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100年後に恥じぬ
未来を紡ぐ

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土地が持つパワーを感じて、土地の声に耳を澄ます。そのうちに、どういう場所、どういうサービスがそこにあるべきか、自ずとイメージが立ち上がってくる。

そんな考えを根底に、宿泊施設を企画開発・運営しているのが、株式会社ナル・デベロップメンツです。

今回の舞台は、岡山県にある倉敷美観地区。

白壁や蔵といった江戸時代のまちなみが残り、国指定の重要伝統的建造物群保存地区でもあります。

今回は、2024年10月下旬に倉敷に開業する宿「撚る屋(よるや)」のオープニングスタッフを募集します。

売上や予約の管理、接客といった基本業務に加え、イベント企画やSNSでの発信など、スタッフそれぞれの強みを活かして、チームづくりを行っていきます。

倉敷の歴史や文化を学び、生活に触れ、地域の人の声を聴く。土地に向き合ってからはじまっていく仕事だと思います。

 

東京から、新幹線を乗り継いで3時間ほど。倉敷駅に到着。

駅からアーケードの商店街を抜けて10分ほど歩き、倉敷の美観地区へ。平日の昼間でも、インバウンドの方や修学旅行生などで賑わっている。

撚る屋ができる場所は、美観地区の中心とされる本町に隣接し、奥倉敷とも呼ばれる東町にある。

観光客は多くなく、静かな雰囲気。お店ではなく表札が並ぶまちなみに、暮らしの気配を感じる。

現在工事が進む現場近くで、ナル・デベロップメンツ代表の岡さんが迎えてくれた。

「まだ着工したばかりなので、お見せできるものが少なくて」と、周辺を散歩しながら案内してもらうことに。

「撚る屋の建物は、もともとは明治期に建てられた呉服屋さんの邸宅で。部分部分で、残したり、増築したり。バランスを考えながら、設計を進めています」

岡さんはナル・デベロップメンツで共同代表を務めるほか、株式会社Stapleというデベロッパーも経営している。

ナル・デベロップメンツが高価格帯の宿の企画から運営を得意とする一方、Stapleでは、徒歩20分圏内の「ご近所」を開発していく事業が特徴。たとえば東京日本橋ではHotel K5というホテルやParkletというベーカリーを手がけている。

ときには、ナル・デベロップメンツとStapleが二人三脚で地域の開発に取り組むことも。

そのひとつが、広島県尾道市の瀬戸田にある「Azumi Setoda」。

「高価格帯の旅館として、Azumi Setodaを建てました。あわせてその周辺に、Stapleがカジュアルなホテルを運営したり、コーヒー豆の焙煎所やお惣菜屋さんをつくったり」

「ナル・デベロップメンツが瀬戸田の目的地になる深い点を打ち、Stapleが周辺のお店などを手がけることで、地域の方との接点となる場をつくりながら、街との関係人口を増やしていく。そんなイメージで取り組んできました」

瀬戸田は港町で、港から耕三寺というお寺に続く参道に商店街がある。お肉屋さんやケーキ屋さんなどが並ぶなか、お土産店も栄えていて、地元の人も観光で訪れる人も混在している。

「徒歩圏内に住人の生活が見える場所なんです」

「その場所を観光地として消費するのではなくて、現地の人々の生活を少しでも体感できる。旅行にはそういう楽しさがあるべきだと思っています」

土地の声に耳を澄ます。それはひとえに紡がれた歴史から、生活や文化を知ること。瀬戸田で大切にしている考えは、倉敷でも変わらない。

倉敷の美観地区一体は、およそ400年前まで海が広がっていた地域。

江戸時代に干拓され、塩分が強かった土地に文化として根付いた綿とイ草の栽培。そこから繊維業で栄え、染め織りやイ草製品などの工芸品が生み出された。

さらに、産業革命で多くの地域が工業に舵を取りはじめる一方、工芸と工業のバランスを重要視して、文化的な発展も進んだ倉敷。

日本ではじめての西洋美術館である大原美術館が創設されたり、日本で二番目の民藝館である倉敷民藝館ができたり。

人の手でつくられる、暮らしに根付いたものを大切にしてきた歴史がある。

手偏の「撚」という漢字が使われている宿の名も、ここに由来しているそう。

 

「複雑な歴史が、ある種縄のように太く絡み合っているのが倉敷だと感じます。その歴史に、細い糸だけれど僕らができる最大限の表現をして、撚り合わさっていく。そんな想いで、『撚る屋』と名づけました」

そう続けるのは、岡さんと開発を進める上沼(うえぬま)さん。

宿のキーワードのひとつが、調和、折衷。

「古き良き日本家屋の造りを残した棟のほか、新築でレンガ棟も完成する予定です」

「土壁と漆喰の既存の建築に対して、明治期の近代化の遺産であるレンガ素材を使っている。新と旧の折衷、生活との調和という、コンセプトに沿うかたちで表現できればと思っていて」

撚る屋は全13室。宿泊料金は4万円から15万円ほどの価格帯となる。倉敷地区ではあまり多くない、高価格帯の宿。

半数以上が訪日外国人をターゲットとしているが、日本人の方にも来てもらえるような、バランスの取れた場所にしたいと考えているそう。

チームの規模としては20人ほどで、そのうちサービスメンバーが15名ほどの予定。ホテルまたはダイニングのマネージャー、もしくはサービススタッフ、どのポジションにつくかは、経験や適性によって決めていく。

必要に応じて、ナル・デベロップメンツやStapleのほかの宿のスタッフのサポートを受けながら、運営について学んでいく。少人数のチームなので、縦割りで部署分けせず、フロントからダイニング、ときには清掃までと、横断的に関わることになる。

「宿泊業の経験があればうれしいですが、相手を喜ばせたいという、素直な気持ちがあれば大歓迎です。土地の声を汲む。そんな会社の想いに共感してくれることがまず大事で」

「撚る屋を訪れた方に、倉敷をどう見て感じてもらうか考えて、撚る屋というブランドを育てていく。このゴールに向かうために必要だと思うことがあれば、型にはまらず、意志を持った人がチャレンジできる環境を整えていきたいと思っています」

たとえば工芸品や美術作品に興味があれば、併設したギャラリースペースの活用方法を考えてみることもできるとのこと。

周辺に住む作家さんやアーティストに声をかけて、展示を行ったり、ワークショップを企画したり。

チームで意見を交わし合いながら、ブランディングをしていくのがよさそうだ。

「美観地区って、夜が本当にいいんですよ。観光客が少なくなって、しんとした街並みのなかを歩くのが最高で。昼時の賑やかな雰囲気とは打って変わって、暗くなりやさしい街灯の光が並んだ夜こそが、当時の姿をありのままに残す美観地区の真の姿だと思うんです」

「ナル・デベロップメンツで働いていると、まるで旅をしているようなんです」

旅、ですか。

「僕は東京で仕事を始めて、今は本社のある京都に引っ越して。仕事で瀬戸田や倉敷に行って、暮らしのことも、文化も、歴史も学ぶことがとても楽しいんです」

「いくつかの地域を深掘ると、結びつきや違いが浮き彫りになっていくように感じていて。地域を体系的に理解できて、日本全体の解像度が、どんどん上がっている感覚なんです」

会社と一緒に、旅をするように仕事をしていく。

今後も、全国いろんな地域、さらには海外にも展開する可能性があるとのこと。

今回入ってくる方も、まずは倉敷で撚る屋という新しいブランドをつくることに集中して、いずれはほかの地域に根を張って働くこともできるかもしれない。

「小さく自由な会社なので、部署の壁を取っ払って、自由なキャリア形成を望む人や、旅好きで、地域を丁寧に掘り下げることに興味がある人とか。そんな人だったら、心地よく働けると思います」

 

経験を活かしながら、自由に働く姿を体現しているのが、今回撚る屋の空間づくりに携わっている沼田さん。

色彩豊かな表現に魅せられて、フランスで料理人として経験を積んだことや、ブルーボトルコーヒー日本1号店のオープニングに携わったことなど。これまでの仕事の歩みを、楽しそうに話してくれる。

3年前に瀬戸田へ移住し、Azumi Setodaのダイニングマネージャーに着任。

「ナル・デベロップメンツやStapleで進めているホテルの立ち上げが複数案件同時進行していて」

「今年からダイニングを飛び出して、いろんなホテルの食空間全体をつくっていくことになりまして。撚る屋が最初のプロジェクトになるんです」

フロントからダイニング、料理人まで、広く経験がある沼田さん。新しく入る人にとっては、最初のチームづくりやオペレーションを一緒に形にする存在になる。

現在、撚る屋のオペレーション構築を進めているのが、コの字型のカウンターでの食事体験。

「私、宿のダイニングだからこそ許されるご無礼みたいなものがあると思っていて」

ご無礼?

「宿泊も伴うので、お客さまはお風呂も済ませて、リラックスしている状態ですよね。となりの人との境界が曖昧になる、というか。『明日どこ行くの?』なんて会話を、ほかの宿泊者とできることが、特別な体験になったりするじゃないですか」

「同じように、ダイニングのスタッフともゆるやかな交流が生まれる。だからこそ、働く人それぞれの人間らしいところが、いい接客につながるような場になってほしくて」

実際に、Azumiのチームづくりでも、スタッフの好きなことを伸ばしたり、得意なことを活かせる環境を整えた。

「たとえば、ワインが好きな子がいて。ここで働く間に、ワインのソムリエとったらええやん! って提案したんです。ワインの勉強ができるように、なんぼでも試飲してええし、発注も全部一緒に見たるからって」

仕事を自分ごとにして働くことを、何より大事にしてほしいと話す、沼田さん。

チームづくりの考えの根本は、ブルーボトルでの経験から。

「オープンした半年後には、スタッフやご近所の方々もブルーボトルのカバンを持っていたんです。それを見た瞬間、これ勝ったなって思って」

勝った、というと?

「働いてる人が、会社好きなんだもん。もう、それに尽きると思っていて。達成するにはとても難しいことかもしれないけれど、会社の大きな魅力のひとつだと思うんです」

「 地元の方々はもちろん、働いているスタッフにも愛される場をつくる事が夢であり目標です!」と沼田さん。

0からつくるからこそ、それくらい愛着を持てるチームをみんなでつくり上げていけるといい。

 

 

美観地区の中心地ともいえる本町を抜けた先、観光と生活が接するような場所に、撚る屋は誕生します。

最後に、岡さんが話していた言葉が印象的でした。

「美観地区の景観は、100年後の未来もきっと変わっていない。100年後に恥じぬ未来を紡ぐことが大事なんです。だからこそ、倉敷の暮らしや文化を体感するために、人が集まる流れをつくらないといけない」

「そうすれば、観光客も、倉敷に住む人も、両方が豊かに暮らすことができる。そんな未来に寄与していきたいんです」

撚る屋は路面に開けたかたちで、酒場に近いカジュアルなバーもできる予定。

取材を終えて、完成した宿を想像したとき、宿泊者とまちの人とが楽しそうに話す姿が思い浮かびました。

土地に残り続けてきたものを汲んで、そこにしかないものをつくる。多彩なつくり手たちとともに、地域に新しい価値を生みだしていく。

そんな挑戦に情熱を注げる人を待っています。

(2024/05/08 取材 田辺宏太)

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