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農、年間雇用をつくる

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農業を仕事にしたい。

そう思っても、現実には耕作面積が小さくて農業だけでは食べていけなかったり、人手や農耕機がなかったり。なかなか厳しいのが現状かもしれません。

岐阜・東白川村にある農業振興会社“みのりの郷東白川村株式会社”は、農業だけで生活できるように年間を通して雇用を生み出そうとしている会社です。

春は、お米と、特産品のお茶づくり。夏から秋にかけてトマトをつくりつつ、稲を刈り取る。冬になったら山に入り、林業にいそしむ。

一年を通していろんな仕事をもち、田畑や山に関わります。

みのりの郷 - 1 今回は、そんな仕組みを考え、農の仕事で食べていけるような雇用を生み出す人を募集します。農業の経験はなくても、やってみようと思う人であれば大丈夫。

きっと、日本全国の山村に共通する課題だと思います。

ここで取り組むことは、日本の農業を繋いでいく、ひとつのモデルになるかもしれません。



名古屋駅からJR高山線で約1時間、美濃太田駅に到着。ここから車に乗り換えてさらに1時間。

あまり山奥まで来た感じでもないけれど、気づくと大きな川に沿って山々の間を走っていた。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 夜にはホタルも出るほど澄んだ川は、夏は鮎釣りで賑わう。

一級河川・白川が横断する東白川村は、どこへ行っても水の流れる音がしていて、気持ちがいい。

上流地域らしく山々に挟まれ、斜面にはお茶畑や棚田が見える。

この景観もあって「日本でもっとも美しい村」に登録されているそうです。

けれども斜面での耕作は平地よりも生産性が低い。このあたりの農家は、お米とお茶など兼業しているところが多いと事前にお伺いしていた。



まっすぐ役場へ向かい、まずは村長さんにお会いしました。みのりの郷の社長でもある方です。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「いま、主な農業の担い手は、年金をもらっている方々です。ご先祖さまから続いてきた土地を荒らしちゃいかんと頑張ってくれとるけど、現状、農業だけで生活していける人は少ないです」

「これは中山間地域に限らず、日本全国そうやろうね」

大きな耕作面積があったりメロンのような高価な特産品があれば違ってくるけれど、米の値段も下がるなか農業だけで食べていくのは厳しいと言われている。

「けれど、農地は守らないかんという思いもある」

「まずは担い手をつくるべく、若い人たちが農業で食べていけるような仕組みをつくっていこうと立ち上げたのがこの会社です」

みのりの郷が担うのは、村全体を見据えた政策営農。

高齢化で人手のほしい農家を支えていくと同時に、これからの雇用を考えていきます。

今回募集する人も、この仕組みづくりからを担っていくことになる。

「機械化が進んでいるとはいえ、跡とりがいない農家では、どうしても田植えや収穫時に人手が必要です。そこをこの会社が受託して、農耕機を運転するオペレーターを派遣する仕組みを整えていくんです」

仕組み自体は、すでに村のなかで10年以上続いているもの。

今は、自分でも田畑をもっている人や新規就農で村に来た人が空いた時間にオペレーターとして作業をしている。

この部分を、たとえば、春は田植え機で田植え、夏はお茶刈りとトマトの収穫、秋はコンバインで収穫、というふうに組み合わせることで、オペレーター専門職のような農の雇用をつくりたい。

「それから、冬の仕事やね」

「今ぼくらが考えているのは、林業」

林業。

「東白川村は、山がもうひとつの財産なんです」

東濃桧(とうのうひのき)が有名なこの辺りでは、製材や木工、薪づくりがさかん。ヒノキの薪は、量販店に卸すとすべて売れてしまうのだとか。

みのりの郷 - 1 (3) 「山は、冬のほうがたくさん仕事があるんですよ。木は夏の間は水を吸っているので、切っても重たいし、虫が入りやすい。冬になると水を吸わないので、切るのにちょうどいいんです」

逆に言うと、林業は夏にはあまり仕事がない。

農業と林業の人材をシェアしつつ、一年間の雇用をつくろうと考えています。

「ただ、山の仕事も農のオペレーターも、けっこう技術が要ることで。知恵というかね。そういった農や山に関する技術も継いでいく仕組みも考えていきたいね」

今回あたらしく入る人は、はじめの3年は地域おこし協力隊というかたちで入ることになります。その間に年間雇用の仕組みを整えていけるとよいそう。

「みのりの郷としては、刈った稲を精米するライスセンターとオペレーター手配の2軸で稼いでいけるようになると思います」

「就農する人にしてみれば、年間雇用のある農業のサラリーマンみたいな感じやね」

そう笑う村長さんは、ほんとうにかっこいい。前向きに実行していく力に、どんどん引っ張られるような感じ。

どうして村長になったんですか?

「俺がやらな誰がやるって思っただけや(笑)」

笑うなよ、とちょっと照れながらこんな話をしてくれた。

「大げさな話、ライフワークや、村が。キャンパスや。ぼくが絵を描きたいのはこの東白川村やって」

みのりの郷 - 1 (4) この村で子供時代を過ごし、高校・大学と名古屋で過ごし、村へ戻ってきた。

商工会や第三セクター、そして役場で働きながら、村の特産品の開発やイベント企画、事業協同組合の立ち上げ、病院の赤字立て直し…。さまざまなかたちでずっと東白川村の地域おこしに関わってきた。

事業のいくつかは今も残っていて、村の雇用の受け皿になっているものもある。

「やっぱり自分の生まれたところが一番好きなもので。ここで暮らす人がみんな幸せになってほしいし、なくなってはいかんし」

「消滅市町村に名前挙げられたときは、そんなバカなことはない!って。財政も立て直して、今ちょっと上向いてきたんです」

来てくれる人は、どんな人がいいですか。

「やっぱり、この村にいたいなって熱意がないと続けられないと思う。村を好きになってほしいけど、いきなりはむりかもしれん」

「だから、自分なりの夢を持って応募してほしい。一緒にあたらしいことをやってみたいね」

体力さえあれば、あとは来てから覚えればいいという村長さん。

具体的にどんな仕事になるんだろう?

答えてくれたのは、一緒に働くことになる村役場産業振興課の今井さんです。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「あたらしく入る人は、オペレーターさんへ仕事の指示もするし、自分もオペレーターとして出ることもあります。人と関わる機会はたくさんあるので、人と関わるのが好きな人じゃないと難しいかもしれませんね」

いま、管理している農地は240箇所ほど。オペレーターさんの日報から作業状況を確認したり、明日の作業表をつくったりしていきます。

「農家さんから『ようやってくれた』ってオペレーターさんを褒めてもらったときは、うれしいですね。逆に『あぜが壊れとる』とか、よくない電話ももらいます。そんなときは、ゆっくりと話を聞いてほしいですね」

農業の知識などは、やってみて覚えることが多いそうだ。

もちろん、農家さんや、農業について指導する県の普及員さんもいるから、どんどん覚えていくことができる。

「村の農地が荒れんように、農地を有効に使って、農作物をしっかりつくって売っていく。3年かけて、収益のでる作物や流通を考えていきましょう」

「米も、量より質のいいものをつくってブランドにしていったほうがいいかもしれんなぁ」

そう構想する今井さんからも、やっぱり前向きな気持ちを感じました。



ここで役場をあとにして、オペレーターとしても働く田代ライスの安江さんにお会いすることに。

茶畑の麓にあるお宅におじゃますると、安江さんが迎えてくれました。物腰やわらかな、やさしい方です。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 安江さんは、みのりの郷でつくりたい雇用のモデルのような人。田んぼもお茶畑も山も持っていて、一年中いろんな仕事をしている。

けれど、こんなふうに自分で仕事を組み合わせていける人は少ないそうだ。

「農家で長男ということもあって、高校卒業と同時に帰ってきました。今はお米とお茶と山仕事をやっています。まあ、フリーターみたいなもんなんやけどね(笑)」

春、4月の中頃から6月まで田植えをする。同じ時期に、お茶刈りが1番茶と2番茶の2回。8月の終わりから稲刈りが始まり、ライスセンターでの加工が11月まで。冬から春までは森林組合で山仕事。材木の仕分けやトラックへの積み込み、ときには山へ入って木を伐ることも。

「忙しいところをずっと渡り歩く。それで1年のサイクルやね」

「はっきりいって、どこも人手がほしいところばっかりやと思います。ただ、田植えや稲刈りの時期だけというように、雇用する期間が短い。うちも収穫のときだけ来てもらってた人がいるんやけど、その時期だけでは申し訳ないし、来年からみのりの郷に頼もうと思ってるよ」

みのりの郷は、仕事を頼みたい人と農業を仕事にしたい人にぴったりの会社になりそうです。

「一年間いろんな仕事ができるもんで、楽しいよ。ちょっと飽きてきたころに、次の仕事ができるしね」

そのぶんいろんな機械の操作を覚えたり、技術が必要になりそうですね。

オペレーターの仕事は、大変ではないですか?

「そやなあ…。よく言うんやけど、たとえば稲刈りの稼働日数って一年間でも30日しかないんです。一年やっても30日なもんで、10年やっても300日しか稲刈りしない。そういう仕事が多いから、短い期間で覚えないといけないところは大変かもしれんね」

みのりの郷 - 1 (7) 雨で倒れた稲を刈るときは、注意しないとコンバインに詰まって壊れることもあるそう。

壊れる寸前の音や感触を覚えたり、ちょっとしたコツを掴んでいくことが大事なのだとか。

「やる気があれば、どんな人でもいいと思うよ。どんだけでも覚えたいっちゅう人がいたら、こっちはいくらでも教えてやりたいと思うわね」

その言葉をきいて、村長さんが「村の人は、よくもわるくもほっとかん(笑)」と言っていたのを思い出した。

まずは自分がやってみる。それから、農で生きていきたい人を迎え入れる。

仲間はどんどん増えていくような気がしました。

農や美しい景観が続いていく仕組みを、ここでつくってみませんか。

(2016/8/10 倉島友香)