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入り江をつないで

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150人が暮らす、ひょっとしたら日本で一番小さい入り江の町。三重県尾鷲市の早田町(はいだちょう)を訪ねました。

1 晴れ空で目が覚めると、玄関を開けて港へ。港の様子をレポートしていると漁師さんから「食べな」と獲れたてのアジ。おばちゃんからは漬け物の差し入れ。朝ご飯を食べると、コミュニティスペースでお母さんたちと合流して、商品化に向けた加工品の試食会。

午後は、市内の商工会議所へ向かう。担当の伊東さんと起業準備の打ち合わせ。終えると、20分ほど車を走らせて町に戻る。ビール片手に星空をしばらく眺めて明日に備える。

ここではじまる一日を想像してみました。

早田町に暮らし、お母さんたちと一緒に仕事をつくる人を募集します。

尾鷲市に面する熊野灘は、複雑に入り組んだリアス式海岸の好漁場。

「男の人たちが魚をとってきて、干物にするのが女性の仕事だったんだよ。」

地元の方がそう話すように、仕事場は、かつて語らいの場でもありました。

2 加工場では、アジを開きながらおしゃべりをする。町内に2軒あった縫製工場では、布を縫うミシンの音にまじって話し声が聞こえてきた。

やがて縫製工場はなくなり、老朽化した加工場も閉鎖します。

「女性が笑顔でいると、町も元気になると思うんです。仕事をきっかけにお母さんたちが集える場をつくりたいです。」

今回は地域おこし協力隊としての採用になります。

地域おこし協力隊は、最長3年間を地域に暮らし働き、コミュニティ再生や仕事づくりまでを行う総務省の制度です。任期後は、起業や就職といった形で移住につなげる人もいます。

尾鷲は、東京から電車で約5時間ほど。名古屋から列車は紀伊半島を南下していきます。

尾鷲駅の周辺に広がる市街地から、ひのき林を車で20分ほど走ると、赤い灯台が見えてきた。

3 町へと続く一本道。脇の石垣で固められた段々畑には野菜が育てられている。

道を下っていくと、山と海が広がった。

尾鷲市内には7つ、入り江に広がる町があります。中でも一番こじんまりとしているのが早田町。

規模こそ小さいけれど、構想と取組みは大きいものでした。

日本有数の漁業県である三重県は、伊勢海老をはじめ、マグロ、カツオ、イワシ。またアワビやサザエといった貝類にひじきなどもとれます。

4 NHKドラマ「あまちゃん」で注目を浴びた海女さんの人数も日本一の県です。

けれど漁業の担い手は年々減りつつあります。

高齢化に後継者不足を抱え、県内約6,000人の漁業従事者が、10年後には半減するという予想も。

そこで早田町は、一ヶ月の漁業体験を行う早田漁師塾をはじめます。

「都市と地方をつなぐ漁業」をテーマに、出会いの機会をつくることで漁業の担い手を増やそうというもの。

この4年間での移住者は、大阪や愛知から 20,30代の男性を中心に10人。

着実に結果も現れてきました。

いまでは空き家が足りないほど。昨年には移住した人に子供も産まれました。

5 町内で出会った方からは「若い子らが定住して子どもの声が5、10人でも聞こえるようになりたい。10年間活動を続ける中で、いまは4合目まで来たところ。」

そんな声も聞こえてきました。

取材当日、早田港を訪ねると20代の若者から70代のおじいちゃんまでが一緒に水揚げをしているところ。

6 この日はサバ20トンに、ブリ400匹の収穫。大漁だったようだ。

漁師にはとっつきにくいイメージを持っていたけれど、カメラを向けると「みんな笑顔にならないとアカンで」と場を盛り上げてくれる方も。

漁師塾により若い人が増えたことで、町の雰囲気も変わりつつある。

散歩をしていたお母さんに声をかけてみる。

7 「若い人が増えると活気が生まれていいよね。早田は人を受け入れる風土なので、人も入ってきやすいんだと思います。」

漁師塾から移住した一人、柏木くんは愛知出身の23歳。

一度は地元企業に就職したが、自然のあるところに住みたいと思った。釣り好きもあり、昨年の秋に早田町へ。

彼と道ばたで話していると、色々な人が声をかけてくる。

道行くおじいちゃんには「酒を飲みすぎるなよ」と諭されたり、漁業の先輩からは言葉遣いを指導されたり。早田町の弟分のような存在だ。

8 左から2人目が柏木くん、3人目が湯浅さん
柏木くんを見守るのは、名古屋からUターンをした漁協組合の湯浅さん。

町内を歩きながら、早田町の暮らしについて聞かせてもらう。

「限られた平地に、家々が肩を寄せあうように建っています。漁村特有の町並みですね。」

これからやってくる人も、家を借りて住むことになる。

家が近ければ、人と人の距離も近い。

9 はじめて移住者が訪れた当時には、こんなエピソードがある。

「仕事を終えて家に戻ると、部屋の様子が違うんです。最初はドロボウ?と思ったけれど、むしろ部屋がきれいになっていました(笑)。聞くと、隣のおばあちゃんでした。雨が降ってきて洗濯物を取り込んでくれたんです。玄関を開けるとあんまりに散らかっていた。料理の差し入れまでしてくれたんです。」

一方、一人で静かに過ごしたいときもあると思う。

10人の移住者を受け入れる中で、お互いに適度な距離感もとるようになったそうだ。

10 東京や名古屋といった都市からのアクセスは決してよくないけれど、日々の生活から考えると恵まれた環境ともいえる。

湯浅さんはこう話してくれた。

「選り好みをしなければ、尾鷲市街地で必要なものは一通り揃います。それでいて、目の前にこの景色が広がるのは、ぜいたくなことかもしれませんね。」

11 海や山の景色は春夏秋冬、日々の天気によっても表情を変えていく。見あきることがないという。

ここで、漁師塾を中心となって、活動を進めている方に話をうかがいました。

地域の自治組合「早田浦共同(ともどう)組合」組合長である岩本さん。

岩本さんは東京の大学に進学したのち、全国で10年ほど働きます。自ら事業をはじめたいと考えるタイミングで、早田町に帰省。10年にわたり地域の将来像を描いてきました。

12 小さな浦から、広く日本を見つめるような眼差しを持った岩本さん。

漁師塾により漁業が活気を取り戻しつつあるいま、力を入れているのが、女性が活躍できる場づくり。

「女性がいきいきしていることが大切だと思ったんです。まずはお母さんたちが集える婦人会を復活して、町内に花を植えるコミュニティ活動からはじまりました。」

次に目指すのが、仕事の場づくり。

2010年に早田町の将来像を描き実現していく「ビジョン早田実行委員会」を発足。

はじめに出身者へ向けて早田町の“いま”を伝えるためにHPを立ち上げました。

連動してサポーター制度を発足。地域づくりの活動資金を得るため、一口5,000円の会費をいただいている。

早田町からは年に一度、土地になじみのある料理をお返しとして届ける。

「一方的に寄付を受けるのではなく、一緒に活動していける関係で進めていきたいんです。」

品目は、かつて各家庭でつくられていた味噌。そして冷蔵庫がなかった頃から続く保存食の“くき漬け”に、マルソウダという魚を焼いたもの。

「くき漬けの原料となるずいきは、自分たちの畑で育てています。早田では昔から、夏にくき漬けとマルソウダ焼きを一緒に食べる風習があるんです。」

13 今後は、地縁のある方を中心に届けていた料理を、より多くの人に販売することで事業として成り立たせていきたい。また、海の幸を活かした新たな産品開発にも取り組みたい。

「たとえば、早田地区で食べられている小アジのみりん干しを連ねた“つなぎ”。一般には流通していませんが、早田を訪れた人には好評なんです。可能性はあると思います。」

食品加工施設を整備して生産体制を整える計画も上がるなかで、今回の募集に至った。

「現在は8人ほどのお母さんが任意で活動しています。みんな、やる気になっているんですよ。その姿を見ると、ぜひ実現していきたいんです。」

「事業として成り立たせていく上には、行政への認可申請に販売ルートの開拓… やることは色々あります。まずは法人格の取得から、設備稼働に商品開発。お母さんたちと一緒に立ち上げていきたいんです。」

14 事業化を目指す背景には、こんな思いもある。

「小さな町だけれど、ここで経済を回していけないかと思っています。かつては、漁師が魚をとってきて、お金に換えて地域で使う。そうした循環が日本中の農山漁村で見えました。いまは小さな買い物一つも大手資本のスーパーに行きます。お金が外にばかり流れていきます。」

「経済って、人のつながりだと思います。早田でお金が回ることで、人と人の会話も、お互いの気持ちのゆとりも生まれてくる。海という資源を活かしつつ、豊かに暮らせる町をつくっていきたいんです。」

いまの時点で経験は求めません。住民の方から聞こえてきたのは、行動力を持って、新しい企画を考えるのが好きな人に来てほしいとのこと。

一方で知らない地域に入り、さらに仕事を進めていくのはなかなか大変なもの。

尾鷲市の地域おこし協力隊には、日本初の試みがあります。

それは、商工会議所による中間支援です。

最後に、受入の窓口となる尾鷲商工会議所の伊東さんに話をうかがいました。

15. 右:伊東さん 左:商工会議所の小川さん
伊東さんは、尾鷲に生まれ育った方。ゆるやかに人口が減少してにぎわいを失う地元の力になりたいと、20年以上にわたり商工会議所を拠点に活動しています。

「地域おこし協力隊は、地域によって受入がうまく行くところとそうでないところがあると思います。課題となりやすいのは、地域にうまくなじめないこと。そして起業支援のノウハウがないことです。」

「そこで、地域と起業の両方を知る僕らが、培ってきたノウハウを活かしてサポートしていきます。」

尾鷲商工会議所は7年間にわたり、長期学生インターンシップをコーディネートしてきた実績があります。

伊東さんは、今回の募集に先駆けて、すでに動きはじめている。

知人の料理研究家・枝元なほみさんを早田町に招き、とれたての魚を料理する勉強会を実施。20人ものお母さんが集まりました。

16 「尾鷲の地域おこし協力隊は、地元、商工会議所、市役所。そして枝元さんにも産品開発のアドバイザーとして仲間に加わってもらい、チームで事業化を進めていきたいです。」

伊東さんと話すなかで思ったのは、「地域を選ぶ決め手はアクセスよりも、誰と何をするか」ということでした。

早田町では、お母さんたちの居場所づくり、そして人のつながりを育む仕事がはじまりそうです。

(2014/5/21 大越はじめ)