしれません。
今回紹介するのは、そんなシニアの方を対象に、思わず参加したくなるワクワクした仕掛けをまちなかにつくる仕事です。
株式会社ウェルビーイング阪急阪神は、関西の私鉄、阪急電鉄や阪神電気鉄道などを有する阪急阪神グループの一つ。「ヘルスケア」、「コミュニティ」の領域における地域課題・社会課題に向き合っています。
「ウェルビーイング」とは、持続的な心身と社会的な健康を意味する概念。ウェルビーイング阪急阪神では、「健康寿命が延び、幸せな人生を送ることができる沿線」を目指しています。
今回募集するのは、プログラム企画運営とイベント運営を担当する人。
社会参加を軸とした介護予防プロジェクトなどをおこなう、健康まちづくり事業部へ配属されることになります。
「男・本気のコーヒー教室」や「撮影マイスター養成講座」、「地上絵まち歩き講座」など。
キャッチーな学びの場を提供することで、健康や介護予防への関心が高まり、気づくと日々の楽しみや生きがいになっている。学びを活かすための場も設けることで、継続的な学びになり、地域もいきいきとしていく。そんな循環をつくる仕事です。
数十年後の自分がいきいきと暮らしているためには、どんな楽しみが必要なんだろう。そんなことを想像しながら読んでみてください。
東京から大阪まで、新幹線で2時間半。新大阪駅に着くと、周りの関西弁に勢いを感じる。
電車を乗り換えて15分ほどで、福島駅に到着。
改札を出てすぐのビル、「ラグザ大阪」にウェルビーイング阪急阪神のオフィスがある。
エレベーターで5階へ。左手に進むと入り口があり、中に入るとスタッフのみなさんが待っていてくれた。
まず、話を聞いたのは、健康まちづくり事業部の課長を務める上村さん。
阪急電鉄の運転士や、阪急阪神ホールディングスの社内広報誌の編集経験もある方。出向により、1年半前にウェルビーイング阪急阪神に異動してきた。
ウェルビーイング阪急阪神の始まりは、2017年。
阪急阪神ホールディングスグループの「沿線コミュニティの活性化」のための新規事業として、各エリアの活性化に向けたイベントを企画、運営したことがきっかけだった。
介護予防のプロジェクトがはじまったのは、設立されてから2年後のこと。
エリアの活性化に加え、シニアライフデザインの領域に目を向けたのはどうしてだろう。
「沿線上でも、高齢化が進んでいるんです。コミュニティの活性には、そこに属する方が元気であることが大切ですよね」
「阪急阪神のグループって、鉄道とか百貨店とか、リアルに足を運んでもらって売上が成り立つ世界で。元気な人を増やすことは、会社の成長にもつながる。それで、健康寿命を延ばす事業を展開していくことになったんです」
介護予防事業は、自治体から受託しておこなっている。
大学などの研究機関とも連携し、どれだけの介護費が削減されたか、数値を出すことで、自治体からの予算を安定的に確保できるようになった。
継続的に支援できるということは、まちに住む人たちもずっと健康でいられるということ。
今回健康まちづくり事業部に来てくれる人には、65歳以上の人たちが参加したいと思ったり、誰かに勧めたくなったりするようなプログラムを考える一員になってほしい。
自治体でも介護予防の取り組みはおこなわれているものの、参加者の偏りやプログラムのマンネリ化などが課題になっている。
たとえば、自治体が開催している体操教室では、参加者が固定化してしまったり、女性の参加者が多く、男性の参加者が少なかったり。
「わたしたちが対象にしているのは、65歳以上のいわゆる『シニア世代』の方たちで。ただ、『健康になる』とか『介護予防になる』と言っても、『まだまだ自分は元気だから大丈夫』とお年寄り扱いされたくないって感じられる方も多くて」
「なので、あえて『介護予防』と書かないこともあります。プロジェクトのブランディングにも力を入れていて、ロゴやコピーも工夫して、発信の仕方を考えています」
ウェルビーイングの強みは、これまで培ってきたコミュニティづくりのノウハウがあること。
「楽しそう」が参加のきっかけになる企画を実施しているため、介護予防に興味のない人にも参加してもらいやすい。
「イベントが終わって、みんながオフィスに戻って話すときの表情って、本当にいい顔なんです」
オフィスをのぞいてみると、イベントで使う道具を運んでいたり、お弁当を食べながら笑い合っていたり。健康まちづくり事業部のスタッフのデスク周りは、和やかな雰囲気。
健康まちづくり事業部は、1組3~4人の4チームで企画、運営を担当する。
日ごろからスタッフ同士でコミュニケーションがとれているから、誰かに楽しんでもらえる場づくりができるんだろうな。
新しく入る人にとって一番身近な先輩となるのが、入社して3年目の原さん。前職では地域コミュニティの中間支援をしていた。
もともと、コミュニティや居場所づくりに興味があったという原さん。
「前職でもコミュニティづくりをしていたけれど、BtoBの仕事が多かったんです。参加者さんの気持ちをもっと知りたいと思って、転職を決めました」
健康まちづくり事業部のプロジェクトは、気づきの場、学びの場、活躍の場の3つに分けられる。とくに大事にしているのが、学びの場なんだそう。
基本的に、プロジェクトはエリアごとに異なり、それぞれに複数のプログラムが組まれている。参加者は、チラシを見て興味を持った人や、家族から後押しされて参加した人など。講師には、主に地元で活躍しているプロの方を招いている。
原さんが入社してはじめて担当したのは、「いつもyobouいけだ」プロジェクトで開催した「男・本気のコーヒー教室」。これも学びの場のひとつ。
地域コミュニティへの参加が少ない、65歳以上の男性を対象にしたプログラムだ。
プログラムは全6回。講師は神戸で焙煎士をしている方を迎え、コーヒーの基礎知識を座学で学んだり、コーヒーの種類によってフードペアリングを考えたり。
コーヒー好きなら誰でも参加したくなるような充実したプログラム。実際に器具を揃えて自宅で練習する参加者もいたそう。
このときは補助的なポジションとして、参加者さんと交流することがメインだった原さん。
「参加者さん同士、だんだん仲良くなっていって、帰りに一緒に飲みにいったり、お互い連絡をとるために、それまで使っていなかったスマホを使うようになったり。いろんな変化を感じることができて、うれしかったです」
「プログラムが終了した後は、ご家族やご近所さんにコーヒーを提供するイベントも開催して。お客さんとして来てくれた方が、次のプロジェクトに参加してくれることもありました」
学びの場のプログラムが終わると、自主グループ化を目指す。学んだことをそのままにせず、活躍の場もつくる。学んだことが誰かのために役立つのは、いくつになってもうれしいこと。
「今でも自主的に集まって定期的にコーヒーを入れている方々もいらっしゃって。コーヒーだけじゃなく、地域のボランティアにも一緒に参加されているんです」
運営するスタッフが気づきの場から活躍の場まで伴走しつつ、目指すのは地域で自走してもらうこと。
「最初は参加者さんに馴染みすぎてしまって。『全部、原さんがやってくれるから大丈夫』ってわたしが全部引き受けることになったこともあったんです。きちんと引くことも大事なんだなって学びました」
「参加者さんにとって、心地いいコミュニティがつくれたなら、わたしたちがずっとそこに居続ける必要はないと思っていて。いずれは離れるってことを意識しながら関わっています」
孫みたいに可愛がられると評判な原さん。場に溶け込む力も必要だけれど、参加者との距離感も大切にしている。
新しく入る人も、場の運営に慣れてきたら、企画を考えて、講師を見つけて交渉するなど、プロジェクトづくりに関わることになる。
プロジェクトを進めていくには、参加者のほか、クライアントである自治体や企業、講師として来てくれる地域の方など、さまざまな人と関わる必要がある。
「それぞれのバランスをとることは難しいけれど、すごく大切にしていることもあります」
そう話すのは、入社して6年目の詫間(たくま)さん。原さんのチームのリーダーを務めている。以前は高校教員や観光案内所のスタッフとして働いた経験もある方。
「スタッフの独りよがりになってはいけないし、クライアントが求めるものは常に意識しています。その上で参加者のニーズも考えて、講師などのパートナーと一緒に、バランスを調整しながら企画を進めています」
できるだけみんなが納得感を持てるよう、アイデアや企画を取りまとめるのが、リーダーの役割。頼り甲斐のある先輩だ。
「最近は、『コーヒー教室とパン教室の修了生が一緒に何かできないかな』ってアイデアがチーム内で出て。パン教室の講師さんに相談したら、カフェ店舗を貸してもらえることになったんです」
「1日限りのカフェイベントを実施したら、参加者さんの奥さんやお孫さんが来てくれたり、ご近所の若い方も立ち寄ってくださったり。講師の方も喜んでくれました」
本当にたくさんの人が集まるんですね。
「そうですね。でも無理にすべてを開かれた場所にしようとは思っていなくて。参加者さんも身構えちゃうし、ハードルが上がってしまうこともあると思うので。規模は小さくても丁寧にやれば、口コミで広がっていくことも多いんです」
「実際に旦那さんの活躍を見た奥さんが、翌年に別のプログラム参加にしていただいたっていうケースもあったりするんです」
いくつかのプロジェクトを同時に進めていくし、参加者とのやりとりもある。調整は大変だけれど、一つひとつの作業をきめ細やかにおこなうことが、心地いい場づくりにつながっているんだと思う。
「自分がその年齢になったときに、開催されていたら行きたいなって。そう思えるイベントをつくっていきたい」
「参加者のみなさんって、本当に元気なんですよ。今の自分が65歳になったとき、こんなに元気でいられるかなって思うと、わたしも頑張らなあかんなって思います」
ここで働いている人も関わっている人も、その場その瞬間を楽しんでいる。
だからこそ、人もまちも、ハツラツといきいきと動いていくんだと思いました。
(2024/01/19 取材 大津恵理子)