「いま東長崎を面白いと思っている人は、ごく少数だと思うんです。でも僕はどんなまちにも替えがたいポテンシャルがあると思っていて」
「何十年も続くお店が並ぶ商店街に新しい血が入って、共存しながら地域全体をみんなで盛り上げていこうって雰囲気がある。そんな東長崎らしい空気感を踏襲していきながら魅力を高めていきたいんです」
そう話すのは、東長崎ぐらし代表の足立さん。
東京・豊島区の西側に位置する東長崎。
都心から近くも昔ながらの個人商店が並び下町情緒が残る一方、道路拡張や再開発の検討が進み、まちの文化が失われつつありました。
そこに5年前カフェを誘致し、まちに新たな流れをつくったのが、東長崎で大家業を代々営んできた足立さん。
株式会社東長崎ぐらしを設立し、個性あるお店の誘致や、コミュニティ型賃貸住宅、宿の運営など。東長崎の良さを引き継ぎながら、まちに仕掛けをつくってきました。
今回は、夏に東長崎ぐらしが開業する飲食店の運営マネージャーを募集します。
まだ知られていないまちの魅力を、飲食店を軸に自分の手で掘り起こし、広げていく。そんな仕事だと思います。
サポーターとして、台東区にある谷中を中心にカフェやギャラリーなどの複合施設を運営してきたHAGISOが伴走してくれるため、飲食店立ち上げに挑戦してみたい人には心強い環境です。
あわせて飲食店の店舗スタッフ、東長崎ぐらしのアシスタントスタッフも募集します。
西武池袋線で池袋から2駅先、あっという間に東長崎駅に到着する。
駅前の通りを歩くと、香ばしい焼き鳥の香りが漂い、昔ながらの和菓子屋のガラスケースには手づくりの大福が。すぐ近くには、新しいカフェや個性的な本屋がひっそりと佇んでいる。
新旧問わずお店が寄り添うあたたかな雰囲気。
「東長崎はチェーン店が少なくて、個人店ががんばっているまち。仲はいいけど、それぞれ独立していてお互い干渉し合わない、ちょっと人見知りな部分もいいところなんですよね」
そう話すのは、東長崎ぐらし代表の足立さん。
この土地で生まれ育ち、家業である大家業のかたわら、20年ほど大手不動産ディベロッパーに勤めていた。
「当時は僕の子どもがまだ小さくて。家族連れで滞在する場所といえば、池袋や新宿方面でした」
「あるとき、駅前を通るとシャッターが下りているお店が増えているのに気づいて。道路拡張によって閉店せざるを得ないお店や、商店の世代交代で空き店舗が増えていたんですよね」
そこで初めて、地元の文化がなくなる危機感を覚えた足立さん。
同時に、自分が動けばまちが変わるかもしれないというチャンスも感じたそう。
「ディベロッパーをやって感じていたのは、再開発はよくもわるくも、ファミレスやコンビニ、量販店などのナショナルチェーンが増え、まったく別地域でも同じ風景になって、まちの個性がなくなる印象があること」
「東長崎も同じ状況で。商店街や駅周辺の建物が無くなってしまうかもしれない。けれど、人は残りますよね。再開発後も人と人がつながって東長崎らしい文化が残っていくといいなって」
そうなるために、今の東長崎に必要なものはなんだろう。
そんな想いから、まずは、暮らしている自分が行きたくなるようなお店をつくることに。
そこで2020年に誘致したのが「MIAMIA(マイアマイア)」。
駅から歩いてすぐの場所にある、50年続いた洋品店が活かされたカフェ。オーストラリア出身でモデルの旦那さんと、建築家の奥さんが運営している。
今では、平日休日問わず行列ができる人気店。地元の人だけでなく、この場所を目掛けて来る人など、シャッター街となっていた東長崎に新たな人の流れを生むきっかけになった。
「建築家の奥さんはお店の開業をきっかけに、東長崎に一級建築事務所を開いてくださって」
「MIAMIAができてから、そこに集まる人ご近所さんがデザイナーさんだったり、意外に面白い人たちが東長崎にいるんだなって発見もあって、今では一緒にまちを盛り上げてくれる存在です」
MIAMIAの誘致後、まちと人をつなげる事業を広げようと東長崎ぐらしを設立。
ここからさらにまちが動き、つながり、盛り上がりはじめる。
たとえば、リノベーションした共同住宅にギャラリーや本屋さんを誘致することで、外部から感度の高い人が集まってきたり。住人の声からブックポストを設置したり、小さな畑をつくりみんなで野菜を育てたり。
東長崎とマッチするカジュアルで本格的なイタリアンなど、新たなお店も誘致。今年の3月にはシェアキッチンを開き、東長崎の文化をつないでくれる人を増やしていく予定。
一般的な大家さんは、不動産屋に管理を任せて住人と直接会うことは少ないイメージ。一方で、部屋の電球交換や畑の手伝いなどに自ら駆けつけ、顔の見える関係を築いてきた足立さん。
そんな関係性のつくり方も東長崎らしさのひとつ。顔の見える関係性を大切にしたい人にはぴったりな場所だと思う。
新たな飲食店がオープンするのは、駅から歩いて2分ほどの好立地。目の前にはスーパーがあり、人通りも多い場所だ。
今は開業に向けて、リノベーション中。
「『あの店があるから、このまちに住みたい』と思ってもらえる場所にしたくて」
「今回オープンするお店があることで、東長崎にまた足を運んでくれたり、ファンになって住んでくれる人がいたり、いいまちだなって思ってくれる人が増える。そうすることで、もっとまちの価値を高めていけると思うんです」
そのためには、東長崎らしさを感じられるお店にしたい。
「自社で運営している宿のレセプション機能を持たせて、まちの案内所のように、初めて来た人がここ起点に東長崎を楽しめるような仕掛けもつくりたくて」
内装も都心にあるような洗練されたかっこいいお店ではなく、東長崎の商店らしい、ショーケースが軒先に出ている飲食可能な専門店になる予定だそう。
「東長崎は、ゆっくり滞在して打ち合わせやランチができるお店がまだ少ない。地元の人も日常的に使ってもらえる、まちに必要な機能も兼ね備えた場所でもありたいですね」
「だから、ターゲットは全員。大人も子どもも、学生もサラリーマンも、地元の人もはじめてくる人も。さまざまな人が訪れるように、お店側が人を選ばず心地よく過ごせる場づくりに力を貸してもらえるとうれしいです」
新しくマネージャーになる人は、足立さんやHAGISOと一緒にお店の名前やメニュー、設備など、お店づくりのノウハウを学びながらつくっていくことになる。
運営のほかにも、まちのマップをつくってみたり、イベントを開いてみたり。新たな飲食店を知ってもらえるきっかけをつくるのも楽しそう。
「実はこの場所、20年ほど前までは地域の人が集う喫茶店で。高校生までこの2階に住んでいて、個人的に思い入れがある場所でもあるんです」
「空き店舗になると知って、自分がお店を開いて運営まで手がけたい、と強く思いました。でも僕自身、飲食店の運営は初めて。何もわからないけど、決意できたのはHAGISOさんのおかげで」
新たな飲食店の開業に伴走してくれるHAGISO。
東京・谷中を拠点に、古くから残る建物を、カフェ・ギャラリー・設計事務所、をひとつにした「最小文化複合施設」に変身させ、周辺には宿泊施設、飲食店を展開。まち全体の活気を生み出す取り組みをしている。
「以前、MIAMIAは2階が賃貸住宅で、入居していたのが偶然にもHAGISOの北川さんという方でした」
「僕自身、HAGISOさんのまちづくりにとても興味を持っていて。みなさんすごく楽しそうに働いているから、一緒に何かつくりたいなとMIAMIAの誘致にも大きく協力してもらいました。些細に聞こえるかもしれないけれど、そういう偶然も大切にしたくて。今回もまずは北川さんに声をかけたんです」
「偶然大家が足立さんで、HAGISOの取り組みの興味を持ってくれて、直接職場まで会いにきてくれて。それからもずっとつながり続けていました。初めは大家さんと入居者という関係でしたが、今回は、HAGISOにとってもはじめて自社以外で飲食店の開業サポートをさせてもらいます」
そう話すのはHAGISOの北川さん。HAGISOでは、飲食部門のマネージャーをしている。新たにマネージャーになる人にとって、お店づくりで必要なことを教えてくれる心強い存在だ。
ここからは、マイアマイアの2階、東長崎ぐらしが運営している宿「innnn higashinagasaki」で話を聞く。
「店舗を立ち上げるとき、まず周辺の人に話を聞きに行くんです。地域に必要なもの、その場所を活かせることはないか。暮らしている人が一番理解しているはずなので」
「だから、完成するお店に統一感はあまりなくて。カフェと言っても、ジェラート屋さん、焼き菓子や定食をメインにしている店舗もありますよ」
どの店舗も企画から運営まで自社でおこなっているため、バリスタもいれば、メニュー開発ができるチームなど、飲食の立ち上げや運営に関する幅広いノウハウを持っている。
東長崎にあるさまざまな個人商店の商品とコラボしてメニュー開発をするのも楽しそう。近隣のお店やまちの人の話を聞きに行くことも、店づくりのヒントになるかもしれない。
「私たちはあくまで、ご近所さんのような関係性でありたくて。中途半端に関わるよりも、フルコミットできる人のほうが絶対に良いお店になる。足立さんや来てくれた方がやりたい方向に進んでいってほしいですね」
最後に訪れたのは、「カカオ工房トリビュート」というチョコレート屋さん。
ここも足立さんが誘致したお店で、東長崎ぐらしが運営するポップアップスペースが併設されている。
柔らかな笑顔で迎えてくれたのは、スタッフのともみさん。
お店は、カカオ職人のロマンさんと2人で切り盛りしている。
以前は上池袋に店舗があったものの、よりチョコレートづくりに専念できる場所を探し、たどり着いたのが東長崎だった。
「最初に東長崎に来たときに、昔ながらのお店が生き生きしていて。歩いていると笑い声が聞こえるような素敵な場所だなって。私たちが探し求めていた、人と人とのつながりがここにはあるような気がしました」
お店を開いて2年目。足立さんいわく、「もう何年も続いてるお店かと思うくらいまちに馴染んでいる」そう。
その秘訣はなんでしょうか。
「そうですね… 意識はしてなかったけれど、ご近所のお店にプライベートでよく行くんです。美味しいお店が多いからついつい行ってしまうんですけど、顔を出すことって大切だと思いますね」
そう笑顔で話すともみさん。
「ここはもともと洋菓子屋さんだったんです。たまに以前のお店と間違えて来店される地元の方もいて。『違うのー!』って残念そうに話されることもあるんです」
「そんなときは、ご近所の和菓子屋さんで最近みかん大福はじめたらしいですよーとか、雑談していると、『じゃあチョコレート買ってくわね』って買っていただけたりするんですよね」
お店とお客というよりも、まず人と人。顔が見える関係性を大事にしているのを感じる。
毎朝、新聞を読みにくる常連さん。昼には若者や子ども連れの家族がふらっと立ち寄り、夜には仕事帰りの人たちがお酒を片手に語らう。
新たなまちの日常の一部になるように。
お店づくりもまちづくりも、心強いパートナーと進めていける仕事は、この東長崎が紡いできたご縁ならではだと思います。
ピンと来たなら、ぜひ飛び込んでみてほしいです。受け入れてくれる人たちが待っています。
(2025/01/09 取材 大津恵理子)