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勉強も進路希望も、世の中とのつながりが見えることで、取り組み方が変わるかもしれない。志望校を決める前に、どんな仕事につきたいかを考えてみる。
会社勤めだけが選択肢じゃないかもしれない。
色々な大人に出会い、話を聞いて、自分で未来を考える。
家でも学校でもない、子どもにとってもう一つの場所。新潟県長岡市にあるソフィー学習塾で働く講師を募集します。
ここでは、多様な大人が働いています。
教え子から先生になった人。農業を営むかたわらで、生徒に関わる人。県外から家族で移住したデザイナー。教室長を経て、この春独立をする人もいます。
これから働く人も、教育に関する経験は問いません。
人が好き。いまある仕組みにとらわれず、未来を描きたい。そんな気持ちがいきると思います。
放課後のソフィーを訪ねました。
東京から新幹線で1時間半の長岡駅。
長岡市には、約30万人のひとが暮らしています。
駅前のアーケード商店街を8分ほど歩くと、白壁のソフィー学習塾が見えてきます。
開校は、1998年のこと。
長岡出身の三浦さんは、中高と野球部に打ち込んで授業中は居眠りをしているような生徒だったそうだ。
大学はアメリカに留学して、スピーチコミュニケーションを専攻。
帰国すると、大手学習塾で講師をはじめた。
「生徒たちがもっとも勉強に集中するのは、授業中ではなく、定期テスト前の自習時間だったんです。その姿を見たとき、生徒一人ひとりが、自分から楽しんで学べる場をつくりたいと思いました。」
「学校の成績を伸ばしつつ、人としての成長も促していける。そう考えています。」
そんな三浦さんの教え子であり、後に講師として働きはじめたのが、山田さん。
ソフィーで働きはじめて今年で4年目。この春、教室長に就任しました。
訪れる生徒は、小学生から高校生まで。
ソフィーの放課後は、生徒の話を聞くことからはじまります。
生徒は学校で何時間も過ごした後にやってくる。勉強に加えて、友達のことや、部活のことで頭がいっぱい。
「さらにつめこむのは辛いし、身にもなりづらいですよね。まずは頭にスペースをつくります。」
主役となるのは生徒。
学ぶ内容は、生徒自ら決めるという。
たとえば翌日に英単語のテストが控えているのに、塾で数学の勉強をしても落ち着かない。それならば英語に切り替えることも。
山田さんは、自分の高校時代をこう振り返ります。
「ぼくはソフィーに来ても、勉強しなかったんですよ(笑)。三浦さんに人生相談をしていました。あるとき、自分が興味あることをやったらいいと気づいたんです。スポーツのビジネスマネジメントを海外で学びたいと思いました。」
帰国後に、ソフィーへ加わった山田さん。
いまは自身の経験も踏まえつつ、生徒に寄り添っている。
ここで教室を訪ねてきたのが、卒業生のちはるさん。
この日は長岡高校の卒業式。雨の中を、わざわざ先生たちに会いにきたそうだ。
ソフィーに通いはじめて、インプット中心の学校教育に疑問を感じたという。
長岡の教育を変えたいという思いから、東京の大学で教育を学ぶ。
高校一年から一生懸命勉強をしてきたちはるさん。なかなか結果に結びつかなかった。「失敗したらどうしよう」という不安からセンター試験もボロボロだったそう。
そこで本番の受験まで2週間を切った日のこと。山田さんは、彼女に不安を吐き出してもらった。
「ひとしきり話を聞いたあとで『ダメだったら、ダメでいくらでも相談に乗る。一緒にやろう』と伝えると、表情がすっきりしたんです。そこからは立て続けに5校合格しての、今日の表情です。いつカチっと、はまるかはわかりません。根比べですよね。」
「夢と勉強がカチっとはまると、成績もついてきます。すごいですよ、一気に模試の点数が100点、120点上がる生徒もいます。見ているこっちが感動します。こんな力眠ってたんだね、すごいねって。」
一方で、こんな葛藤もあるという。
「長い目で見ると、子どもが自分の将来を考える時間は大切。一方、月謝を支払う親からは『次の定期テストの成績を少しでも上げてほしい』という声をいただきます。その気持ちも当然ですよね。日々その葛藤の繰り返しですね。」
「でも、とことんまで寄り添っていく気持ちはありますよ。」
ソフィーの主役は、生徒。
「子どもが自ら目標を決めます。自分との約束を守る経験が、次にあたらしいことに取り組むときも『きっとできる、やってみよう』と思える。勉強をきっかけに、思いを実現できる大人になってほしいんです。」
生徒自身が学ぶことを楽しむ。ソフィーの講師たちは、教材やイベントづくりにも取り組みます。
「先生が何も教えない状態が理想だと思っているんですよ。教えるというよりは、いろんなコンテンツを盛り込むことで、生徒自身を促します。」
一人の生徒を思い浮かべて、楽しく勉強できる方法を考えるという。
ある男の子は、どうしても予習ができなかった。
そこでTVのクイズ番組にヒントを得て、早押しピンポンを企画すると、一生懸命勉強をはじめたという。
歴史のクラスでは、時系列に添った細長いマインドマップをつくり、3人チームで埋めながら覚えていくスタイルをとった。
これから働く方は、現時点での経験は問いません。
あたらしいことを知るのが楽しい人こそ、いきいきと働ける場所だと思います。
教科の勉強はもちろんのこと。コーチングや認知心理学といった要素も、積極的に取り入れます。そうして、学びが楽しくなる場を日々模索しています。
「まずは僕ら自身が楽しみたいですね。好奇心旺盛に色々と吸収し、編集してもらえたら。その姿勢は、生徒にも伝わると思うんです。」
山田さんは、研修の一環で、この冬アメリカへ。
また2年目以降は一週間の休みを設けている。
よく働くことに加え、遊ぶことも大切にしてほしいと考えている。
「できることは、もっとある。いつもそう思っています。あらたな仲間が加わることで、これまでのソフィーにはなかった企画にも取り組みたいですね。」
ソフィーの仕事には、あらかじめ正解が用意されていません。
自分たちで道を切り拓いていくからこそ、ソフィーで課題を見つけ、独立する人も現れつつあります。
この春ソフィーを卒業。起業するのが、前教室長の白根(しろね)航さんです。
2003年に入社。
親との関わりに力を入れるようになり、約2年前から起業の準備を進めつつありました。
500人の親と面談を重ねる中、見えてきたことがあります。
「嫌がる子どもに、勉強を強要するお母さんは珍しくないんですよ。面談をすると『うちの子どもは自信がなくて… 』はじめは子どもの話からはじまります。けれど、話を聞くうちに『わたしが自信がなくて… 』お母さん自身の話になるんです。」
どういうことでしょう。
「お母さん自身が、子ども時代に勉強を無理矢理させられた思い出があるんです。大人は、無意識に自分の経験を子どもに押しつけるものです。」
「子ども時代を振り返り、泣き出すお母さんもいましたよ。自分の話をすることで気づき、子どもへの接し方も変わっていくんですね。」
もともと、子どもの笑顔を引き出せる仕事に就きたかった白根さん。
子どもの未来を考えると、親御さんと関わりたいと思うように。
今後は、親向けのコーチングセミナーを展開していきます。
将来は、自分の地域でソフィーをはじめたい。そんな方にも来てほしいという。
そしてもう一人。子どもの未来を考える中で、あらたな取組みをはじめた人に出会いました。
東京から移住した宮田さんです。
日本仕事百貨経由で、昨年の夏から働きはじめました。
生まれは、横浜。
外資系企業に勤めた後、東京でフリーランスのデザイナーとして働いてきました。
東京を離れることを考えていたとき、小学3年生のお子さんの「学校がつまらない」という一言がきっかけで移住を決意したという。
長岡での暮らしは、どうでしょうか。
「駅の近くに住んでいるので、買い物も便利です。はじめての冬も、市街地は融雪施設も整っているし、困ることはありませんでした。」
宮田さんは、デザイナーとしても活動をしています。東京での打ち合わせも、日帰りで行ける距離感がよいという。
いっぽうで、変わったこともある。
「長年ペーパードライバーだったんですが、休日は車で出かけることも増えたんですね。」
宮田さんは、自身の子どももソフィーに通う中で気づいたことがある。
「感性の豊かな子どもがいます。そういう子は繊細で、一見変わっているからこそ、親御さんは『うちの子は大丈夫かしら』と悩むんです。」
「世の中には、もっと色々な生き方・働きかたがあることを、伝えていきたいんです。」
この冬には、長岡のIT企業FUCOの藤原社長を招いての「初心者向けプログラミング講座」を開催しました。
「親も必要性は感じつつ、教科以外にお金を払うことには迷いもあると思います。どうしたら事業として成り立たせることができるか。試行錯誤しつつ、子どもが世界を広げていける機会を増やしていきたいです。」
ソフィーは今後、より長岡のまちに開かれていく場になるのかもしれません。
市街地から、少し車を走らせると広がる田園風景。
スタッフの中には、兼業で農家を営む人もいます。産みたての卵や野菜片手に出勤。昨年の秋には、生徒たちが泊まり込みで稲刈り。そんな場面もあったそうだ。
また日本酒、味噌、醤油といった蔵の文化も豊かな土地。
東京ほどせかせかしていない、この土地だからこそ、腰を据えて取り組めることもあるようです。
最後に代表の三浦さんから、一緒に働く方へ。
「先生も生徒も、一人ひとりが思い思いに働き、学んでいる。そうして、多様な人がいられる場になっていけばと思います。」
学校教育は、つめこみ型教育から、自発的学習へ。大きな変化の波が押し寄せています。
センター試験の廃止も検討されているところ。
長岡の放課後からはじまりつつある、これからの教育。
それは、日本全国に求められているのかもしれません。
(2015/7/8 大越元)