コラム

まちづくりと教育

まちづくりと教育デザイン

「教育には世の中を変える力があると思うんです。地域活性化で生じる社会課題を教育で解決するのが、高校魅力化プロジェクトです」

そう話してくれたのは、株式会社Prima Pinguinoの藤岡さん。全国各地に広がる「高校魅力化プロジェクト」をプロデュースしている方です。

日本仕事百貨ではこれまで、各地に広がるプロジェクトの話を聞き紹介してきました。

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このプロジェクトで働く人のほとんどは、地域おこし協力隊という3年間限定で雇用関係を結ぶ制度を使っています。

3年後はそのまま地域に残ってもいいし、別の場所に行ってもいい。けれどもいざ働くとなると、その先にどんな将来が待っているのか不安になる人もいると思います。

そこで今回は、高校魅力化プロジェクトを経て、次のステップに進んでいる人たちに話を聞いてきました。

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向かったのは、東京・銀座のコワーキングスペース。

ここを東京の拠点に全国を飛び回っているのが、prima pinguinoの藤岡さんです。

隠岐島前高校の高校魅力化プロジェクトを卒業した後、全国各地で高校魅力化プロジェクトを展開する役割を担っています。

今は北陸大学で教授としての顔も持っており、この日も最終の新幹線で金沢に帰る予定とのこと。時間がくるまでのあいだ、お話を伺います。

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大学院を卒業した後、すぐに起業。受験に関わる事業を立ち上げた。そんな藤岡さんに、島根の離島であたらしいプロジェクトがはじまるという話が舞い込んだ。

「課題を多く抱える日本の田舎は、実は最先端なんだっていうプレゼンを受けました。衝撃的でしたね。話を聞いてすぐ、この冒険に出ようと思いました」

人口減少、少子高齢化、財政難。

今、日本の田舎にある課題は、いずれ都会や世界の各地でも抱えることになること。

実際にその課題に取り組んでいる大人がいる田舎をフィールドに学ぶことは、最先端の教育になる。魅力のある教育を島につくることで、外からも人が集まる地域をつくれるのではないか。

そんな挑戦が、日本海に浮かぶ離島、隠岐諸島の海士町にある島前高校ではじまろうとしていた。

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「さて、なにをしようかっていうところからのスタートでした。それでも当時のメンバーは、日本の教育を変える気満々で。まあ、冷静に見るとバカでしょって感じですけど、でも本当にできる気がしていたんです」

地域からの学びを取り入れる高校のカリキュラム改革、島外から「島留学」を受け入れる教育寮の設置。そして学力をつけながら、将来のことを考えていく公営塾の運営。

一時は生徒数の減少によって廃校寸前にあった島前の高校は、プロジェクトがはじまってから10年が経つ今、国内各地や海外からも生徒が集まる学校になっている。

「地域に愛着を持つ生徒が、進学や就職で島の外に出ていく。都会でさまざまな経験をしたあと、自分のスキルを島のために活かそうと戻ってくる。まだまだ時間はかかります。でもこの教育は、持続可能な地域づくりにつながるんです」

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プロジェクトが進むにつれ、自分たちの地域でもこのプロジェクトをやりたいと相談がくることが増えてきた。

この3年のあいだに高校魅力化プロジェクトを立ち上げた地域は全部で15ヶ所。藤岡さんは海士町を離れ、各地に広がるプロジェクトのコーディネート役を担っている。

隠岐島前と状況も違えば、関わる人も違う。地域の人たちと話をしながら、その地域ならではの教育を考えてきた。

「基本的には現場のスタッフを信じて、任せています。少しずつ結果も出てきて、統廃合の危機を脱した学校も出てきました。町の人が、高校があることを誇りに思ってくれるようになってきたのは大きいですね」

それぞれのプロジェクトで働いているスタッフは2、3人のところがほとんど。各地のスタッフが連携していけるような仕組みづくりもはじまっているそうだ。

「数を増やすというよりも、1つ1つの学校に力を入れていきたいと思っています。高校だけでなく、中学にアプローチする取り組みもはじまっています。今後は大学にも広げていけないか、考えているところです」

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広がりに合わせて、このプロジェクトで働く人も増えてきた。

「教育やまちづくりに関わる人の、登竜門のような場になっていると思います。これだけどっぷり教育のことを考えて、思いついたことを目の前の生徒たちと実行していく。教育とまちづくりに興味を持つ人にとっては魅力的な環境だと思うんです」

地域おこし協力隊という制度を使っていることもあり、その枠組みで働ける時間は限られる。その地域に残るのか、別の道を歩むのか。どう生きるのか、考えながら進む期間になるんだと思う。

藤岡さんはプロジェクトを経て、大学教授として働きながら魅力化を展開していく道を選んだ人。

ほかの隠岐島前高校魅力化プロジェクトに関わってきた人たちは、どんな道を歩いているんだろう。

話を聞かせてくれたのは、2012年から4年間、島でプロジェクトに関わっていた佐野さん。今は玉川大学の大学院に在籍しています。

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「教材制作や塾の運営をしている会社で働いていたときに、人づてに高校魅力化のことを知りました。こんな教育があるんだってビックリして。よくわからないけどおもしろそう、っていうのが正直な感想ですね」

年末に島を訪ね、翌年の2月には移住をした佐野さん。経験を活かし、公営塾で3年生を担当することになった。

「田舎なのに、教育にまつわる最新情報がものすごく入ってくるんですよ。教育を変えないと日本の社会がやばい。現実を目の当たりにしながら、それまで考えたこともなかった今後の日本の教育について議論する日々でした」

そのなかで知ったのが、国際バカロレアという教育プログラム。これまでインターナショナルスクールで多く採用されてきたカリキュラムで、すごく簡単に言うと、答えのない問いに挑戦する国際的な視野を持つ人の育成を目指すもの。

「今、日本が変えようとしている教育、そして島前高校が目指す方向性と考え方が合致するところが多いんです。今は国際バカロレアの研究をするために大学院にいます。30代は国際バカロレア校に勤務して、ある程度経験を積んだら、島前に戻ることも考えています」

広げた視野を、また隠岐島前のプロジェクトに活かしていくんですね。

「島前が10年後どうなっているか予想もつきません。でも、戻ろうと思うときのために力をつけておけば、役に立てることもあるんじゃないかと思っています」

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佐野さんのほかにも、当時一緒に働いていたスタッフは、それぞれの道を歩いているそうだ。

「同じ時期、隠岐島前で過ごした仲間にも教育に関わらないという選択をした人も多くいます。どうすればいいのか、自分で考えんといかんのだな、というのは感じますね」

もうひとり、自分で道を開拓している人として紹介してもらったのが、今デンマークにいるという的場さん。画面を通じてお話を伺います。

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海士町での思い出を聞くと、印象に残っているワンシーンの話をしてくれた。

「ある生徒が志望理由書を書くのに、1週間つきっきりで見守っていたことがあります。行き詰ったとき、彼女が自分の生い立ちや将来のこと、葛藤していることを正直に話してくれて。先生と生徒という関係を抜きにして、彼女の大切なものを分けてもらっているような時間でした」

「そこで感じたのは、高校の次の進路って1つの通過点でしかないんだなって。目の前の子がまさに今、自分が情熱を感じることをつかもうとしている。本当に大切なことは、本人が自分で見つけるんだということを、目の当たりにしたんです」

的場さん自身、就職活動をするときにやりたいことが見つからなかった経験を持っているそう。

自分が進む道を迷った経験がある的場さんだからこそ、その生徒に寄り添うことができたんじゃないかな。話を聞きながら、そんなふうに感じた。

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島の小さなコミュニティの中で生活することも、的場さんにとっては大切な時間だった。

「生徒にちゃんと向き合っていたら、生徒の両親や兄弟も私のことを慕ってくれる関係ができて。みんな知っている仲なので、誠実に生きないといけないという責任感はあります。だからこそ、自分の存在を認めてもらうような感覚があったんですよね」

自分の仕事が誰にどう影響していくのかが、すぐ目の前で見える。その関係性のなかで、自分はどういうペースで、どんなふう生きていきたいのかを考えるようになった。

その時間を経て的場さんが次の1歩に選んだのが、デンマークのフォルケホイスコーレという場所。

「簡単に言うと他人と一緒に生きて、民主主義を体感しながら、自分が何者かを知る学校です。ここでは、自分の言葉を誰かが聞いてくれることは、力になるんだということを学びました」

的場さんは今フォルケホイスコーレを離れ、大学に通いながら日本に帰国する準備をしているところ。デンマークで学んだことを活かし、自分で場づくりををしたいと考えているそうだ。

「今は自分のプロジェクトをつくる覚悟を積み重ねている時間だと感じています。考えたくなったときに立ち止まれるような場所をつくりたいと思っていて、帰国したら準備をはじめるつもりです」

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「隠岐島前のプロジェクトに参加した時点でロールモデルのいない道を歩んでいるんです。陸路で行く先を選ぶんじゃなくて、どこに行ってもいい海路を進んでいくような」

「もちろん不安もありますが、人と比べられることがないのは合っているかな。私はあのとき、隠岐島前に行く道を選んでよかったと思いますね」

佐野さんも的場さんも、高校魅力化プロジェクトに関わる時間を過ごしたことで自分の視点が大きく変わっていきました。

プロデューサー的にプロジェクトに関わり続ける人、休学していた学生生活にもどる人、独立してまちづくりの仕事をはじめた人。

2人のほかにも、プロジェクトに関わった人たちはさまざまな道を歩んでいます。

「教育には世の中を変える力があるんです。あたらしい教育のかたちを一緒につくっていきたい。そういう冒険心のある人と一緒に働きたいですね」と藤岡さん。

自分の道は自分で決めるもの。地域と教育のなかでその1歩を踏み出してみようと思ったら、高校魅力化プロジェクトの門を開いてみるのもいいかもしれません。

(2017/7/20 中嶋希実)

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日本仕事百貨では各地に広がる高校魅力化プロジェクトの話を伺い、ご紹介してきました。

同じプロジェクトでも、地域によって活動はさまざまです。よろしければそれぞれの場所の様子もご覧になってみてください。

日本仕事百貨ではすでに募集が終了している地域もありますが、あたらしくスタッフを募集している地域の情報も、随時追加していきます。

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