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「神山の味」をつなぐ

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「この地域の農業を次世代につないでいくこと。小さくても、町の中で食べる循環がおきる仕組みをつくる実験なんです」

これはFood Hub Projectの真鍋さんの言葉。

今、全国各地で耕作放棄地の増加が課題になっています。

移住者が多く集まる徳島・神山でも直面している課題の1つです。

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そこではじまったのがFood Hub Project(フードハブ・プロジェクト)

つくったものを地域の中で食べる。

神山の農業を守るための関係性を育て、次の世代につないでいく仕組みからつくっていきます。

募集するのは、あたらしくできる食堂で副料理長として神山の味をつなげる人。そしてパンづくりを担う人。

チームのメンバーは、それぞれの道の専門家です。

自分の経験を活かし、一緒に試行錯誤しながら進んでいける仲間をさがしています。

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「いただきます!」と元気なちびっこが、目の前の田んぼで収穫したごはんを頬張る。

東京のシェフがゲストの料理教室は、いつのまにか参加者だった味自慢のおばあちゃんから学ぶ漬物講座に切り替わってしまう。

「市内の息子に会いに行くんだ」とうれしそうにパンをたっぷり買っていくおじちゃん。

こんな風景が、日々続いていくんだろうと思います。

徳島市内からは1時間もかからずにいける神山は、山間を流れる川に沿って集落が続いている町。

ほかの地域と同じように過疎による課題もあるけれど、アーティストやクリエイター、サテライトオフィスで働く人など、世界中から移住者が集まる場所。

待っていてくれたのは、フードハブ・プロジェクトを進めるみなさん。

まずは白桃(しらもも)さんが、このプロジェクトがはじまるまでの経緯を話してくれました。

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家は神山で代々続く米農家。白桃さんもいずれは家を継ごうと、農業大学に通っていた。

「畑で祖父や父の働く姿を見ながら育ちました。父の勧めもあって、役場に就職したんです。田舎の長男ですから、素直なんですよ(笑)」

やさしさがにじんでいるような方。

そんな白桃さんも、町の農業に対してはもやもやとした想いがあったそう。

「うちの父親は、専業の米農家の中で1番若手の60歳です。このままだと神山の農業が続かなくなってしまう。耕作放棄地が増えれば、このきれいな景観もなくなっていく。ずっと危機感を感じていたんです」

そんなとき神山町で地方創生の総合戦略を決めるため、住民を交えたいくつかのグループを編成。町の未来について課題を出し、勉強会とディスカッションを続けていくことになった。

白桃さんが所属したのが、食の循環を考えていくグループ。

「農業者を支援することばかり考えていました。けれどつくったものを料理して、食べる人がいる。その視点から考えてみよう。そうやって、フードハブの原形ができていったんです」

あくまでも構想でしかなかったこの企画。実際にやる人がいないと進まない。そうなったときに「役場をやめてでもこの事業をやりたい」と手をあげたのが、白桃さんだった。

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ディスカッションから生まれたプロジェクトを動かしていくために、神山つなぐ公社を設立。白桃さんはそこに「のうぎょう担当」として出向し、フードハブ・プロジェクトの立ち上げを支えている。

「農業って、市場や小売を介して不特定多数に行き渡るようになっています。僕らは特定多数、顔が見える関係の中で消費する仕組みをつくっていきます」

都会に向かって売り出していくのではなく、地元の中で日常的に使っていく。食に対しての意識を広め、すぐそばで支える仕組みをつくることで、この土地の農業を守っていくことができるかもしれない。

フードハブ・プロジェクトは大きく2つの部門にわかれて進んでいくことになる。

白桃さんが主に関わっているのは「育てる部門」。

「米を中心に有機栽培で農業を行っています。中山間地域の土地を活かし、小規模多品目で自分たちで食べるものを育てる。そして担い手の育成をすることで、地域に貢献する農業を目指しています」

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育てた食材を食べる人に届けるのが「食べる部門」。

地域の素材をつかった食堂やパン屋の立ち上げ、加工品の商品開発を行っていくことになる。

ここを料理長として任されているのが、細井さん。

「あたらしいことにワクワクする気持ちと、冷静になって進めていかないと、と思う気持ちと。今はそんな気分です」

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「物心ついたころから、食べることやつくることが好きでした。給食をつくっていた祖母の影響もあったのかもしれません」

製菓やカフェ、レストランでのキッチンリーダーや商品開発など、食にまつわる経験を積んできた。

そろそろ料理家として独立をしよう。そう考えていたとき、このプロジェクトに出会うことになった。

「消費者、食べる側の意識が違う方向に行っていると感じることがあって」

商品開発をしていたころ「パンにカビが生えた」とクレームが入った。けれどそれはすでに賞味期限が切れたパン。

「添加物が入っていなければパンは1日で固くなります。何日たってもカビが生えないパン、何日たってもしおれない野菜。自然じゃないものが”いいもの”みたいな風潮になっている気がするんです」

なにかあったとき、責任の矛先がつくり手に向かってしまいやすい状況に違和感があった。

食べる側も責任をもって食べ物をいただく。それがどういうことなのかを伝えていきたいと考えていた。

「一気に変えるのは難しい。どこか拠点を構えて、そこから小さくても少しずつ伝えていきたい。いろんな取り組みがはじまっている神山ならできるんじゃないかと思ったんです」

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東京育ちの細井さん。年明けの営業開始に向けて、食堂の立ち上げ準備や地域の人との食事会などを企画しているところ。

神山産、徳島県産、四国産、その後に国産のもの。おいしさも考えながら、なるべく地元の素材をつかうことが、食堂の大きな特徴になる。

「細井さんは農家さんとちゃんと対話をしてくれる。みんなから顔が見えるから、そういう姿勢がうれしいです」と白桃さん。

「ただ料理したいだけなら、神山にいなくてもできますよね。どんなふうに調理したらおいしかったかをちゃんと伝える。そうすれば農家さんも次はどうしようって、次につなげることができる」

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「この辺りでは竈(かまど)がある場所を『かまや』って言うんです。地域の人に親しみをもって利用してもらいたいので、食堂は『かま屋』と名づけました」

焼きたてのパンが並び、仕事前の朝食を食べる。

ビュッフェスタイルでおかずを選び、おいしいごはんとお味噌汁とともにいただくお昼ごはん。

カフェタイムのあとは「おばんざい食堂居酒屋」としてお酒が飲めたり、定食も食べられるような食堂をつくっていきたい。

「たとえば徳島で育ったお肉と調味料、神山で育てた野菜でつくる肉じゃが。日常のおかずなんだけど、地域のものでつくるとこうなるよ、っていうのを提案していきたいと思っています」

和食や洋食、中華など、あまり枠にはとらわれず、柔軟においしいものをつくっていきたい。

「バジルの代わりに、たくさんとれるシソをつかったジェノベーゼをつくってみたり。地域でとれる素材のあたらしい食べ方を提案して、レシピも公開します。家でも真似してもらえるように」

地元のものを使ってみよう。そう思えれば、すぐ側で町の農業を応援する人が増えていく。

「かま屋」の隣には、家での料理に使える食材を並べる物販とパン屋「かまパン&ストア」が新築でつくられる。

「年齢問わず毎日食べられるやわらかいパンからはじめるのがいいね、と話をしているところです。この間も試食でコロッケパンをつくったら好評だったんですよ」

小麦も神山産のものを使えるよう、秋から栽培がはじまるんだそう。

まずは食堂だけはじめるのもいい気がするけれど。すると、白桃さんが町民を代表してパンへの想いを教えてくれた。

「このあたりではパンが気軽な贈り物になるんです。手土産にたくさん買っていったり、おやつの代わりに食べたり。毎日やっているパン専門店がないので、みんなたのしみにしてるんです」

食べてくれる人たちの声に耳をかたむけながら、だんだんとかたちをつくっていく。そんなパン屋になっていくのかもしれないな。

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「日常がおいしい。むずかしいことを考えずに『おいしい!』と思ってもらえる食事をつくっていきたいですね」

横で頷きながら話を聞いているのが食べる部門に所属する「食育係」の樋口さん。

「細井さんの料理はほんとうにおいしいんです。わたしが結婚してほしいくらい(笑)」

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樋口さんはこれまで小学校の先生として働いてきた経験を活かし、小学校や高校との連携を主に担当している。

「お米をつくっている家が多いから、子どもたちは神山のお米しか食べたことがないんです。このあいだは世界のお米と神山のお米の食べ比べをしました。高校生とは加工品の開発を進めています」

ほかにも地域の大人も交えた料理教室なども行っている。「食育係」は神山の食について学びつつ、料理をきっかけに世代を超えた交流の場をつくる役割。

「地元の人たちに知ってもらう。次の世代に伝えていく。プロジェクトの中で大切なポイントになると思っています」

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「関わる人も多いからいろいろな意見も飛び交います。大変なこともあるけれど、みんな常に前を向いているんです。一緒に乗れる気持ちのある人が来てくれると楽しいかなって」

「そんな風に思っていてくれたなんて」と話をうれしそうに聞いているのが、このプロジェクトの支配人をつとめる真鍋さん。

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「全員やったことがないことなんです。もしかしたら世の中にも前例のないことをやろうとしているかもしれない。順調に問題だらけです。それを楽しめるかどうかは大切ですね(笑)」

真鍋さんは神山にサテライトオフィスをDIY中の、株式会社モノサスのスタッフでもある。

フードハブ・プロジェクトには神山町役場や町の公社のほかにモノサスが出資をしていて、以前取材をしたモノサスの林さんが代表を兼務し、一緒にプロジェクトを進めている。

大きな課題であっても軽やかに向かっていく感覚が、モノサスの仕事の進め方に近いように感じる。

「前に林が話した、お金の稼ぎ方と使い方。ここでは使い方の実践をしてると思っています」

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細井さんが晩ごはんをつくってくれるというので、ご一緒させてもらう。

神山のすだちをたっぷり使ったそうめんと一緒にいただくのは、神山でとれた野菜の天ぷら。昔からこの辺りで食べられているハリハリ漬けやきゅうりと豚肉の炒め物。

ごはんを食べるって、たのしいな。

にぎやかな食卓でそんなことを思いながら、神山での夜は更けていきました。

神山の農業を守るため、この土地が続いていくためのあらたな実験がここではじまっています。

まずは仲間に会いに行ってみてください。神山には、今年もすだちが溢れる季節がやってきましたよ。

(2016/9/9 中嶋希実)

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