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「一輪の花でも、空間の中にあると、部屋全体が明るくなる感じがするんです。やっぱり生き物がそこにいて、花ひらいているって、精神的にいい影響があるなってすごく実感する。この花屋から、もっと花のある生活を知ってもらって、ゆくゆくはまち全体を花だらけにしたいんです」安芸の小京都とよばれる広島県・竹原市を訪ねました。
瀬戸内海に面した竹原市は、古くから製塩業や酒造業が盛んなまち。朝の連続テレビ小説「マッサン」の舞台として知っている人もいるかもしれません。
竹鶴酒造をはじめ、今も歴史的なまち並みがのこり、年間50万人の観光客が訪れています。
そんな趣ある通りに、今までにない花屋が生まれようとしています。
たとえば、カフェのような店内でコーヒー片手に花を選んだり、地域の人や観光で訪れた人に向けてフラワーアレンジメントのワークショップをしたり。花を中心に、人と人とが触れ合える空間。
今回は、花屋で働く人を募集します。花の仕事をしていた人であれば、経営ノウハウはこれから学ぶことができるそうです。
広島空港からリムジンバスに乗り、JR三原駅まで25分。ここでJR呉線に乗り換える。
町を眺めていると、目の前に瀬戸内海が広がった。
40分ほどで、竹原市に到着。駅を降りて向かったのは、神田バラ園。そこに、今回の花屋にまつわる人たちが集まっていました。
はじめに話を聞いたのは、今回一緒に花屋をつくってくれる人を求めている、竹原葬祭の福本さんです。
「竹原葬祭は、ぼくの父が創業した会社で、もうすぐ26年かな。以前は都心に住んでいて、カーナビをつくる会社にいました。8年前父が体を壊したとき、家族を連れて竹原に戻ってきたんです」
名刺をいただいて、おどろいた。
福本さんは竹原葬祭の代表取締役のほかにも、竹原市と商工会議所出資のまちづくり会社「いいね竹原」の取締役、ドローンでの空撮事業、KATARIVAというコミュニティスペースの運営など。
さまざまなかたちでまちづくりに携わっている方でした。
でも、どうして葬儀屋がまちづくりをすることになったんだろう?
「ぼくは、竹原市に帰ってきてはじめて葬祭業に携わりました。そのとき思ったのは、葬祭業ってそもそも長い目で見てやるべきものなんです」
長い目で見てやるべきこと。
「たとえば、誰かと仲良くなったとしたら、その人には家族がいる。生きとし生けるもの必ず最期があるから、仲良くしていればご依頼もあるかもしれない。でも、とてもかなしいことだから、直接的な営業はしたくないですよね」
「そのときが訪れたとき、地域の人に竹原葬祭に頼もうと思ってもらえるかは、日々、地域の人たちのためになることを通じてしかできない。田んぼを何世代にも渡って耕すように、長期的な視点で土壌を培う仕事なんです」
それに、地域が元気で人口が増えていかないと、葬祭業自体も成り立たない。
そんな考えに至ってからは、地域のお祭りに寄付をしたり、ドローンで竹原のまちを撮影してインターネットにアップしたり。まちのためになることをはじめます。
最初は一人ではじめた取り組みも、だんだんと周りの人を巻き込んでいき、KATARIVAというコミュニティスペースの運営や、「いいね竹原」の取締役としてまちづくりに関わるなど、ネットワークもスケールも広がっていった。
「出発点は、私利私欲なんです(笑)でも、ものすごく長期的視点に立った私利私欲って、たぶん、世の中のためになるんですよね」
だから福本さんはシンプルに、まちの人のためになることを考えている。
「次は、カフェのような花屋をやりたいなと思っているんです」
「以前県と連携して行った『花活』というフラワーアレンジメントのイベントをしたとき、やっぱり花ってすごいなと実感したんです」
フラワーアレンジメントは、花の長さを考えて切り、花のひらき具合や表情を見てさす。
空間認識しながら五感を活用するため、脳にもいい影響があるそうだ。
「女性はもちろん、男性やご年配の方も参加いただいたんですけど、みなさん帰るときは表情がすごく生き生きしていたんですよね。目も一回りくらい大きくなっていたんじゃないかな」
また、経営の面でも、葬儀屋と花屋を併せて運営するのはとても効率がよいそう。
「花屋で販売するなら蕾の状態が好まれるけれど、葬祭で使う場合はひらいていたほうが見た目にも華やぐ。花屋と葬祭って、花の使いどきが違うんです」
加えて、葬祭では、質のよい花を多種類で仕入れる。花屋だけでは採算のとれないような花も、葬儀屋とトータルで運営することで揃えることができる。
「うちの祭壇を見て『すごいねえ』って感動される方は多いです」
「そのなかでも、竹原市内でバラを育てている神田さんのバラは、品評会で賞をとるほどクオリティが高い。ゴージャスで花もちも良く、とても使いやすいんですよ」
神田バラ園では、施設園芸で有名なオランダの機械を導入し、すべて自動計算で栽培しています。手間をかけて育てられた高品質のバラは、首都圏では指名で買われる常連さんがいるそう。
ここで、神田バラ園を運営する神田さんもお話に加わってくれました。
「うちの花はすべて、東京をはじめ遠方の市場に卸してしまうので、竹原市内の人にはなかなか知ってもらう機会がなくて。福本さんのところで使っていただいていることで、唯一、竹原市内への販路ができているんですよ」
今回のあたらしい花屋では、神田バラ園のバラも扱う予定。観光客のお土産として、竹原市のPRにもなりそうです。
「我が家がこうして良いバラをつくれるのは、竹原の太陽と水、穏やかな気候のおかげです。植物が良く育つところは、子どももよく育ちます(笑)子育てするにもいい環境ですよ」
そう話す神田さんは、結婚を機に福岡市から引っ越してきた方。竹原市について、こんなふうに話してくれた。
「町の中はコンパクトで、学校や病院、スーパー、チェーン店など何でも揃います。小学校こそ1学年1クラスという小規模だけれど、住みやすいまちです」
「最近では、福本さんのように、まちづくりする人たちの輪が広がってきたと感じていて。その輪に私や地元の人たちが混ざって、竹原はこれから面白くなるだろうなって思います」
そんなふたりと友だち同士のようにまちづくりについて語っていたのは、竹原市役所につとめる道林さん。
「私も地域の人と一緒に、竹原市内にある昔お茶屋だった『吉田屋』というお店をリノベーションして、地域活動をしているんです」
地元のおじちゃんやおばちゃん、まちづくりに興味がある人、同僚である市役所の若い子たちが集まって、まちづくりについて考えたり、イベントをひらいているそうだ。
「行政としてまちづくりに関わることはあったけれど、『まちづくりって何だろう』ってずっと考えていました」
自らまちづくりのワークショップに参加し、模索してきた。
「だんだんと、まちづくりって、それぞれが自分のできることをやり続けることなんじゃないかなと思うようになって。そんなとき、物件が空いてるよって声をかけてもらったんです」
はじめてから、もうすぐ1年半が経つ。
「いま、これもひとつのまちづくりなんだって、ちょっと確信してるんです。民間目線のタウンマネジメント会社『いいね竹原』ができたことで、まちの人たちがまちづくりについて考える機会が増えていると思います。楽しいですよ。みんなと一緒にできて」
ふたたび、福本さん。
「こんなふうにそれぞれが動き出して、いろんな人とつながっていって。この流れでいけば、竹原は大化けするだろうなって思うんです」
後押しするのは、竹原市内だけではない。
福本さんは昨年から、ビジネスリーダーを育成するために開設された中国地方初の経営専門職大学院に通っている。広島県知事に集められた経営のプロたちによって、今回の花屋の事業計画もブラッシュアップされつつあります。
ここで、神田バラ園を離れて、お店ができる予定だという町並み保存地区を案内してもらった。
製塩業や酒造業など江戸時代に栄えた商家町が建ち並び、丘の上には清水寺を思わせる崖からせり出すようにつくられたお寺。
風情あるまち並みを歩いてみると、建物の見えやすいところに「ようこそ」と言うように花が飾られていた。
「きれいですよね。ああいうのが、まち中でもっともっと増えたらいいなと思うんです」
具体的に、どんな花屋さんをイメージしているんですか?
「今、日常に花を飾るってことが、敷居の高いものになっちゃっているんですよね。華道のイメージや花の値段、すぐ枯れてしまう、男性が花屋に入りづらい…。そういったハードルを取り除けるような、花のある生活を広められるような場所にしたいんです」
「今考えているのは、“花カフェ”。コーヒー片手に花を選んだり、きれいにディスプレイされた花に囲まれてお茶をしたり。訪れるだけでわくわくするような、気分があがるような空間がほしいです」
販売の仕方も、1週間以内に枯れたら交換するという品質補償や、毎月お店で好きな花を選べる月額会員制、花瓶の貸し出しサービスなども考えている。
それから、地域の人や観光客を巻き込んだ、ワークショップやイベントもひらく予定。風情あるまちで着物を着て華道ができたら、とてもよろこばれそう。
「今までにない、あたらしい花屋になると思います。今なら、アイディア出しの段階から一緒にお店づくりに携わることもできます」
とはいえ、町の人の花への意識は急には変わらないと思う。はじめはじりじりする日が続くかもしれない。
「そういうときは、葬祭のほうで花の仕事があるんです。うちの葬祭スタッフは、花の管理もするし、祭壇の花も自分で活ける。今回の事業は、花屋と葬祭業のトータルでできることなので、はじめのうちはどちらも行き来すると思います。あたらしい試みなので、ちょっとずつやっていく感じかもしれませんね」
福本さんは、どんな人にきてほしいですか?
「花のある人。その人がいるだけで、周りがぱっと明るくなるような人だといいかな。あとは、『小さいときの夢は花屋』ってあると思うんだけど、それをリアルにやってみたいと思っている人」
「今回の花屋にどんなプラスアルファをするかは、その人の雰囲気や持っている特技に合わせてつくっていけたらと思います」
ここで始まる花屋は、どんな場所ならいいだろう。
イメージできたらぜひ、福本さんや竹原市のみなさんに会ってみてほしいです。
(2017/2/28 倉島友香)