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「宿泊業の好きなところは、自分から会いに行かなくても、向こうから人が来てくれること。仕事も年齢も性別も国籍も違う、いろんな価値観や文化を持つ人との接点が自然に生まれる環境って、ほかにはあんまりないんじゃないかな」
「その人たち一人ひとりの役に立とうとすることが、経験にも人脈にも将来の仕事にもなっていく。どんなことも自分の力になるって考えられる人には、めちゃくちゃいいと思います」
CEN DIVERSITY HOTEL & CAFÉで働く長谷川さんは、そんなふうに仕事の面白さを語ってくれました。
ラテン語の100という単語に由来する「CEN(セン)」は、日本初のダイバーシティホテル。
“百人百様の生き方を尊重し、人種や国籍、宗教、性別にとらわれず、全ての人に寄り添う”というコンセプトを掲げています。
今回は、ホテルとカフェの運営スタッフを募集します。
小規模なので、清掃からフロント、カフェの運営まで、全員で担うのが特徴。
将来の独立は大歓迎で、そのために経営や企画、運営ノウハウなどをどんどん吸収してほしいそう。多様性という、最先端のコンセプトを肌で感じられることも、大きな強みになると思います。
自分の核となるような仕事の経験を身につけたいと思う人なら、あらゆることを吸収できる環境です。
東京・新大久保。
ハングルの看板や韓国のコンテンツが目立つ駅前の大通りは、平日のお昼にもかかわらず、たくさんの人で溢れかえっている。
遊びに来ている若者が多く、いろんな国の言葉も聞こえてくる。信号を待っていると突然、「有名な〇〇という焼肉屋さんに行きたいんだけど…」とおばあさんに声をかけられ、道を調べて案内する。
…カオスだなあ。
思わず呟いてしまうほど、パワーにあふれたこのまち。
大通りを外れて3分ほどで、ホテルが並ぶ静かな通りにあるCENに到着した。
通りに面したカフェの横にある入り口から入ると、奥にホテルがある。
お客さんが何組かゆったりと時間を過ごしていて、カフェでお茶をしている年配の方たちや、中庭のテラスで犬と過ごす人、外国の人の姿も見える。
出迎えてくれたのは、CENを運営するアフェクタス株式会社代表の細井さん。これまでいくつものホテルやホステルをプロデュースしてきた。
カフェの一角に案内してもらい、早速お話を聞く。
ダイバーシティというコンセプトの原点は、20年前、細井さんが以前働いていたホテルでのできごとに遡る。
「責任者として採用を担当していたとき、今で言うLGBTQの方が面接にいらっしゃって。すごく真面目で能力も高そうで、採用しようと思ったら、上司から見た目でNGが出たんですね」
そのとき、どこかもやもやする気持ちが残った。
カナダにワーキングホリデーに訪れた経験もある細井さん。偶然LGBTQの方が集まるエリアに住んだことで、日常生活で接する機会も多かったそう。
「日本の職場ってすごく遅れているなと思って、だったら自分で新しいホテルをつくってみたいと。LGBTQの方、障がいを持っている方、刑務所から出てきた方。なかなか仕事が見つかりにくい人たちと一緒に宿を運営してみたいと、投資家向けにプレゼンする機会を得たんだけど、そのときも支援は得られませんでした」
「ホステルなら自分だけの力でできるかなと思って、何店舗か経営して。結果として、普通にLGBTQのスタッフもお客さんもいる場所になっていましたね」
CENがオープンしたのは、2019年。コンセプトの発案は、意外にもホテルのオーナーのほうからだったそう。
「LGBTQやダイバーシティをコンセプトでやりたいんだけど、どうだろうって。僕が持っていた同じような想いを、当時のプレゼン資料を見せながら伝えて、そこからはトントン拍子でした」
建物もLGBTQ当事者のデザイナーがコンセプトを考え、これまでセクシャルマイノリティのスタッフも採用してきた。
ただ、面接するなかには、マイノリティの自分を優遇してほしいという人たちもいて、違和感があったという。
「僕は誰にも偏見はないけれど、特別扱いもしない。ただ、譲り合う気持ちで、自分と違う人がいてもいいよねって思える自分がいればいい」
以前経営していたホテルでは、イスラム教徒とキリスト教徒、さらにイスラム教では認められていないLGBTQのスタッフも一緒に働いていた。それぞれ信念はあっても、チームワークを大切に働いていれば、大きな問題が起きることはなかったという。
「この場所は一言で言えば、毎日がカオスと譲り合い。いろんな人たちがいるカオスのなかで、お互いの意見をぶつけあうんじゃなくて、譲りあっていく職場にできればいいんじゃない?って。お客さんも従業員も含めて。そこがうまくいけば、世の中もうまくいくんじゃないかなと思うんですよ」
カオスだからこそ、譲りあって。
CENは、ジェンダーや宗教に限らず、どんな人でもありのままを受け入れる。
たとえば、スタッフは髪型も服装も自由で、タトゥーが入っていても構わない。最低限のビジネスマナー以外は、個々の裁量に任せている。
コロナ禍でのホテル経営は厳しく、細井さんが運営していたほかのホテルはすべてクローズしてしまったそう。
CENも稼働率は8〜9割を超えていたものの、以前の売上水準は維持できず、スタッフも退職が続いた。
コロナ禍が明けて急に外国人観光客が増えたことで、今は以前の状態まで復活し、宿泊客の9割は外国人だそう。
細井さん自身も運営に加わりながら、忙しい毎日を過ごしている。
「ベンチャーマインドを持った人に、ぜひ来てもらいたいと思っています」
「今まで関わったなかに独立した子が3人くらいいるんですけど、『こんな宿になりました』とかたまに連絡がくると、やっぱりうれしくて。僕自身を経営者にしてくれた方たちへの恩返しとして、今度は経営者をどんどん生み出していきたい」
福利厚生やボーナスなど、大企業のような待遇を求める人たちとは相性がよくなかった。とはいえ、残業は毎月10時間以下だし、成果を残す人にはしっかりと対価も出してきた。
「将来自分の宿をやりたいとか、経済的自由を手に入れたいとか、起業して世の中変えたいとか。熱い想いを持っている人に、一人でも来てもらえればいいなと思います」
いずれ卒業する前提でいいんですね。
「はい。ただ、1年だと短すぎますね。順調なときもそうでないときも見るには、3年くらいは必要。自分が稼ぐ能力と、いろんな人から信頼される力を身につけてもらって、もし明日ここが潰れても、どこでも通用して生きていける子を育てたいと思っています」
現在社員として働いているスタッフは8人。そのひとりが、昨年入社した田中さん。
新卒で航空会社に入社し、オペレーターとしてお客さんの電話応対を担当。その後はブライダル業界で働いていた。
「お客さまと顔を合わせる接客がしたくて、転職したんです。でも働くなかで、自分は格式高い接客ではなくて、たわいもない世間話ができるような、フランクな接客がしたかったんだと気づきました」
より自分に合う環境を探して、CENの求人に応募した。
今は、ホテルのフロントとカフェの接客を中心に担当。とくにマニュアルはなく、スタッフそれぞれが思い思いにゲストと関わっている。
「自由にさせてもらっていますね。リピーターの方には、『また来てくれたの?おかえり!』みたいな会話をしたり。かしこまることなく、自分の気持ちを自分の言葉で素直に伝えられる環境はありがたいです」
宿泊するお客さんは外国人が多く、日本語よりも英語を使う接客が多いそう。
とはいえ、なかには英語未経験のスタッフもいる。レベルアップしていく努力は必要だけれど、なにより大切なのは「目の前のお客さんのために」という気持ち。
「たとえばフランスのお客さまだったらフランス語、韓国からだったら韓国語で少し挨拶をするだけで、パッと顔が明るくなって喜んでくださるんです」
「そういうとき、言葉を超えた心のつながりを感じられますね」
CENの設立の背景にもある、LGBTQや多様な人たちとの関わり方については、どう感じているんでしょう。
「とくに重きを置いて考えてはいなくて。ダイバーシティを掲げているホテルはめずらしいですけど、それに特化して何かしているというよりは、だからこそみなさん平等に接しているという感覚です」
「スタッフ間でも、お互いの個性を尊重する風習が根づいています。それぞれが自分の色を出しながら、認めあっている環境だなと感じますね」
同じ質問に答えてくれたのは、長谷川さん。現在は一時的に休職中で、新しく入る人とは復職後に一緒に働くことになる。
「タイって、共通認識として性別が18種類あるんですよ。それも便利だから区切っているだけで、本来は人の数だけ性別ってあると思うんです」
「当たり前に自分と違う人もたくさんいて、『同じでうれしい、違っておもしろい』と思います。いろんな人が集まるCENはとても刺激的で楽しいし、もっとありのままに過ごせる環境にしていきたいですね」
ここで働くことになった経緯を聞くと、「結構変わってて」と話しはじめる。
「世界一平均寿命が短い国と言われるシエラレオネに行きたくて。行ったことがある人を探すために、毎日新しい人に会うっていうミッションを自分に課していた時期があったんです。そのときに、大学のゼミの先生の知り合いだった細井さんに出会いました」
「僕自身、固定観念とか偏見がない世の中をつくりたいという想いがあって、そのゴールに向かうための経験を積み重ねたくて。その一環として当時ホームレスの生活をしていました。細井さんに焼き肉をご馳走してもらいながら、外の公園で寝るときに『滑り台にハマると安心して寝られる』という話で、会って30分で盛り上がって」
話をするうちに、とても価値観の似ている人だなと思ったそう。
近くにいたら楽しそう。そんな純粋な好奇心で、給与も会社名もよく知らないままその日に入社を決意。
海外のホテル勤務や個人事業主の経験はあったので、自分ができることで力になれたらと働きはじめた。
外国人観光客の戻りとともにホテルの運営体制を整えるほか、細井さんの右腕として他社のホテル立ち上げのコンサルタントに入ったり、新メニューの開発や他企業とのイベントを企画したり。
「すごい楽しいですよ、毎日。なかなか、20代半ばで経験できることじゃないなと思いますね」
「ただ、よくもわるくも癖の強い人が集まるので、刺激的な職場です。自分と違う人や価値観を素直に受け入れて、流されない自分の軸も持っていないといけない。前向きな人は楽しみながら成長できると思います」
ここはダイバーシティホテルだけれど、マイノリティのための場所ではありません。
自分とは違う人を当たり前に受け入れているだけの、みんなのための場所なんだと思います。
それは本来、ホテルの外に出た社会でも同じはず。
自分が初めて出会う人たちと対峙したとき、どう関わればいいか。最初は戸惑うこともあるかもしれないけれど、目の前の人に寄り添って、真摯に向き合うことからはじめられればいいと思う。
世の中には多様な人がいる。身をもってそれを知る経験は、将来自分が何かを生み出すとき、大きな糧になるはずです。
(2023/1/16取材、2024/6/14更新 増田早紀)