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土地の気候や文化が育む、“その地域の人らしさ”というものがあると思います。それに加えて、人それぞれ違った持ち味がある。
地域で教育に携わるということは、子どもたちの持つその両方の側面に気づき、上手に引き出してあげることが大切なのかもしれません。
沖縄の北部にある今帰仁村(なきじんそん)で高校魅力化プロジェクトに関わる人たちを取材して、そんなことを感じました。
全国で広がる高校魅力化プロジェクト。今帰仁村では、2016年から取り組みがはじまっています。
今回は、そんなプロジェクトの一環である公営塾の講師として参画する人を募集します。
高校生向けの指導経験があるとよいけれど、それよりも大事なのは、地域に開かれた教育の場をつくっていきたいという想い。そして、生徒たちが主体的に学ぶ環境をいかにつくるか、という視点だと思います。
今まさにこのプロジェクトを進めている人たちを訪ねました。
那覇から車で北に向かうこと1時間半ほど。
名護を過ぎ、ひと山越えると今帰仁村に入る。向かう先は、村で唯一の高校である北山(ほくざん)高校。
中学卒業後、那覇など都市部の学校に進学し、村を離れる子どもたちが多いため、2011年ごろから理数科の募集停止、さらには学校存続の危機にさらされてきた。
このままでは村の人口は減るばかり。なんとかして村に高校を残し、地域に愛着を持つ人材を育てようと、村一丸となって教育に力を入れてきた。
そのなかで出会ったのが、高校魅力化プロジェクト。
生徒それぞれが将来について考え学ぶための公営塾の運営、地域外からの生徒を受け入れる寮の設置、高校のカリキュラム改革を3つの柱に、魅力ある高校づくりを通して地域の活性化を目指す取り組みだ。
今帰仁村が、村営塾『夢咲塾』を開校したのは2016年。
立ち上げからこれまで夢咲塾をつくってきた、大澤さんに話を伺う。
「大学時代は、観光に依存しない地域づくりについて研究していました。日本各地の離島を調査するなかで、中心となって地域を盛り上げていく地元の人たちに出会って。彼らのような人材を育てる仕事に関わりたいと考えるようになったんです」
イギリスへの語学留学から帰国後、日本仕事百貨で北山高校魅力化プロジェクトの求人記事を見つける。
「実は今帰仁村は、中学生のころからよく家族で訪れていた場所で。記事を読んで、これだ!と思い応募しました」
2016年の4月に東京から移住。6月の塾オープンに向け、もうひとりのスタッフと一緒にゼロから立ち上げていった。
「当初は、卒業を控える3年生たちへの受験指導に必死でしたが、それが落ち着いてきた1年目の終わりごろから、『夢咲塾らしさって何だろう?』と考えはじめて」
「今帰仁の子たちはすごく人懐っこくて、一見大人しそうに見える子でも、話しかけるときちんと答えてくれる子ばかりだと感じていたんですね。それなら、生徒が発言する機会の多い教え方にしようと考えました」
たとえば、英語の長文問題を解いていくとき。
大澤さんの解説を生徒が黙って聞くのではなく、一緒に英文を読みながら、生徒たちに「なぜ?」「その理由はどこに書いてあったの?」など、質問を投げかけ、問題の根拠を答えてもらう。
「そうすると、自分で意味を理解しているかどうか、どこでつまずいているのかに気づきやすくなったみたいで。生徒たちからの反応もいいです」
塾というと、静かに勉強する場所というイメージもあるけれど、夢咲塾の雰囲気はそれとは異なるみたい。
講師だけで学ぶ環境を良くしていくのではなく、生徒たちが積極的に意見を言いやすい空気をつくりたいと、大澤さん。
実際、「英語検定に向けて面接をしてほしい」「こんな問題プリントがあるとうれしい」といった意見を、自分から伝えてくれる生徒も多いそう。
そんな夢咲塾のコンセプトは、「自分で考え、自分で動き、“できる”につなげる塾」。
月に一度のゼミ授業『夢咲ゼミ』では、現在、「自分・地域・世界を知る」という3つの分野から、自分と向き合うための授業やグループディスカッションを行っている。
たとえば、自分の年表をつくったり、自分の好きなことの共通点を見つけたり。
「印象に残っているのは、映画やドラマの〇〇役とか、歴史上の人物が好きだという子がいて。共通点を考えていくと、『自分は、自分がかっこいいと思う人から影響を受けやすいかもしれない』と答えたんですね」
「それを聞いて私が、『ひょっとしたらあなたにとって、何の仕事をするかよりも、誰と一緒に仕事をするかが大事なのかもしれないね』と伝えたんです。そうしたら『たしかに、尊敬できる人の近くにいたいかも』と話してくれて」
考える機会さえあれば、生徒が自身の内側にあるものを見つけていけるのかもしれない。
「すぐに成果の出るものではありません。それでも、進路に迷ったとき、社会に出て課題にぶつかったとき、思い出すことで次の行動のヒントにしてくれたらなと思いながら取り組んでいます」
今、夢咲ゼミをさらに充実させていこうとしている最中。これから一緒に働く人にも、興味を持って、来年度からのゼミを担っていってもらいたいとのこと。
ここで、実際に塾の様子を見せてもらうことに。
隣同士で教えあったり、わからない問題について講師に質問したり。積極的に勉強に臨む生徒たちの姿勢が印象的。
大澤さんと一緒に講師を務めるのが、平岡さん。
今年4月から今帰仁村にやってきて、主に理系科目の指導を担当している。
「私は塾業界で10年以上講師をやってきて。その間、中学・高校・大学の受験指導をしたり、青年海外協力隊としてキリバスという国で高校生に勉強を教えたり、帰国子女向けの塾で5年間講師を務めたり。いろいろな環境で経験を積んできました」
長く携わるなかで見えてくる課題もあった。特に国内の塾業界は、少子化もあり問題が山積み。そもそも塾業界が教育格差を広げることにつながっているのではないかと疑問を抱くことも。
次第に、このまま続けていくのは難しいと考えるように。
「それでもやっぱり、生徒が希望の学校に受かったときには、心からおめでとうと祝福できる。それはすごく気持ちのいいことで。だからこそ、まだ続けたいという気持ちがあって、ここにやってきました」
夢咲塾では、どんなことを意識して教えているのだろう。
「どの教科であっても、まずは原理原則を理解してもらうことを意識していますね」
原理原則?
「たとえば数学で、難しい問題に対する質問をもらったとき。いきなり問題を解いていくのではなく、公式の意味に立ち返って考えていきます。何事もおおもとを押さえていれば、それを手掛かりに発展問題にも応用できると思うんです」
平岡さんは、どんな質問に対してもわかりやすく答えられるようにと、塾が終わってからも自宅で勉強しているんだとか。
その背景には、こんな想いがある。
「わからないことをわからないままにせず、自分の力で理解するところまでもっていった経験というのは、大きな糧になります。生徒たちには、努力することで着実に身につく力を蓄えてほしいです。そのためのお手伝いをすることが、今の私にできることだと思っています」
大澤さんや平岡さんと想いを共有しながら、一緒に子どもたちの成長を見守るのが高校の先生たち。
北山高校の高島教頭先生は、3年前に赴任してきて、夢咲塾の立ち上げ当初から関わってきた方。
「私が夢咲塾のいちばんの魅力だと思っているのは、沖縄の田舎にいる生徒たちに、視野を広げるきっかけをつくってくれていることです」
たとえば、大澤さんが大学やイギリス留学で学んだ経験、平岡さんが発展途上国などいろんな環境で学ぶ機会をつくってきたことなど、講師のおふたりが自身の経験に基づいて語れることもたくさんある。
受験勉強にとどまらず、もう少し広い意味で、生徒たちの視野を広げるきっかけがここにはあるのだと思う。
「私たち教員ではなかなかできない部分を夢咲塾が担ってくれています。生徒にとっても恵まれた環境ですし、私たちもいい刺激をもらっています」
講師のおふたりや高島先生のほかにも、一緒になって今帰仁村の教育を考えている人たちがいる。
地域の野菜農家で教育委員を務める運天さんは、夢咲塾に通っていた息子さんの話を教えてくれた。
「うちの子は、勉強することそのものに対して苦手意識を持っていたんですね。それが、はじめて塾に行った日にうれしそうに帰ってきて。そこから毎日通うようになったんです」
「どこがわからないのか、というところから、どうしたら解決できるようになるのかを一緒に考えてくれる環境がよかったんだと思います」
はじめは少なかった勉強時間も、受験前には1日5〜6時間も勉強するほどに。
「『そんな積極的な姿勢が周りに刺激を与えてくれている』と、大澤さんが私に伝えてくれたことがあって。それを聞いて、一人ではできなくても、周りと協力しながら成長していく子なのかもしれないなと思うようになったんです」
「学力だけで子どもたちの価値をはかることはできません。北山高校で、家族や友だち、地域と一緒に学びながら育ち、生きる力を身につけてほしい。そうしたらきっと、どこへ行っても立派にやっていけると思うんです」
運天さんの隣で話を聞いていた歴史文化センターの館長・石野さんも、うなずきながらこんな話をしてくれた。
「ゼミは大人も参加できるようになっていて、私も何回か参加しました。そのなかで私が感じているのは、生徒たちがのびのびと学んでいるなあということです」
のびのびと学んでいる。
どうしてそんな空気が生まれているのでしょうか。
「ひとつは、講師のおふたりの生徒との向き合い方が大きいと思います。もうひとつ挙げるなら、この地域にしかない自然や文化が足元に広がっている、ということもあるんじゃないかな」
琉球王国時代の集落の形が今もゆるやかに残っていたり、美しい海や山があったり。広い世界を視野に入れつつ、足元に目を向ければ、そこにもさまざまな魅力があふれている。
「子どもたちには、今帰仁で生まれ育ったことの誇りを、心の真ん中に持ち続けていってほしいなと思いますね」
現在、石野さんと夢咲塾の大澤さんは、地域をフィールドにしたゼミを一緒に計画中とのこと。
新しく仲間に加わる人も自分から働きかけることで、協力してくれる人たちがここにはいる。
プロジェクトがスタートし、3年目。土台は築かれてきているものの、まだまだ伸びしろのある地域だと思います。
今帰仁らしさと、生徒一人ひとりのらしさ。その重なりを丁寧に拾い上げていくことが、子どもたちの歩んでいく未来を照らし出していくのかもしれません。
(2018/06/29 取材 後藤響子)