「エコハウスは、まだまだ浸透していない概念なので、つくるまでに大変なことがたくさんあって。けれど、そこで過ごした人みんなが一冬を越すと『暖かくて快適だね』って言ってくれる。体感して、良さに気づくんですよ」
「エネルギーを使わず環境にやさしい。そして快適。これからは、そんな建物づくりがもっともっと増えていくはずです」
そう話すのは、エネルギーまちづくり社代表の竹内さん。
エコハウスとは、環境問題に対して先進的なヨーロッパ基準をクリアした、断熱性の高い建物。夏は涼しく、冬は暖かいので、健康的で心地よい暮らしを実現できます。
エネルギーまちづくり社は、エコハウスやエコビルディングを社会に普及するために、さまざまな活動をしている会社です。
今回募集するのは、主に行政や自治体向けに、エネルギーに関するまちづくりや政策への提言をする人。
建物のエネルギーに関する診断や、ワークショップの企画運営、エコタウンづくり、広報など。エネルギーをテーマに幅広く仕事に取り組みます。
設計や建築にかかわる仕事をしたことがなくても大丈夫。未経験も歓迎です。
環境問題に興味があって、心地よい暮らしを広めていきたいと思う人は活躍できると思います。
あわせて、建築意匠設計も募集します。
地下鉄芝公園駅から地上へと出ると、空に伸びる東京タワー。
駅から歩くこと10分。5階建てのビルの2階に「エネルギーまちづくり社」はある。
階段を上がってドアをノックすると、代表の竹内さんが明るく出迎えてくれた。
竹内さんは、エネルギーまちづくり社をつくる前から、同世代の建築家仲間と「みかんぐみ」という建築ユニットを立ち上げたり、山形にある東北芸術工科大学で建築のデザインについて教えたり。長年、建築界をリードしてきた方。
竹内さんがエネまちを立ち上げるきっかけとなったのが、2010年に、東北芸術工科大学と山形県が協働して、エコハウスをつくったこと。
建材には地元の木材を豊富に使い、太陽光などのエネルギーを最大限活用。壁や屋根に、断熱材を厚く入れた。
山形のエコハウスができた1年後に、東日本大震災が発生。
山形では津波の被害はなかったものの、2日間の停電が起き、交通網はすべて止まってしまった。
「復旧してから、真っ先に現場へ駆けつけたんです。エコハウスに着くと、みんなリラックスしている様子で。なかには、コーヒーを飲んで楽しそうに話している人もいる。心配して損したと思うぐらい、拍子抜けして」
南側の大きな窓から太陽の日差しが入って、ストーブのように空間を温める。
寒さが厳しい山形にもかかわらず、暖房がなくとも、室温が18度から下がらなかったんだそう。
さらに、太陽光パネルが設置されているので、エネルギーの自給自足もできている。
「日本の建物の多くは断熱材を用いていないので、内側で熱を起こしても、それを外へと逃がしている状態で」
「太陽の光をちゃんと使おうよって。断熱は、エネルギーをかけず環境に良いだけでなく、暮らしがとても快適になる。まさに、いいことだらけじゃないかって」
2018年。竹内さんは、同じ意思を持っている建築家の仲間と一緒に、「エネルギーまちづくり社」を立ち上げる。
エコハウスの設計だけでなく、断熱に関する勉強会や建材や材料の展示会など。
環境に配慮しながらも快適な暮らしを送ろう。そんなあり方を広めるために、さまざまな取り組みをしてきた。
「来年の4月には建築基準法や建築物省エネ法が改正されて、すべての建築に省エネ基準が義務づけられるんです」
「今、全国の自治体さんが、断熱を広げるための制度づくりを進めていて。主に公共的な施設などから、効果検証や改修のご依頼がどんどんと増えてきています」
そのひとつが、横浜市が主催した「健康と省エネ住宅に関する講習会」。
建築や設計の事業者向けに、断熱性能を備えた住宅に関するオンライン講習会を実施。エネまちでは、テキストの作成と講師を担当した。
「受講者から、内容がわかりやすいとの感想をいただき、来年度以降も継続して開催することになりました」
「日本のエネルギー使用のおよそ3分の1は、住宅や学校、役所、会社などが占めている。まだまだ、エネルギーを意識した建物づくりは浸透していません。競合他社もいないほど、市場は成長していないと思っています」
これから加わる人の役割は、主に行政や自治体からのエネルギーに関するまちづくりや、政策への相談の依頼に応えること。最初は、竹内さんと一緒にやりとりなどを進めていくことになる。
「いろいろな部分を整える必要があって。設計に限らず、役所への対応をしたり、報告書をまとめたり。だから僕らの仕事は、『エネルギーに関するコンサルティング』と仕事を広く定義しています」
ときには、一般向けに断熱の重要性や断熱改修などの知識を伝える場をつくったり、建設業界の人にはエコハウスづくりに必要なノウハウを提供したりすることもあるはず。
自分で仕事の幅を決めない柔軟さが求められると思う。
「建築をつくるときに必要な係数は、今はコンピューターが一括で計算してくれる。建築設計の知見やデータに関することは、入社後に覚えることができますよ」
日々、どんなふうに働くんだろう。
実際に行政への対応を担当している安部(あんべ)さんに話を聞く。
安部さんが担当しているのが、世田谷区にある38の学校を対象にした暑熱対策の検討業務。
「世田谷区では、すべての学校に冷暖房が設備されているものの、学校施設の断熱をしていないところが多いんです。そこで夏の暑さをデータ化するために、体育館と、教室の最上階と下の階に温度や湿度の計測器を設置して、暑熱対策を検討しています」
教室で撮影したという、サーモグラフィの写真を見せてくれた。
クーラーをつけているのに、サッシは真っ赤に色がついている。
「この赤い部分、計測値だと37度くらいあって。クーラーからの冷たい風は、吹き出し口の近くだけを冷やして、ほとんどが窓の外へと逃げていってしまっているんです」
「今後はエネまちとして、これらの状況に対してどういった対策をとっていくか、話し合いをしていきます」
世田谷区とは別に、今年から取り組んでいるのが、学校断熱改修推進プロジェクト。
全国の学校から、地方ごとに6校選定して、各学校の1教室を利用して断熱改修を行い、効果を検証するというもの。
エネまちと、窓の会社であるYKKAP、東京大学前研究室の3団体が協働で進めている。
「今年の11月に、すべての学校での断熱工事が終了しました。これから、温度や湿度、エアコンの消費電力を計測する計測器を取り付けたあとに、1年間の計測をスタートする予定です」
苦労したことはありましたか?
「もともとは、夏休み中に断熱改修工事を終える予定だったんです。ただ学校は、関係者が非常に多い施設なので、手続きややり取りなどの調整に時間がかかり、12月にやっと計測がはじまりました」
基本的に、エネまちの仕事は1プロジェクトに1人のスタッフが担当している。
慣れると、4〜5つのプロジェクトを並行して進めていくことになるので、スケジュール管理をして、臨機応変に判断する力が必要だ。
「逆に私は、そんなところをやりがいに感じていて」
「設計だけでなく、行政との連携なども含めて、自分が中心となって案件を動かしている感覚。プロジェクトの裁量と責任を持てることに、私はハマったというか。面白い仕事に就けたなって思っています」
建築や空間づくりに興味はあるけれど、なかなかぴったりの仕事が見つからない。
そんな人にこそ知ってほしい仕事と、竹内さんは話していた。
2022年に入社した草刈さんは、建築への興味から一歩を踏み出した方。
宮城県の石巻出身で、小学5年生のときに、東日本大震災を経験。
「津波で、ほぼすべての建物が押し流されていく光景を見て。その後、どんどんとまちが復興していく様子に、とても感動したんです。そのころから、将来は建築に携わる仕事がしたいなと考えていました」
安部さんと同じく、竹内さんの担当するゼミ生だった。建築のデザインを志し、新卒では設計職としてハウスメーカーに就職。
「ただ入ってからは、ほとんど現場監督のような仕事を任されて。私がしたい仕事はこれじゃない! って、ギャップを感じたんです」
「転職を考えつつも、経験も浅いなかでどうしよう、とか、いろいろ悩んでいました。そんなとき、ちょうど竹内さんに声をかけていただけて。入社を決めました」
現在は安部さんと同じく、行政向けの施策を担当。
最近取り組んでいるのが、岩手県の紫波(しわ)町で廃校になった小学校を活用するプロジェクト。草刈さんは、レストランが付属した集合住宅の設計監理を担当している。
「今まさに、内装を詰めている段階で。レストランなので、住宅とは違って、過ごす人が日々変わる。断熱の機能を保ちつつ、どんな人が来ても快適に過ごせる間取りやデザインを考えるのは楽しいです」
「仕事で起きるほとんどのことは、自分で決めて、進めていきます。どうしても確認が必要なことだけ、竹内さんなどに聞いていて。まずはやってみる、という気持ちが大事ですね」
最後に話を聞いたのが、酒井さん。前回の記事で入社した方。
「美術館や図書館に行くことが好きで。非日常感を味わえる建築のおもしろさに興味を持っていたんです」
大学を卒業後、マンションのリノベーション会社に入社。
「自分の好きなことや得意なことを業務に活かせず、悩んでいて。転職を考えはじめましたときに、日本仕事百貨の記事を見つけたんです。
「省エネやエコハウスに特化した設計事務所を、はじめて知って。ここなら自分の経験を活かせるし、何か専門性が身につくかなと思いました」
入社後は、住宅の設計監理や、複合施設内のショップ、子どもたちの遊べる場所の設計に携っている。
実際に働いてみてどうですか?
「安部さんや草刈さんと同感で、前の仕事よりも自分で考えて決めることが増えましたね」
「お客さまによっては、予算が限られていることもある。その場合、断熱効果が大きいところだけを改修することもあります。機能とデザイン、予算。いろいろなところに気を配って、ちょうど良いバランスを探しています」
最後に、竹内さんの言葉を紹介します。
「建築や設計の世界で働いているけれど、自分の思っていた仕事とギャップがあって不満を抱えている人とか。美術館などの建築が好きで、空間づくりに興味のある人とか。ぼんやりした思いでもいいんです」
「日本中、北から南まで、どんな場所でも需要があるし、これからの世の中できっと必要になる。自分の仕事に迷ったら、気軽に相談してほしいです」
環境にやさしく生きていきたい。けれど、具体的にどうしていいかわからない。
エコハウスの考えは、そんな人たちにもひらかれている仕事だと思いました。
(2024/11/26 取材 田辺宏太)