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夕張は挑戦する

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「いまの夕張には、何もありません。けれど、何もないからこそ一からつくりあげることができる。私たち高校生は、夕張を言い訳にはしない。自分たちも本気になって考え、意見する。そうして夕張の未来を実現していきます」

今年の夏、そう大人たちに訴えたのは、夕張高校の生徒でした。

あなたなら、この18歳の少女の言葉をどう受け止めますか。

北海道夕張市

2007年に353億円の借金を抱え財政破綻し、日本で唯一の財政再生団体となった街です。

財政再生団体とは、国の管理下で再建に取り組む地方自治体のこと。予算は国の同意を得たうえで計上し、住民サービスも切り詰める。そうして過去10年間で、116億円を返済してきました。

完済予定日は、10年後の2027年。けれど破綻以来人が減少し続ける街で、歴史や文化、人の熱をつないでいくためには、何をすべきだろう。

この課題の解決策の一つとして夕張が選んだのが、夕張高校魅力化プロジェクトです。

破綻後、人口流出に伴いほとんどの小中学校が閉校。夕張高校も、市内唯一の高校となりました。

ところが現在も高校の生徒数は減少を続け、このままでは確実になくなってしまう。

いま夕張は、まちぐるみで魅力ある高校をつくることで、人口が減少する社会に代わる次の社会の形をつくる若い担い手を育てようとしています。

取り戻すのは、活気あふれる夕張。

プロジェクトのポイントとなるのは、学校で「地域学」に取り組むことで地域を深く理解していくこと。公営塾をつくることで地域の学力を底上げすること。そして、未来を担うリーダーを輩出すること。

今回は、公営塾の立ち上げスタッフを募集します。

日本がこれから直面する課題にどこよりも早く向き合ってきた夕張で、日々子どもたちに向き合う。それは、地域や日本の将来の可能性を広げることにもつながると思います。

スローガンは、「RE START! Challenge More!」。

すでに新たな一歩を歩みはじめている街とともに、未来に挑戦する人を探しています。



新千歳空港から、車で1時間。

赤や黄に染まった木々を窓から眺めながらいくつかトンネルを抜けると、遠く夕張のまちなみが見えてきた。

夕張という地名の由来は、アイヌ語で「鉱泉の湧き出るところ」を意味する「ユーパロ」。その名の通り、明治初期から炭鉱の街として栄えてきた。

あちこちにそびえる大きな建物は、かつて炭鉱で働いていた人たちの社宅の名残だ。

しばらく通りを進んだ先に、夕張市役所はある。

迎えてくれたのは、企画課の佐藤さん。夕張高校の魅力化を手がけるリーダーだ。

落ち着いた語り口に時おり冗談を交える茶目っ気に、思わず引き込まれてしまう。

まずは、気になったことを聞いてみる。

いま、夕張はどういう状況なのでしょうか。

「二つの答えがあるかな。一つが『夕張は変わってきている』という外からの目線。もう一つが『本当に夕張は良くなるのだろうか』という中にいる人間の戸惑い。変化と不安のはざまに、いまの夕張があると思います」

財政破綻以降、鈴木市長をはじめとした志を持った人たちが夕張に集い、街に風穴を開けてきた。

一方で、財政緊縮に伴い市民の負担は増え、人口も10年間で3割減。ついには9000人を割った。街には閉塞感が漂っていたという。

「この10年間、借金は返せても街の時間は止まっていたんです。『財政破綻したからしょうがない。人がいないから、忙しいから、お金がないからしょうがない』。そんな諦めの言葉が街全体を覆っていたんでしょうね」

それは教育現場でも同様だった。

人数が減った夕張高校の存続を議論する検討委員会では、キャンパス校として制度的に残すことが既定路線になっていたという。

キャンパス校とは、近隣校の先生に出張や遠隔授業をしてもらうことで、規模の小さな高校の先生の数を減らしていく制度。つまり、夕張高校はどんどん縮小していくことになる。

「『人がいないからキャンパス校でもしょうがない、破綻したからしょうがない』。そういって、夕張だからこそできる教育やあり方を考えずに、時が流れてきたんです」

「でもちょっと待ってくれ、と。夕張高校の生徒は、ずっと我慢してきた。友人は将来を考えて夕張を去ったのに、自分は残っている。そしていま、『しょうがない』というひと言で高校が消えようとしている。このままではとんでもないことになるぞ、って」

佐藤さんはすぐさま行動を開始。

まずは検討委員に働きかけ、高校存続に向けた議論をうながす。同じような状況にある高校にもしらみつぶしに電話をかけ聞き取り調査を行い、データを出した。

けれども、街が一番動かされたのが、市内の中高生の声だったという。

「アンケートをとったんです。すると、7割近くの中学生が高校進学を機に夕張を去りたいと考えていることがわかった。『しょうがない』を言い訳にして、子どもたちが誇りを持てる夕張をつくれなかったと大人たちが初めて気づいたんです」

この結果は、街に大きな衝撃を与えた。そしてこれを機に、夕張は少しずつ変わりはじめる。

有志で集まった市職員は独自にワークショップを開催。市長に高校存続に向けた提言を行ない、高校魅力化が政策に加わった。

市民懇談会では、現状への不満ではなく子どもたちのためにいまできることを話し合うように。

そうして昨年度から本格的にプロジェクトが動きはじめた。

いまは市が高校と連携しながら、プログラムの充実や制度新設など、これからの方向性を話し合っているところ。新しく入る人も、先生や市との連携はもちろん、夕張の一員として高校をもう一度つくり上げていく中核となる。

ちょうど財政破綻から10年目。

いま、夕張は高校をきっかけとして新たな一歩を歩みはじめようとしている。

「夕張は、これまでもこれからも他の街が経験したことのない時間を過ごします。後悔している暇はない。夕張でしか学べないことを探して、子どもたちに授けたいんです」

いわば、街全体が教育機関。全国からも、夕張高校に支援が届きはじめた。

今年の夏に実施した夕張高校のためのクラウドファンディングでは、なんと2000万円以上もの資金が集まった。

参加者のなかには、かつて夕張を去った人たちも多く含まれていたという。

「それまでは、ふるさとを一歩引いて見ていたと思うんです。ニュースではネガティブな情報ばかりが流れて、悲壮感が漂う街と感じていたはず。けれど、かつて言い訳が伝染した夕張には、いま挑戦が連鎖しはじめている」

「これからは、夕張がどんな方向を向いているか、そしてどんな若者を育てていくのかを全国に発信していくことが仕事になる。僕はそう思っています」



隣で話を聞いていた佐近さんもうなずく。市職員ながら、外部講師としても夕張高校を訪れ、生徒を間近に見てきた方だ。

「僕は、夕張高校もこの数年で少しずつ変わってきていると実感していて。生徒のあいだで、少しずつ挑戦がはじまっているんです」

たとえば、人数の都合で近隣の3校と連合チームを組んでいる野球部。

練習量に引けを取る連合チームは、どうしても勝利よりも大会出場が目的となってしまう。

「抜群に上手な子は、市外の強豪校に行ってしまうんです。けれど生徒たちは『連合チームだから弱いというのはおかしい、どうせ下手なやつが公立に集まっただけと思われたくない』と言って本当に頑張っていて」

チームが集まることができるのは土日のみ。限られた時間をやりくりして練習を重ね、課題を見つけては克服することを繰り返した。

そうして迎えた、夏の地区予選。二勝して迎えた相手は、なんと甲子園の北海道代表校。惜しくも敗れてしまったが、あと一歩というところまで追い詰めた。

一部だけではない。学校全体にも、挑戦が広がりつつある。

「生徒数が減少したことで、学校祭のメインイベントでもある仮装パレードが中止になってしまって。今までだったら、『しょうがない』って諦めていたと思うんです」

「けれど生徒は、絶対に新しいことができるはずだと案を出し合って。少人数を強みにするという発想の転換で、全校生徒でヨサコイの発表を行なったんです」

振り付けは、以前夕張にあったヨサコイチームのもの。当時のメンバーも「もう一度見られるなんて」とよろこぶほど完璧な仕上がりだったという。

大人が促すのではなく、生徒自身が変わりはじめている。それほど、強い芯を持った高校生なのだと思う。

新しく入る人は、公営塾スタッフとして、そんな生徒たちと過ごしていくことになる。

公営塾は学校の近くに設けられ、生徒なら誰でも利用することが可能な場所。放課後に教科学習をサポートしたり、進学や就職など、個々人の進路相談にも乗っていく。

進学や就職をしっかりと考えられる場をつくることで、もう一度夕張に活気を取り戻す。

そんな目標がありつつも、公営塾をどう進めていくのかまだ具体的には決まっていない。今回募集する人は、学校と協力しながら仕組みづくりから携わっていくことになる。

まずは、すでに他地域で行われている高校魅力化プロジェクトの先輩方から学ぶのがいい。そうして、夕張に合った形の公営塾をつくっていく。

そんな塾をつくりあげる取り組みの一つが、『キセキの授業』だ。

さまざまな分野で功績を挙げた人を招き、生徒たちが自分の夢を見つめなおすこの授業。

いまは先生からの依頼をもとに様々な職業の人に講演してもらっているところだけれど、最終的な目標は、卒業する生徒が後輩のために自ら「この人の話を聞かせてあげたい」と授業を企画すること。

新しく入る人は、そんな生徒一人ひとりの意思に丁寧に向き合うことが大切になると思う。

「正直、僕たちも不安はあるんです。けれど生徒は『夕張を言い訳にしないでチャレンジしよう』と熱心に発信してくれている。僕たちはその言葉に突き動かされているのかもしれませんね」



最後に、印象的だった佐藤さんの言葉を。

「夕張は、炭鉱文化の街です。炭鉱で豊かになった一方で、事故で多くの人が犠牲になった。その人たちを悼み、外から来た人も家族のように受け入れる。そんな、優しくたくましい文化があるんです」

「僕は、そんな夕張の魂を受け継ぎたい。いつか夕張高校で育った生徒が、夕張や夕張より苦しい街にそっと手を差し伸べられる人になる。そのために挑戦を続けたいんです」

いま夕張で働くということは、街のこれまでとこれから、そのどちらにも向き合うことだと思います。

前例のない仕事です。夕張を舞台に子どもたちとまだ見ぬ未来に挑戦していくことは、きっと自分自身も変えていくことにもなるはず。

夕張と一緒に挑戦する人を、待っています。

(2017/11/27 遠藤真利奈)

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