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「甘み、キレ、コク。うまみって感じるものなので、なかなか論理的に説明するのは難しい。だけどずっとだしを扱ってきたからこそ、その本質を伝えることにチャレンジしていきたいんです。そこから人生を豊かにおいしくする提案を広げていきたいですね」新潟県・三条市。
このまちでだしをつくり続けてきたのが株式会社フタバです。主に旅館や飲食店などで使う業務用のだしを製造していて、変わらぬ味を60年以上守り続けてきました。
だしだけでなく食材の奥にあるうまみを多くの人に知ってもらいたい。そんな想いで自社ブランド「ON THE UMAMI」(オンザウマミ)をスタートします。
今回募集するのは、ON THE UMAMIの事業を一緒につくっていく人。
まずは1号店となる新宿店で働くことからスタートし、その後は店舗展開の企画立案など、事業を軌道に乗せ運営していくための中核メンバーとして関わっていきます。
経験は問いません。店舗のマネジメントやイベント運営など他業界で培ったスキルも活かせる仕事だと思います。
キーワードは「食べ物のうまみを科学すること」。新潟にある本社で、ブランドの立ち上げメンバーに話を聞いてきました。
車で燕三条駅まで迎えにきてもらい、のどかな田園風景を走ること15分。
株式会社フタバに着くと、ふわりとかつおだしのいい香りがした。
「三条市は刃物の名産地、ものづくりのまちとして知っている方が多いかもしれません。新潟でだしの会社というのは、なんとなく結びつかなかったんじゃないですか?」
そう話しかけてくれたのは、代表の江口さん。確かに、少し不思議な感じもします。
「でも、ものづくりを追求してきた会社という意味では、この地域の特色に合っていると思いますよ」
フタバの創業者は江口さんのおじいさん。最初はメンマなど中華食材を中心にさまざまな食材を扱っていたという。
けれども、ただ幅広く仕入れて販売するだけでは大手との差別化ができないし、価格競争でも生き残れない。
そこで目をつけたのが、毎日必ず食卓で使われる「だし」の存在だった。
「実は新潟ってかつおがとれないんです。静岡・鹿児島からかつお節を仕入れて、ここで加工することから事業をはじめました」
そこで生み出されたのが、ティーバッグ式のだしパック。
「創業当時、昭和30年代は紅茶やお茶のティーバッグが流行していました。それならだしも、同じようにお湯の中にポンと入れるだけで簡単につくれたらと思いついたそうです。当時は画期的な商品で、そこから一気に売り上げを伸ばしました」
もとからあるものをそのまま使うのではなく、自分たちでひと工夫加えることで新たな価値を生み出す。今も変わらぬその姿勢は、創業当時から続いていること。
ところで江口さんは、どうしてこの会社を継ぐことになったんですか?
「祖父も父もやってきて、小さい頃から継ぐものだと思って育ったんです。一度は外の世界を見てみたいと、東京の大学に進学して、求人広告を出す会社に就職もしました」
「営業でしたけど、やることは本当に幅広かったですね。お客さんとのアポをとったり、取材もして。年功序列に関係なく、成果を出せば認めてもらえるし、スピード感の早さにもすごく刺激を受けました」
2年間東京で働き、26歳のときに新潟に戻ってきた。
このころ、フタバの主力となっていた業務用商品の販売は安定。一方で、直接生活者の手に届く自社商品はなく、だしの魅力をより多くの人に知ってもらう必要があると感じていた。
このままでは会社も働く社員の成長も止まってしまう。危機感を覚えた江口さんは、今回の出店を決めた。
立ち上げたのが「ON THE UMAMI」。これまでの業務用の商品とは、デザインも中身も一新した。
「大きな特徴は、商品のおいしさをレーダーチャートで可視化したことです」
コク・キレ・余韻・甘味などの指標で構成されるレーダーチャート。たとえばかつおと昆布のだしなら「コクが3、深みが3、甘味が4」というように、特徴が目で見てわかるように表現されている。
何をおいしいと感じるかは人ぞれぞれ違う、感覚的なもの。それが当たり前だと思っていたから、感覚を共有できるなんて思ってもみなかった。
ただ、おいしさを可視化する取り組みは、意外にもフタバが創業当時から続けてきたことだという。
「プロの料理人さんって、毎日使うだしはブレがないことが一番大事。少しでも味が変わったり濁っていたりするとクレームがくるんですね。データを取ることで品質を一定にできるし、説得力も増します」
「なかでも今回のチャートは複数の機器で測定したデータを組み合わせてつくっているんです。一つの機器で単純に出せるものではないので、そこは苦労しましたね」
自社の研究所でこれまで培ってきた、うまみの本質を知る技術。今後はそれを商品に活かして、次の発展も考えている。
「たとえば、これまではかつお節のうまみを調べてきたけれど、これをトマトに置き換えてもいい。だし屋が、だしのきいたものをただつくったのでは、おもしろくないじゃないですか。僕らがパスタソースをつくったっていいと思うんです」
「昔から新たな付加価値を創造して提供してきた会社なので。食材の数だけ、可能性は広がっていくと思います」
そんな江口さんと働いているのはどんな人たちなんだろう。経営企画室で働く土田さんにもお話を伺う。
出身は長岡市で、ここに来る前は冷凍食品を扱う会社で働いていた。
「子どももいるので、地元で通える範囲で次の仕事を探していて。普段ちゃんとだしをとって味噌汁をつくるのは、働いていると難しいんですけど。やっぱりだしがおいしいと息子も喜びますし。歳を問わず、万人に必要とされるものだと感じたことが決め手ですね」
現在担当している仕事は、既存の業務用商品の営業とON THE UMAMIで扱う商材を探したり、展示会に出展してPRをしたりすること。新しくできる店舗で、販売や教育をすることもあるそうなので、これから入る人の一番近い存在になると思います。
まだまだ動き出したばかりの新ブランド。だけど最近、確かな手応えを感じた出来事があったそう。
新潟の伊勢丹で行われた催事でのこと。フタバ以外にも三条市でものづくりをしているメーカーがたくさん出展していた。
「味噌屋さんやお米屋さん、豆腐屋さんとかいろんなメーカーがいたんです。そしたらその場で、だしがあるなら一緒になにかやってみようという話になって。味噌を溶いてみたり、お豆腐も入れたり。いろんなコラボが生まれたんです」
「やっぱりだし屋がないと俺たちはダメだね」という声や、自分用のお土産に買ってくれた人もいた。
「だしがなかったら、きっとみんなバラバラだったと思うんです。でも僕らがつくったもので、より良い相乗効果を生み出せる。どんな料理に合うかもデータで示せるから、ほかの食材を引き立ててつなげていくこともできる。やっぱり、必要とされるのが一番うれしかったですね」
フタバが培ってきた技術やだしが持つ魅力を、新宿のお店ではより豊かに表現していくことができるそう。
「だしには体にいい成分が含まれているので、最近はリラックス効果やストレス解消の効果もあると言われています。ゆっくりと味わってもらえるよう、新宿店ではドリッパーでだしにお湯を注いで飲んでもらうという新しい提供の仕方を考えています」
従来の常識には囚われない、フタバらしい提供の仕方を模索中。でも、まずは伝える側がしっかりとその魅力を知っていないことにははじまらない。
科学的な視点でだしをみてきた人は少ないと思うのですが、それでも大丈夫ですか。
すると「そこは大丈夫ですよ」と、隣で話を聞いていた江口さん。
「うちの研修は、まず自社の商品から自分でだしをとって、違いを感じることからはじまります。だしと一口にいっても、かつお、いわし、昆布など素材によって違いがありますし、同じかつお節でも血合いをとったものや、チーズのようにカビをつけたものは香り高くて高級品になるんです」
まずは自分の感じる味を大切にしながら、だしのいろはを一から学べる環境がある。もちろん三条市にある研究所にも行くことになる。
自分が食べているものがどんなふうにつくられているのか、興味を持てる人なら楽しく学んでいけるんじゃないかな。
もう一人、心強いメンバーを紹介します。土田さんと同じく経営企画室で働く井上さん。
普段はON THE UMAMIのウェブサイトの企画運営や、SNSを使った販売促進などを担当しています。
「今までも販促に携わっていましたが、実際に効果があったのか私たちにはなかなか伝わってこなかったんです。今はネットで直接お客さんとやりとりすることもあって、身近に感じられますね」
想いや魅力を届ける対象が、企業から一般のお客さんに変わったことで、試行錯誤を続けているそう。
「たとえばSNSで広報をするときも、業務用の商品のときは、『お吸い物』『うどん』などだしを使う料理だけをメインにビジュアルをつくっていたんです。でも今ではだしをメインに使わないおかずも入れて写真をとってみたり、食卓で実際に使うことをイメージしやすくなるよう心がけています」
「SNSで使う写真を撮ってくれているスタッフは隣の研究所にいるんですけど、電話で密に連絡をとって、どうしたらいいと思うか、みんなで意見を出し合っていますね」
ワンプレートだといいねが増えたり、ハッシュタグによっても反響が変わる。手探りの状態ではあるけれど、一つひとつみんなで分析しながら柔軟に進められることが楽しいと井上さん。
新宿店でも、店長やスタッフと一緒に、どうすればより商品の魅力を伝えられるのか、より良いお店になるのか考え動いていくことが求められる。
さらに実際にお客さんがどんな反応を示したか、どんなものを求めているかは、お店に立つ人でないとわからないこと。井上さんたちとどんどん情報を共有して、一緒にお店をつくっていってほしい。
直属の上司になる大橋さんも、「完全にお任せという形ではなくて、やりとりできる環境はつくっていくので、まずは飛び込んでほしいですね」と話す。
主なやりとりは電話やメールになりそうだけど、ときには新潟のメンバーが東京に行くこともある。まずはお店をきちんと軌道に乗せることを目標に、その後の道も用意しているそう。
「商品企画や2店舗目の立ち上げなど、次のステップもいろいろ考えています。たまには三条市にきて、市内の企業とコラボするのもおもしろいですね」
社内でもはじめての試みだから、一筋縄ではいかないこともきっとたくさんあると思う。
それでも、これまで何気なく触れてきた日本の食を見つめ直すこの仕事は、国内だけでなく海外にもその魅力を伝えたり、新たな食文化を生む可能性も秘めています。
ぜひ、フタバのみなさんと一緒にうまみを伝えてみませんか。
(2017/9/26 並木仁美)