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十勝かみしほろん市場から

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どこまでいっても先の見えない大地。さえぎるものが何もない空の下。牛が寝そべり羊が鳴いている。

芽吹く山菜、ごろごろしたじゃがいも、時間をかけて熟成したチーズ。季節が巡るなか、自然の恵みに溢れていることを感じる。

kami10 上士幌町(かみしほろちょう)は、太平洋に面した十勝平野の山ぎわ、北海道のほぼ中央に位置する町。

ぶらさげた靴下のような形のこの町は、町の77%が森林を占め、日本一広い高原牧場「ナイタイ高原牧場」には2000頭の牛が草をはんでいる。

この町に、ヒトと地域をつなぐ上士幌の案内人「上士幌コンシェルジュ」というNPOがある。

このNPOは、もともと町の移住促進の取り組みからはじまった。

まずは町のことを知って、好きになってもらうことからはじめよう。そのために、上士幌のことを伝え案内する存在として、「上士幌コンシェルジュ」。

kami11 2008年に設立されたこのNPOでは、体験移住の受け入れ、町の情報発信、観光、そして、上士幌の特産品を販売するショッピングサイト「十勝かみしほろん市場」の運営などを行っている。

それらは、別々の事業というとよりも「上士幌のことを知ってもらう機会」としてゆるやかにつながっていて、上士幌と外とをむすぶ総合的な役割を担っている。

今は、職員ふたりとアルバイトひとりの3人で事業の窓口をすべてしているのだけど、取り組みが広がってきたことで、だんだん事業を俯瞰してマネジメントできる人が必要になってきた。

とくに求められているのが、町が「ふるさと納税」を採択した3年前から注文が増え続けているショッピングサイト「十勝かみしほろん市場」のしくみをつくること。

今は、年間8000点以上の商品が動いているそうだ。

kami12 生産者、町役場、商工会、そしてお客さんと関係を築きながら、上士幌のとっておきを全国に届けていく仕事だと思う。

そこから町のことを肌感覚でつかんでいき、ゆくゆくは観光とも移住促進ともぜんぶをつなげていける人を求めています。

たとえば、百貨店やスーパーなどで流通に関わっていた人、商品の在庫管理などしてきた人であれば、きっとすぐに活躍できる。

でも、いちばんは、「上士幌のことを知ろう」という気持ちのある人。そこからじゃないと、なにもはじまらない仕事です。

だから、まずはこの町と仕事を知ってみてほしいと思います。

早朝、羽田空港から帯広空港へ。空港からバスを乗り継ぎ、約2時間で上士幌の町に入った。

上士幌役場の前でバスを降りると、長靴を履いたラフなスタイルで、「上士幌コンシェルジュ」の理事の齋藤さんが迎えてくれた。

SONY DSC 齋藤さんは、札幌を拠点に建築・不動産などのコンサルタントやまちづくりに取り組む株式会社PhilDo(フィルド)の代表であり、7年前に「上士幌コンシェルジュ」を立ち上げた。

そう聞くと、上士幌にもコンサルティングとして関わっていると思うかもしれないけれど、齋藤さんたちが今までしてきたことを聞いてみると、コンサルティングとはずいぶん違うように思う。

齋藤さんと上士幌町の出会いは、10ヘクタールの苗畑からはじまった。

「苗畑って分かりますか?苗の畑と書いて苗畑。もとの木に植林して幼木をつくる場所のことです。上士幌に、林業の衰退とともに使われなくなった10ヘクタールの苗畑があったんです。その土地の使い方を一緒に提案してくれませんか?という依頼が町から僕のところに来たのが、最初でした。」

SONY DSC この土地を、上士幌への移住を促進する場所にしたい。それが町の希望だった。でも、齋藤さんは、ただここに施設をつくるだけではだめなのではないかと思った。

この町でできること、魅力、資源などを洗い出して、町を巻き込みながら訪れる人をおもてなしする。そんな「コンシェルジュ」が必要なんじゃないか。

そうして立ち上がった「上士幌コンシェルジュ」。

実は立ち上げからここまでの6年間、会社への収益はほとんど見込めない状況だったそうだ。

ところが、7年目の今、状況は変わってきた。それは、2011年にはじめた「ふるさと納税」の影響が大きい。

「ふるさと納税」は、総務省がはじめた、個人が貢献したいと思う都道府県・市区町村へ寄付をできるしくみ。

寄付のお礼に記念品や特産品を贈呈している地方もあり、楽しめる寄付のかたちとして、いま全国的に広がっている。

kami15 なかでも上士幌町は、「ふるさと納税」の申し込みが年々上昇している地域として注目されている。

申し込みは、昨年度の960件に対して、今年度は10倍以上の12,000件だった。今はさらに伸び続けている。

人気の秘密はとてもシンプルで、贈る商品のバリューが高いことにある。

たとえば1万円を納税すると、4,000~5000円相当の特産品が送られてくる。5万円だと5個商品が選べる。納める側からすると、とても「お得感」がある。

そんなに太っ腹なことをしていて大丈夫なのか、と思うけれど、特産品を通して上士幌のことを知ってもらえる機会だと思えば、これは絶好のチャンス。町の生産者たちも、うるおう。

kami17 ところが、注文が増えたことで新たな問題も。

今すぐ欲しい!と言われても、肉には下処理があるし、チーズは熟成発酵が必要。そういった生産者側の事情がある。

齋藤さんが、上士幌市内の「ゴーシュ羊牧場」へ連れていってくれた。

SONY DSC オーナーの草野さんは、もともと千葉でシステムエンジニアの仕事をしていた。

奥さんとともに、研究・改良を重ねながら羊肉をつくっている。

一頭ごとに仕上がり具合を見て、注文を受けてから屠畜する。そうして新鮮な状態で届く仔羊は、内臓まで美味しく食べられる。

生まれたばかりの仔羊が、ぴょこぴょこと雪の上を歩く横で、草野さんがこんなことを言っていた。

SONY DSC 「ふつうに生活していると、肉はスーパーでいつでも買えるけど、僕らにしたらそうではなくて。今ジンギスカンが食べたいと言われても、捌いて処理をしないといけない。現場はけっこう、生々しいんですよ。」

おいしいものって常にあるわけではない。旬というものがあるからね、と草野さん。

お客さんに広く早く届けることだけではなくて、生産者にとっても無理がないこと。そして、旬のものをおいしい状態で届けること。誰もが嬉しいようなバランスを、探していかないといけないんだと思う。

SONY DSC 齋藤さんはこう言っていた。

「こちらの都合ばかり押し付けずに、もっと手前のコミュニケーションからはじめて、しっかり彼らの想いをひきだしていける関係を築くことが大事だと思います。」

次に、上士幌コンシェルジュの拠点である、「かみしほろ情報館」へ向かった。

SONY DSC 情報館は、上士幌市街の真ん中にある。町の人や観光客、移住希望者がやってきて、いつでも上士幌の情報が集まるところ。

ここで、上士幌コンシェルジュの職員として働いているのは、川村さんと波多野さんのおふたり。

川村さんは「移住」の担当、波多野さんは「かみしほろん市場」の担当と役割分担はあるものの、ふたりで協力しながらやっている。

とくに「ふるさと納税」のことは、力を合わせて対応しているそうだ。

「先月は、とくに大変でした。いつもここで発送作業をしているのですが、ここだけでは足りなくて、ほかの空き店舗を間借りして、アルバイトの方と3人で蜂蜜を詰めていたんですよ。」

SONY DSC そう話す波多野さんは、上士幌の出身で、大学から函館へ出て6年勤めた後、上士幌に戻ってきた。

それまでネットショップの運営をしたことはなかったけれど、今は、肉以外の商品は、受付から発送まですべて自分たちでやっている。

「今は日々、対応で手がいっぱいですが、そういう現場のことを俯瞰してみることができる上司がきてくれたらいいなと思っています。」

SONY DSC 物流、流通、在庫管理、発送、生産者とのやりとり。商品を安定してお客さんに届けることができる知識。

そういったことを経験として持っていて、マネジメントできるような人が、ひとりいてくれたら。

今のしくみが改善されるだけでなく、これからはじめる新しいことをみんなで考えていける。

「『ふるさと納税』は好調ですが、その元の『かみしほろん市場』は、月に10件も問い合わせがこないんです。『ふるさと納税』だけではなく、これから『かみしほろん市場』をよくしていきたいんです。」

サイトのデザイン、注文のしくみ、商品の充実。やりたいけどできていないことはたくさんある。

今、「かみしほろん市場」では、「鹿肉ジンギスカンセット」「ジェラート6種詰め合わせセット」「ミルクジャム」など60種類以上の商品を扱っている。

でも、まだまだ農作物や加工品など、紹介しきれていないものが沢山ある。ゆくゆくは、自分たちで上士幌のお土産を商品開発していくこともできるかも。

kami21 最初はとても落ち着いた雰囲気の波多野さんだったのだけど、これからどんなことをしたいか、という話になってから、とてもいきいきとしはじめた。

「今は、やらなきゃってことで1日が終わるけど、これからもっと広がりを持てると思うんです。楽しいことをやりたいですね。一緒に、もっと新しく楽しいことをやっていきたいです。」

もうひとり、紹介したい人がいます。川村さんです。

SONY DSC 川村さんは、ここで働いて3年。上士幌で生まれたあとは、本州に移り京都に暮らしていた。

上士幌に戻ってからは、ここで移住希望者の窓口や、町の案内を担当している。メールのやりとりから実際に暮らすところまで、橋渡ししていく仕事。

「はじめての人でも、誰かと会って困るタイプじゃないので。」と川村さん。

その通りだと思う。出会った瞬間から、はつらつとしていてあったかい印象を受けた。

川村さんにも聞いてみた。どんな人にきてほしいと思いますか?

「まず、町を知る。そこからはじめることができる人。都会でしてきたこと、もしかしたら、ここでは関係ないことになるかも。こうあるべきだって想いが強いと…。それは、できるかもしれないけど、できないかもしれない。」

kami22 心がついてこないと、キャリアも役に立たない。キャリアよりも、お酒が好きだとか、体力があるとか、そういうことの方がむしろ大事かも。

「町を歩けばどこ行くの?って聞かれるし、冬は水道が凍ったりもする。道内なので車があればどこでもアクセスはいいけど、都会のように次々電車が来るような場所じゃない。わたしは、移住の案内のときも、簡単に来てって言わないの。いちど、移住体験してみるといいかもね。」

考えるより、行ってみるのもいいかもしれない。

情報館に行けば川村さんがいるし、川村さんのまわりには、全国各地から上士幌へ移住してきた「移住の先輩」がたくさんいる。きっと色々な人に引き合わせてもらえると思う。

「だれにでもできる仕事かもしれないけど、わたしはそう思ってやってないの。理事たちに信じてもらっているから、こっちは自由にやらせてもらえる。そんな環境はきっと面白いと思いますよ。」

SONY DSC まずは上士幌を知り、町と「いい関係」を築いていくことからはじまるんだと思う。その「いい関係」は、きっと商品を受け取る人にも伝わっていく。

そうして、上士幌という町の名前が、外のあちこちでどんどん聞こえてくるようになるのかもしれない。

まだはじまったばかりのここから、つくっていける人に来てほしいです。

(2014/2/24 笠原ナナコ)