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エルメス、シャネル、グッチ、ルイ・ヴィトン…。
ファッションの世界で、誰もが一度は憧れる、ラグジュアリーブランド。そのほとんどが、ヨーロッパを起源とする一方で、洋装文化の歴史が浅い日本では、発展途上にあると言われます。
東京・青山にショップを置くMIZEN。
「日本の技術を次世代のラグジュアリーへ」をテーマに、日本発のラグジュアリーブランドを目指しています。
今回は、青山にある店舗の店長候補と接客スタッフを募集します。
求めているのは、ブランドを世界に広めていくという志への共感。
そのため、商品への深い理解と、高いコミュニケーション力が必要とされます。アパレルに限らずとも、ショップでの販売経験がある人に来てほしいとのこと。
前人未到を目指す。そんなブランドの雰囲気を、読んで、感じてみてほしいです。
東京・表参道。
駅を出て、外国人観光客でにぎわう通りを歩く。根津美術館に突き当って、右に少し。MIZENのショップ兼アトリエが見えた。
外で写真を撮っていると、MIZENのみなさんが出て来てくれた。左から、代表の寺西さんと、スタッフの小田原さん、デザイナーのMOLLYさん。
みなさん、MIZENの洋服に身を包んでいる。ダークトーンでまとまりがありながら、生地や柄の切り替えが美しい。
中に案内してもらうと、一面黒い壁に囲まれた空間で、洋服は並んでいない。
ギャラリーのような雰囲気。
「通りに面しているのが1階で、ショップスペースは2階にあります。洋服を並べていないので、お店の前を通る方が、何屋さんなんだろう? と気になって入ってこられるんです」
「1階はイベントスペースとして、ブランドのコンセプトや背景をお客さまに知ってもらう場所にしています。壁面には、洋服で使われる素材を飾っていて。どんな人が、どんな技術でつくっているのかを説明してから、2階へ上がっていただくんです」
寺西さんはもともと、ヨーロッパのファッションシーンに強い憧れを持ち、エルメスなど、ヨーロッパのブランドで服づくりに携わっていた。
フランスの展示会で日本の職人さんと出会い、人の手で紡いだ糸で織り上げる「紬」に興味を持つ。
「感覚的なことですが…、色づかいの素晴らしさに惹かれたんです。こんなに完成されたテキスタイルを、手仕事でつくる人がいることに感銘を受けました」
以来、寺西さんは日本各地の職人さんを訪ね歩くように。手仕事の魅力を知るとともに、呉服の市場が縮小し、手織りなどの伝統産業が厳しい現実に直面していることもわかった。
職人さんの技術がきちんと評価されるようなブランドをつくりたい。
その想いに共感したのが、「ふるさとチョイス」などのサービスを運営するトラストバンクの創業者、須永珠代さん。須永さんと共同で、2022年の春にMIZENのプロジェクトをスタートさせた。
MIZENでは、大島紬、結城紬、牛首(うしくび)紬など、日本各地の反物を使用。スカート、ケープ、ストールなど、さまざまなアイテムをパターンオーダーで買うことができる。
洋服は、一般的なラグジュアリーブランドと同じく、高価格帯。使用する生地によっては、100万円を超えるコートもある。
「ただMIZENは、ヨーロッパを起源とするほかのラグジュアリーブランドと価格帯は近くても、違う立場をとっていて」
「ラグジュアリーブランドの多くは、現在では大衆化されてきていますが、もともとは格差を前提としたビジネスモデルでした。ブランドのアイテムを持つことで、財力や社会的地位を示すことができる。所有への憧れを利用したブランディングだったんです」
MIZENが最も価値を置いているのは、庶民の生活がルーツにあること。
「MIZENの洋服で使われる紬。そして、それを扱う職人の手仕事。そのどれもが、もともとは生きていくために必要なことだったんです」
たとえば、牛首紬で使われる玉繭という素材。玉繭からつくる糸は節ができ、扱いづらいため、販売されずに避けられることが多かった。
売れなくても、貴重な絹に変わりはない。せめて自分たちのためにと、着物の職人さんが糸を取り織り始める。それによって、玉繭から糸を手で紡ぎ出す「のべびき」と呼ばれる伝統技法が生まれた。
「自分たちの生活のために時間と労力をかけて習得した技術。その切実な思いから生まれた紬は、本当に美しいものだと思います」
地道な営みの上に成り立つ本質的な豊かさこそ、MIZENが新しく定義している、日本式のラグジュアリーだ。
「よければ、じっくりと見てみてください」と、寺西さんが、ラックにかかったコートを紹介してくれた。
手紡ぎの糸、細やかな模様。
一級和裁師が携わっているという縫製も、柄合わせ、裏面の処理など、見れば見るほど手仕事のすごさを感じられる。
品質表示には、製造工場が記載されている。一般的には記載しない工場名まで開示するのは、生地だけでなく縫製に携わる職人さんへのリスペクトがあってこそ。
「ブランドの主役はあくまでつくり手。職人さんと、その技術を伝えることで、消費者の意識も変えていきたいんです」
消費者の意識、ですか。
「たとえば、スーパーで売られている牛乳。値段の幅があって、選ぶ基準も人それぞれですよね。そのなかで、社会に対して影響が良いものってなんだろうって基準で選ぶ人がいるはずで」
「洋服に置き換えても、素材、つくり手、技術など。洋服ができるまでの背景を知れば、高価なほうを買うという選択肢も増えるはずだと思っているんです」
自分の使うお金が、どこに、何に対して使われているか、買うものの先まで意識する。MIZENの洋服を買うことは、生き方を考えることに近いように思う。
「職人さんに対して対価を支払い、還元する。その価値観が浸透しなければ、職人になりたいと思う人がますます減ってしまう。今の状況に、危機感を強く覚えていて」
「MIZENの洋服を買えば、つくっている職人さんを応援することにもなる。技術に共感した、本当に好きな服を着ることで、自分を誇らしく思えますよね」
とはいえ、簡単には手を出せない金額。買う人にとっては、ハードルが高いようにも思います。
「MIZENに関わることって、実は買うことだけではないんです」
「洋服について、誰かに話してくれるだけでもいい。さらに関心のある人は、職人さんに会いに行ったり、職人さんのもとで働くこともできる。そんなふうに、MIZENを知る人を増やし、新しい価値観をつくっていくことがブランドの使命だと思っています」
最近では、インバウンド向けに、羽田空港の国際線ターミナルにあるセレクトショップで、MIZENの取り扱いもはじまったそう。産地を知ることで、次に日本を訪れるときに、観光先として選んでもらうことを目指している。
国内に向けては、ホテルなどの観光業と連携して、お客さんと産地に訪れるツアーなど、地域全体を盛り上げるビジネスモデルも開拓していきたいとのこと。
「もちろん、ビジネスとして成り立たせるためには、MIZENを知ってもらい、共感してくれる人に洋服を買っていただくことが大事です。そのために、洋服の背景にあるものを丁寧に伝えることができる人を募集したい」
「口で言うほど、簡単なことではありません。ときには厳しいことを言うかもしれない。でも、それさえ受け止めて、新しい価値観をつくっていくことに本気で向き合ってほしい」
寺西さんの言葉は、熱を帯びている。
実はこれまで、MIZENで勤めたものの、一週間ほどで辞めてしまったスタッフもいた。「産地を応援したい」という気持ちはあったものの、寺西さんの持つ、職人さんへの想いの強さと乖離が生まれてしまった。
外から応援したいという気持ちからもう一歩踏み込んで、自分ごとにしていける人が合うと思う。
「彼女みたいな人が来てくれたらいいですね」と紹介されたのは、小田原さん。日本仕事百貨の記事を読んで、昨年12月に入社した方。
小田原さんは現在、寺西さんのアシスタントとして、広報PRから営業まで、幅広く業務を担っている。店舗に立って接客をすることもあるそう。
新しく入る人にとって、最も近い存在になると思う。
「MIZENの洋服を初めて見たとき、自分が着ているイメージができたんですよ」と教えてくれた通り、とてもお似合いだ。
もともと、コンセプトホテルで働いていた小田原さん。
小田原さんが勤務していたのは、内装から一つひとつの什器まで、すべて職人さんの手でつくられた空間が魅力のホテルだった。
そのため、それぞれの空間にどんな背景があるか、自分の言葉で話せるスキルが求められた。
「お客さまも、空間に込められたストーリーに興味を持ってくださる方が多くて。お伝えして滞在を楽しんでいただけることが、やりがいのひとつでした」
その後、ホテリエ以外の仕事も経験するなかで、0から1をつくる仕事が肌に合うと感じていたところ、MIZENの記事を見つけた。
「職人さんの想いや技術を伝えることを大切にしている。それはホテルで大事にしていた価値観と重なるなと思って、応募しました」
今回募集するのは、ショップ専任のスタッフ。
MIZENを訪れるお客さんは、日本人と海外の方が半分ずつの割合だそう。経営者やアーティストのほか、ふらっと立ち寄る観光客の方もいる。
まずは、洋服を販売するスキルを身につけることから。試着の案内や価格を提示するタイミング、サイズについての考えや気配り、アフターフォローなど。
さまざまな型番があるなかで、素材、デザイン、つくり手とその技術、購入後のケア方法まで。商品にまつわる要素をしっかりと説明できるようになるために、日々の勉強は欠かせない。
店長候補として加わる人は、売り上げと顧客の管理に、1階ギャラリーでのイベントの企画など。店舗を、自分の手で運営していく力が求められる。
「正直、覚えることだけでもたくさんあって大変です。研修は、ほとんどないと思ってもらったほうがよくて」
「寺西さん含め、今いるメンバーは、ブランドを1からつくってきました。もともとは、教えるスタンスになかった人たちなんです」
手が空いたときに商品知識を吸収したり、わからないことは制作スタッフにすぐ質問する習慣をつけたり。能動的に動ける人が向いていると思う。
「もちろん、些細なことでも、聞けばやさしく教えてくれるので、安心してください」
「私は、気になったことは教えてくださいって、グイグイ聞きにいくタイプなので(笑)。新しいブランドをつくることに、本気で向き合える人に来てほしいです」
MIZENという名前は、「未然」から由来しているそう。洋服を通して、その先にいる職人さんが見える、そんなブランドを目指す力強い意志を表しています。
前例がない。だから答えがない。MIZENの挑戦には、半端な覚悟では背負えない重みがあると思いました。
未来をつくっていくことに、おもしろがれる人の挑戦を待っています。
(2024/1/9 取材 田辺宏太)