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何かを変える冬

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

やりたいこと、気になることがあれば、まずは時間を区切って打ち込むなかで見えるものは多いと思う。

一直線に進む、不安を抱えながらも続ける、途中であきらめる。どんな風に過ごしても何か得るものはあるはず。

「地域」と「仕事」という言葉を耳にする機会が増えました。

ほんの数十年前まで地域には、食、教育、文化、家族、芸術… いろいろな要素があって。仕事もその一つでした。

いま再びつなげたいという声は、ごく自然なことだと思います。

「地域」と「仕事」という言葉が引っかかっている。一歩前に進みたい。現状を変えていきたい。きっかけを待っていたなら。

この冬に「好きなまちで仕事を創るプロジェクトin奈良」をはじめてみてはどうでしょうか。

1 2014年の1〜3月にかけて、2度のフィールドワークを中心に、地域に根ざした仕事づくりに踏み出す人を募集します。仕事や学校を続けながら、参加できます。

第2期となる今回。一足先に、奈良のまちを歩いてみました。

近鉄奈良駅を降りて、観光スポットとしてにぎわうならまちの方へ進む。訪ねたのは、現地担当法人である株式会社まちづくり奈良の片桐さんと、NPO法人ならゆうしの西尾さん。

さっそく話を聞いていく。

「地域で仕事を創るってどういうことでしょうね。お金さえ稼げればよい、ということではなく。社会をちゃんと見つめて、地域や人の役に立つことでお金をいただくことなんですね。」

2 仕事を創る上で、奈良ってどんなところでしょう?

「歴史がありますからね。脈絡なく目新しいものを持ち込んでも、なかなか受け入れにくいと思います。起業して続いているのは、奈良のまち、人に必要とされることに取り組んでいる事業です。実は奈良に限らず、地域で仕事を創るときに、共通して大事なことですね。」

今回のプログラムでは、どのようにして仕事づくりに向かっていくのだろう。

「まずは、奈良で活動されている先輩たちに出会うことからはじまります。事業は宿泊業にかまぼこ屋さん、アパレル… 事業内容も取り組み方も人それぞれですが、共通するのはみなさん自分の将来・商売に対して正直なこと。流行り廃りに振り回されるのではなくて、いま必要とされていることを真剣に考えて取り組んでいます。」

たとえば宿泊業なら、どうすれば奈良に泊まる人に満足してもらえるか。また来てもらえるか。

3 当たり前のことにきちんと取り組む人に出会うことで、参加者も自分の仕事に対するイメージが沸いてくるのだろう。

続けて、片桐さんは奈良の現状を話してくれた。

「これまでは、大仏さんや寺社の恩恵にあずかって観光客が大勢訪れ、商売も成り立ってきました。いまは、『自分たちは大仏さんのおかげで生活ができている。だからこそ、自分たちが大仏さんを守っていかな。』そうやって、まちを育てていくことが大事だと思います。」

「これほど観光資源に恵まれていて、知名度も高い土地はそうそうありません。けれど、ポテンシャルを十分に活かしきれているとは言えない。まちの受け入れ態勢が確立されていなかったり、宿泊は京都に流れて収入に結びつかなかったり。逆に言えばフロンティアだらけなんですよ。」

4. 奈良というまちを木に例えれば、そこにぶら下がるのではなく、幹を太く、青々としていくことが求められているのだろうな。

「今後自分がどうしていくかを考える上で、この機会をうまく利用してほしいですね。3ヶ月間で、自分を伸ばしてほしいです。いろんな人に出会うことがいいきっかけになると思います。それだけの魅力のあるまちですよ。」

続いて今年の参加者にも話を聞いてみる。訪ねたのは、この夏に移住をした渡辺さん。

富山出身で、東京のWEBデザインの会社に勤めながらプログラムに参加した。

現在はフリーランス。東京時代からの仕事をしつつ、仕事づくりの種まきに駆け回る日々だという。

「もともと好きなこともあって、お寺に関係する仕事を何かしらしたい、と思っていたんです。いろんなご縁が繋がって、お寺行事をWEBを使って広報のお手伝いをしたり、お寺を紹介する東京でのイベントの企画・プロデュースをして、仏像インスタレーションをつくったり。ちょっとずつお寺との関係を築いていきたいな、と思っているところです。」

4 プログラム参加のきっかけはどういうものだったんだろう。

「東日本大震災の後、考えたんです。WEBデザインというわたしの仕事は、もしなくなっても、人が生きていくことには困らないんだなって。そのことがさみしくて。地域に役立つことに活かせないかと探しはじめたんです。」

実家のある富山に帰ろうかとも考えたけれど、何かが違う。そんなとき、このプログラムと出会う。

「もともとお寺へ観光で来ていましたし。アリかなって、最初は軽いノリで参加しました。独立も移住も考えていませんでした。」

プログラムで進めたのは、「白毫(びゃくごう)クッキー」プロジェクト。

「わたしも含めて、仏像好きの女子が手にとるお土産がなかったんです。かわいいけれど、クスッと笑ってしまうようなものを考えました。」

5 独立を決めたのはプログラム終盤の3月のこと。

「新しくはじめるのもいいなと思ったんです。もともと何かしたいという気持ちがあったので、いいきっかけになりました。」

その後は一度実家に帰省する。通いでクッキーの商品化を進めるなか、奈良への移住を決めた。

「離れていると、なかなか話が進まないんですね。何より、一緒にクッキーをつくろうとしている現地の人たちに本気度が伝わらないのではないか、と思ったんです。それで、奈良に来ることを決めました。」

現在はクラウドファンディングも活用しながら、商品化をつめているところ。

プロジェクトを進める上で印象的だったことを聞いてみる。

「経験のなかった企画の営業ですね。企画書をつくって、お菓子メーカーにかけあって。慣れないから、帰宅するともう動けないぐらいにへとへとで(笑)。でも、仕事を創る上で営業の大事さを実感できたのは大きかったです。」

6 はじめて仕事を創るときに実感することには、大きく2つあると思う。

一つは企画から営業、総務経理まで仕事が多岐にわたること。

そして、人のつながりの中に仕事があるということ。

知識として持っていることと、自分で実感することはまた違う。プログラムを通して、さまざまなことを経験できるといいと思う。

「そうですね。プログラムの参加者だからこそ、動きやすかった面もありますよ。」

渡辺さんは、これから参加する人に伝えたいことがあるという。

「お土産をつくると言っても、パッケージデザイン以外は右も左もわからなかったんです。プロジェクトは必ずしもいまの仕事の延長線上でなくてもいいと思います。まずは、はじめてみることが大事だと思います。」

行動してはじめて見えてくることは本当にたくさんあるんだろうな。

7 NPO法人ならゆうしの西尾さんはこう話していた。

「起業家って、実は幅の広い言葉だと思うんです。企業で言えば、企画営業だけでなく、経理や広報として支える人も起業家。事業を続ける上では、両方が大事です。」

「仕事づくりを一通り経験して、自分の向き不向きを知ることも大事だと思うんですね。だから今回のプログラムでは、起業をより広く、チームとして捉えています。」

そこでこれまで紹介した起業編に加えて、新たな取組みがはじまる。

課題解決編では、奈良地場の企業に入り、現在抱えている課題に対してリサーチ・提案を行っていく。

参加者は、企業が積み重ねてきたノウハウ・スキルを学びながら、仕事づくりに取り組んでいくことができる。

最後に、受け入れ先企業の一つである吉野葛(くず)の黒川本家を訪ねた。

奈良県の南部、宇陀市に本店を構え、2015年には創業400年を迎える老舗だ。

もともとは朝廷に献上するところからはじまり、和菓子屋・料亭といったプロ向けに販売を行ってきた。

プロの世界でその名を知らない人はいないけれど、新たなチャネルを持ちたいと思い、2008年にショップとレストランの機能を持つ路面店を東大寺近くにオープンした。

現状の課題は、より生活者に葛を、黒川本家を知ってもらうこと。

プログラム参加者には、黒川本家のお土産を考えてほしいという。

常務の黒川健さんに話をうかがう。

「本物の葛を食べる機会がどんどん減っています。和菓子を食べなくなりましたし、量販店などでは葛風のものが販売されるようになりました。でもね、葛には葛の風味があるんですよ。ぜひ本物を知ってほしいんです。」

8 これまでも葛を原材料に、さまざまな商品を開発してきたという。

けれど、話を聞くなかでこんな言葉が聞こえてきた。

「できれば正攻法のくずもちで若い世代にも伝えていけないかな、と思うんです。はっきり言ってうちのものは高いです。けれど、伝え方のデザイン。それからロットや価格を見直すことで手にとりやすくなるかもしれません。」

「くずもちは、奈良のお土産の代名詞になれると思っているんです。奈良は、日本の文化がつまっているところ。くずもちの背景を伝えることで、奈良らしさ、日本らしさを感じてもらえると思うんです。」

9 こんな声も聞こえてきた。

「和菓子って、ひたすらに伝統を守ってお年寄りだけが食べるようなイメージがあるかもしれませんね。実は、昔から海外のものも積極的に取り入れて変化してきたんです。それに洋菓子と比べると同じ値段でも小さい。でも、形にも和の理由があるんです。伝えていきたいことはいろいろとあります。」

これまでを知ることで、この先が見えてくることもあるのだと思います。

話を終えて店を出ると、辺りはすでに真っ暗。冬のはじまりを感じる。

第1期は、10人の参加者のうち4名が奈良へI、Uターンをしたそうです。その他にも、いまの仕事を続けながら奈良に通う人もいれば、自分のやりたいことが明確になった人もいるよう。

けれど、それらはいずれもが、この3ヶ月を楽しんで一生懸命取り組んだことの結果。

まずは目の前のことに取り組むことで、何かが自分の中に生まれ、来年の春には、次への一歩が見えてくると思います。(2013/11/13 大越はじめup)