求人 NEW

わが家のように

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

小児がんなどの難病にかかった子どもが安心して治療を受けるには、家族との距離が近いほうがうれしい。1991年から始まった「ファミリーハウス」は、病院の近くにある、難病に立ち向かう家族のための“家”です。

クリスマス 人生で、病は突然にやって来る。子どもが重い病気になって長期入院を余儀なくされた場合、家族には時間的、経済的な負担のほか心理的な辛さがのしかかると思う。

現在、付き添い家族が病院に泊まれないケースがほとんどだ(簡易ベッドでの仮眠は許可されている)。そのためビジネスホテルを利用したり、自分のクルマの中で寝泊まりする親もいるという。

過酷な看病生活が続き、子どもの病気をきっかけに家族がバラバラになってしまう例もまれではないと言われる。

環境を整えれば、乗り越えられる不運もあるはず。そうした考えから24年前、国立がんセンター中央病院(当時)の小児病棟「母の会」と医療従事者の呼びかけが契機となって「ファミリーハウス」は生まれた。

個人や企業のオーナーが提供する施設(部屋)を利用するハウスは、宿泊費が1人1泊1,000円。現在は都内で11カ所57部屋に成長し、年間1万人を超える利用がある。


運営にあたるのが、神田須田町に事務局がある認定NPOファミリーハウス。すべてのハウスの利用受付を一括して担当している。

事務局長は植田洋子さん。

ueda それぞれのハウスを管理するのは「ハウスマネージャー」と呼ばれる仕事だ。

「高度なことをやるわけではなくて、医療や不動産の専門知識も必要ではありません。それよりも、『行ってらっしゃい』『お帰りなさい』と言えて、人に気を配るのが大事な仕事です。」

なんだか、寮長さんのように聞こえる。

「ええ。子どもが病気になり、大変な状況にいる親のことを受けとめる。愛情を持ってハウスを運営するだけの仕事ですが……ハウスの数が増えたので、そうしたメッセージを求人で伝えにくくなっている面もあります。」

スタッフは何人ですか?

「事務局は常勤と非常勤が2人ずつ。ハウスマネージャーが常勤6人です。これだけの人数で57部屋の運営はできませんから、登録300名のボランティアがいます。一番下が中学生、最年長が87歳です。ボランティアさんは一緒にハウスを支えてくれる仲間ですね。」

ハウスの運営は、プロボノ(職業上の知識やスキルを生かして社会貢献するボランティア)に支えられる部分が大きい。

「自分だけでバリバリやるのはうちのスタッフとしてはふさわしくなくて、ボランティアさんを同じ仲間として尊重しながら、どこまでコーディネートできるかが大切です。」

ハウスごとにボランティアチームがあって、定期の掃除やミーティングをしている。そうした人々と協力して調整するのが今回募集するスタッフだ。

うさぎさんリビング 読者のうち、ファミリーハウスの存在を初めて知った人がほとんどだろう。

「一般からの認知度はとても低いです。多くの親は『自分の子どもが難病にかかる』という前提で生きていないので、それも当然かもしれません。病気になってから必要性を感じるのがハウスですから。」


実際にどんな人が働いているのだろう。

岩部敦子さんは、もうすぐ10年目のスタッフ。以前は旅行会社に勤めていた。

iwabe 「専門的な分野は持っていませんでしたが、家族の介護経験がありました。次の仕事を始めようとしたとき、電話の受付担当募集を見てファミリーハウスのことを知ったんです。」

ハウスはどんな人たちに求められていると感じていますか。

「病院によっても違うと思うんですが、『基準看護』と言って面会時間が決められているケースがほとんどです。お母さんたちが夜を過ごす場所、泊まる場所がほしいというのが、一番のニーズですよね。」

「ただ、入ったばかりのころにハウスに通っていたとき、子どもの病気が違うお母さんたちが励ましあったり、助けあったりできる部分は大きいんじゃないかと気づきました。オーナーさんとの何気ない会話で元気が出る人も多いです。」

オーナー この仕事では、感情が揺れ動くこともあるという。

「いかに冷静になれるか、客観視することも大事です。自分が感情に飲まれているなと思ったら事務局長と相談して、クールダウンして対応を考えたりするようにしています。」

いまは事務局で経理業務も担当しながら、非常勤として働く。勤務時間は10時から18時。ハウスへのボランティアは土日に多く来るので週末の出勤もあるという。

どんな人に来てほしいですか?

「ハウスの運営は一人ではできないという実感があります。これからいいハウスを続けていくためにも、利用者さん、オーナーさん、ボランティアさんたちと一緒に仕事ができる人に来てほしいですね。」


もう1人紹介したいのは、ハウスマネージャーの知久佳子さん。勤務は2004年から。

chiku 「幼いころから子どもと接する仕事がしたいと思っていて、これまで肢体不自由児の施設や養護施設に勤めていました。求人を見てハウスを見学したときに、利用者に対するハウスマネジャーの想いに感銘を受けました。」

それまでは宿直がある仕事はやめようと思っていたという。

「それでも、こんな想いを持っているオーナーがいて、それに対して私がちょっとでも何かできるならやってみたいなと思って。」

ゴスペルコンサート 24時間365日動いているハウス。マネージャーは、9時半~17時半のシフトと、17時半~9時半のシフトの2交代制をとる。

ただ、夜のシフトは22時から朝6時までは就寝時間。夜の勤務と言いながらも、看護師のようにずっと起きて待機する必要はない。

知久さんは亀戸の大型ハウス「アフラックペアレンツハウス」のマネージャーだ。そのほかに、月に何度か調布「かんがる〜の家」、中央区「うさぎさんのおうち」といった小規模なハウスも訪問している。

聖路加国際病院から川を挟んで向かいにある「かちどき橋のおうち」は、国立がん研究センターからも近い。

「小規模なハウスは一戸建てやワンルームなど、それぞれにタイプが違います。新しくできたハウスには、家族で来られるような部屋もあるんです。」

車いすでトイレやお風呂が使える「うさぎさんのおうち」は、ファミリーハウスが設計から関わった未来型のハウス。バリアフリー設計だからストレッチャーで搬送できて、医療器具も使えるよう三つ又コンセントもある。

うさぎさん寝室 仕事で大変なところはどこでしょうか。

「やっていることは普通ですが、お母さんたちはいつもギリギリの状態ですごしているので、自分の弱さと対峙しなきゃいけなかったり、自分自身を見つめ直すことが多いので、くじけそうになることは多かったです。」

心がけているのは、いい循環を生む姿勢。

「もともとファミリーハウスはがんセンターのドクターとナースがお母さんたちと立ち上げたのですが、活動が全国に広がったのはハウスの利用者からなんです。がんセンターで治療していた患者さんたちが『これなら自分たちにもできるかもしれない』と、自分の地方の大学病院の主治医と一緒に立ち上げていったんですね。」

「ほかにも『今度は自分がしてあげる側になりたい』と、ボランティアに登録してくださったり、寄付をしてくださったりする方がいます。」

どんな人に来てほしいですか?

「利用者のためにハウスをよくしたいと思う人、そのために一緒に考えてくれる人かな。」

集合写真 再び、事務局長の植田さん。ハウスはコミュニティだということがよくわかりました。

「遠くから東京に来る親は『おはようございます』という相手がいなくなるんですね。ハウスに来たら隣近所ができます。だから亀戸のハウスではナスやきゅうりもつくっているんです。一緒にもごうと話したり、台所で料理をしたり。なんでもない小さなことを共有できる場を目指しています。」

お子さんの病気ごとに、状況はだいぶ違うはずだ。そんな親同士が、コミュニティで仲良くできるものなんだろうか?

「そこをうまくいかせるのがプロのハウスマネージャーかもしれません。定期検診で外来への通院のために1泊だけ夏休みに利用する家族と、お子さんがターミナル期(終末期)にある家族が、同じ場で生活をするわけですから。みんなが協力する姿勢をどうつくるか。それも役割なんです。」

今回は募集する職種はハウスマネージャーだけれど、仕事内容はもっと広い。

「私たちは1種類の仕事だけすることはないんです。現場でお掃除もする、コーディネーター業もするし、事務方もする。全国の仲間や病院、企業との連携をとったり、広報や啓発のイベントも主催します。みんないくつもの役割を持っているんです。」

office 募集は3人。それぞれ個性の違う人が選ばれる気がする。

「ハウスと利用者を愛してくれる人に来てほしいですね。利用者は本当のことを感じてしまうから、嘘は通用しません。相手に対して愛情を持ってないと難しいですが、適切な距離を持つことも必要。同情じゃなくて共感、そこはき違えてしまうと完全に段差ができてしまう。」

この仕事に向いていないのは、どういう人ですか?

「仕事に“救い”を求めてしまう人かもしれません。きっと、受け入れてくれる気がするんですよね。面接で悩み相談のようになってしまう人だと、スタッフになるのは無理だと思います。」

「そうは言っても『自分の子どもが死ぬかもしれない』という親たちに、事務的な対応をしてはいけないのが肝心な点。“お母さん的なこと”を職業として確立していけるかが、私たちの今後の課題です。それを一緒にやっていける人を集めたいと思っています。」

人をつなげるクリエイティビティがないと難しい、とも。

「時間の切り売りだと思って、我慢しながら仕事するようなタイプは全然ダメなんです。きっとチームが壊れて、ボランティアさんも離れていってしまうでしょうね。」

この仕事では、関わった子どもが亡くなってしまうようなショックなできごとも起きる。実際の向き不向きは、やってみないとわからないこともあるだろう。

all ただ、仕事を通じて“強くなっていける”職場だと感じました。

「うちは成長がキーワードなので、それはうれしい感想ですね。利用者もボランティアさんも成長するので、私たちスタッフも成長しないといけません。」

(2014/10/6 神吉弘邦)