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目の前にある豊かさ

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あれもあるし、これもある。豊かすぎるが故に、これまで魅力を伝えきることなく、暮らしてきた。

そんな地域があると、福岡県豊前(ぶぜん)市を訪ねて、そう思いました。

海山の幸。それらを加工した事業。そして、人。

観光協会と海産施設に立上げから携わり、豊前の魅力を伝えていく人を募集します。

北九州空港と福岡空港、そして大分空港。3つの空港から行くことのできる豊前市。

この日は大分空港から向かいます。

電車に揺られて約90分で宇島(うのしま)駅に着いた。お隣は大分県の中津駅。

県境という立地にあり、市内には大分と福岡の両方の文化が垣間見られます。

駅のキヨスクに入ると、地元の松川かまぼこ店さんが、揚げものの入ったバットを片手に現れた。

気さくな地域なのだと思う。そのまま“魚(ギョ)ロッケ”をいただきながら、立ち話をする。

朝はあいにくの雨。

キヨスクを出ると、市役所の朝倉さんも立ち話をしていた。

1 朝倉さんは、生まれも育ちも豊前。この日の訪問先をコーディネートしていただく。行く先々で声をかけられる、顔の広い方です。

「今日は、天気が悪いけれど。豊前は人のよいところだと思いますよ。」

そう話しながら車へ。

郊外にできた大型店舗へと人が流れ、駅前の商店街はさびれている。人口もこの30年で2割ほど減りました。

豊前市はもともと、農林水産業を中心に営まれてきました。

数年後には、福岡-別府間を結ぶ東九州自動車道の開通を控えています。

そうした中で、ただの通過点となってしまうか。それとも行ってみたいまちになれるか。

分岐点にあるという。

「豊前のよさを活かしつつ、交流人口を増やしていけたらと思います。」

この5年間ほど、観光に力を注いできました。

そしていま、2つの事業を立上げている。

「観光協会では、豊前らしさでもある“食”を紹介していきたいんです。また、住民主体で取り組む農家民泊や森林セラピーを紹介する窓口にもなっていきたい。現在も、観光協会のHPや道の駅でのチラシ配布は行っていますが、ほとんど知られていません。それから、平成27年度末に立上げを予定する海産施設です。海の幸を楽しむ食堂、加工直売を行うお店、そして海とふれあう体験からなる予定です。」

「この2つの場を、立上げから一緒に進めていく人を募集したいんです。」

ここで車は「道の駅おこしかけ」へと到着。

2 ちょっと耳なれない名前は、神功皇后がこの土地で腰かけたという故事に由来する。

2000年にオープン。

いまでは、年間100万人が訪れるという。その9割が市外から。中でも40kmほど離れた北九州市からやってくる人が大半を占める。

自ら店頭に立ち、お客さんと話をするのは、マネージャーの長野さん。

「はじめは“ついで”に立ち寄る場だったんですが、いまでは、わざわざ訪れる人が増えてきたんですね。」

道の駅は、豊前の台所。豊かさがぎゅっと詰まっていると思う。

「農産物は一通り揃いますね。キャベツや原木椎茸、高菜といった野菜はもちろんのこと、みかん、ゆずといった柑橘類もあります。」

レモンやかぼすは5個入って150円。都会の1/2〜1/3の価格という安さ。

加工品にも力を入れています。

たとえば棚田でつくられたゆず。柚子胡椒はもちろんのこと、Uターンしたケーキ屋のCOJI CORNERさんはスイーツを開発した。

福岡のスタンダードとなりつつある「道の駅弁」を開発したのも、おこしかけ。地元の魚介を調理したハモやカキのご飯。イートインコーナーの“貝汁”も人気だという。

店内を見回すと豆腐屋、そば屋、酒・味噌・醤油の蔵元、ドイツで賞をとったみやこハム屋。

海山の幸をいかした食のものづくりも盛んな様子。

地域には、2代目、3代目が跡を継ぎ活躍する事業者も現れています。

次に訪ねたのは、松川かまぼこ店さん。

3 工房では、手をつかうのが多いことに気づく。

「うちはほとんどが手仕事ですね。」

「特産品研究会」を立上げて、地域の事業者と活動をしているという。

農業にもあらたな展開が生まれつつあります。

訪ねたのは田村農園さん。

父の裕司さんが収穫した野菜を、家族で袋づめしているところ。

野菜を見ると赤大根や黒大根、レタスと白菜を掛け合わせたレタサイ、紫にんじんなど。見なれない品種が並ぶ。

市場に卸すのではなく、豊前や北九州のスーパーで「田村さんの野菜」コーナーを設けて販売しているという。

4 「この1、2年で色々な引き合いが増えています。即売会に出展するでしょう?うちは、その場で生野菜を食べてもらうんです。するとスーパーのバイヤーさんから『うちでコーナーをつくりたい』。フレンチやイタリアンのシェフから『田村農産の野菜という名前でメニューに登場させたい』といった声をかけてもらいます。」

助成金などに頼ることなく、農家として自立したモデルを提示していきたいと話す。

ここで田村さんが、紫にんじんの足をすすめてくださった。

甘い。

果物を食べているよう。

「最近、野菜を届けている飲食店のお客さんから『田村さんちの畑を訪ねたい』という声が増えているそうなんです。」

「ここに来てわかることもあると思うんです。観光協会とも連携しつつ、うちの畑だけでなく豊前を知り、ファンになってもらえたらと思います。」

豊前市は、海から山までが車で25分ほどとコンパクト。

その中に、山岳修験の地である「求菩提(くぼて)山」、33万本のツクシシャクナゲ自生地が国の天然記念物に指定されている「犬ヶ岳」、そして海の幸をいただく「豊前海」に囲まれている。

求菩提(くぼて)山のふもとにある岩屋地区は、国の重要文化的景観にも認定。棚田や神楽といった文化を受け継ごうと、住民主導の取組みが見られる。

農家民泊や山歩きの森林セラピーもはじめているところ。

5 これから観光協会に入る方には、地域資源を編集し、観光プログラムとして企画の立上げから実施、PRまでを行ってほしい。

再び市役所の朝倉さん。

「豊前は食に加えて、温泉もあります。いままではなんでもある分、伝え方がわからなかった。結果として、何も伝えられていなかったんですね。」

最後に、宇島漁港を訪ねました。

6 平成21年に漁協直営の漁師食堂「うのしま豊築丸」がオープン。

この場を切り盛りするのは、漁師のお母さんたち。

コチという魚と地場名産の三毛門カボチャを天ぷらにし、味噌からつくった汁をよそう。接客に追われているところ。

料理を待ちながら、市役所の農林水産課の横川さんにも話をうかがいます。

7 漁村出身ということもあり、漁業振興には人一倍強い思いを持っている方だと思う。

「豊前海は、ほんとうに豊かなところです。漁業は“水揚げ量”に眼が向きがちですが、少量多品種の魚が採れるんですね。」

漁業を取り巻く環境は転換期にあるのだと思う。

漁船の価格や燃油費は高騰を続ける一方で、市場に出荷しても二束三文にしかならない。漁師たちが海に出ない日も増えるように。

「このままではいけない。漁師の所得向上と、魚価を下支えする次のモデルを考えよう。そう思い『うのしま豊築丸』という食堂がはじまりました。漁協は、漁師から適正な価格で魚を買い取り、訪れた人たちに提供していきます。」

お昼のみの営業で、一食が1,600円ほど。

少量多品種という特徴を活かしたメニューは“旬替わり”。

11〜1月は、食堂の顔ともいえる「豊前本ガニ」定食。

この日は品切れだったので、秋さわらの定食をいただく。

「鰆という字を書くように、春が旬というイメージがありますよね。実は、秋のほうが脂も乗っておいしい。自分たちで秋さわらという名前をつけたそうです(笑)。」

年が明けるとカキの炭火焼き、春はコウイカ尽くし。夏には鱧(はも)御膳。魚介類の中でも、高級なものが採れ、地域ブランドとしても育ちつつある。

8 市場に卸しても、売り先は周辺の市町村のスーパーに限られる。周辺の漁港と価格で競合せざるを得ない構造があった。

「カニやエビがこれほど採れる海は他にありません。豊前は県内一の漁場だと思います。それならば域外の人にターゲットを絞ろうと思いました。」

魚価も上がれば、北九州市や福岡市からも人が訪れるようになったという。

今後高速道路が開通すると、本州からの集客も期待できるそうだ。

漁業のあり方が転換期を迎えるいま。

これから働く方には、未来の漁業を一緒に考えていってほしい。

「来てくれた方にどうやって満足してもらうか。その上で、いかに持続可能な漁村のモデルを築いていけるのか。商いの感覚も大切だと思います。ターゲットを絞り、サービスを考え、情報を届けていく。これからの漁村のモデルになっていける可能性はあると思います。」

まずは店頭に立つことから。接客を通して、ニーズを知り、企画を立てていってほしい。

平成28年度には豊築丸の裏に、水産振興施設を立ち上げる予定。

そちらの施設の立上げにも関わっていただき、ゆくゆくは店長として施設を任せていくことも考えている。

アウトプットの形としては、都市部への販売も行っていきたいという。

宇島漁港では、多くの漁師が底引き網漁を行っている。少量多品種とは言え、夏場になると鱧やコショウダイの価格が崩れてしまう。

最新の冷凍技術を導入したり、加工品を開発して、販路開拓にも取り組んでいきたい。

9 最後に、生活についても触れたい。

もし豊前市にやってくると、空き家に住むことになります。

たとえば、こちらはトライアルステイに用意されている物件。

10 近所の方と仲良くなることで、野菜や魚をいただくこともあるという。

「最近よく取材が入るんですけどね、農家さんはTV局の人に、持ちきれないくらいのお米をお土産に渡したり。漁師は口が悪いから、はじめは怖いかもしれない。けれど、根はみんな優しいですよ。表裏がないし、誰でも受入れやすい気質があると思います。」

豊前市での地域おこし協力隊の募集は、今回がはじめて。市役所の方も住民の方も準備は進めつつ、まだまだイメージの描けていない面もあります。

飛び込む人も、受け入れる人も、お互いに戸惑うときがきっとあるでしょう。ときには地域を引っ張っていくことも必要だと思います。

魅力を感じた方は、まず応募をしてみてください。面接の際に地域を訪ねてもらえたらと思います。

11 漁業、農業、行政。それぞれの立場からどうやって豊前を訪れたいまちにするか」ということを考える人に出会いました。

これからやってくる人は、地域の人とともに、二人三脚で進めていく。豊かさを編集する仕事だと思います。

(2015/1/17 大越元)