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根ざす百貨店

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

お店に入り、商品を手に取ってみる。けっして安い値段ではないけれど、店員さんの話を聞いているうちに、教えてもらった言葉と一緒に、商品を家に持って帰りたくなってくる。そうして、気付けば常連さんになっていた、そんな人も多いのではないかな。

日本百貨店は、日本各地のこだわりの手法でつくられた食品と雑貨を販売するお店。今から2年前に、秋葉原と御徒町の間にある高架下の商業施設、2k540の中にオープンし、そこから少しずつ広がってきました。

今回は、11月に開店したばかりの浅草の店舗と、来年横浜にできる新しい店舗で働くスタッフを募集します。

2k540の敷地内にあるコーヒー屋さんの前で、代表の鈴木さんに話を伺う。

「なにやってるのと人に聞かれると、面倒だから『雑貨屋さんやってます』と言ってしまうけれど、本当は、うちは雑貨屋さんではないんだよね。雑貨を売ることで伝えたいことがある。雑貨を売っていることよりも、その『伝えたいこと』の方が、大事だと思っているんですよ。」

「ただ、分かりやすく表面に見えるのは、お店全体のイメージだったりする。だから、お洒落な雑貨屋さん、という印象を持つ方もいるんですね。でも、やっていることは決してお洒落ではないんです。もっと地味だったり大変だったりする。そういうことを知ってほしいと思います。」

鈴木さんの言う『伝えたいこと』というのは、モノに込められた想いのことなのかな。

前回の取材のとき、鈴木さんに誘われて、仕入れ先であるブリキ玩具の工場に伺ったことを思い出した。
プリントした鋼板を型に合わせてプレスし、ブリキのおもちゃを組み立てるまでの工程を見学させてもらった。ひとつひとつ手作業で仕上げていく丁寧さに、感動してしまった。

そのとき、鈴木さんは、触っても怪我しないように端を丸く加工していること。そして子供がなめても大丈夫なように塗料を工夫していることを教えてくれた。

大量生産では決して生みだすことのできない、手仕事の魅力がある。伝統工芸の世界は後継者不足の問題を抱えているけれど、この技術が受け継がれていく方法を見つけたい。

それが、鈴木さんが日本百貨店をやりながら考え続けていること。

「基本的には、うちの仕事は”人間づきあい”だと思っています。モノをつくるのも買うのも人だから。作り手と買い手、お互いとそれぞれ信頼関係を築かなければいけないよね。そうして、『これからもよろしくね』だったり『またくるね』と言ってもらえたら嬉しいよね。」

鈴木さん自身、まさに人間づきあいを大切にしているように思う。今まで履歴書を送ってくれた方とは、可能な限り会って話をしているそうだ。

「会ったらすぐに、この人だ!というのは分かります。逆に言えば、会ってみないと分からない。だから全員と会っているんです。ときにはそこで、イメージと違った!ということもある。そういう場合はしっかりと説明して、お互い納得のいくかたちまで話しています。」

入ってからも、3ヶ月間の試用期間を設けて、丁寧にその人を見ていく。そこで一緒にやっていけると思ったら、正社員になってもらうのだそうだ。

ずっとここで働いている人の共通点は、ありますか?

「”普通の感覚”がある人かな。」

「たとえば、商品を並べるときに、こっちから入ってきた人に影にならないようにこういう風に置こう、とか、自然にお客さんの立場で考えられる人。単純に相手を想像しながら動ける。それって全然難しくない、普通の感覚だよね。だけど実際お店をやってみると、なかなかできないこと。うちは学歴や経験で選んだことは一度もないけど、この感覚を共有できる人が残っている気がするな。根っこが同じというか。」

「あとは、明るい子。売上がいい日も悪い日もある。悪い日は落ち込むけれど、家のお母ちゃんと一緒の気持ちだよね。今月苦しいわね、と思いながらも、子供が帰ってきたら『おかえり』って笑顔で迎えるような。うちの組織もそういう風になりたいんだよね。頭を切り替えて、常に楽しみながら働ける人がいいな。」

鈴木さんに「いちばん日本百貨店らしいスタッフ」だと紹介された今井さんにも、話を伺ってみる。

今井さんは、ここで働きはじめてもうすぐ2年になる。とても笑顔が素敵な方。

「わたしはもともと、日本百貨店に行ったこともなかったですし、伝統工芸に興味があったわけでもなかったんです。でも、働きはじめて、直接作り手の方と話をする機会も多くて、だんだん商品のことが好きになってきました。知っていくと、人にも教えたくなってくるんです。それでだんだんと、接客にも気持ちが入ってきました。」

自分の経験が言葉になるから、自然とうまく伝えられるようになるのかな。わたしも人になにかを説明したりするのはあまり得意な方ではないけれど、とっておきのものは人に教えたくなる。それと同じことかもしれない。

ただ、今井さんも、最初からすぐにそんな風に働けたわけではなかった。

「商品が沢山あって、それぞれ種類も産地も全然違うので、覚えるのがすごく大変なんですよ。陶器ひとつにしても、波佐見焼きだったり砥部焼きだったり、色々な種類があるんです。『お客さんにどんどん話しかけて』と言われても、最初は、分からないことを聞かれたらどうしよう、と不安に思ってしまうこともありました。」

それでも頑張って話しかけていると、さまざまなお客さんに出会った。陶器の焼き方について窯の違いから説明してくれるような、通なお客さんもいる。逆にこっちが勉強になることもよくあるそうだ。

あとは、分からないことは自分で調べて、だんだんと商品のことを伝えられるようになっていった。

商品を伝えることで、人の手へと渡っていく。直接ものづくりをするわけではないけれど、ものづくりの流れに大きく関わる仕事だと思う。

今井さんが、こんな話をしてくれた。

「わたし、ここに来る前は写真スタジオで働いていたんです。そのときは、ものすごく怒られていて、『お前みたいな仕事は誰にでもできる!』とよく言われていたんです。」

「仕事を辞めたときに、ちょうど偶然仕事百貨で募集の記事を見て、そこに、『あなたから買いたい』と言われるような仕事だと書いてあったんですよ。それっていいな、と思って応募しました。実際に働いてみて、今はそういうことができているのかもしれないな、と感じることもあります。お客さまに商品のことが伝わって、買ってくださったときは、やっぱりすごく嬉しいんです。」

もちろん、嬉しいことばかりじゃない。夜遅くまでお店のディスプレイを変えたり、お店の裏では、納品された商品を数えて値段をつける作業もある。それからイベントのときは、一日中立ちっ放し。華やかに見える仕事だけれど、実際はけっこう体育会系で、体力勝負な一面もある。

それでもここには、自分にしかできない仕事がある。自分に会いにきてくれる人がいる。それだけで、疲れてもまた頑張ろう!と思えるのだろうな。

2k540で話を聞いた後日、日本百貨店がこれからお店を出すことになる横浜ベイクォーターを訪ねてみた。

横浜ベイクォーターは、横浜駅きた東口直結の、豪華客船をモチーフにデザインされたショッピングセンター。2006年にオープンし、来年で7周年になる。

日本百貨店はどこにでもあっていいお店ではない、という鈴木さんの考えがある。だからこそ、お店を出す場所にはこだわる。実際に場所を見て、納得のいくところまで話して決定していく。それも”人間づきあい”。

そんな話を事前に聞いていたから、ここの施設の担当者の方にも、ぜひ話をお伺いしてみたかった。

横浜ベイクォーターを運営する横浜ダイヤビルマネジメント株式会社の高橋さんにお会いし、まずは日本百貨店が入る予定になっている場所へ案内してもらった。

隣にあるそごう横浜店とつながっている3階から4階へと続くエスカレーターをを上がってすぐの、ガラス張りのスペース。オープンモールで半屋外になっているフロアで、視界の開けたよい場所にあった。

「もともと日本百貨店さんを知ったのは、信頼できる方からの紹介でした。サイトを見て気になって実際にお店に足を運んで、いいな、と思ったので『うちにお店を出しませんか』とお声がけさせていただきました。」

ほかにも色々な候補のお店があったそうだけれど、なぜ日本百貨店だったんですか?

「決め手は沢山あったんですよ。」と高橋さん。

「いちばんは、商品の面白さ。ワクワクするところですね。エスカレーターの近くに位置するので、4階にあがってきたお客さまが、楽しそう!と入っていくような魅力のあるお店が、この場所に欲しかったんですよ。」

「それから、日本百貨店さんのやっていることは、横浜ベイクォーターがこれから目指していくものとぴったり合うと感じたんです。横浜ベイクォーターは、地域の方に愛される施設を目指しています。お客さまの暮らしのなかにある身近な存在になっていき、過ごし方の提案ができるような施設にしたいという思いから、来年にリニューアルするんです。」

横浜ベイクォーターのお客さんは、横浜駅東口のすぐ裏にある3つのまちから成る「ヨコハマポートサイド地区」を中心に、横浜市内から来る方が全体の80%の割合を占めているそうだ。

市外・県外から交通機関を使いお出かけでやってくる人もいれば、ふらりと徒歩や自転車で立ち寄る地元のお客さんもいる。遠方から来られる方だけではなく、身近なお客さんも大切にできる、地域に根ざした存在になりたい。

話を聞いていて、日本百貨店がここに入るのは、とても自然な流れだと感じた。お客さんの「また来るね」「また来たよ」をつなげていける、愛されるお店になるんじゃないかな。

最後に、鈴木さんの言葉を紹介します。

「お店って、僕らが頭で考えて、こういうコンセプトでやろう、と決めても、実際に運営する段階でどうしてもズレが生じてくる。それは絶対に避けられないことだと思うのだけど、そのズレがいい方向にいくか悪い方向にいくかは、やっている人次第だと思うんですよ。だから僕は、丁寧に人を見ているんです。」

「今、すごく人に恵まれていると感じていて、皆のおかげでここまでお店が広がってきているのだと思っています。いい流れができているので、そこに加わって、一緒にさらに良くしていってくれる人が来てくれると嬉しいな。」(2012/12/25up ナナコ)