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400年の歴史を残し
漆器のまちを盛り上げる

ホテルや旅館、料亭を訪れると目にする座卓や座椅子。

昔から置いてあるものなのに、いつ訪れても当時の風合いを残したまま、一定の状態に保たれている。

そんな光景を残すために、漆器や家具の販売、修繕をする人たちがいます。

株式会社龍門堂は、木曽漆器を製造販売する会社。

木工から塗装まで一貫して手がけるだけでなく、問屋として木曽平沢地域のさまざまなつくり手たちをつないでいます。

今回は、テーブルやタンスをはじめとした、大型家具の販売や簡易的な修理をする営業職を募集します。御用聞きとして、全国各地の取引先の困りごとを聞き取って提案。重たい家具を運ぶこともあり、体力もある程度必要です。

経験は一切求めません。400年以上続く木曽漆器を残していきたい。お客さんの要望を引き出して、喜んでもらいたい。そんな人に知ってもらいたい仕事です。

 

新宿駅から特急あずさに乗り、山あいを進むこと2時間半。塩尻駅に到着した。

駅舎の外に出ると息が白く、雪がポツポツと降っている。

塩尻駅から車に乗って20分ほど南西へ進んだ山間に、龍門堂はある。

2階建ての建物には、大きく「漆」の文字。1階がショールーム、2階は職人さんが作業をする工房になっている。

「寒いところ木曽までようこそ。温かいコーヒーでも飲んでください」

そう言って出迎えてくれたのが社長の手塚さん。

明治40年に創業した株式会社龍門堂。漆器の製造と販売で事業を伸ばしてきた。

「木曽漆器の特色は、テーブルとかタンスみたいな大きいものを扱うこと。ほかの地域だとお椀とかが多いけど、ここは歴史的に大きなものを取り扱ってきたんです」

龍門堂のある木曽地域では、飲食店や旅館などの家具を中心に製造してきた。最近は、飲食店などのスタイルも個性的になってきていて、特注品の製造も増えている。

「漆器は修理しながら何度も塗り直して使っていくもの。近ごろは環境への配慮もあってか、ものを大切に扱う人が増えてきて、修理を頼まれる方も増えていますね」

現在はお客さんの7割が宿泊施設や飲食店。ほかにも全国の家具メーカーへの卸売や、龍門堂の本店で家庭向けの商品も販売もしている。

コロナの影響で落ちていた売上も、飲食店、宿泊施設の再開で戻りつつあるそう。

ただ、それ以上に深刻なのが、木曽漆器を扱う会社の減少。

最盛期には木曽地域に500人ほどいた職人が、いまでは全体で約100人に減少。その多くが65歳以上で、50代から30代の世代は合わせても20人ほど。

「コロナの影響で飲食店や宿泊施設が不況になって。仕事が来ないあいだに引退する職人もいて、木曽漆器を扱う会社がどんどん減っているんです」

国の重要伝統的建物群保存区域として知られている木曽平沢でも、のれんを下ろすお店が増えてきた。

そんななかで問屋として、龍門堂が果たす役割は大きい。

家具本体をつくる木工から塗装まで。地域内の職人をつないで製造し、木曽地域の代表として、お客さんに商品を届けるところまで担ってきた。

「木曽漆器を製造販売するだけでなく、『木曽平沢の産地を明るくにぎやかにする』ことが私たちの役割だと思っているんです」

象徴的なのが、年に一度、木曽平沢の会社が集結して、商品を販売する『木曽漆器祭』と呼ばれるお祭り。各社の社長が旗を振り、手塚さんもその一人として加わっている。

「興味があれば、地域のイベントに携わることもできます。外からこの土地にやってきた地域おこし協力隊も4人ほどいて。地元の青年部に入れば、いろんな人との関わりをつくることもできますよ」

「自分たちだけでなく、周りの人や木曽平沢の未来を考えて、盛り上げていきたい。その想いに共感してくれる人が来てくれたらうれしいですね」

 

続いて話を聞いたのは、龍門堂で営業を担当している田中さん。

新しく入る人は、田中さんのもとで仕事を学んでいくことになる。

この日は都合が合わず、後日オンラインで話を聞いた。

もともとは映画制作の仕事をしていた田中さん。地元に戻って仕事を探すなかで、龍門堂の求人を見つけた。

「ものづくりや、形あるものに携わりたくて。木曽漆器のことは知らなかったんですが、伝統工芸品を扱えることにピンと来て。あれよあれよという間に、働いて13年も経ちました」

新しく入る人はまず、営業のサポートに入り、仕事の基礎を学んでいくことになる。

「うちは社内で木工から塗装まで行なっていて。商品の組み立てや、出来上がった商品の梱包、お客さまへの配送まで一貫して担当します。一緒にやりながら仕事の全体像を覚えてもらう感じですね」

「木曽漆器は大型家具が主なので、思ったよりも運搬が大変です。どこを持つと安全だとか、持ち方一つとってもやり方があるので、まずは体で覚えていってもらいたいですね」

仕事に慣れてきたら、先輩から担当エリアを引き継ぎ、徐々に営業としての仕事を増やしていく。

「まずは商社さんや、取引先のホテルや旅館、飲食店に挨拶へ行きます。うちの営業は、一般的にはルートセールスと呼ばれるもので。既存のお客さんの元を訪ねて、困りごとや要望がないかを丁寧に聞き出していきます」

お客さんの要望を聞き、修繕が良いか、新品の購入が良いかを先輩と相談しながら判断する。

その後、完成品のラフスケッチを描いて、見積もりを作成。修繕の場合は、受注後に商品を本社で預かり、完成品をお客さんの元まで戻す。

「社内のデザイナーへのイメージ共有で、ラフスケッチを描くこともあります。私も最初はまったく描けませんでしたが、大丈夫です。先輩に聞いて見よう見まねでやっていけば、必ずできるようになリますよ」

お客さんの話を聞くなかで、ときには前例のない依頼が入ることも。

とある旅館で部屋の改装があり、和室のレイアウトから検討してほしいという話をもらった。

「ベッドの導入は決まっていたんですが、部屋に柱があって、置き所が難しかったんです。先輩や職人さん、お客さんに相談するなかで、それならボックスを特注でつくろうと。丸い柱もあって技術的に難しかったんですけど、現場の大工さんに相談して、満足のいく商品をつくることができました」

「難しいことでも、お客さんの要望にできる限り応えてきたから、いまの龍門堂があると思っていて。自分がわからなくても、全員の力を合わせて対応していますね」

取材中、社員とまちの職人さんが、一つの商品について相談している姿も目に入る。普段からみんなで意見を出し合って、仕事を進めているんだろうな。

営業として大切なことは、お客さんの話をよく聞くことだ、と田中さん。

「担当するエリアにもよりますが、50人くらい取引先さんを持つので、なかには気難しい人もいて(笑)。何度も話を聞いて提案を繰り返して。実物を設置したときのお客さんの満足そうな表情を見ると、この仕事をやっていてよかったなって思います」

 

修繕を受注したときに商品を渡すのが、職人の長谷川さん。この道40年のベテランで、いつもは龍門堂のオフィスの2階で修繕作業をしている。

「修理をするときに、この家具がいつもどこに置かれているのかを確認するんです。空調が効いているところだと、どうしても乾燥が進みやすくて木目が割れやすい。そういうことは、いつも営業の人が細かく聞いてくれるので助かっています」

お客さんの希望する色や塗装、完成形を伝えて、長谷川さんに修繕を依頼。ものによって補修作業の行程や、完成までの期間が異なるため、長谷川さんから回答をもらったら、お客さんに伝えて進行する。

長谷川さんが補修したあとの完成品を確認して、色味や仕上がりの状態がお客さんの希望に合っているかを自分の目で確認する。

問題がなければ、出来上がった商品を、お客さんの元まで届ける。

「長年仕事をやっていると、いかにお客さんの理想に近い状態に仕上げられるかが肝で。そのためには、営業がお客さんや私たち職人としっかり話ができることが大切なんです。そういうコミュニケーションが得意な人は、向いているんじゃないですかね」

 

最後に話を聞いたのは、入社8年目の溝口さん。

もともとは学校の卒業式や、結婚式のカメラマンをしていた。子育てを見据えて地元に戻り、興味のあったものづくりの会社である龍門堂に入社。

はじめは職人を目指していたものの、怪我がきっかけで営業サポートに。現在は、現場での簡単な補修や家具の組み立てを担当している。

未経験で入ってどうでしたか?

「塗装前の研磨や、目止めという塗装しない場所にマスキングテープを貼る作業。これが思いのほか難しくて。0.5mmでもズレたら塗装が綺麗に仕上がらないんです」

「でも未経験だからこそ楽しいこともあります。知らないことを知れて、できることが増えていく。手を動かしてものをつくるのは、やっぱり面白いですよね」

飲食店や宿泊施設など、全国の営業先を訪れたときには、職人の経験を活かしてタッチアップと呼ばれる簡単な塗装の補修作業も行なっている。

そこでは、自分が塗ったものがどのように使われているのかを見ることも。

「旅館に行ったときに、テーブルや椅子を急いでセッティングしている様子を見かけて。実際に現場でどう使われているかを頭にいれながら、ぐらつきにくいように荷重がかかる場所を強めに補強したり、剥がれやすい箇所を厚めに塗ったりもしました」

「普通はつくって納品したら終わりだと思うんですが、うちは製造から販売、その後の修理までを一貫してできる。商品を使っている方々と会えることは、ものづくりの励みにもなります」

いまは奥さんと共働きのため、お子さんの都合で仕事を調整して休むこともある。

「子育てに関しては、会社もサポートしてくれて助かっています。会社から30分ほど離れた駅周辺には、家族で住める市営住宅もあって、生活コストもそこまでかからない。東京には電車1本で行けるし、住んでみたら意外と良い環境だなと思いますね」

「引っ越してくるつもりなら、生活環境や会社見学をしてもらおうと思っています。同世代の移住者の人たちや、ほかの職人さんを紹介できるし、住まいの手配もできますよ」

 

取材の最後に、職人の長谷川さんの塗装を見せてもらうことに。

手ぎわよく色を塗り重ねて、あっという間にテーブルが綺麗になっていく。長谷川さんの真剣な表情が、とても印象的でした。

座卓や椅子のある光景を守り、後世に残していく。

そして「木曽平沢の産地を明るくにぎやかにする」

気になる人は、まず話を聞いてみてください。その一歩が、木曽漆器の歴史を変えるかもしれません。

(2025/01/15 取材 櫻井上総)

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