福井・越前鯖江地域。
漆器、和紙、打刃物、箪笥、焼物、メガネ、繊維の7つの産業が半径10km圏内に密集する、日本屈指のものづくりのまちです。
毎年3日間、このまちの100以上の工房が一斉に開かれ、3万人以上の人が訪れる産業観光イベント「RENEW」が開催されています。
目指す未来は、「持続可能な産地をつくる」こと。昨年10年目を迎え、徐々にそのサイクルができはじめています。
RENEW実行委員会が母体となり、2022年に一般社団法人SOE(ソエ)を設立。
「持続可能な産地をつくる」というRENEWのビジョンを、3日間だけでなく年間通して体現できるように。RENEWの企画運営のほか、通年観光型ツアーの造成や宿の運営、就労移住の支援など、6つの事業を走らせています。
今回募集するのは、地域活性化事業スタッフ。
RENEWの運営にメインで携わりながら、ほかの事業に付随するスクール運営や自治体からの委託業務など。意欲や適性を活かして、横断的に関わっていきます。
幅広く事業に携わるぶん、大変なこともあるかもしれない。けれど、メンバーと協働しながら働く風土ができているため、安心して飛び込める環境です。
ないならなんでもつくってきた鯖江だから、実現できるものがあると思います。
東京駅から福井駅までは、北陸新幹線で約3時間。私鉄ハピラインふくいに乗り換え、15分ほどで鯖江駅に到着。
駅周辺にはメガネ博物館やレンズパークをはじめとした施設のほか、個性あふれる飲食店や雑貨屋さんも。
さらにバスで30分ほど行くと、漆器の産地である河和田地区に。ちょっと離れただけで、豊かな自然が残っていて空気が美味しい、昔ながらの風景が残っている。
向かったのは、越前漆器の製造と販売をしている「漆琳堂」。創業232年の歴史がある。
話を聞いたのは、SOEの代表理事であり、漆琳堂8代目の内田さん。
「RENEWが始まって10年。もっとやっている感覚がありますね。そのくらいまちに変化があったと思います」
RENEWの1回目から出展者として参加し、副実行委員長として運営も担っていた内田さん。鯖江のつくり手や地元住民の目線を持ちながらRENEWやSOEに携わってきた。
「県内には恐竜博物館や永平寺、芦原温泉など有名な観光地がある。けれど鯖江周辺は空洞の地域で、わざわざ足を運んで観光する場所ではありませんでした」
越前鯖江地域は、家族経営ほどの小規模かつ分業制でものづくりをしてきたまち。眼鏡会社で530社、漆器会社で200社もあるという。
レストランや旅館で使われる業務用の越前漆器においては、国内シェアは8割を占めている。多くの人が手に取ったことのあるものだけれど、産地やその技術の高さが表に出ることはほとんどなかった。
「空洞の地域に見えるかもしれないけど、何にもないわけじゃなくて、ここには産地がある。それを価値に変えられるんじゃないかってRENEWを開催してきました。10年目を迎えた昨年は、118社以上の工房が開かれ、来場者は4万人を超えたんです」
「開催していくうちに、産地が持つ力は製品を生み出す結果だけではなく、ものづくりという過程も観光資源になるんだって、わかってきたんですよね」
2015年から開催されたRENEWを通して、工房に半年ほどの長期インターン生が来たり、まちに36店舗の工房直営店が生まれたり。地域外から訪れる人も増加した。
もともと家族経営だった漆琳堂も、今ではインターンを含め14名働いている。
「産業が観光資源になって人が集まってくる。そうすると、工房側でインターンは受け入れられるけど、雇用までの整備ができていないとか、お客さんが滞在するための宿が必要だとか、課題や必要なものが見えてきたんです」
「そんなものづくりの周りを整えていくためにつくられたのがSOE。RENEWの3日間だけではなく、産地全体が通年でお客さんや担い手を受け入れられる体制を整えてきました。SOEがあることで越前鯖江も盛り上がるし、ほかの地域のモデルになるくらい広げていきたいですね」
法人設立から4年目に入るところ。産地に必要なものづくりの周りは今どうなっているのだろう。
漆琳堂から歩いて5分ほど。次に向かったのは、鯖江のものづくりを紹介するセレクトショップ「SAVA!STORE」本店。
このお店を運営しているのが、鯖江市を拠点に活動する、地域に特化したクリエイティブカンパニー「TSUGI」。
代表の新山さんは、RENEWの立ち上げを主導し、SOEでは副理事を務める方。
「SOEを立ち上げて、はじめは団体内の体制を整えるのが大変でしたね。1期目は、宿をつくるためのリサーチ業務をやりながら、とにかくみんなの給与を稼がないとって、国の助成金へ応募したり。2期目は、市からの委託事業でふるさと納税事業を始めたり、スクール事業を走らせたり」
「2024年の3期目から売り上げも上がってきて、今年の夏には宿もオープンします。僕らがやろうとしていた、『ものづくりの周りをつくる』事業が、いよいよ走り出したところです」
当初は3人ほどだったスタッフも、今では13名に。メンバー間のコミュニケーションがとりやすくなるよう、オフィスはリニューアル改装中。4月に新しくなるのだとか。
あわせて、SOEの事業も枝葉を伸ばしている。現在は大きく6つ。
通年型観光事業、宿泊施設の運営、産業観光のメディア運営、就労移住プログラム、RENEWの運営、そしてふるさと納税の運営。
さらに事業内には、大小さまざまなプロジェクトがあり、それらを5つのチームで動かしている。
新しく入る人は地域活性化事業チームに所属。RENEWの仕事に7割ほど、そのほかのプロジェクトに3割ほど関わりながら、横断的に働いていく。
たとえば、と教えてくれたプロジェクトは、就労移住プログラム事業のひとつ、「産地のくらしごと」。
就業を目的とした宿泊型の合同就活プログラム。産地を知り、企業と交流することで、ものづくりを志す若者の就職や移住を促進することを目的としている。
「受け入れ企業さんに声掛けをしていきます。工房の人や移住者の先輩たちとの交流会を企画したり、滞在中にまちのツアーをしたり。受け入れ先の人と来てくれる人の間に入ってサポートする役割です」
ほかにも、デザイン経営スクールの企画・運営や、ふるさと納税の営業、鯖江の魅力を伝える広報など。自分の得意分野があれば任せてもらえるし、未経験でも挑戦できる環境だ。
「これから5年〜10年で、産業観光を増やしていきながら、産業環境にも取り組んでいきたいと思っていて」
産業環境?
「大きくいうと産地の資源環境と労務環境のこと。産業廃棄物に対してのリテラシーが日本はまだ低いし、家族経営の会社が多いので、就労規則や人事評価制度など明確に定められていない場合もあって。せっかく夢を抱いて入ってくれた若い子たちが辞めてしまう。そんな状況があったんです」
昨年のRENEWでは職人や工房に対し、産業観光と産業環境のステイトメントを用意。外部にものづくりの魅力を発信するだけでなく、産地内にもつくる側の責任として必要なことを投げかけた。
さまざまな事業が動くなか、働くメンバーに共通するのは、産地が好きで未来へ残していきたいという想い。
「メンバーは越前鯖江の人以上に鯖江のことを愛してる子たちの集団だなって。ほかの部署だから関係ないって思わず、一緒に考えれるような人はすごく合っていると思います」
「ものづくり産業に必要なものって、その時々によって変わってくる。たとえば通年観光のために、宿事業の棟数を増やしていく必要があるし、新規事業も生まれていく。ゼロイチがどんどん生まれていくので、不確実性を楽しめる人が向いていると思いますね」
どうしてそんな熱量で働けるんでしょう。
「鯖江がすごいから」と言い切る新山さん。
「地域の心理的安全性が高いまちなんです。つい先日は、移住してきた子が朝ごはん屋さんを開いて。その理由も『このまちには、素敵な朝ごはん屋さんがないから、自分でつくる』って。何かやりたいときにまちの人たちが後押ししてくれる舞台が整っている」
「加えて、はじめて来た人も何もしていない人にも居心地がいい場所。河和田地区には7棟のシェアハウスがあって。そこには、SOEのメンバーもいれば、たまに工房でアルバイトしている人、何をしてるかわからない人もいて。どんな人も受け入れてくれる居場所がある。それが鯖江のすごさだと思います」
最後に話を聞いたのは、入社3年目、地域活性化事業部スタッフの平田さん。
東京出身、大学院で地域デザインや地域創生について学んだのち、「同世代がやりたいことを自由にやっている」と感じた鯖江へ移住した。
新しく入ってくれる人は平田さんをはじめ、チームのメンバーから日々の業務を教わることになる。
「私は『気持ちをデザインする』、ということをテーマに持っていて」
「RENEWはそのまんまだと思うんです。来てくれた方が、『もの持ちがすごくいい』って手仕事の背景を知って共感するとか、それを職人さんに伝えて熱量を高めたりとか。人の気持ちに変化を与えることが、自分のやりたい仕事なんですよね」
移住して3年ほど、プライベートでも気持ちをデザインする、印象的な出来事があった。
「昨年、SOEが開催しているデザイン経営スクールに参加して。眼鏡会社さんの代表の方と数名の参加者がチームになって、半年間、その眼鏡会社さんがどうすればもっと良くなるのか、一緒に考えていったんです」
会社の職人さんは平均60歳以上。若い担い手を必要としているけれど、社内に受け入れ体制ができていなかった。チームで考えた末、古民家でシェアハウスをつくり、担い手を呼び込むことに。
はじめは警戒していた職人さんも、こまめに顔を出したり会話を重ねたりすることで打ち解け、古民家の改修作業をしているときに、差し入れをしてくれた。
「私たちがほかの若い子を連れていくと、寡黙だった職人さんたちが、自分から作業を説明してくれるようになったり、一緒にランチ会を開いたり。コミュニケーションを続けていくと、事業社さんの受け入れ体制が整ってくる。そうすれば、きっと新入社員が現れてくると思うんです」
「RENEWとか、仕事上で関わる事業者さんはものすごくたくさんいます。ただ、こうやってプライベートで1社と向き合うことで、産地全体を見る目線にもいい影響があると思うんです」
昨年は入社2年目にして、RENEWの事務局長を務めた平田さん。未経験でプロジェクトマネージャーの役割を勤め上げた。
責任は大きいけれど、任せてもらえるのは個人の大きな成長につながるはず。
日本各地で課題となっている産地独自の問題に向き合いたい人。ものづくりを支える側になりたい人。
大らかさを持ちながら、日本の先進的な産地として進み続ける鯖江なら、少しの不安も自信に変えられると思います。
(2025/03/12 取材 大津恵理子)