「evam evaでは10年以上、同じ素材を使ったパンツやカットソーをつくっているのですが、形は定番とはせずに少しずつ改良を加えて続けています。もうこれがベストかなと思っても、まだまだ変化し続けているのがすごいんです」
そう話すのは、ショップで働くスタッフの末吉さん。evam evaで働きはじめて15年目だという。
「はじめてお店に来たとき、空間や洋服に一目惚れして。ここで働きたいと思いました」
口ぶりからは、今でも新鮮な気持ちでこの服が好きなのだということが伝わってくる。
老舗ニットメーカーのオリジナルブランドであるevam evaの洋服は、柔らかな天然素材が肌に心地よく、すっきりとしたシルエットに定評があります。
ユーザーも20代からシニアの方まで幅広く、流行に左右されず長く着続けられることもファンが多い理由のひとつ。
自然の景色にインスピレーションを受けた、繊細な色合い。いつ来ても静謐な雰囲気に整えられた店内。
evam evaの世界に触れたときの、静かな高揚感はとてもよくわかる。
一方、それが仕事となれば責任もあるし、長く続ければ慣れも出てくるはず。日々新鮮な気持ちで働き続けられるのはなぜだろう。
その疑問は、話を聞いていくうちに少しずつ解き明かされていきました。
今回は新たにオープンする仙台店をはじめ、東日本各都市にあるevam evaのショップでスタッフを募集します。
洋服を通して自分自身のライフスタイルをととのえる。自分の暮らすまちで歳を重ねながら、長く働きたい方にぜひ伝えたい仕事です。
2000年にスタートしたevam evaのお店は、現在全国10都市に18店舗。
本社のある山梨のショップでは洋服だけでなく、生活雑貨や食事などを通してライフタイル全般の提案もしている。
ブランドの母体にあるのは、昭和20年創業の近藤ニットというメーカー。OEMで培った技術力を活かし企画から生産、販売まで一貫して自社で行っているのが特徴。
今回訪ねたのは東京・二子玉川にあるショップ。駅からほど近い商業施設、髙島屋S.C.の2階にある。
売り場の中心にある大きなハンガーラックには、淡い色から濃い色へグラデーションになるように、整然と服が並ぶ。
その多くは天然素材ならではの柔らかな雰囲気。少し近づいてみると、シャリ感のある風合いや、とろみのあるドレープなど、思わず生地に触ってみたくなるような質感のものばかり。
「SNSやオンラインショップをご覧いただいているお客さまでも、やっぱりevam evaの洋服は実際に手に取って選びたいと、足を運んでくださることが多いです。素材によって色の見え方が変わったりもしますし、着てみるとまた印象も違いますよ」
そう教えてくれたのは、入社して7年目の店長の黒丸さん。
もともと黒丸さんがこの仕事を選んだのは「自分が心からいいと思うものを届けたい」という思いがあったから。
「肌触りが良くて心地いいだけじゃなくて、シルエットをきれいに見せてくれるので、着ると自然に背筋が伸びるような気がします」
柔らかさのなかに、一本芯が通っているような凛とした佇まい。
これは、evam evaの人たちがよく使うキーワードのような言葉。商品のデザインだけでなく、働く人の姿勢にも共通するスタンスだ。
ショップには男性も含め幅広い年代のスタッフがいて、それぞれ個性はあるものの、佇まいや言葉遣いにはどこか共通した雰囲気がある。
「丁寧だけど堅苦しくない、正しい日本語を使うようには心がけています。私自身も、お店での接客の丁寧さに惹かれたことが入社の理由のひとつでしたので、最初は先輩の言い回しなどを真似しながら研究していました」
黒丸さんの話し方は柔らかいけれどはっきりと、明るいトーンで聞きやすい。スタッフとの会話をたのしみに来店されるお客様も少なくない。
ちょっとした世間話から垣間見える相手のライフスタイルが、提案のヒントになることもあるという。
「たとえば、旅行に着ていく服を探している方にはシワが気になりにくい素材、小さなお子さんがいらっしゃるならお手入れが楽なもの。暑さ寒さの感じ方も体質によって違います。なるべく長くたくさん着ていただけるように、その方に合わせた服選びのお手伝いをしたいですね」
「私たちの仕事は服を売るだけではなく、空間や接客を通してお客さまにブランドを知っていただくこと。お店で過ごす時間そのものを楽しんでいただけるように心がけています」
このお店独特の心地よい空気感は、徹底した整理整頓によって維持されている。
黒丸さんたちの仕事を近くで観察していると、糸くずや什器の乱れなどを見つけては、絶えず場を整え続けているのがわかる。
洋服を綺麗に畳む、埃を取る、曲がっていたら直す、ハンガーはいつも等間隔に。みんな自然に体が動いている。
だから、売り場だけでなくバックヤードも整然としている。
言葉も空間もきれいな状態が当たり前。毎日この売り場で過ごすことで、自分の暮らしに対する感覚も変わっていきそう。
「お客さまがいらっしゃらない時間にも仕事はたくさんあります。商品知識をインプットしたり、顧客の方に新商品入荷のご案内をしたり。天気や在庫の状況を先読みしてディスプレイを変えることもありますし、空いた時間をいかに無駄なく使うかはいつも意識しています」
「それに入念に準備することで、接客の時間がより楽しくなりますね。弊社の社長はよく『段取りが8割』と言うのですが、ものづくりがベースにある会社らしい言葉だと思います」
もともと黒丸さんは、つくる側の仕事に興味があったものの、自分でゼロから表現することには苦手意識もあった。
evam evaはものづくりを主体としているブランドなので、売り場に立つ人も、ものづくりの一端を担っている実感があるという。
「私たちがお客さまから聞いた声が、企画に活かされることも多いです。たとえば、商品の売れ行きや販売動向を見て、追加生産の希望を直接企画に伝えることもできます」
また、数字に表れない感触を企画にフィードバックできるのは接客に関わるスタッフだからこそ。
商品を購入されたお客さまはどんな理由で選ばれたのか。
“お子さまの学校行事に着る服を探しに” 来店された、“ジャケットがほしい” という声があった、など、接客のなかで聞かれるちょっとした言葉が、企画のヒントになることもある。
「自分の仕事がものづくりと直接つながって循環を生み出している。全体の流れが腑に落ちて理解できたとき、急に視界が開けたような感覚がありました」
黒丸さんの前職は事務で、アパレルの仕事は未経験からのスタートだった。ブランドのなかで自分の役割を自覚できたことで、マネージャーとしての仕事にも興味を持つようになった。
「挑戦してみたいという気持ちがあればチャンスをもらえる。努力したぶんだけ返ってくる環境だと思います」
マネジメント以外にも、それぞれスタッフの得意なことがお店づくりに活かされている。
空間に潤いを与えるグリーンの手入れを担当しているのが、末吉さん。
「入社した当初はディスプレイの経験もなくて、さまざまなショップや美術館を見に行ったり、本社のデザイナーに相談したりしながら、少しずつ感覚を身につけていきました」
空間づくりで気をつけていることはありますか。
「evam evaの洋服は上質な素材が魅力なので、それが映えるように飾ることでしょうか。引き算の意識を持ちながら、四隅をととのえて、線で揃える。ディスプレイを担当するようになってから、自分の家の整理整頓も上手くなってきた気がします」
ショップには木製家具のような温かみを感じる什器も多い。試着室などで小物置きとして使われている木は、本社がある山梨から持ってきたもの。
自然界にある色や素材の風合いを基調としたevam evaの服。末吉さん自身も自然豊かな地域で生まれ育ったためか、はじめて見たときからシンパシーを感じていたそう。
「私は小柄で、サイズが合う服を見つけるのが難しかったのですが、evam evaの洋服はどんな体型の人にも馴染むようデザインされていて、とてもうれしかったですね」
15年前にブランドと出会い、すぐにでも働きたいと思ったものの、当初はスタッフを募集していなかった。半年後、念願かなって採用されると、毎日お風呂のなかで商品知識を勉強するほどうれしかったという。
素材のこと、生産の現場のこと。流行よりも品質を中心に据えたブランドだからこそ、学んだ知識が今も仕事に活きている。
「7年くらい前に購入したウォーターリネンという生地の洋服は、糸づくりの工程に特殊な技法を使い、洗濯を繰り返してもダメージが少ないのが特徴で、私も買ってから何度も洗って実感しています」
「長く着続けられる実感があるから、自信を持っておすすめできる。私の母も、10年前にプレゼントしたevam evaのシャツを大事に着続けてくれていますし、デザインもまったく古い感じがしない。流行を追わないってこういうことだと、時間が経つにつれてわかってきました」
一目惚れがきっかけで、選んだ仕事。
15年経った今でも、お店に出勤してくるたび気持ちが切り替わる。
「この空間が好きですし、もともと人と関わること、接客もとても好きで。長く通ってくださるお客さまと一緒に年を重ねられるのも、この仕事のいいところです。私自身も20代から40代になって、そのときどきのお客さまの気持ちがわかるようになってきた気がします」
「ご結婚や出産、ご病気などライフスタイルが変化しても、同じ服を愛用してくださったり、親子でシェアされるようになったり。長くお付き合いするお客さまもたくさんいらっしゃるので、これからも責任を持って仕事を続けていきたいです」
普遍的なデザインの洋服だからこそ、時間をかけて向き合える。
重ねてきた時間のなかにある気づきが、次にやるべき仕事を教えてくれる。毎日きれいに整えられた空間に身を置くことは、その発見を助けてくれるはずです。
2025年にはブランド25周年を迎えるevam eva。人の暮らしや個性に寄り添う服を届けながら、感性を磨き続ける仕事だと思います。
(2024/6/27 取材、12/20更新 高橋佑香子)