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新しい共同体をつくる

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目の前の課題を解決したい。社会を少しでも良い方向に変えたい。

熱意を持って仕事に打ち込む人たちに、これまで何度も出会ってきました。

その一方で、課題の大きさに挫折したり、本当に社会は変えられるの…?と拭えない疑問を抱きながら働く人にも、出会ってきました。

どちらが正しいなんてことは言えません。どちらも、社会や人と真剣に向き合った結果だと思う。

今回は、そんな“社会を変える”というアプローチとは別の方法で、未来を切り拓きはじめた人たちを紹介します。

一般社団法人Next Commons Lab(以下、NCL)のみなさんです。

NCLの取り組みを簡潔に説明するのは、本当に難しい。

見方によっては地方創生の取り組みだし、企業の新規事業開発のプラットフォームや、起業家が第一歩を踏み出す挑戦の舞台を用意しているとも言えます。

さらにその先には、空き家や廃校などの遊休不動産を公共財化し、誰もがアクセスできる拠点として無償提供するベーシック・アセットの実現、ブロックチェーンと仮想通貨による独自の経済圏とコミュニティづくりなど…。どこまでも続く草原のように、とてもすぐには見通せないような世界を思い描いている団体です。

言い換えれば、誰も正解を知らないことにチャレンジしている人たちでもあります。答えは、代表の林さんでさえ知らない。みなさんが日々議論を繰り返しながら、今まさにつくり続けているプラットフォームであり、コミュニティです。

「ぼくらは『ポスト資本主義社会を実現する』というスローガンを掲げています。あの山のてっぺんに登ろう、という想いは共有しているけれど、誰も正しい登り方は知らない。だから、自分で道を切り拓ける人に来てほしいですね」

そんなNCLの一員となる人を募集します。


取材に向かったのは、岩手県遠野市。NCLの最初の拠点が設置されたまちだ。

東京からだと、新幹線で新花巻まで行き、釜石線に乗り換えて遠野駅へ。スムーズに乗り換えて4時間半ほどの旅になる。

駅から歩いて5分ほどで、NCLの運営するCommons cafeに到着。ここで代表の林さんに話を聞いた。

愛知県の高専を卒業後、エンジニアを経て独立。2009年に「自由大学」の立ち上げに参画し、2011年に「土佐山アカデミー」を共同設立するなど、フィールドを広げながら学びや実践の場をつくってきた方だ。

NCLを設立したのは2015年のこと。翌年には日本財団の特別ソーシャルイノベーターに選ばれ、3億円の資金調達もしている。

それにしても、なぜ新たに団体を立ち上げることにしたのだろう。

「人口減少、少子高齢化、子どもの貧困…。社会はさまざまな問題を抱えています。ぼく自身その解決に向けて取り組んできたし、身の回りでもいい取り組みをしている方はたくさんいる。テクノロジーも進歩して、時代が進むほど、この世界はもっと居心地のいい場所になるんじゃないかと思ってきたわけです」

「でも実際はどうか。よくなるどころか、見えなかった問題が顕在化してきて、ますます生きづらい世の中になってきてるなと感じます」

これまでいろんな取り組みをしてきた林さんも、“社会自体を変えることはできない”と思うようになったそう。

「現代では、ほとんどの人が『国家』と『資本主義』という2つの大きなシステムの上に乗っかって生活しています。これを変えることは、到底できない。それならば、新しい社会構造をつくるしかないと」

新しい社会構造?

「共通の方向性や価値観を軸に集まった人たちが、独自の経済圏や生活様式をつくっていくコミュニティ。そういった新しい時代の共同体像をデザインし、それが各地で無数に生まれていくような社会です」

図解しながら説明してくれる林さん。

つまり、既存の国家や資本主義を壊したり覆すことなく、共存可能な新しい共同体のネットワークをつくっているところなのだそう。

その先駆けとして今まさに取り組んでいるのが、全国各地での起業家の誘致・支援だ。

各自治体や地元のプレーヤー、外部の大手企業とも連携し、地域のリソースや課題をリサーチ。事業プロジェクトを設定し、自ら起業家として関わりたいという人を募集する。

たとえば遠野の場合、ビールの原料であるホップの栽培面積が日本一だ。

ただ、担い手不足により、生産者は以前の4分の1まで減少。一方パートナー企業であるKIRINは、国産ホップが消滅することで多様性のあるビール商品を提供できなくなるという課題を抱えていた。

「双方の持っている課題とリソースをかけあわせたときに、日本一クラフトビールが楽しめるまちにしよう!と」

「まちのど真ん中にブルワリーラボを建設して、日々新しいクラフトビールを研究開発。ゆくゆくはまちの空き家・空き店舗をリノベーションして、マイクロブルワリーを点在させ、観光客の方がビール片手にホップ畑を巡ったり、まちを歩けるビアツーリズム事業を実現していきます」

遠野では、ほかにもロート製薬のサポートで進む発酵プロジェクトや、暮らし方を再定義する超低コスト住宅プロジェクト、地元の食材を活かすローカル・フードプロジェクトなど、10のプロジェクトに対して83名の応募があり、そのうち15名が採用された。

元ミシュラン一つ星割烹の料理人、元大手化学メーカーの研究者、大手アパレルメーカーの元店長、助産師、プログラマー、中南米の国際支援者…。経歴を聞く限り、集まりようのない人たちばかり。

「家族も含めれば、20名強の集団移住になります。まさに、共通の価値観・方向性を持った人たちのコミュニティができつつあるんですよね」

つまり、“起業”という共通の切り口を設けることで、新しい共同体が形づくられていくんですね。

「はい。NCLの取り組みは、地方創生の文脈で見られることが多くて。各自治体からすれば、たしかにそうです。ただ、企業から見れば新規事業開発のプラットフォームになっているし、起業家個人からすれば、新しいチャレンジの場でもあります」

多面性を保ちながら、「ポスト資本主義社会」の具現化という山のてっぺんを目指しているNCL。

今後、2020年までに連携地域を100まで増やす計画があるという。

現在は8地域。そのうち今回は、青森県弘前市、福島県南相馬市、滋賀県湖南市、愛媛県西条市、岩手県遠野市の5地域で、さまざまな運営業務に関わるコーディネーターを募集する。

「コーディネーターは、現場に関わる自治体や企業、起業家のサポートをしながら、俯瞰した目も持たなければならない。最前線に立って、ミクロとマクロの視点を行ったり来たりする大変な仕事だと思います」

「とくに今はシステムも発展途上なので、コーディネーター依存の傾向がまだ強い。コーディネーターの力量、人間力によって、各地域の運営の方向性も左右されるのが現状です」


そんな大事な役割を担っているのが、遠野のNCL立ち上げから関わってきた室井さんだ。

もともと国際NGOのピースボートで約10年働いていた室井さん。世界を6周し、およそ50カ国を訪ねたという。

「当時は地球規模の広い視座が大事だったので、一つひとつの地域のことは、まったく違うメガネをかけないと見えない世界だと思っていたんです」

「ただ、いろんな国に行くほど、その構成要素である地域って尊いなと感じるようになって。それぞれの地域が違うということが、全体で見たときの、この地球の面白いところだよなって」

両方の視点を持つという意味では、そこで素養が培われたのかもしれませんね。

「そうですね。あとはわたし、場所を縛られるのがすごく嫌で。林が『人生のうちの3年、遠野に来てみれば?』という感じで誘ってくれたのがよかったです」

「引越しだし、ただの転職だし。あんまり重くないはずなんですよ」と林さん。

ほかの地域に移ってもいいし、自ら起業家になるのもいい。

NCLのネットワークがこれからもっと広がっていけば、その選択肢もより増えていくはずだ。

「この場所は好きですよ。ただ、自分自身がここで何かやって身を立てようという気持ちはないんです。想いを持っている起業家の人たちだったり、それに感化された地元の人たちをサポートしたい。意識的に黒子でいようとしているかもしれません」

具体的にはどんなことをしているんでしょうか。

「たとえば、行政と起業家の間で広報する際の言葉にズレが生じたりします。行政は中心市街地の活性化や移住者増加の事例としたい。起業家はファンを増やして顧客を開拓したい。お互いのリクエストがうまく通るように、バランスをとりながら書類を作成したり」

ほかにも、月に一度、起業家全員で行うミーティングを運営したり、複数プロジェクトの進行管理をしたり。別のコーディネーターの方は、起業家に対して事業計画や資金調達のアドバイスもするそう。

「あと、自分が一番得意かつ必要を感じてやっているのが、起業家たちのメンタルヘルスの話で。仕事の自由度が高い分、遊んでるんじゃないかって見られたり、単純に生活に馴染めなかったり。事業内容以上に本人たちの体調が重要な場面もありますよね」

本当に幅広くサポートしていくんですね。

「自分以外の人にも頼りながら、どれだけ起業家なりコミュニティの最終的な目標に近づいていけるか。コーディネーターは、そこを常に見ていく役割だと思うので。絶対にひとりではできない、ということを忘れないようにしています」

今後は空き家や廃校などの遊休不動産を公共財化し、誰もがアクセスできる拠点として無償提供するベーシック・アセットの実現、ブロックチェーンと仮想通貨による独自の経済圏とコミュニティづくりなど、ポスト資本主義社会を次のフェーズへと進めるための準備も進んでゆく。

領域が広がるにつれ、ひとりでは対応しきれないことがますます増えていくと思う。

そうなれば、当然室井さんのように黒子的な役割を担える人がもっと必要になってくるだろうし、資金面を任せられるCFOやバックオフィスを支える事務局長、Webサービスや事業開発ができる人、来春オープンする東京拠点のマネージャーの存在も求められる。

自分ならNCLをこんなふうに変えていける。同じゴールを目指す一員としてそう思えたなら、まず一歩踏み込んでほしい。

「ずっと半信半疑でやってますよ。NCL、これで合ってるの?って」

「それでも、今の政治には期待してないとか、どれだけ働いても限界だとか、絶望するよりよっぽどいい。疑わしいけれど(笑)、当事者として参加している意識はすごくあります。本当かよって疑っている人ほど、来てもらったら面白いかもしれませんね」

新しい共同体をつくる。

自分探しではなく、自分の手で未来を切り拓く人を待っています。

(2017/12/7 取材 中川晃輔)

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