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「私たちは食べたものでできている。健康も不健康も食べたものがつくるわけですよ」これは農業生産法人株式会社あいあいファームの代表、伊志嶺(いしみね)さんの言葉。
街中でも「オーガニック」という言葉をよく見かけるようになって、自分が食べているものが一体どこからきているのか、興味を持つ人も増えたのでないかと思います。
今回はそんな人にぜひご紹介したい仕事です。
あいあいファームは、野菜やくだものなど原料の生産から製品の加工、そしてレストランなどを通じて直接消費者に届けるところまでを一貫して行う「6次産業」に取り組んでいる会社。
2014年から、廃校になった小学校を再活用してレストラン・直売所・豆腐づくりなどが体験できるものづくり体験教室・手づくり工房を備えた宿泊施設「あいあい手づくりファーム」を運営しています。
ここで一緒に働く仲間を募集します。「食」や「農」を軸に、自分らしい生き方を見つけていけるかもしれません。
世間はちょうど夏休み。たくさんの観光客の人たちと一緒に那覇空港に降り立った。
迎えにきてくれた山田さんと、あいあい手づくりファームのある今帰仁村まで向かう。車で約1時間半の道すがら、お話を聞かせてもらいました。
「今帰仁のある、沖縄北部のことをやんばる(山原)って言うんですよ。自然がすごく豊かで、嫌なことがあったときにも外に出ると風景に救われるんです。ほっとできる場所かな」
すっかり沖縄に馴染んでいる様子の山田さん。実は大学卒業後に東京から移住してきたそう。
祖母が沖縄出身で自分のルーツがあると感じていたので、小さいころから沖縄への関心や憧れが強かった。ならば一度地域に入ってみようと、大学1年生のときにボランティアスタッフとして祖母の出身地である名護東海岸に飛び込んだといいます。
「大学4年間関わって、そこで食べる食事や伝統の文化、暮らしとか、いろいろ体験させてもらって、自分は沖縄で暮らそうと決めたんです」
そんなときにあいあいファームに出会い、入社を決めた。
「漠然と農業や人に関わって働きたいと思っていたので、ここかもしれないって。別に勘違いでもいいやと思ったんです(笑)」
日々の仕事は、宿泊施設のフロント業務や、Facebookでの広報、施設の案内や客室清掃のマネジメントなど。
ときには、逃げたヤギを追いかけるなんてこともあるそう。
ここからここまであなたの仕事、という明確な割り振りがあるわけじゃない。複合施設全体の窓口として、走りまわる毎日だ。
実際に働いてみてどうですか?
「思っていたよりも体制は整ってなかったです。マニュアルはないし、失敗を重ねながら自分で学ぶっていう感じ。でも自分たちでつくっていけるのでやりがいを感じます」
言われたことをやるだけでは味わえない楽しさがあるとも言えるし、やったこともないことに毎回挑戦するので大変だとも思います。
「心が折れそうになることはありますよ。でもファームではそれぞれが役割を持って、補いあいながら暮らしていて。その規模感とか人との距離感が自分にはちょうどいいんです」
これからやってみたいこともあると嬉しそうに教えてくれる。
「沖縄は台風もあって、厳しい環境の中で野菜をつくっている。ジャムや豆腐も本当に手間暇かけているのに、その価値や作り手の想いがホームページや商品からあんまり伝わっていないと思うんです。もっと伝えられるように工夫したいです」
「個々の施設も活かしきれていない気がするので、新しく来る人とイベントなども一緒に考えていきたいですね」
山田さんのように、どんなことができるかなと考えながら形にしていくことを楽しめる人がいいんだろうな。
ファームについたのは、ちょうどお昼どき。施設内のレストランで、山田さんとごはんを食べさせてもらうことにした。
ランチはメインの料理を選んで、サラダやお味噌汁などの副菜はおかわり自由。山田さんの話を聞いていたこともあって、手づくりの野菜や島豆腐をついつい取りすぎてしまう。
食材のうち、約5割が自社でつくられたもの。全体の約9割が国産のものだといいます。
いただいてみるとなによりすごくおいしいし、混じりっけのない自然な味がする。からだの糧になっていくことを感じられるような食事でした。
「毎日これをまかないとして食べているから、実は私たちが一番健康なんじゃないかな」と山田さん。
「ここで食に触れて、ちょっとでもものを選ぶ基準が変わったり、気をつけようって思うきっかけになったらいいですね。私もそうでしたから」
ごはんをいただいたあと、代表の伊志嶺さんにもお話を伺います。
30年以上、居酒屋やレストランなど外食事業に取り組んできた方です。無添加や有機栽培にこだわるようになったのは、50歳を前に自分の健康に陰りが見えはじめたことがきっかけだという。
「沖縄は戦争に負けてアメリカに占領されたでしょ。アメリカの食文化の中で高カロリー、高脂質のものばかり食べて育った。同世代以上の人たちは今でもなかなか野菜を食べないし、お肉も揚げ物も好き。65歳未満の死亡率は全国でもナンバーワンなんですよ」
伊志嶺さん自身も、10年前までは同じような食生活を送っていた。体重は今より随分あったし、毎年警告が出るほど人間ドックの結果は悪かった。
意識が変わったのは、食べ物と健康の関係を研究している方のセミナーに参加してから。
「お肉を減らして、玄米菜食中心の食事に変えて。そしたら一気にからだの問題が改善されたんです。2、3年後には検診もオールAになった」
食には強い力があるんだと、身を持って実感したといいます。
その経験から、伊志嶺さんは沖縄県内で健康に特化した「だいこんの花」というレストランをはじめる。
「無添加と有機栽培にこだわってね。でも専業農家も少ないし、無農薬でやっている方も少ない。なかなか食材が集まらなくて、じゃあ自分たちでつくろうと思ったんです」
すでにレストランや宿泊施設も併設した場所にしたいという構想はあった。だけどなかなかまとまった土地が見つからない。そんなときに今帰仁村の副村長さんと知り合ったそう。
「副村長が農家にかけあってくれて、ビニールハウスを借りられたんで、まずは農業をはじめました。近くに一軒家も借りて、寝泊まりしながら。地元の人たちと飲んでいたときにこの廃校の話が出て、ここなら農業と地域の活性化も食育もできる施設をつくれると村の選考に応募したのがご縁です」
まだまだ、ファームは発展途中。これからどんな場所にしていきたいですか。
「この場所の社会的存在意義はかなり大きいっていう自負を持ってて。どうしても日本は主要都市に人口が集中して、他の地域は疲弊していくじゃない。その構造を止めるためにも、若い人たちがここで仕事をして、暮らしてくれるといいと思う」
「僕らみたいなことをやる人が他の地域でも増えると、限界集落って言葉もなくなっていくんだろうしね。ここがひとつの成功事例として、モデルになるといいですね」
続いて、支配人として働く阿部さんにも話を聞いてみる。
入社して約1年半。山田さん同様、13年前にこちらに移住してきた。
沖縄にきてからはドーナツ屋さんで働いていたそう。どうしてここで働くことになったんですか。
「転勤が多い職場だったので、子どもが大きくなってきたらどこかで腰を据えないといけないなと思っていました。自分でお店をやろうかなという思いがちょっとずつ出てきたけれど、勉強も足りないし、起業に踏み切れない自分もいたんです」
いずれはドーナツを出すカフェをやりたい。そんなときに、偶然ファームでランチを食べて手づくりの豆乳のおいしさに驚いたという。
「ここで働けば将来のための勉強になるし、地場で沖縄の人の心をつかんでいる経営者は魅力的だった。僕もそうなりたいと思っているわけですから。この人と仕事したいと思って、いずれ開業したいけどそれでもいいならと雇ってもらいました」
入社後は、ジャムやドレッシングをつくる工房で働くことになった。すぐに商品開発を任せてもらったので、ジャムはもちろん味噌や豆乳、豆腐についても一から勉強して研究に没頭したという。
働きぶりが評価されて、なんと今年の4月からは支配人に抜擢された。
仕事が急に変わってとまどいはなかったですか。
「もちろんありました。でも将来起業したいので、今はプチ社長のつもりでやっています。これまできちんとした体制が整っていなかったので、休みを取りやすくしたり、人事評価の体制を整えたりと土台をつくっている最中です」
「ここは社長の一存ではなく、僕ら次第でいかようにも転がりそうなんです。だからここで自分もやってみようと思うし、新しい人にも個性を出すことを怖がらずにきてほしいですね」
最後に紹介したいのが部長として施設全体を統括している渋沢さんです。
いい意味で、部長という肩書きがまったく似合わない方。豪快な笑顔につられて、なんだかこっちまで笑顔になってしまう。
「仕事は困ったことがあったら飛んでいくレスキューかな。俺ね、いつもまわりには暇って言ってるの」と渋沢さん。それはなぜですか?
「仕事がないっていうことを怖がる人が多いでしょ。仕事でまわりを固めて、ほかの人からの仕事を受け入れない。それが嫌いなの、俺。だから呼ばれてすぐいけるように、どんなに忙しくても暇な感じでいる」
普段は冗談ばっかり言っているけど、本当はすごくまわりのことを見ていてくれる人だと思うし、気持ちのいい関係性を作ってくれる人だと思う。
「ここに来てよかったなと思うのは人との出会い。ここで出会った人たちと将来的にどっかでつながって、新しい事業がはじまったりしたら楽しいじゃない。自分一人じゃなにも広がっていかないし、人といるのが楽しいんだ」
ここで働く人たちは、それぞれが自分なりの想いを持って健やかに暮らしている感じがしました。
今日東京に帰ると話したら「じゃあ海見に行くか!」と渋沢さん。そのままの勢いで、山田さんと地元の人しか知らないプライベートビーチに連れて行ってもらった。
真っ青で透き通った海は本当に美しくて、心がなんだか穏やかになっていく。
「こっちで働いている人は、都会で働いている人より幸福度が高いと思うよ。ここでの暮らしは、なかなかできないことだから」
沖縄でのんびり働く、というのとは違うかもしれない。
でも自分を磨きたい人や、食や農業に関わりながら働きたいと考えている人には「人」も「環境」もいい職場だと思います。
(2016/8/25 並木仁美)