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里山の宿でできること

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「地域の人にはそれぞれ、得意なことがあるんですよ。この地域をもっとよくしたいと思ったとき、外から入ったわたしの役割は、その得意を生かせるようにサポートすることでした」

そう話すのは、宿泊体験施設「ほたるの里の古民家 おおぎす」の運営を手伝う大貫さん。

栃木県と茨城県の境目に、自然豊かな大木須(おおぎす)という地域があります。夏にはホタル、国蝶であるオオムラサキが飛び交う、うつくしい里山です。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 26年前、産業廃棄物最終処分場の候補地として名前が上がり、それ以来地域の人たちが一丸となって環境を守ってきました。

昨年、計画案は白紙に。

長年かけて培われたきれいな自然と、地域の人たちの結束感と行動力は、古民家を再生した宿泊体験施設の運営へとつながりました。

たとえば、朝はかまどで炊いたご飯を食べて、日中は野草を摘んで草木染。夜になったら、夏はホタルを見に沢へ出かけ、冬は囲炉裏で炭火を囲んだり。

オープンしてから2年。里山だからできることを、地域の人たちと大貫さんで、試行錯誤しながら運営してきました。

これからは、ボランティアでなく、事業として続いていく方法を考えたい。

今回は、地域をコーディネートするように、宿泊体験施設を運営していく人を募集します。



大木須は、山と山の間を走る県道に沿って民家が集まる地域。

東京から電車で2時間ほどで、最寄りの烏山駅に到着。そこから15分ほど車を走らせる。

2つ3つと山を越えると、ぱっと明るい集落へでた。ここが大木須。

里山大木須を愛する会 - 1 (11) 思わず車を止めて窓を開ける。

小さな野花が咲き、空にはたくさんの赤トンボ。耳をすませば、小川の水音に、鳥の声。きれいなところだな、というのが第一印象。

集落に入ってすぐの小高いところに、古民家を改修した「ほたるの里の古民家 おおぎす」を見つけた。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 声をかけて中に入ると、玄関が土間になってる。土間をの奥には囲炉裏と広々とした和室がある。おばあちゃんの家に来たような空気に、懐かしい気持ちになる。

この宿泊体験施設を運営しているのは、「一般社団法人 里山大木須を愛する会」。

大木須の住民全員が参加する、いわば地域の会社。理事が5人、実際活動しているのは50名ほどだという。

ここで迎えてくれたのは、会長の堀江さんです。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA もともとこの法人の前身は、産業廃棄物最終処分場の反対運動をしてきた「木須川を愛する会」だそう。

「川にはドジョウやホタルもいるし、青い羽のオオムラサキも飛ぶ。こんなにもきれいな環境、自然の豊かさを守ろうっていうのがきっかけなんです」

「はじめは若い人たちだけで反対運動がはじまったんだけど、もっと地域の人みんなの結束感をもってもらおう、地域の外の人にもこの活動を知ってもらうってはじめたのが『新そば祭り』です」

「それから、オオムラサキが好きな榎木を植えたり、川べりの下草を刈ってホタルの餌をつくったりと、自然環境も整えてきた」

ホタルの数は徐々に増えて、最近では一夏に1000人近い人が訪れる。

里山大木須を愛する会 - 1 (14) 「ホタルの出る水辺は足場が危ないでしょう。時間によっても出るところが変わるから、俺らが夜集まって案内所もやっているんですよ」

地域が一つになって動き続け、昨年、ついに処分場の計画は解消されたそうだ。

「何につながるかわからなくても、自然を守っていけばいい。それはうちの会員は自負してるところだね」

聞いておどろいたのだけど、今年で24年目になる新そば祭は、多いときで一日で1500人ものお客さんが訪れたそう。地域の総人口は270人ほどだというから、とてもまとまりがいいのだと思う。



そんな大木須の結束や連帯感に惹かれて7年前にやってきたのが、宿泊体験施設の職員である大貫さん。

里山大木須を愛する会 - 1 (13) もともと県職員として、農村女性育成やむらづくり指導など、地域に住む人の暮らしをサポートしてきた方。

大木須を知ったのは、宇都宮大学の地域活性化プロジェクトの研究員になったことがきっかけだった。

「里山資源を生かしたコミュニティビジネスの展開がテーマだったんですが、当時はまだ何もわからなくて」

そんなとき、新そば祭に訪れて、こんな光景を見た。

「イベント会場内のテーブルが、時間とともにどんどん配置が変わって行くんです。そば提供の準備の場になったり、来賓の接待の場に変わったり。でも、見ていると誰も指示を出していない。とても不思議な感じでした」

「その連携プレーと地域のエネルギーに感動して、ここでなら何かできるかもしれない、って思ったんです」



まずは地域のことを知るために、すべての家を訪ね、一人一人に今課題に思っていることをヒアリング。

「報告会を開き、調査結果をもとに何度も何度も、それこそ100回以上話し合いを重ねました。これが人や地域が少しづつ動き出すきっかけになったと思います」

たとえば、耕作放棄された土地を何とかしたい。高齢者対策についても何か考えたい。うつくしい自然をさらによくしたい、とみんなが真剣に考えはじめた。

どの課題にどうアプローチしていくか。そして、大木須の良さを活かすために、「大木須地域ビジョン」もでき上がった。

その中で、都会からの交流人口を増やすためにはじめたのが、宿泊体験施設「ほたるの里の古民家 おおおぎす」の取り組み。

古民家を改修した母屋と交流棟、併せて36人が泊まれるゲストハウスのような宿をつくり、ゆっくりと滞在して里山の自然を味わってもらおうというもの。

里山大木須を愛する会 - 1 (9) 「里山を研究する大学のゼミがフィールドワークしたり、田舎で子どもを思いっきり遊ばせたいというご家族が訪れたり。自然食のお料理ワークショップや小さな音楽イベントの会場として使うなど、いろんなお客さんがこの里山を求めていらっしゃいます」

自然に包まれて、みんな思い思いの時間を過ごす。

「わたしが印象的だったのは、東京から来た男の子の兄弟です。探検ごっこしようって家の中を駆けずり回っていたんですけど、一周して戻ってくるなり『ここ気に入った!』って」

「思わず笑っちゃったんですけど、この大木須のままでいいんだって、なんだか気付かされましたね」

里山大木須を愛する会 - 1 (7) これまでは、堀江さんと大貫さんが中心となって、地域の人と一緒に運営してきた。

お料理づくりや周辺の草刈り、里山体験の講師など、地域の人たちにはそれぞれ役割があり、得意分野もある。ときには、ボランティアとして入る部分も。

「古民家というハードも、大木須の人たちとのコミュニケーションも、ある意味ベースはできています」

「ここからどうしたら地域がもっと盛り上がっていくか、そして宿泊体験施設が事業として成り立つようにするために、この地域に住み、大きな視点でマネジメントできる人に来てほしいんです」

今後は、経営コンサルを呼んで研修したり、料理の講習、他の地域への視察、HPの再構築など、よりよい宿泊体験施設にするために足りないところを補っていく。

「もちろん、予約受付や布団の上げ下ろし、食事の提供などいろんな宿泊業としての仕事もあります。けれど、そこは地域の方と一緒になって取り組んでいけると思います」

ここに入ったら、まずは大木須の人たちとコミュニケーションをとるところからはじまると思う。

夜になると、「里山大木須を愛する会」の理事のみなさんが集まってくれた。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 自己紹介を聞いているだけで、まるで小さな国の会議を見ているみたい。

たとえば営農部は、休耕地の有効活用を考えているところ。酒造用の酒米、特産品の中山かぼちゃなどをつくっているそう。

事業部では、主に里山林の整備を行い、間伐材の炭焼や、景観づくりのために毎年100本の桜と紅葉類を植えている。

環境部は、ホタルやオオムラサキなどの保護活動などに取り組み、6月にはホタルを見に来たお客さんを案内しているのだとか。

暮らし部は、高齢者の暮らしを応援する生き生きサロンを開いたり、宿の食事づくりも担う。

それぞれに自分の暮らしがありながらも、大木須のために活動している。

暮らし部部長の良子さんは、この宿泊体験施設をつくることになった経緯を、こう振り返る。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「古民家を改修して宿泊体験施設を運営しようという案が出たとき、正直不安はありました。やっぱり、みんな仕事があるからずっと宿泊体験施設にいられるわけじゃない。それに、そもそもこんな山の中でうまくいくのかな、とか」

「でも、みんなもう仲間っていうか、家族みたいな感じなんです。だから、やると決めたなら、自分が協力できることはしようかなって。そういう気持ちは、ここの人たちはみんな持っていると思います」

得意分野は、みなさんそれぞれ。

たとえば、良子さんの本職はヨガのインストラクター。ヨガのイベントをするときは、この宿で開催するのだとか。

隣で話を聞いていた博子さんは、暮らしの知恵を活かして里山体験の講師を務めることもあるという。(写真左手前)

里山大木須を愛する会 - 1 (12) 大木須へ嫁いでくるまでは、着物の染めや織りの仕事をしていた。数年前からはニホンミツバチに興味がわき、勉強しながら自分で飼育するように。

「そうしたら、県内外からニホンミツバチの話を聞きたいって人が集まるようになって。年に数回ワークショップを開いたら、この里山は素晴らしい、ほかにも何かやりたいって声をいただいたので、草木染や苔玉づくりの体験もやるようにしたんです」

素朴な自然と、家族のような人との距離感。

里山が好きな人にとって、楽しみながら働ける環境かもしれません。

最後に、大貫さんがこんなことを話してくれました。

「傍から見ていて、こうしたらもっとよくなるんじゃないかって思うことってありますよね。わたしは地域の人ができないことをやろうと思って調整したり、先頭を走ったりしてきました。少しづつ、人も地域もいい意味で変わっていく。その様子を感じられるこの仕事が、とっても好きなんです」

宿を通して、里山をマネジメントしていく。

ベースはできています。興味がわいたら、まずは週末、大木須へ来てみませんか。

(2017/8/10 倉島友香)