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失敗ってなるべくはしたくないもの。けど、新しいことをやるのに失敗はつきものだし、子どものころなんて毎日がトライ&エラーの繰り返しだった。
はじめてのことにワクワクして飛び込み、たとえダメでも次への糧にして前へ進んでいく。
そんなふうに働ける環境がここにはあります。
愛媛・今治にある西染工株式会社。
長年、繊維製品を染色加工しながら、単なる下請けに終始せず、なんでも染めてみるという精神のもと様々な染めにチャレンジしてきました。
最近は自社製品づくりをはじめ、今度はその幅を広げようと機織りにも挑戦します。
今回募集するのは、その機織りを担当する人。
年齢や性別、経験は一切問いません。
自分のやりたいことを提案しながら、失敗を恐れずに試行錯誤を繰り返す。求めるのはその姿勢のみです。
松山駅から急行電車に乗って約30分。
今治駅に到着して8分ほど歩くと、山積みのタオル生地が目印の西染工の事務所に到着する。
今治といえばタオルの街。
その歴史は明治27年から続き、いまも100社を超えるメーカーが様々なタオルを製造しています。
関連企業も数多く存在し、なかでも西染工は「染色加工」を専門として今治のタオル産業を支えてきました。
創業は昭和29年。代表の山本さんのお父さまがはじめた会社です。
「親父は京都の西陣で商売の基本を丁稚奉公しながら学んで、地元に帰って染めをはじめたんですね。織りをすると商売やから外と付き合わなきゃいかん。うちの親父はそういうのが好きじゃなかったもんで、染めのほうにいったっていうのもあるんです」
経営者というより、どちらかといえば職人気質だったという先代。
山本さんもその血を受け継ぎ、率先してものづくりの現場に立ってきました。
なかでも山本さんが力を入れてきたのが「なんでも染めてみる」ということ。
普段はOEMでタオルに使う糸や生地を染色しながら、様々な相談事を受けてきたといいます。
「たとえばね」と、山本さんは色とりどりに染色された糸を見せてくれた。
絣染め(かすりぞめ)と言って、1本の糸をいろんな色に染め分ける染色を施したものだという。
絣染めの染色方法にはいろんなやり方があって、注射器のようなもので何回も打って染めたり、1本を伸ばして上から染める方法があるらしい。
いずれも手間がとてもかかるため、高級品に使う糸に施すのが一般的なんだとか。
「それをタオルに使う糸でやりたいって話だったから、合理化して手間暇かからないやり方を考えないかん。どうしたかというと、ヘッドギアみたいなものをこれに当てて、そこから染液を出して、中まで染みるように内側からバキュームしたんです」
「素人発想だけどね」と山本さんは謙遜するけれど、結果的にとてもきれいに染まってお客さんは喜んでくれたという。
「なんでも染めるという謳い文句だから、よその同業者から相手されなかったお客さんがうちに来るんですよ」
ほかにもどんな依頼があったんですか?
「企画倒れに終わったけど、昔はタオルにマンナンをつけたことがあるね」
マンナン?
「こんにゃくです。保湿性がいいから、肌に優しくてアトピーの子にいいのではないかという勢いでつくったんやけど、逆にヌルヌルで気持ちがわるかった。つくり方がこんにゃくをつくるのと一緒でアルカリの中へ放り込んで炊くから、会社中こんにゃくの匂いになってね(笑)」
タオルにコラーゲンをつけたこともあったらしい。ただ当時は鮭からとるマリンコラーゲンだったため、魚臭くなってこれも企画倒れに終わったのだとか。
こうした変わりダネのほかにも、化学染料が主流だった時代から草木染めや藍染めに挑戦してみたり。
染めるもの自体も新しいことにチャレンジしてきたといいます。
「九州には花ござっていう色の着いたい草でデザインするものがあるんです。そのい草をうちで染めてくれないかと話があって」
「実際に九州へ行って染めるところを見たんだけど、い草ってストローみたいに長細くて中に空洞があるから、染液に浸けても両端から入った空気が最後まで残って、真ん中が染まりきらない。それじゃ面白くないから、もっと合理的に染めようってことで、真空状態にして脱気する機械をつくってね」
今治でい草を染めているのはおそらく西染工だけ。
もっと前は革のジャケットを染めたこともあったのだとか。20年以上も前の話で、当時は誰もやっていなかった後染めにチャレンジしたという。
い草も革も、繊維を染めるのとはわけが違うはず。たったひとつの依頼に対して大きな機械までつくるのも、なかなかできないことだと思う。
「リスクあり過ぎるよね(笑)儲けにもならんのに」
それでもやるのは、どうしてですか?
「正直言うと、おもろいやんってやつよ」
「だから、なんでも恐れずチャレンジするんです。思いついたらやってみる。やってみてダメなら、次どうするって選択していけばいい。ただ考えるだけで何もせんかったら、物事は進まんわけやん。だからいくらでも失敗してもいい。失敗話なんてありすぎて、逆に忘れてしもうたもん」
そんな西染工がここ数年で新たにはじめたのが、自社製品づくりです。
顧客の業績によって経営が左右されてしまう下請けから抜け出し、メーカーを目指そうという動き。
インクジェットの機械を導入してプリントタオルをつくったり、プラチナ加工を施した「におわないタオル」を打ち出したりと、試行錯誤を繰り返してこれまでいくつかの商品をつくってきました。
最初は販路もまったくない状態だったけれど、地道に営業活動を続けた結果、東急ハンズで扱われるようになった。
今後は生地を織ることも自分たちでやろうと織り機を導入し、今回はその担当者を募集します。
「単に織るだけやったら今治にも人はいてるんやけど、それじゃおもろない。こんなものつくりたいという発想のもと、自分で織りを研究したり、オリジナルを考えてくれる人がほしい」
「私自身、思いはあってもどうやって織ったらいいか分からないし、情報を出したくないから相談する相手もおらん。だったらそういう人を育てようと思ったわけです」
やりたいことがあれば、タオル以外のものを織ってもらっても構わないという。
導入した織り機はタオル用のものだけど、古い機械だから逆に調整がしやすくていろんな織り方ができる。必要であれば新しい機械を導入することも考えているそうです。
学歴・年齢・性別、経験も一切問わないといいます。むしろ経験のない人のほうが新しい発想をしてくれるからいいのだそう。
一番大事なのは、これまで西染工が「なんでも染めてきた」ように、失敗を恐れず試行錯誤を繰り返せるかどうかだと思う。
企画担当の松本さん(写真左)もそうやって経験を積み、いまでは新商品の絵柄のデザインやパッケージデザインを任されています。
営業部部長の福岡さん(写真右)と一緒に話をうかがいます。
実は、西染工で自社製品を担当しているのは、このふたりだけ。
ふたりとも企画やデザインの経験はなく、一緒に話し合いながら手探りで進めているのだそう。
松本さんは高校を卒業し、企画担当として新卒入社。デザインを学んだ経験はなく、絵も苦手だったという。
「本当に素人だったので、最初の数ヶ月はIllustratorとかPhotoshopの使い方を外へ習いに行って、1年目のほとんどは基本を学んでいました。それから展示会に行くようになったりして、商品のパッケージデザインをはじめたのは2年目からですね」
担当したのは、汚れたりしても臭いにくいのが売りのプラチナ加工を施したタオル。
いまは「におわないタオル」という商品名とシンプルなパッケージにしているけれど、最初は「デキ女専用タオル」と打ち出していたのだそう。
180度と言ってもいいくらい、まったく別のデザイン。
どうして最初はデキ女専用だったんですか?
「とにかくやってみたんですよ」と答えたのは、部長の福岡さん。
「まず商品づくりをしたことがなかったので、とにかくやるしかないと。社長も何も言わず、お前らで勝手にやってくれっていうタイプで」
「僕自身も勉強したことなかったので、ターゲットを選ぶとかマーケティング以前に、ひとつのものができること自体に達成感があった。売るとなって販売会へ行ったときに、はじめて『これおかしいよね』と気がついたんです(笑)」
販売会でのお客さんの反応や周りの商品との比較から、今度はシンプルなパッケージにしようとなったそう。
ただシンプルと一口で言っても、どうすればシンプルなデザインになるのかが分からない。「におわないバスタオル」の包装紙は、実は他社の商品を真似てみたのだとか。
学ぶことは真似ることとも言うけれど、西染工の商品づくりは本当にはじまったばかり。
オリジナリティと呼べるものもまだ確立できていなく、これからのようです。
「ゆくゆくはオリジナルのブランドを立ち上げなきゃいけないと思っています。商品数をある程度充実させてから方向性を決めていこうと思っているけど、いかんせん担当しているのが僕ら2名ですから、そこまで手が回らない」
「社長もいうたら職人なので、販売もデザインの方法もわからない。我々が一から勉強して試行錯誤するしかないですから、時間はかかります」
外注すれば早い話かもしれない。
けど、自分たちで一貫して手掛けたほうがいいものづくりができる。なにより、自分たちにできることが増えていくと面白いよね、といった考えが代表の山本さんにはあるのだと思う。
松本さんもそうやって自分にできることを、これまでの5年間でちょっとずつ増やしてきました。
「不安は毎回あるんです。商品づくりは本当に0からはじまるので、いつも自分の知識と知恵のなさに落ち込んだりする」
「けど、そういうときは福岡さんに話したらいつも意見をくれるし、それで商品ができて、展示会へ行って販売するのが楽しいというか。やったことのないことを任されるのは、自分の成長につながることがたくさんあって、ありがたいなって思っています」
新しい人が来てくれたら、こんどは織り方や生地そのものから企画ができて、もっといいものができるかもしれない。
福岡さんも松本さんも、とても楽しみにしている様子でした。
経験がないとか、スキルがないことで不安にならないでほしい。
ここで大事なのは、いま何ができるかではなく、これからどう積み重ねていくかです。
(2017/5/24 森田曜光)