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健やかな風土を育む
おばんざいバーと
セレクトショップ

「健やか」って、どんな状態だろう。

身体が元気なこと。心がおだやかなこと。それもあるけれど、今回感じた「健やかさ」は、人と人とが関わり、空気が巡っていく様子に近いものでした。

熊本・黒川温泉で動き出した「かじかプロジェクト」。

発起人は、2軒の旅館の若女将でもある漣(さざなみ)祐子さん。目の前の人との関わりを築くなかで、新たな取り組みがおのずから芽吹いていくような。無理のない健やかさを身にまとっている人です。

そんな健やかさをお裾分けする場所が、この秋に生まれます。

温泉街のなかにある2階建ての物件をリノベーション。1階は地域での滞在を満喫してもらうためのグッズや衣服を集めたセレクトショップ、2階は元スナックの名前を継承したおばんざいバーとして生まれ変わります。

今年の秋ごろのオープンに向けて、プロジェクトマネージャーと広報担当、食のディレクターを募集します。

旅館の従業員やお客さん、食材の生産者や地元の人たちも。楽しみながら集い、ここで過ごした時間が、それぞれの旅路やキャリアに健やかな風を吹き込むように。地域や人が育っていく土壌を耕すように。

食や建築、デザイン、工芸など、さまざまな分野から共鳴して集まったチームのみなさんが、丁寧にコミュニケーションを重ねながら準備を進めています。

都市でも辺境でもない、里山の温泉街。この環境だから育んでいける健やかさがあると思います。

 

強い寒波が押し寄せる1月なかば、お守りのチェーンを車に積み込んで熊本・黒川温泉へ。

さいわい雪も降らずに、長崎の自宅から2時間半で無事に辿り着いた。ちなみに、熊本空港からだと1時間と少しかかる。

「寒いなかありがとうございます。ひとまず今日は、ゆっくりしてくださいね」

迎えてくれたのは、かじかプロジェクト発起人の祐子さん。翌朝からの取材に向けて、運営旅館の1つである「こうの湯」に前入りさせてもらう。

温泉街をやさしく照らす湯あかりは、黒川温泉の冬の風物詩。灯籠の光が川の流れにゆらゆら揺れて、幻想的な雰囲気を醸し出している。

温泉に浸かり、おいしい食事をご一緒して、夜はぐっすり。

翌朝目覚めると、外には雪が舞っていた。

あらためて祐子さんに話を聞く。

黒川の旅館に生まれ育ち、高校大学と熊本市内へ。

地元には帰るつもりもなかったし、帰ってこいとも言われなかった。

とはいえ、帰省するたびにホワイトボードは満室。いつも忙しそうに働く両親を助けたいと、勤め先のホテルを2年で辞めて家業に戻った。

「都会は遊ぶ場所がいろいろあって充実してるけど、実家に帰ったら何もないだろうと思って、娯楽のものをいっぱい持って帰ってきたんです。でも実際は、本を読む暇もないぐらい忙しくて。ある意味、毎日が充実していました」

黒川温泉旅館組合の青年部に入り、地域活動にも取り組んだ。

たとえば、朝ピクニック。農家のお母さんがつくる旬の地元食材を使った朝ごはんと、阿蘇の絶景を同時に楽しめるイベントだ。

お客さんだけでなく、運営に関わってくれた農家のお母さんたちからも好評で、人と人がつながっていく喜びを感じた。

次第に祐子さんは、農業や食への関心を深めていく。

「うちの母が、地域の農産物を旅館の料理に取り入れることに熱心で。おじいちゃんは農家でした。土地の生産者さんとのつながりは、もともと強い旅館だったと思います」

野菜を仕入れるだけでなく、農家さんのもとを訪ねたり、田んぼや畑の手伝いをしたり。生産者さんとのつながりを地道に築いてきた。

「いい哲学を持ってるな、この人の考え方好きだなってところからつながっていく農家さんが多いですね」

「表現はわるいですけど、生産者さんの名前だけ持っていきたい料理人さんもいるんですよ。それはいやで。人と人としての付き合いがあったうえで、お互いへのリスペクトのもとに料理や場ができている、っていう状態をつくりたいんです」

2021年には、地域の食の発信基地「EAT LABO BR」を立ち上げた。さらに昨年は、旬の野菜を使ったサンドイッチやコーヒー片手に、散歩を楽しむためのお店「SLOW WALK CAFE」もオープン。

旅館のなかにとどまらず、温泉街のまちなかで農と食、観光を掛け合わせた場をつくってきた祐子さん。その流れが今回のかじかプロジェクトにもつながっている。

リノベーションするのは、もともと旅館として所有していながら6年間持て余していた物件。

2階は、元スナックの名前を継承したおばんざいバー「かじか」に。名産のあか牛や旬の野菜など、地元の素材をおいしく届けたい。

また、黒川温泉は年間100万人が訪れる人気の温泉街ではあるものの、夜に営業している店がほとんどない。観光客だけでなく、旅館のスタッフや地元の人たちの集いの場にもなればと考えている。

「旅館のスタッフからは、『別の旅館で働く人とか、地域の人たちともつながりたいけれど接点がない』という声もあがっています。いろんな立場の人が、かしこまらずに集える場をつくりたいんです」

今考えている企画のひとつが、「あわいナイト」。

地元の生産者さんや陶芸作家さん、外部の地域イノベーターなど、さまざまなゲストを招いて話を聞きながら、その人が育てた野菜やお肉をみんなで味わったり、器に触れたり。

次第に興味が湧いてきて「今度畑を手伝いに行っていいですか?」とか、「こんなこともやりたいね」と、新しい動きが生まれる。

その日、その場に居合わせた人同士のあわいが、自然と混ざり合っていくような企画も仕掛けていきたい。

1階はセレクトショップ「さしより」。

さしよりは、熊本弁で“とりあえず”の意味。黒川に来たらさしより寄ってほしい、という気持ちで名付けた。

黒川温泉になかった新しいプロダクトを販売するのではなく、すでにある価値やコンテンツをより楽しむためのものを届けていきたい。

たとえば、福岡・八女の地域文化商社「うなぎの寝床」が手がけるもんぺは、湯上がりにゆったり履くことができる。

ほかにも、染め工房「よつめ染布舎」の型染め手ぬぐいやオリジナルTシャツ、熊本の民芸品であるうちわや、小鹿田焼の器など。黒川での滞在中はもちろん、その後の暮らしも豊かにしてくれるものを揃えていく。

こうした構想を形にするため、食や建築、デザイン、工芸など、九州各地で活躍するさまざまな分野のクリエイターチームで準備を進めているところ。

オープンは秋ごろを予定している。

「このプロジェクトがはじまった当初は、毎朝お腹が痛たたた…って起きるくらいのプレッシャーだったんです。お金も当然かかるし、いろんな人を巻き込んでしまっている」

「でも途中で、”困っても、ひとりじゃないな“と。そこからは、みなさんに呆れられないくらいの寄りかかり方をしながらがんばろう、って思えるようになりました」

 

このプロジェクトのディレクターとして、祐子さんの想いを翻訳・整理しつつ、採用や人材育成などでも携わっているのが前田さん。

ちょうどお昼時。おすすめのお店でグリーンカレーオムライスを一緒に食べながら、話を聞いた。

じつは、前田さんとお会いするのは今回が2回目。約10年前に、徳島・神山町で当時前田さんが携わっていた「神山塾」を取材したのだった。

その神山へ、黒川温泉旅館組合のみなさんが視察に来たのをきっかけに関わりが生まれ、やがて独立。神山での学びを注ぎ込んだ次世代リーダー人材育成プログラム「黒川塾」を立ち上げるなど、この地域と、そこで働く人たちにまっすぐ向き合ってきた。

そんな前田さんにとってのかじかプロジェクトは、祐子さんのやりたいことや、築いてきた関係性から生まれるものを最大限表現する場。

それは食や農業と観光業の掛け合わせであり、突き詰めると「健やかな場」に行き着く。

「観光業って、ともするとPR偏重になりがちで。お客さまの関心を得ようと安直な言葉を選べば、それが行き着いた先に嘘になる。そうじゃなくて、この土地の日常の健やかさを感じられるような場をつくっていきたいんですよね」

旅館で働く従業員にとっても、「かじか」に顔を出すなかで人の縁が生まれたり、新しいイベントを考えて形にしたり。地域との健やかな関わりや、キャリアの健全性が増すことにもつながればと考えているそう。

今回募集したいのは3つの職種。

まずプロジェクトマネージャーは、店舗の企画運営。かじかなら、あわいナイトなどの企画やそこから派生するイベント、旅館の部屋でも楽しめる“持ち帰りセット”の企画など、場と食にまつわるさまざまを。さしよりなら、もののセレクトやつくり手とのやりとり、もちろん接客も。幅広く、日々の運営を担っていくことになる。

続いて広報担当。かじかプロジェクトを中心に、2軒のグループ旅館のことも横断的に発信する役割だという。

「プロセスを明らかにしてほしくて。『スタッフでもんぺの試し履きをしてます』とか、『農家さんのお米の収穫を手伝いに来たら、こんなことがあって…』とか。表には見えにくいところに光を当てて、その価値を伝えてほしいですね」

そして、食のディレクター。かじかのおばんざいや、さしよりの大判焼きなどの調理に加えて、祐子さんや外部のフードコーディネーターと共同でメニュー開発にも関わってもらいたい。

いずれの職種も、店舗でのマネジメントや広報・PR、飲食の経験があると望ましいものの、未経験でも大丈夫。

どんな人と一緒に働きたいですか?

「わたしがどんどん風呂敷を広げるので、いつも収集がつかなくなっちゃうんです(笑)。だから、経営者にもバシッと言ってくれる人だといいな」と祐子さん。

これに対して「ぼくはもう、祐子さんと一緒にキャッキャしてほしくて」と前田さん。あら、逆の意見ですか?

「ピュアな気持ちで共感して、『これおもしろいですよね!』とか言いながら、祐子さんと一緒に風呂敷広げてくれる人がいいです。畳む力が強くなって広げる力が弱まると、かじかは失敗すると思っているので。畳むのはぼくに任せてください」

「めっちゃやる気出てきた!」と祐子さん。

いいコンビネーションのおふたり。最後に前田さんが付け加える。

「プラス、美意識がある人。我を出すんじゃなくて、地域の日常から美しいものを見出したり、『こういう気づきをシェアしたら、お客さまにも喜んでもらえるんじゃないか』と考えたり。その過程を、丁寧にご一緒できる方だといいですね」

まだ物件は着工していない段階だけれど、話を聞きながら、そこで生まれる光景が目に浮かびました。

心強いクリエイターチームと、豊かな地域の素材、想いのある生産者さんとのつながり。

何より、その中心にいる祐子さんの存在。この人の健やかでまっすぐなエネルギーが、いろいろなものを惹きつけ、花開かせているのだと感じます。

もう少ししたらようやく春、という時季ですが。今から秋のオープンが楽しみです。

(2026/01/22,23 取材 中川晃輔)

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