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人と人の間に仕事がある

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「好きなまちで仕事を創るプロジェクトin奈良」では、「観光×何か」をテーマとした起業を視野に入れつつ、来年の1〜2月にフィールドワークを行う人を募集します。

プロジェクトは土日を中心に行われるので、会社や学校を続けながら起業について考えていくことができる。起業家支援などを行うNPO法人ETIC.が、株式会社まちづくり奈良と取り組んでいます。

今回は僕自身が、プロジェクトの参加者となって2日間、奈良のまちを歩いてみました。

はじめ、奈良での起業は漠然としたものでした。具体的なプロジェクトが見つかるところまでは行かなかったけれど、フィールドワークを通して「地域に根ざして起業する」イメージはぐんと深まったように感じます。

このプロジェクトを通して、起業のきっかけをつかんだり、すでに考えているアイデアをより明確にしていけると思います。

近鉄奈良駅の噴水前でETIC.の林さんと待ち合わせをして、餅飯殿(もちいどの)商店街にあるまちづくり奈良へ向かう。餅飯殿商店街は、近鉄奈良駅から、観光スポットとして人気のならまちエリアへ向かう途中にある商店街。

そして、まちづくり奈良が今年10月にオープンした起業家支援施設「きらっ都・奈良」に入る。きらっ都・奈良は、奈良に起業の風土を生み出そうと、起業家支援を行う場。

1階及び4階が起業家が入居するテナント、事務所となっており、起業家に対して3つのアプローチで起業支援を行っている。まずは相場とくらべて安価な賃料。次に、中小企業診断士事務所やデザイン事務所が3階に入居しており、経営相談やHP作成などで支援を受けられること。そして、2階にイベントスペースがあり、起業家同士の交流が図れること。

起業家たちは最長3年間の入居が可能で、ゆくゆくは奈良市内で活躍していくことが期待される。

そうした取組の発起人であるまちづくり奈良常務の、園部さんに話をうかがう。

「奈良は世界文化遺産や国宝(建造物)が日本で一番多い県ということもあり、観光に訪れてもらう機会はあるのに、産業や収入といった面で見ると、その集客力を活かしきれていません。」

「市内の商店街に目をやっても、空き店舗が目立つようになってきました。そうした現状もあって、ここ数年奈良では起業の気運が高まっています。そこで今回は、『観光×X』をテーマにビジネスプランを考えていく人を募集します。ゆくゆくは、そのなかから起業家を輩出したい。観光と言っても幅は広く考えています。たとえば宿泊業、飲食店、お土産や特産品といった切り口も考えられます。」

すでに奈良で起業している先輩たちと話してみては、という園部さんのすすめのもと、きらっ都・奈良を歩いてみる。

Teesicaは、オーガニックコットン製のTシャツをデザイン、販売している。製造はすべて奈良で行っているそう。もともと鉄道会社に勤めていた代表の小川さん、インテリア関係の仕事をしていた上田さんを中心に奈良出身の4人で経営をしている。

上田さんはこんな話をしてくれた。

「現状では奈良の県外就職率は全国トップレベルです。でも、僕らは起業をして、Teesicaから奈良を発信していきたいと思っています。」

くれえらの吉川さんにも話をうかがってみる。和裁小物、オーダーメイドの浴衣や着物を販売している。

「奈良の観光はほとんどが京都とパックで組まれています。そのため、観光客の方には『似たようなものを京都でも見たよ』といった反応をされてしまいがち。今後は奈良にしかない、ここでしか手に入らないというものを届けていきたいです。」

たとえばこれです、と見せてくれたのが墨の香り袋。奈良は墨の産地なのだそう。

餅飯殿商店街には、もう一つ起業家輩出を目指した施設「夢CUBE」がある。
2007年に誕生した9の店舗スペースからなる施設だ。地域を担っていく起業家の卵に対して、最長3年は安価な賃料で店舗を提供する。

ここではセレクトショップEarth Workを営む熊田さんにお話をうかがった。

熊田さんはもともと外資系の金融会社に勤めていた。しかし、2008年のリーマンショックが契機となり、以前からやりたいと思っていたセレクトショップをはじめることにした。2010年の4月に夢CUBEで店をオープンして2年半が経つ。

前職とまったく畑違いの仕事だと思いますが、不安はありませんでしたか?

「いい機会だしやってみようか、という感じでした。夢CUBEでは、入居者に対して商店街の人がアドバイスをしてくれたり、色々なサポートが受けられるということで、出店を決めました。ただ前の仕事では、お客さまと直接顔を合わせることがほとんどなかったため、接客に慣れるまでには時間がかかりました。」

ゼロからのスタートだったけれど、今では経営や商売に関する知識が身について、常連のお客さまも見えるようになった。夢CUBEを卒業する半年後には、新たに店舗を構えて営業を行う予定で、現在はその準備中とのこと。

大切にしていることはありますか?と聞くと、「来ていただいてありがとう」とお客さまに対して常に感謝の気持ちを忘れないことだと言う。接客の様子を見ていても、誠意が伝わってくる。

そうした姿勢はけっして特別なことではなく、商売の基本だと思う。けれど熊田さんからは、当たり前のことをきちんと続ける大切さや強さが感じられる。

また、お客さまや地域の人といった自分の周りの人に対する感謝の気持ちもうかがえた。印象的だったのは、記事について「うちの店よりも、半年後に後輩たちが入ってくる夢CUBEをPRしてや!」という一言。

熊田さんから「この人に話を聞いてみては?」と紹介していただいたのが、下御門(しもみかど)商店街にある藝育カフェSankakuを営むやまもとあつしさん。

Sankakuはカフェを併設したギャラリースペース。出展作家は無料でギャラリーが利用できる代わりに、やまもとさんと一緒に展示テーマを考えたり、ワークショップやイベントを行っていく。それらを通して参加者のなかで何かが育ったり、人と人のつながりが育まれていく「藝育」をコンセプトにしている。熊田さんと同期で2010年4月に夢CUBEに入居してSankakuをオープン、2011年10月より現在の場所に移った。

やまもとさんはもともと建築の仕事に携わっていた。かつて自分の役割は、「より安価で家を提供すること」だと思っていたけれど、次第にその意識は変化していく。

「はじめは建物に意識が向いていましたが、あるとき“いかに住まうのか?”を提案した方がおもしろそうだと思ったんです。そこで、“美術館に住む”をテーマに自宅を開放し、知り合いの作家さんの展覧会を開くようになったんです。すると、僕の招いたお客さんと作家さんのお客さんの間で新しい交流が生まれたんですね。『これはおもしろい!』と思いました。」

「次に、見るだけより参加してもらったほうが『おもしろそうだから』とワークショップをはじめました。そのうちに『おもしろそうだから』と、元パティシエだった妻とカフェもやってみようと。気づくと近所のおっちゃんおばちゃんも『何やってるん?』と参加するようになっていて(笑)。そんな『おもしろそう』の連鎖のなかで、いつしかテーマが“家に住む”から“地域に住む”へと変わっていったんです。」

その後やまもとさんは奈良市街地に新たな拠点を求め、夢CUBEへと移る。

やまもとさんは生まれが大阪で、中学から奈良に住んでいる。奈良のことをどんな風に思っているんだろう。

「若い頃は何もないまちだなと思っていたんです。遊びに行くのはいつも大阪や京都でした。でも“地域に住む”ことを意識しはじめてからは日々『こんなおもしろいところないわ』と感じています。」

どんなところが面白いんですか?

「コミュニティのあり方、ですね。人と人の距離感がちょうどいいんですよ。きちんと気にかけてくれているけれど、干渉しすぎない。それに、いい意味でのスキマがたくさんあって、外から来る人もウェルカム。国籍や出身地、職業も色々、僕が知っているだけでもユニークな“移民”の方たちがたくさんいらっしゃいますよ(笑)」

「それから、奈良の人たちはもともと文化的な意識が高い。それは単にお寺や国宝がたくさんあるからということではなくて。実は、奈良県はピアノの普及率が全国でも1位なんですよ。」

調べてみると普及率は34.5%で、ピアノが3世帯に一台はあることになる。

「これは文化教育にちゃんとお金をつかう土壌があるということ。その割に、ギャラリーやライブハウスといった発表の場が少ないことは不思議なんですけどね(笑)。奈良のアーティストやミュージシャンは、発表の場を求めて、みんな京都や大阪に流れてしまっている。だからもっと気軽に奈良で発表できる機会をつくりたいし、逆に他の地域の優れた表現者の方々も奈良にどんどん紹介していきたい。それが今、自分たちのやるべき仕事だと感じています。」

やまもとさんは、すでに奈良にあるものを見つけて、つなぎあわせることで新たな魅力として発信している。

「奈良は歴史のあるまち。無理に東京にあるような価値観を取り入れなくても、魅力は最初からここにあると思うんです。それに、奈良の人は本当に大切にするべきことを本能的にわかっているんじゃないか、ふとそんな風に思うこともあります。」

地域の人との関わりも大切にしているそう。

「今年7月に、Sankakuのある下御門商店街でイベントをやったんですね。商店街のよさをお伝えしたいという思いと、去年の台風12号で被害を受けた十津川村に何かお役に立てないかという気持ちもあって。そこで僕は広報を担当させてもらったんです。ここは『坂のある商店街』で、奈良はそうめん発祥の地と言われている。そこで商店街の端から端まで使って、全長80mの流しそうめんをやろうということになりました。」

山から切り出した竹で台をつくる人、麺をゆがく人、つゆをつくる人。お店でつながりのある学生にも声をかけて、みんなでイベントをつくりあげていった。当日は、800人もの人が見えたそう。商店街の人たちも「こんなに人集まったのははじめて見たわ!」と喜んでいたそう。

今回、人づてに色々な方の話を聞かせていただくなかで、それぞれの人が抱える課題や、地域の課題が見えてきた。そうした人と人のつながりの間に仕事はあると思う。

奈良と聞いて大仏や鹿、奈良漬けを想像した人は、起業とかしこまらずに、まずは気軽に奈良のまちを歩いてみてください。そして色んな人と話をしてほしいです。

来年の3月、プロジェクトの報告会を前にもう一度奈良のことを考えたときに、誰かの顔が浮かんでいれば起業の種はきっとそこにある。そんな気がしています。(2012/11/19 はじめup)