求人 NEW

北国の料理人

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

ゼロから料理の仕事をはじめたい、本格的な経験を積みたいと思うのなら、この募集はきっと面白いと思います。

まだ知られていない地域の食を掘り起こし、はじまったばかりの「産業観光まちづくり」の起点となる料理人の募集。

舞台は北の国。

漁獲量日本一の毛ガニで知られる、北海道・枝幸町(えさしちょう)です。

esashi01 北緯45度。地図で探してみると、枝幸は稚内と紋別のちょうど真ん中あたりに位置しているのが分かる。

冬の寒さは厳しく、最低気温は−20℃を下回るほど。

オホーツク海からやってくる流氷は豊富なプランクトンを枝幸の海にもたらし、毛ガニやサケ、ホタテ、タコ、カレイなど、道内でも有数のおいしい海産物が育つ。

一方で海の反対側の山々には手つかずの大自然が広がり、多種多様な山の幸が採れる。広大な土地を利用した酪農も盛んです。

esashi02 「枝幸といえば毛ガニ」でよく知られているけれど、実は毛ガニのほかにもおいしいものがこの町にはたくさんある。

まだまだ知られていない枝幸の“食”を軸に、いま町は新たに観光を手段にしたまちづくりを推進しています。

そこで鍵となるのが、町内にある2つのホテル。町が全額出資する運営会社のオホーツク枝幸株式会社がここで働く料理人を募集します。

年齢や経験は問いません。いま働いている副料理長さんも、未経験で30代からはじめられました。

どんな人たちがここで仕事をしているのか、実際に枝幸町を訪ねてきました。

 
枝幸町へのルートはいくつかあって、この日は旭川市から高速バスに乗って行くことに。

片道3時間半と少々長い道のり。5月の終わりながら車窓から見える白樺の新緑が眩しい。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 枝幸町に到着して、まず町の新しい雰囲気に少し驚いた。

道路は真っ直ぐきれいに整備され、新しく大きな住宅が多い。庁舎もとても立派で、最近はナイター付きの芝生のサッカーコートも新設されるそう。

「枝幸は昔から毛ガニ・ホタテ・サケといった漁業資源が豊富な港町なんですね。沖合底引網漁業の船は何隻もあったし、ほかの地域からどんどん人が入ってきた。だから、こんな田舎でも意外と裕福なのだと思いますよ」

そう教えてくれたのは、オホーツク枝幸株式会社の白潟さん。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 町が一番盛り上がっていたころは、スナックの数が人よりも多いと言われるほどだったそう。

漁業や酪農は今も盛んだけれど、町全体を見渡せば商店街は寂しくなり、少子高齢化にも悩まされるようになった。

現在の人口はピーク時の半分の約8400人。2040年にはその3割が減少すると予想されている。

そんな状況を打開しようと、昨年に枝幸町が新たに打ち出した「産業観光まちづくり」。まちの魅力を観光資源化し、地域を活性化させようというプロジェクトだ。

より柔軟に取り組んでいけるようにと、町はふるさと観光課を新設し、続けてホテル経営を独立させるような形でオホーツク枝幸株式会社を立ち上げた。

これまで町営だった2つのホテル「ホテルニュー幸林(こうりん)」「うたのぼりグリーンパークホテル」の運営はオホーツク枝幸株式会社が受託している。

esashi05 白潟さんも、もともとは観光協会や町役場で働いていた方だ。

「まずは既存にあるホテルが拠点となって、観光を題材にして人を呼び込んで産業につなげようという取り組みをはじめています。ただ、いかんせん、空港のある紋別から稚内へ行くのにここを通り過ぎていく人が多いので、なんとか滞在してもらうための体験型メニューなども考えていかなきゃならない」

「それと一番の問題がありまして。もう20年も前から言われ続けていることだけど、枝幸へ観光に来ても、枝幸産の海産物ってなかなか食べられないんです」

港町なのに、どうしてですか?

「売っていないし、食べられるお店もない。枝幸の人ってね、カニも魚も買って食べるものじゃないっていう意識なんですよ」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA どういうことかというと、枝幸町では収獲量が少ないために市場に流せないような魚や傷がついて商品にならない魚を、地域の人たちにお裾分けする文化が昔からあるのだという。

わざわざ買わなくても人づてにもらえるため、当然お店で買うこともない。そのため飲食店などは地物にこだわることもなく、一般流通していて安定的に扱える食材を外から仕入れて扱うような状態なのだとか。

また、枝幸町で水揚げされた海産物のほとんどは都市部の市場へ直送されるため、枝幸産のものを揃えるには遠い場所から買い戻さなくてはならないといった理由もあるそうだ。

「だから枝幸町は観光で稼げなかったんですね。観光の基盤がまったくといっていいほどなかった。今ある2つのホテルはバブル時代につくられたものです」

「これから観光に注力していくなかで、新鮮な地場産のものをどうやって町内で提供するかが非常に大事なんですね」

そこで期待されているのが町内にある2つのホテルであり、食材の魅力を最大限に引き出すことのできる料理人たちだ。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 今までまったくの手付かずだった分、地域内でしか出回らない珍しい魚や、地域の人しか知らないような調理方法もすぐに見つかると思う。

ホテルが率先して地物を扱い、観光客の呼び寄せに成功すれば、町の飲食店などが真似るような動きにもつながると思う。

「この前、町内の料理屋さんでナマコを中華風に煮た料理を食べたんです。私は枝幸で生まれ育ったけど、いままで聞いたこともなくて、食べてみたらめちゃくちゃおいしかった。お店の人はレシピを教えてくれるって言っているから、これから地元の珍味を探し回ってみても面白いと思います」

つい先日、白潟さんは枝幸の漁協から直接仕入れることを試しにやってみたのだそう。料理にして町の会合で提供してみると大好評だった。

漁協もすごく乗り気でいてくれて、やろうと思えばいつでもはじめられるという。

じゃあどうして、まだはじめていないのかというと、単純に今のメンバーだけではそこまで手が回らないのだ。

町の海側にあるホテル「ホテルニュー幸林」。こちらで本格的な調理ができるのは、実は料理長と副料理長の2人だけ。

あとは地元のお母さんたちを中心とした6名ほどの調理補助スタッフがいるだけで、料理長の藤原さんは町の山側にあるホテル「うたのぼりグリーンパークホテル」の料理長も兼任している。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA ホテルニュー幸林に泊まれる人の数は最大で160人ほど。1階のレストランは60席ほどで、お昼になると地元の人もよく食べにやってくる。

お昼の後は、夜の夕食膳の準備をして、合間に入る宴会のための和洋中の大皿料理も用意する。朝食の提供は補助スタッフに任せていて、前日の晩にすべて仕込んでおくという。

これを料理長と副料理長のたった2人が中心となって回しているというのだから驚き。

以前、地元客向けにランチメニューを充実化させたおかげで、平日でもレストランが満席になったりと、もともとビジネスマンの宿泊客が多いこともあって大盛況なのだそう。

いますぐにでも地元の海産物を仕入れたいところだけれど、忙しくてそれどころじゃない。仕方なしに一部を扱いやすい冷凍物の食材にしている状況だという。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 料理長の藤原さんにも話を伺います。

「人が来てくれて時間ができるようになれば、漁港へ行って直接仕入れてくることができる。理想を言えば、ホテルの中に生け簀があって、旬の料理を提供できるようになったらいいと思っています。カウンター席をつくって、お客さんの目の前で焼いて出したりしてね」

「ただ、ホテルはどちらも施設が古くて、とくにここは厨房が小さいという問題もあります。改修なのか建替えなのか、いずれにせよ今後改善しなきゃいけないのは確実だし、2つのホテルももっと差別化を図っていくのか、ひとつに統合するのか考えていかなくちゃならないです」

まだまだ観光まちづくりのプロジェクトははじまったばかり。調理する環境も決して充実しているとは言えないため、あれがないこれがないと言うより、あるものを活かしながら、プロジェクト全体のことも考えてくれるような人が求められていると思う。

藤原さんはどんな人に来てほしいですか?

「経験者じゃなくて、一からやりたいって人でもいいんです。調理の仕事をやってみたいとか、なんだか面白そうだからやりたいとか。そういう人が来て覚えてくれたらいい。逆に経験のある人だと、いろんなことをやらなきゃいけないこの環境に耐えられるかが心配です」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA スープ部門やサラダ部門など、料理の専門が細かく分かれている都市部のようなホテルとは違って、ここでは和食も洋食も中華もデザートも、すべてのジャンルをひとりの料理人がつくらなくてはならない。

これはとても大変なことだけれど、経験を積めば肉も魚も捌けて、和洋中なんでもつくれるようになる。どこでも通用する料理人になれると思う。

ただ、一人前になるまでにはやはりそれなりの時間が必要だという。

「なにをもって一人前と言うのかも難しいですよね。私たちも発展途上。まだまだだと思っています。なにせ洋食一本でやっていても終わりがない世界を、3つも4つもやるんだから、ゴールはないです。常に勉強です」

みんな日々忙しいため、手取り足取り教えてくれるというわけにもいかないようだ。仕事をしながら、見て盗んで覚える。

副料理長の清水さんもそうやって仕事を覚えてきた。以前は塗装や土木の仕事をしていて、30代になってホテルニュー幸林で調理の仕事をはじめた。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 枝幸町では年に一度「枝幸かにまつり」というイベントを開催し、本州からもたくさんの観光客がやってくるという。口コミで徐々に広がった人気イベントのため、根強いファンが大勢いる。

これから毛ガニ以外のおいしいものを提供できるようになれば、通年で観光にやってくる人も増えると思う。

いままで何もできていなかったからこそ、枝幸町には伸びしろがいくらでもあるような気がする。

料理長の藤原さんもこう話します。

「枝幸の自然の豊かさはどこにも負けないくらい、すごいですよ。山のほうへ山菜を取りに行くと、本当に太古からあるような源流の川が流れているんです」

「たしかに冬は雪も多いし、寒くて厳しいです。けど、その中にある美しさっていうんですかね。−20℃のときに外へ出ると、音も凍るというか。本当の静寂がそこにあって、星空なんてすごく綺麗なんですよね」

esashi12 また、枝幸は人の温かいところがとてもいいのだそう。

標高172mの三笠山の展望台に併設されたカフェ。帰りに寄ってみると、地元の人と道外から遊びに来た人で、ハーモニカとウクレレの演奏をしていた。

ゆったりとした、とても心地のいい時間。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA このカフェは新潟出身の明るい店主さんが切り盛りをしていて、みんなの憩いの場になっているらしい。

ここに訪れる人たちはなんだかユニークで、そういえばこのカフェに連れて来てくれた役場の人たちも公務員っぽくない人ばかりだった。

枝幸には面白い人たちがいるみたい。

料理人として、一緒にこの町を盛り上げようという人はぜひ応募してください。

(2017/6/22 森田曜光)