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※2018年9月18日まで、新しく「今帰仁でのびのびと 自ら考え行動し、自分らしさ育む塾」という記事で募集をしています。高校生のころ、将来の夢を聞かれてどんなふうに答えていましたか?
自分はどんな大人になるんだろう。
将来を想像してワクワクしたり、現実を知って悲しくなったり。具体的な進路を決めるためにそれまでに触れたことを思い返し、いろいろなことを考える時期だったように思います。
訪れたのは沖縄の北部にある今帰仁村(なきじんそん)。
山と海。自然が色鮮やかなこの村では、子どもが地域に愛着を持ってくれるようにと、保育園から高校生までの一貫教育を行ってきました。
村唯一の高校に、全国各地で展開されている「高校魅力化プロジェクト」が取り入れられたのは昨年度のこと。
今回募集するのは、このプロジェクトで設立された公営塾「夢咲塾」のスタッフです。
村の様子はほんの少しずつ、けれど確実に変わりはじめているようです。
那覇から車で1時間半。名護を過ぎ山を超え、今帰仁村へと向かいます。
この日は3月末の終業式。昼下がりの気持ちいい日差しの中、小学生が賑やかに下校していく姿を目にします。
まずお話を聞かせていただいたのは、この3月まで村の教育長を務める新城さん。
「村では0歳から18歳までの一貫教育に取り組んでいます。村一丸となって、教育に力を入れているんです。これは、村に誇りを持ってもらうためでもあるんですよ」
教育をすることで、村に誇りを持つ。
「田舎だから目が届きやすいということもあるけど、それでも危ないから子どもたちだけでは海や山に行くなと言われる時代です。小学生は習い事、中学生は部活でいそがしい。子どもたちの生活パターンがこの田舎でも都会ナイズされてきましたね」
高校や大学、専門学校。進学をするタイミングで村を離れる子どもは多い。一度離れると、そのまま外で生活を続けることになるので、村の人口は減るばかり。
生活する場所の選択肢の1つに村を思い出したり、関わりを持ち続ける子どもを増やしたい。地域への愛着を育むために、自然や農業など、地域に触れる体験を教育に積極的に取り入れてきた。
そんなときに知ったのが、島根の隠岐島前高校が取り組む「島前高校魅力化プロジェクト」だった。
将来について考える機会をつくる公営塾の運営や、外からの生徒を受け入れる寮の設置、高校のカリキュラム改革、そして地域や世界を巻き込んだ教育など。
10年前にプロジェクトがはじまった隠岐島前は、今や海外からも生徒が集まる高校。魅力的な教育を行い地域に愛着を持つ子どもを増やすことで、継続した地域づくりを行っている。
「沖縄でも先行して久米島での取り組みがはじまっていました。これだ!と思って、この取り組みを全国で展開している株式会社Prima Pinguinoの藤岡さんに連絡しました」
「まずは公営塾の運営から。夢咲塾という名前は、生徒から公募して決まりました。継続と蓄積をしていくことが大切になってくると思います。今働いている2人も、すごくがんばってくれていますよ」
夢咲塾で働いているのは塾長の北川岳之さんと、スタッフの大澤悠季さんの2人。オススメスポットだという、きれいな浜辺でお話を伺います。
昨年4月、まずは大澤さんが新卒でこのプロジェクトに参加し、今帰仁にやってきた。
高校生のころに日本文化を広げたいと考え、大学では観光を学んだ。
教育に感心を持ったのは、震災ボランティアに参加したときのこと。たまたま子どもたちが勉強する手伝いをすることになり、教育がなくてはならないものだと知った。
「観光の勉強をするために、日本各地の離島の調査をしました。うまくいっている地域って、魅力的で自然と人が集まってくるんですよね。そういう場所には必ずキーパーソンがいるんです」
「それが地元の人だったりするとさらに続いていくイメージができる。地域のいろいろな課題を解決するためにも、そういう人材を育てることに興味を持つようになりました」
いろんな場所を訪れた中でも、一番好きだったというのがこの今帰仁。1年に1度は遊びに来ていたんだとか。
「山と人が暮らす場所、そして海。こんな近くに全部あるんです。おおらかな人の感じも好きですね」
前回の日本仕事百貨の募集を見て、すぐに応募したという大澤さん。今帰仁に来たものの、立ち上げ段階でなにをしたらいいのかもわからない状況だった。
「久米島の公営塾塾長や、プロデューサーとして全国のプロジェクトを運営している藤岡さんに相談しながら準備を進めました。不安もありましたが、みなさんがしっかりサポートしてくださるので、安心してやるべきことを進めることができました」
「備品を揃えたり、無料体験の告知をしたり。職員会議で高校の先生たちに説明をするときは、本当に緊張しましたね(笑)」
塾をオープンする6月、北川さんが合流。周囲の積極的な協力もあり、無料体験には100人もの生徒がやってきた。
わからないことばかりだったけれど、2人で協力をしながら、1つ1つ考えて運営をしてきた。
なにもかもがはじめてのことだから、すべてがうまく進むわけではないと思う。となりで聞いていた北川さんにも、話を聞いてみます。
「専門的な指導が入ってくる秋のころは、これでいいんだろうかって不安にもなりました。小論文や志望理由書の書き方なんかは、結果が出るまでは自分のやり方が正しいのかわからないんですよね。12月に入って合格者が出るようになってからは、本当によかったなって」
そんなふうに話す北川さんも、前職は教育に関係ない仕事をしていたというから意外だった。
「名古屋にある製造業の会社で働いていました。10年働いたんですけど、だんだん周りについていけなくなったんです。この先会社でうまくやっていけるのか、辞めたとしてもその先どうするのか。モヤモヤしていたときに奥さんが『沖縄で暮らすとか、いいね』って」
なんとなく調べて知ったのが、沖縄で展開されている高校魅力化プロジェクト。学生のときに家庭教師をした経験もあるし、できるかな?と思って応募したんだそう。
塾の人材は地域おこし協力隊の制度を使っているため、確実にキャリアが見えているのは3年間。不安はなかったんだろうか。
「急にプロデューサーから電話がかかってきて、このあと会えませんかって。1時間の打ち合わせのために、東京から新幹線に乗って来てくれたんです。正直、アホだなって(笑)」
「あとから話を聞いてみると、教育長が藤岡さんにはじめて会ったときにも同じようなことがあったらしくて。こんな人たちが集まったらおもしろいことができるんじゃないかなっていう気がして、今帰仁に来ることを決めました」
これからどんな塾にしていきたいですか。
「基礎学力を伸ばすのはもちろんのこと、ゼミ形式の授業で将来の夢を考えたり、ほかの地域の魅力化プロジェクトの生徒との交流も増やしていきたいです。地域の人が塾や生徒に関われる時間も増やしていきたいと思っています」
コンセプトは、「自分で考え、自分で動き、“できる”につなげる塾」。
自習型の塾の中で、わからないところを積極的に聞いてきたり、自分で考えて動けるようになってもらいたい。
「あとはしっかり約束やスケジュールを守れること。地域性なのかわからないんですけど、やっぱりのんびりしているんです。受験のことや社会に出たときのことを考えると、今のうちに少しでも習慣づけてほしいなと思っています」
「ただ、個性として良いところは伸ばしてあげたいですよね。そのためにも、まずは生徒1人1人とコミュニケーションをとって、せっかくだから楽しく勉強に取り組めるような関係をつくっていきたいです」
話を聞いたあと、塾の様子を覗かせてもらう。
4月から入塾を希望する学生がやってきて、北川さんが将来の夢や進学についての話を聞いていく。その横では新3年生と一緒に学習スケジュールを考えている大澤さん。
教えることも大事なことだけれど、まずは生徒の話を聞く仕事なんだろうな、と感じた。
地域の人からも関心の強いこのプロジェクト。2人の心強い応援団の1人だという重畠泰代さんは、今帰仁に来て16年目になる移住の先輩です。顔が広いから、塾のPRにも一役買ってくれているんだとか。
「鹿児島出身で、旦那と埼玉に住んでいました。もっと温かいところで暮らしたいねって、今帰仁に来たんです。せかせかしないように、那覇から離れたところでって(笑)」
フリーランスでいろいろな会社の手伝いをしてきたという重畠さん。小学校を回る営業の仕事をしているときに今帰仁を訪れたことがあった。そのときの印象も決め手の1つだったそう。
「子どもたちがわーっと集まってきてね。『なんの用事?』『だれに会いに来たの?』って、連れて行ってくれたんです。人懐っこい子どもたちの姿を見て、子育てするのにはいい場所だなって思ってたんですよね」
はじめての沖縄生活。地域で知り合いをつくるため、行事などに積極的に参加してきたんだそう。
勧められてはじめたPTA会長の経験を経て、今は教育委員を勤めている。さまざまな活動に関わっているからこそ、いろいろな声も届くようになる。
たとえば、村の状況をよくするためには、高校が第一優先ではないんじゃないかという考え方もあるそうだ。
「もちろん、いろいろな意見もありますよ。でも、まずは続けてみないとね」
「受験だけに焦点をあてるのではなくて、子どもたちの未来を考える塾があるっていうのはいいなって思うんです。地域の大人も積極的に関わるようにしていけたらいいよね」
すると、横で聞いていた大澤さん。
「村の人にも塾に関わってもらいたいなと思いつつ、狭い地域だから、どこに行っても大人がつながっているっていうのは子どもたちにとって窮屈なんじゃないかと思うこともあって」
窮屈、ですか。
「たとえばずっと賑やかなキャラで育ってきた子って、どこに行ってもそのキャラになるじゃないですか。外から来た私たちがやっているからこそ、普段と違う一面を出してホっとできるような場所にもなれたらいいなって」
重畠さんはいつもこんなふうに、2人の相談にのってくれる。
「2人が子どもたちとの接し方も試行錯誤してるのが伝わってくるから、みんな本当に応援してるんですよ。」
塾が終わるのを待って、北川さん、大澤さんと一緒に村の居酒屋へ。
来る人来る人みんな知り合いのようで、2人がこの村に馴染んでいることがわかる。2人とも、先のことはわからないけれど、ずっとこの村に関わっていきたいと話していたのが印象的だった。
自然豊かな今帰仁村で、未来の人材を育てる。生徒と誠実に向き合い、ともに考えていく姿勢が大切な仕事だと思います。
(2017/11/14 中嶋希実)