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建築設計事務所。これまで建築の領域に関わっていない人にとっては、中でどんなことが起きているのか、はっきりとは想像できない世界だと思います。
建物を設計していることはわかる。でも、どんなふうに? 設計ってどんなプロセスがあるの?
専門でないからこそ生まれてくる、純粋な疑問。「そんなところから聞いていいのかな」と躊躇することなく、好奇心を持って飛び込んでいける人が、今回は求められています。
公共建築や商業建築を中心に、まちや人々にひらかれた建物を生み出している平田晃久建築設計事務所。
スケジュール調整などの秘書業務と、プレス対応など社外へ発信をしていく広報業務、両方を担う事務方のスタッフを募集します。
設計者とは異なる視点から質問をしてみたり、社内の仕組みについて新たな提案をしたり。いろんな人と関わりあって、全体のコミュニケーションをより活発にしていくための動きもしてほしいそう。
勤務日や勤務時間もフレキシブルに対応できるので、子育て中の人なども歓迎です。
美しい建物を見て心が動かされるという人、ものづくりやデザイン、アートに触れてきた経験がある人には、日々好奇心が刺激される環境だと思います。
表参道駅から歩いて10分ほど。
駅付近の華やかな雰囲気から、小学校や根津美術館を通り過ぎ、あたりが住宅街に変わったころ、小さなビルに到着する。
ここの1階から3階まで、1棟まるごと平田晃久建築設計事務所のオフィスになっている。
中に入るとすぐに打ち合わせスペースが。奥のほうでは平田さんが何人かのスタッフさんとミーティング中。真剣な空気感に気が引き締まる。
終わってから、同じテーブルで話を聞かせてもらう。平田さんは、一定の落ち着いた口調で話を進めていく方で、じっくり耳を傾けたくなる。
この事務所を立ち上げて19年。
国内外で建築設計に携わるかたわら、母校の京都大学でも教授をつとめている。
「京都と東京を行ったりきたりしています。大学での研究と自分の設計を重ね合わせながら、新しい発見があるような建築をつくりたいと常に思っているんです」
今年、表参道と明治通りの交差点にオープンした、東急プラザ原宿「ハラカド」は、知っている人も多いかもしれない。ここの外装や屋上のデザインは平田さんたちが担当した。
「今の東京って、お金を遣わずにぼーっとできる場所ってほとんどないじゃないですか。でもこの屋上では、風や緑を感じながら何気なく過ごすことができる。こういう場所をエリアの真ん中につくることで、まちで流れる時間が少しだけ変わっていくのかなと思っています」
店舗や住宅、ホテル、保育園、教会、モニュメント。
さまざまな設計を手掛けるなかで、近年増えているのが、まちの人たちとのコミュニケーションを経て生み出す公共建築。
2017年に竣工した群馬県太田市の「太田市美術館・図書館」もそのひとつ。
太田市は、人口22万人のまち。SUBARUの工場があり財政的には豊かではあるものの、車社会のため駅前に人の賑わいがないことが課題だった。
まちの中心部が廃れていくことに危機感を覚えた地元の人たちが、駅前に拠点をつくろうと動き出したことがプロジェクトの発端にある。
コンペで選ばれた平田さんたちのデザインは、いくつもの建物のまわりをスロープが巡っているデザイン。まちを歩くように建物に出入りができ、人の流れを生み出すきっかけになることを目指した。
「選ばれたときは、まだ細かい仕様は決まっていない段階で。具体的に求められていることや、どんな設計ならそれに応えられるのか。このまちにしかない建築はどうやったらできるのか。まちの人たちとのワークショップを通じて、アイデアを整理していきました」
美術館と図書館の機能を持つこの建物。「美術館にも気軽に入れる場にしたい」という意見から、フロアを分けず、両方をミックスした構成になった。
ほかにも、「強い風の吹く地域だから、屋上も風に侵食されたように削れているのがいい」「外から緑が見えて入りたくなるような雰囲気にしてほしい」など。
さまざまな意見を建築に落とし込んでいくことで、当初のアイデアを超えたものが出来あがる。
「公共施設は、ある特定の特徴を持ったまちの、特定の特徴を持つ人たちが集まる場所だと思っていて」
「地面があって木が生えるのと同じで。固有のものがあって初めて、そこにしかない、生きているような建築が生まれると考えています」
生きているような建築。
「たとえば1本の木の中には鳥の巣があったり、ほかの植物がからまったり、リスがいたりする。その生態系のようなものを『からまりしろ』と呼んでいて。僕の建築のひとつのキーワードなんです」
建物を起点に、自然や人、さまざまな事象がからまりあうように。その建物がなければ存在しなかった活動が生まれていくように。
ともにアイデアを練る過程を取り入れるなど、完成後にそこで過ごす人たちとのからまりをイメージして設計することで、人工物である建築が「生きているような」ものになっていく。
今回入る人は、設計に直接携わることはない。
けれど、平田さんや一緒に働くメンバーが、どんな考えで仕事に取り組んでいるのか、根本から理解していくことは欠かせない。
「新しく入る人には、会社全体のマネジメントをしてもらえたらと思っています。常に20くらいのプロジェクトがあるので、事務所全体をうまくまわすためのスケジュール調整は重要です」
たとえば、台湾で進行中の3つのプロジェクトに対して、一度の出張で訪問できるようにアレンジしたり。
多くの仕事に横断的に関わる平田さんが、どんな優先順位で動くのか。ミーティングの入れ方や出張の組み方など、各プロジェクトの担当スタッフと話し合いながら決めていく。
今は専任の秘書が不在で、スタッフがお互いにその役割を補っている状況なので、任せられるとありがたいそう。
「あと、プレスの仕事もお願いしたいことのひとつです。いろんな雑誌の取材を受けるので、適切な素材を提供したり、作品集や展覧会、WebサイトやSNSでの見せ方を一緒に考えたりもしてほしい」
「設計担当だけだと、設計的に注目してほしい部分を取り上げがちで、一般の人が見たいところには気づきにくい。第三者的な視点から、より多くの人の共感を呼ぶような伝え方を考えてもらえたら理想的です」
設計のプロたちと、そうではない受け取り手。そのあいだに立てるのは、今回のポジションの人だからこそ。
「経験は必要ないけれど、建築に興味は持っていてほしいかな。中に入り込みすぎない視点から建築を捉えて、おもしろさを感じてくれる人だといいですね」
一緒に働くのは、どんな人たちだろう。
全国を転々とする平田さんにかわって代表を務めているのが、外木(とのぎ)さん。
契約や運営など、すべての案件が円滑に進行するようマネジメントをしていて、平田さんいわく「大黒柱」。
秘書業務や事務業務も担っているので、今回入る人は主に外木さんから仕事を教わることになる。
「設計事務所って、おしゃれなイメージかもしれないですけど、結構泥臭い部分もあって。コンペ前には、平田も含めてみんなで遅くまで模型をつくったりもします。創造的で芸術的なところもあるけれど、その印象だけでは続かないのかなと」
外木さんが懸念しているのは、新しく入る人が、デスクのある階で一人になる時間が長くなりそう、ということ。
「平田さんは出張でいないことが多くて、ここにいてもほとんど打ち合わせ。私も同席することが多いし、同じ部屋にいる人たちも毎日来るわけではないので。自分一人になったときに、どうクリエイティビティを発揮していくかが問われるかもしれません」
設計スタッフの部屋に行って、プロジェクトのことを教えてもらったり、雑談でお互いを知ったり。自分の机で1日を終えるのではなく、社内をどんどん歩きまわってみてほしい。
「事務の仕事は1、2年で慣れると思うんです。そこから先、もっと深めたいと思ったら、設計のリサーチに関わったり、海外のコンペ出展のサポートをしたり。成長には際限がないので、探究心のある人は楽しいんじゃないかな」
専門的な知識がないなかで、いそがしい設計メンバーに声をかけていくことは、少なからず度胸が必要なはず。
そんななかでも、物おじせずに飛び込んでいける人だといい。
「建築をつくっていると、内側にこもりがちで。わたしも含め、社内には内向的な人が多いかもしれません。花輪はそのなかでも外交的なので、彼女のような人が来てくれたらいいですね」
そう紹介されたのは花輪さん。設計として働いて5年になる。明るい雰囲気で、自分の考えをきちんと持っている方、という印象。
大学院まで建築を専攻し、留学も経験。平田晃久建築設計事務所には新卒で入社した。
「若いうちはいろいろと挑戦したいと思っていて。一番アグレッシブな感じがしたというか(笑)、新しいものを生み出すエネルギーの強さを感じて、この事務所にアプライしました。パッションのある人たちばかりなので、毎日刺激をもらっています」
担当プロジェクトのひとつは、東京・練馬区の図書館と美術館の複合施設。美術館を含めたまち全体のアートキュレーションまで提案するという、事務所としても新しい挑戦に取り組んでいる。
スタッフは全員で20人ほど。目の前の仕事に集中しがちななか、内部のコミュニケーションをもう少し活発にしようとする動きもあるそう。
「全体ミーティングで、それぞれのプロジェクトの状況は把握できるんですけど、普段からもう少し共有できたらいいなと思っていて。あまり気遣わずに、思ったことをオープンに喋ってくれる人が来てくれたら、すごくありがたいなって思います」
新しく入る人からの些細な質問をきっかけに、プロジェクトの進捗がわかりやすく共有できる表がつくられるかもしれない。ミーティングやコミュニケーションのあり方が変わっていくかもしれない。
偶発的な会話から新しいクリエイティブが生まれるような雰囲気を高めていきたい。
「知ろうとしてくれることに対して、みんなが応えていく。そのなかでいい相乗効果が生まれていくんじゃないかなと思っています」
花輪さんの話を皮切りに、社内のコミュニケーションの話でひとしきり意見を交わすみなさん。
自分自身の考えを伝える花輪さんの姿勢を、平田さんや外木さんも歓迎しているように見えました。
「無理やりお願いするのはいやだから、まずは必要な仕事をしっかりやってもらって。そこから、事務所をかき混ぜるというか、いろんな人が語りはじめるきっかけになってくれることを期待したいかな」と、平田さん。
何かを変えようと意気込むというよりは、純粋な好奇心を持っていろんな人の話を聞きたいと思える。
そんな人が、この事務所をもっと良くするきっかけをつくっていくように感じました。
(2024/11/06 取材 増田早紀)