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「毎日違うんですよ。だからおもしろいんです」おとずれたのは鹿児島県鹿屋市。今回は「かのやばら園」で、ばらを育てる人を募集します。まずはここで知識を身につけて、将来はばら農家やお花屋さんを目指すのもいいかもしれません。
経験や年齢は問わないそうなので、植物にかかわる仕事をしたいと思っている人にとっては、いい機会だと思います。
話を聞けば聞くほど、想像していたよりも奥深いばらの世界がありました。
鹿屋に向かったのは、梅雨のまっただ中。連日、鹿児島に大雨が降っているニュースが流れていた。
雨の中空港から車を1時間ほど走らせる。さつまいも畑が広がる道を抜けて、かのやばら園にたどり着いた。
ここは鹿屋市が運営する施設で、年間を通して約10万人もの人が訪れる。東京ドーム1.6個分ほどの広大な敷地の中で、今は約50,000株ものばらが栽培されているそうだ。
植物を相手にする仕事をしている人だから、寡黙な方々かと想像していたら、とってもにぎやかな3人が迎えてくれた。
左から宮地さん、北郷さん、原添さん。3人が楽しそうに話すのを見ているだけで、チームワークの良さが伝わってくる。
「こんにちは。原添耕作こと”バラぞえ”と申します」
“バラぞえ”さんは、鹿屋市の職員。2年前にばらのまち推進室に配属された。PRなどを担っていて、ばら園にとってとても心強い味方になっている。けれどこの仕事をするまでは、ばらのことはほとんどわからなかったそう。
「家で植えても枯らしていました。勉強して自分でも実践することで、ようやく人にもばらのことを伝えられるようになってきましたね」
ばらは鹿屋市の花。ばらでまちを元気にしよう、というコンセプトでこの場所がつくられた。
「市外から観光に来ていただくのもうれしいんですけど、もっと市民の方にも楽しんでもらいたいと思っています。自分のまちにこういう場所があることに対して自信と誇りを持ってもらいたい。日本一と言っていいくらい、素晴らしいばら園なんです」
ばら園を訪れる人を迎えるのが、北郷さんの働くNPO法人ローズリングかのやの役割。園内にある売店や、イベント、ワークショップの企画運営を担っている。
北郷さんは地元の鹿屋にばら園があることは知っていたけれど、働く直前まで実際に訪れたことはなかったそうだ。
「大学を卒業してからは鹿児島市内の出版社でフリーペーパーをつくっていましたが、新卒3年ジンクスを破れずこっちに帰ってきたんです。次にどうしようかと思っていたときに、母にばら園にいこうと誘われて」
ちょうど求人が出ているのを見かけ、地元での仕事だからと面接を受けた。
「ばらの『ば』の字も、植物の『し』の字も知らなかったんですが、栽培教室の担当にさせてもらって。少しずつ勉強することができました」
ばら園に来る人を増やすことも仕事の1つ。
「育てるのが楽しいっていう人もいるんですけどね。私は名前の由来だったり、交配のことがおもしろくて。楽しみ方はいろいろなので、そこを深堀すればもっと幅広い人に来てもらえるんじゃないかと思っているんです」
ばらの形、香り、育ち方の違いなどを自分の目で見て歩いた。ほかのばら園を視察することで、かのやばら園にしかないものを発見できるようにもなった。
ばらは世界中に生産をしている人がいて、毎年こぞって新種を発表しているそうだ。ファンの多い花だから、知れば知るほど、奥深い。
「もうすぐ咲く新芽が伸びたころ。2月から4月の時期が好きです」と原添さん。となりで北郷さんもうなずいている。
ばらの見頃は春と秋。その時期に開催される「かのやばら祭り」には、年間来場者の9割ほどがやってくる。
その時期に合わせてみんなで準備をしているけれど、天候による育成不良などで悔しい想いをしたこともあった。
「去年の春祭りの数日前に、いらしていたお客さまに『今年はどう』ってばらのことを聞かれて。そのときに自分でもびっくりするくらいテンションが上がったんです。ばらのことを知ってもらえることが、こんなに嬉しいのかって。やってきて本当によかったと思いました」
ここで働き始めて6年。自分でも気がつかないうちに、ばらに対する愛情が育っていた。
ばら園は来年で10周年を迎える。これを機にこの場所を盛り上げていきたいと考えている。
「12ヶ月のうち、ばらが咲いているのは3ヶ月です。あとは一生懸命に花を咲かせるための準備をしている。咲いていない時期があるからと、批判をする人もいます。今はほかの花を植えたり、ばらの育て方を学べるようなイベントを開催したり。ばらの咲き具合によって入場料を変えたりとか、ここを楽しんでもらえるように、いろいろな挑戦もしているんです」
原添さんの心強いバックアップの中で、北郷さんがさまざまな楽しみ方を提案している。
実際に技師としてばらを育てているのが宮地さん。
宮地さんの実家はもともと製材業を営んでいることもあり、自然と林業の勉強をしていた。いざ就職するとなったとき、かのやばら園のある霧島ヶ丘公園で技術者の募集があり、ここで働くことになった。
「入ってみたらばらの担当でした(笑)」
思っていたのと違う仕事だったんですね。
「ばあちゃんや母も花が好きで。家でいろいろ植えていたこともあって、あんまり抵抗はありませんでした。知識はまったくなかったんですが、まわりの人に教えてもらいながら、たたきあげでここまでやってきました」
北郷さんと同じように、ばらに毎日向き合うことで興味も深くなっていった。
「休みの日はホームセンター巡りするようになりましたね。ついてきた知識をかっこつけて話すより、教えてもらうほうが楽しいんです。ばら園に来てくれる人もそうなんですけど、ばらや植物の話を通していろいろな人と出会える。今はそれがうれしいです」
お客さんに育て方をアドバイスすることもあるけれど、逆にばらを家で大切に育てている人がやってきて、教えてくれることもあるそうだ。ぱっと見「怖そうだな」と思ったお客さんと、ばらの話で盛り上がって仲良くなることもある。
実際にどんな仕事をしているんだろう。
「植えたり、抜いたり、育てたり。害虫や病気も入ってくるので、予防をしてあげる仕事も多いですね」
「品種によっても病気のなりやすさが違うので、それぞれに合わせてやっています。最近はこの長雨で葉っぱが落ちてきてしまって。ちょっと心配ですね」
今、ばらの育成を管理しているのが宮地さんを含む「技師」の2人。そ
のもとで8名の「嘱託職員」がそれぞれに担当となるエリアを任され、さらに30名ほどの「作業員」と一緒に広大な敷地の中でばらを育てている。
今回入る人は、嘱託職員として宮地さんと作業員のみなさんをつなぐ役割を担うことになる。今いる嘱託職員には、地元の植物好きなおじさまもいるそうだ。
新しく入る人は、まずは1年を通してばらが咲いているハウスの管理からはじめる予定。
ここで咲いている花は、来場者が切花として持ち帰ることができる。家に飾るために、定期的に訪れる人もいるそう。
「急激な温度変化のないよう、天気を見ながらばらが好む環境をづくりをするんです」
「雨が降りそうだったら窓を閉じたり、陽が強かったらテントをかけたり、逆に暖房を入れたり。ばらの側にいてもらい、そういうことから任せていきたいです」
今回は市の嘱託職員として、最大5年という期間の中で、ばらのことを学びながら働くことができる。
期間を終えたあと、なにをするかは自由だけれど、知識を活かしてお花屋さんとして働くのもいい。鹿屋市内ではまだ多くない、ばら農家になるという道もあるかもしれない。
どんな人と働きたいですか。
「年齢は問いません。知識がなくても植物が好きで、ここでがんばってみたいと思う人であれば。楽しく仕事をしてもらえれば、それが一番です」
立ち仕事も多いし、重いものを運ぶ体力も必要。自然と向き合う仕事だから、虫が嫌いな人だと難しいそう。来場者のいる中での仕事になるから、コミュニケーションをとりながら作業ができるほうがいい。
「生き物と向き合う仕事なので、休みがあってないようなときもあります。天気が心配なときには様子を見にくることもありますね」
最後に園内を案内してもらう。残念ながらちょうど時期がすぎてしまったので、一面にひろがるばらに出会うことはできなかった。それでもハウスに入ると、色とりどりのばらが競うように咲いている。
1つ1つをよく見ると、花びらの枚数や形も違ってとても個性的だ。顔を近づけると、品種が変われば香りもぜんぜん違うことに気がつく。
園内にはいろいろなばらを一面に敷き詰めるのではなくて、品種によって香りが違うことがよくわかるように植えたスペースもある。
ほかにも工夫ができるかもしれない。提案は大歓迎とのこと。
ばら園を出ると、大雨の中で合羽をかぶって作業をする方々が目に入った。自然と向き合う、過酷な仕事であることが想像できた。
取材が終わってから、市内にあるふくどめ小牧場と、Araheamという植物や雑貨、カフェの並ぶ施設に寄り道をして帰った。
どちらも地元の方がつくったとても気持ちのいい場所で、すっかり長居をしてしまいました。地方に行くとシャッター通りもみかけることもあるけれど、鹿屋には新しい動きも起きている。これからが楽しみな場所だと思います。
ここで、植物と向き合う仕事をはじめてみませんか。9月4日にはばら園を訪れるツアーも組まれる予定なので、まずは参加してみてください。宮地さんがユーモアたっぷりにばらの話をしてくれると思います。
(2015/07/31 中嶋希実)