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無人島ゲストハウス

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

瀬戸内海のちょうど中央に浮かぶ愛媛県・豊島(とよしま)。

香川県の直島近くにある豊島(てしま)と間違われがちですが、愛媛の豊島は完全な無人島です。

この島にあるのは穏やかな自然と1棟貸切の美しいゲストハウスが4棟。それと貴重な現代アート。史跡や華やかな景観があるわけではありません。

無人島を、世界的な観光地にしようというプロジェクトがはじまります。

取材したのは NPO法人ピースウィンズ・ジャパン(以下PWJ)。非営利団体として世界中の災害紛争地域で人道支援を行っている団体です。

このゲストハウスを利用できるのは、ふるさと納税としてPWJの本拠がある自治体に一定額以上の寄付をしてくれた方だけだそう。その背景には非営利ならではの理由があるようです。

P1040611 たとえば、世界中の芸術家がおとずれるようなアーティストインレジデンスやサミットを開催したり、近隣の島々とアートの化学反応が起きるような企画をしたり。贅沢な時間がながれる場所として高い価値を持たせることで、ただの無人島に世界中から人を呼べるようになるかもしれません。

「観光業が特別な場所じゃなくても可能であるということを証明する」

そのための島の価値づくりを担うことになるゲストハウスの支配人、スタッフを募集します。

ホテルマンとしてさらなる成長をしたい人。ソーシャルビジネスを始めたいと思っている人。そんな人たちに活躍してもらえたらと思います。


豊島へ行くには因島から近隣の島々をまわる1日に2便の定期船があるのだけれど、今回はPWJが緊急支援用に使っているヘリコプターに乗せてもらった。

P1040567 広島空港を発って15分ほどで豊島へ到着。静かな海を前に野良犬が幸せそうなあくびをしている、なんとも穏やかな島だ。

ゲストハウスに併設するレストラン棟でお話を伺ったのはPWJ代表の大西健丞さん。取材前から気になっていたことを聞いてみる。

世界中で人道支援をしている団体が、なぜ国内の観光業をやろうというのでしょう。

「社会のニーズがあって我々しかやれる人間がいないなら、我々がやればいいと思ったんです」

P1040615 海外と国内、地域にまつわる問題であるというのは同じことだという。産業の衰えや過疎化といった問題を抱える地方で観光が成り立てば、いろんな地域で応用ができるかもしれない。

「なぜやるの」という問いにあっけらかんと「なぜやらないの?」という答えが返ってくる。大西さんはそういう人。

大学在学中から、まずは「知力よりも体力」と日本を出て現場を見てまわるようになった。イギリスの大学院に留学してからはイラクのクルド人自治区にも訪れたそう。

そこで感銘を受けたのは、きちんとした事業体として難民キャンプを支援し、紛争を減速するために奔走する欧米のNGOの姿だった。

「当時日本の中には紛争地で人道支援をするようなプロフェッショナルがいなかったんです。そんな人材になって、きちんとした事業体や仕組みづくりをしたいと思いました」

大学院卒業後は、イラク北部で活動していた唯一の日本のNGOに入ったのだけれど、すぐにその団体は資金難でイラクから撤退することになってしまった。

「そのNGOがいなくなった後、誰が困るかというと難民たちなわけです。撤退なんてできなかった」

次のNGOが来るまでのつなぎでも構わないと、取り急ぎでつくった団体がピースウィンズ・ジャパン。

nepal 経済制裁をうけて物資が尽きている地域に人道支援物資を届けたり、エンジニアのような仕事をしたり、銃弾が耳をかすめるような命がけの活動をつづけて今年でちょうど20年が経った。

大西さん風に言えば「なぜやらないの?」で始まったNGOは、今では世界中の危険地帯にスタッフを置いて日本を代表する非営利組織になっています。

ところで、非営利団体の活動資金は、補助金や助成金のほかに会費や寄付金などさまざまなところから集められている。事業体として非営利組織を成り立たせるためには魅力的で有意義な活動をし続けなければならない。

世界で活動してきたPWJは、資金調達システムや運営ノウハウを独自に磨いてきた。日本のNPOはいまだに事業体としての体制がもろいものも多く、影響力の強い組織は少ないそう。

「我々は国際競争のなかである程度鍛えられた事業体なので、ノウハウや人脈がある。それを国内に投入するのもありだという話になったんです」

きっかけは広島県の鞆の浦(とものうら)という古い港町の埋め立て計画。江戸時代の街並みをそのままにしたその場所は、かつて坂本龍馬が「いろは丸事件」の談判を行なったという建物も残していた。10年余り前に大西さんは鞆の浦を埋め立てて橋をかけるという県の計画を知ります。

鞆の浦 「そんなことをしたら景観も文化財の価値もなくなってしまう。我々がとった戦略は”広島県福山市の鞆の浦“ではなく”日本の鞆の浦”に変えてしまおうというものでした」

グローバルな視点で見るとその価値は明らかだった。

大西さんの活動に共感してくれていたスタジオジブリの社員旅行を誘致して、鞆の浦は映画『崖の上のポニョ』の舞台となった。国際機関で厳しい外部監査を求められてきたPWJは行政からも信用されやすい。上級庁とのつながりや培ってきた交渉ノウハウも活かした結果、景観を残すことに成功した。

「PWJの活動でできたコネクションを国内問題に活かせると思いました。ふつうのローカルがリーチできていないところにリーチできるんです」

今では世界の被災地の支援事業と並行して、国内の犬猫殺処分ゼロをめざす事業や伝統工芸の振興事業など触手は広がり続けている。

もう何屋さんかわからないですね。

「ソーシャルビジネスの総合商社でいいんじゃないかな」

ソーシャルビジネスの総合商社。国外だけにとどまらず、国内の社会的事業を進めることによって、資金集めの点でも利点があるそうです。

「寄付というのはご縁ビジネス。いきなりシリア難民に寄付してくれというよりも、国内の活動のほうが同じ団体でも興味を持ってもらいやすいんです」

興味を持ってもらえれば寄付につながる。活動に賛同してもらうことで寄付をしてもらう良い循環をつくりたい。

今回の豊島ゲストハウスは、ふるさと納税制度を利用して寄付をしてくれた方をそのお礼として招く場所。寄付金額は50万円以上。決して安いものではないから、お客さんはある程度のステータスを持つ人になる。

何もない無人島の美しいゲストハウス。ベッドルームからは海を望み、波の音を聞きながら贅沢な時間を過ごす特別な施設になるという。

Tagitsu お礼とするいっぽうで、この無人島には違うミッションも託されている。

「無人島で世界からお客さんが来るような観光が成り立つなら、どこでもできる」

何もない無人島を世界的な観光地に。その社会的な実験事業の場所なのだ。

「世界最高峰の画家」と言われているドイツの現代芸術家ゲルハルト・リヒターの作品を展示することにしたのも豊島の魅力のひとつにしたかったから。

14枚のガラスによる立体作品 今後も現代アート、アーティストが集まる場所にしていきたいのだそう。

「アーティストはもともとソーシャルな思いがあるから芸術を志すと思うんです。けっこう相性がいい話なんですよ」

「人道支援を紛争地帯でしているやつがアートの話をするほうが真実に聞こえるんじゃないかな」

巨匠リヒターに作品の提供を依頼したときも、リアルな戦場を知り、社会的な事業がしたいと話す大西さんをおおいに気に入ってくれたという。

隔絶された島で、アーティストインレジデンスや作家同士のセッション、創作のアイディアが湧くようなものが生まれたら。

新しくはいるスタッフには目利きができる専門家と協力してアーティストを呼びこむ企画などもしてもらいたいと考えているそうです。もちろん島の魅力の発信も。

豊島ヴィラと船 「ただ裕福な人が高級なホテルに泊まって喜んでもらうということではなくて。無人島の中で寄付者と芸術家との会話が生まれるかもしれないし、それが島の魅力になるかもしれない。豊島のアートを体験したいというところから寄付が生まれるという循環ができるかもしれません」

現代アートによる直島などの例もあり、瀬戸内海はいま世界の富裕層から注目されつつある。世界で活動するPWJは世界中のアーティストともコネクトすることができるから、世界の観光地というのは夢物語ではないといいます。

何もない場所を現代アートの力で世界の観光地に。

でも、島に上陸できない一般の人たちからは距離を置いてしまう事業な気がしませんか?

「日本人は頂点を嫌がるんだけど、世界的に見るとブランドはピラミッドの頂点からつくらないとうまくいかない。ここが聖地として機能しだしたら、次の企画は隣の島でやろうとなっていくわけですよ。物語を紡ぐためには聖地が必要なんだ」

聖地ができればその周りに営みができる。ホテルスタッフには聖地とその周りの営みもつくって欲しい。

豊島から定期船で20分のところにある弓削島(ゆげしま)にはすでに町おこしをしている人たちがいる。アートだけに縛られずその人たちとも協力していけば、周りを巻き込んでもっと大きな地域おこしにつながるかもしれない。

2011-12-14-10-40-34 たとえば弓削島でとれる物産をつかった商品を開発したり、クリエイターと島民が協力できるワークショップをしたり。聖地としてのクオリティーは保ちつつ、無人島を中心にしたソーシャルビジネスができればいい。聖地にできれば、一般の人にも利用してもらうことを考えているそう。

とはいえ、やることはゲストハウスの運営だ。通常のホテル業務も仕事になってくる。アートの知識はなくてもいいけれど人一倍のホスピタリティは持っていてほしいそう。

「支配人になる人は経営の経験がないと難しいんじゃないかと思います。社会起業家的な発想ができる人がきてくれたらハッピーです」

何もない島を観光地にする実験事業。非営利団体だから利益・損失は直接自分に関わってこないかもしれないけれど、PWJの一員として地域問題を解決するという目標は忘れないでいたい。

04 レストラン-A棟 何もない無人島に世界中の注目があつまるような、どうしたらそんな島にできるだろう。

手探りな部分も多いかもしれないけれど、きっと驚くような経験ができると思います。

やりたいことが見えてきたら、無人島で働いてみるというのはいかがでしょう。

(2016/3/25 遠藤沙紀)