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シゴトヒト文庫ができるまで1

シゴトヒト文庫は、東京仕事百貨だけでは伝えられない、いろいろなシゴトをしているヒトが世の中にはたくさんいることを伝えるためにつくった本のレーベルです。



その特徴は例えば次のこと。3,000部限定、すべて手売り、自炊フリー。

そして、この本自体もまた、新しい仕事のあり方があることを伝える目的を持っています。

一冊1,200円で売るので、売上は360万円。原価は印刷代だけで考えれば税込35万円。すべて手売りができればこの本の粗利は実に90%以上です。

インターネットなどで広報し、DTPでデザイン・編集できれば、これだけで生きていくこともできるお金になるのです。本書のデザイン方式や、印刷方法はオープンにします。そして、世の中に新しい働き方をするヒトが増えることを期待しています。

シゴトヒト文庫第1号「シゴトとヒトの間を考える」の印刷に立ち会うべく、製作に携わったメンバーで長野県松本市にある藤原印刷さんを訪ねた。




藤原印刷の社員は100名弱。従業員数では中小企業というくくりになるが、零細企業の多い印刷業界においては上位3%に入る規模だという。
今回印刷の中心となって仕事をされた藤原隆充(たかみち)・章次(あきつぐ)さん兄弟に話を聞いた。



—お二人はどういう仕事をしていますか?

隆:僕は生産管理をしています。おもな仕事は、東京の営業がいただいてきた仕事を本という形にするため、生産スケジュールを組んでオペレーターに指示を出すことです。

僕は4年前に藤原印刷に入りました。はじめに2年間、松本の本社工場で生産現場のオペレーターを経験し、現在の部署に異動しました。色々なことをやらせてくれと自分からお願いして、電子書籍部門の責任者もしています。

章:僕は東京で営業をしています。お客さんの90%が出版社で、メインは書籍です。

既存のお客さんのところに行って、原稿をお預かりして、本社に製作を依頼します。その後できあがった製作物が東京に届くので、お客さんに確認していただきます。それにお客さんが赤字を入れたり、文章を足したりして、また本社に再度修正したものの製作をお願いして、お客さんに見てもらうというやりとりを何回も繰り返して本を完成させていく。本の内容が固まってくると、お客さんに「紙はこういうものを使ったらどうですか?」と提案したり、納期や印刷部数を打ち合わせたり、予算内でお客さんに満足してもらえる本づくりをするんです。こんなふうに既存の印刷業は受注産業です。

けれど今後やっていきたい仕事は、「これぐらいのお金で本ってつくれるんだ」ということをもっと多くの人に知ってもらい、こちらからアプローチできるような本の印刷です。

それから印刷の仕事は、本に限らずパンフレット、チラシ、DM… 本当にいろいろなところにあります。逆に印刷の需要がない、というところはそうそうないですよね。なにか印刷をしたいというときにふと「そうだ、藤原印刷に聞いてみよう」と声をかけてもらいたいと思っています。

今回のシゴトヒト文庫がまさにそうです。

著者の友廣くんとは6年前、大学生のときから知り合いで、今回ようやく仕事ができました。彼が本をつくるなら、印刷は藤原印刷でやりたいと言ってくれたんです。

—実は僕も学生時代に友廣くんと出会ってるんです。彼は自分の経験を言葉にすること、章次さんは印刷すること。それぞれができることを持ち寄って、お互い相手の役に立とうとして一生懸命仕事をする。そのことはいいものづくりにもつながるんでしょうね。

「シゴトヒト文庫」について聞かせてください。巻末に、「この本が生まれるきっかけになった方々」というページがあります。ここでは、藤原印刷さんがこんなふうに紹介されています。「この本は藤原印刷なくしては生まれませんでした」。
僕はこれまで、本を読むときに印刷会社の名前は意識していませんでした。でも、シゴトヒト文庫は著者、デザイナー、印刷会社が一緒につくっている様子が伝わってきました。


章:普段の仕事で、直接書き手である著者の方と企画の段階から、どんな本をどんな方法で、読みたい人に届けたいかという話をすることはありません。

出版社の方と著者さんが企画から販売(ほぼ書店への流通)まで決めるのが当たり前ですので、印刷会社の仕事としては、本に関する納期やコストに応えていくことになります。

ただ、理想を言えば、本当に良いものをつくるなら、つくる過程において、関わるすべての人達が「直接関わる」ことだと思うんです。

すべての人が良いものをつくりたいという想いを持って、それぞれの役割を果たせば、必ずよいものが生まれると思うんです。



—「シゴトヒト文庫」は増刷なし、自炊フリーなど、今までの本にない取り組みがいろいろありますが、そこに参加することに迷いはなかったんですか?

章:印刷会社としてはもちろん、自炊なしで増刷となった方が儲かるから嬉しい(笑)。でもいいんじゃないですか?それ以上にシゴトヒト文庫に携わることで、「フェアに一緒に、いいものをつくるんだ」ということを広めていきたい。そのことは、今後僕らが著者の方と一緒に本づくりをする機会を増やしていく意味でも大事だと思っています。

—逆によかったことはありますか?

章:楽しみで仕方がなかったんです。印刷会社が著者の顔を見れることはまれですから。より完成のイメージを持ってほしいと思って健太さんに束見本を渡すと、紙の感じがいいねとか、直接声を聞くことができる。直接書き手の声を聞きながら本をつくっていけるというのは印刷屋として醍醐味がありました。
普段は、僕が見本をつくって出版社に見せても、その先にいる著者が何を思うのかわからないので。

—生産現場から見るとこれまでの本づくりと違う点はありましたか?

隆:一般の本よりも著者やデザイナーの熱量が高いな、ということは感じていましたね。

—熱量は生産現場まで伝わるんですか?

隆:伝わります。

生産現場に入ってくる情報は仕様書1枚です。オペレーターは仕様書どおりにつくることが仕事なので、そこには何も色がありません。でも例えばそれが余命1ヶ月のおじいちゃんにつくる最後のプレゼントだとわかった瞬間、そこに色と熱が加わるんです。そうするとオペレーターに、これはただの仕様書じゃなくて、その人のための大切なものなんだ、という新しいものがぽっと湧いてくるんです。実際に完成した本は、目に見えては何も変わらないのかもしれません。けれど、そうしたものがどれだけ湧いてくるかが大事なことだと思っています。つくったという感覚も全然違ってきますしね。

章:今日みなさんが印刷の立ち会いに来てくれたように、現場も見られた方がやりがいがあります。緊張感があったり、いつも以上にお客さんをどう満足させるか考えたり。来てくれたことから、この本に賭けているんだ、という思いも伝わりますよね。



隆:例えば今回は表紙の赤はどういう色がいいのか、ということを最後までオペレーターとみなさんで話し合っていたでしょう。
その場でオペレーターが話していたのは、自分の経験があるから見えている世界。「特殊な紙を使用しているので、色をこれ以上濃くすると黄色っぽくなってしまいます」「マットニスをするとさらに黄色が強くなります」。そういう会話がなくても本はできる。でも、あることでよりいいものづくりにつながります。

—今日印刷現場を見て、お二人の話を聞いて、一生懸命本を売りたいって思いました。売りたい、は少し違和感があるかな。伝えたい。印刷に立ち会った僕らも、この本に対する思いが強くなったんですね。

それから、お金をやりとりするということは、熱量や思いをつないでいくということかもしれない、と思いました。


隆:この本を人に渡したとき、今まで関わってきた色々な人の顔が自然と浮かんでくるんじゃないかな。

章:紙か電子かという手段からではなく、お客さんがどういうことをしたいのか。何を考えていて、何をつなげてみたいのか。そういうことに対して僕たちは提案をしていきたい。

伝えたい人がいて、読みたい人がいる。本とか紙とか電子とかカタチにとらわれず僕らはその橋渡しをしていきたいと考えています。

その第一弾として今回、著者がいて、デザイナーがいて、読みたい人がいて。そこに対して本という形にする役割を藤原印刷はさせてもらったんです。その機会をつくってくれた健太さんと友廣くんには感謝しています。

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