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ここが故郷

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校舎の窓から見える、おだやかな海と島。

きっと生徒たちは卒業後もこの風景を忘れることなく、それぞれの道を歩んでいくのだと思う。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA ここは、愛媛県上島町(かみじまちょう)の県立弓削(ゆげ)高等学校。

上島町は「弓削島」「生名島(いきなじま)」「魚島(うおしま)」「岩城島(いわぎじま)」など、瀬戸内海に浮かぶ25島から成る町。

尾道と今治を結ぶ「しまなみ海道」周辺に位置し、自然豊かな環境と温暖な気候から、造船や漁業、柑橘栽培が盛んです。

DCIM100MEDIADJI_0024.JPG そんな上島町にひとつしかない県立高校「弓削高校」は、地域の人口減に伴う生徒数の減少によって、いま存続の危機に直面しています。

そこで町が一丸となり、魅力ある学校づくりによって県内外から入学生を呼び込む「高校魅力化プロジェクト」を今年からスタートしました。

今回募集するのは、このプロジェクトの一翼を担う「公営塾」のスタッフ。

高校の先生たちと連携しながら教科学習をサポートすると同時に、キャリア教育プログラムも実施することで、自分の力で将来の道筋を決めていけるような生徒を育む。

また、人口減少が深刻化するこの町において、日々子どもたちに向き合うことが地域の将来の可能性を広げることにもつながります。

教育とまちづくり、ふたつの視点を持つ新しい仕事です。

 
この日は、東京から新幹線に乗って広島・福山まで向かい、そこから高速バスで因島(いんのしま)へ。

因島からはフェリーに乗り換え、上島町へと向かいます。

今治経由のルートもあるけれど、こっちのほうがアクセスは断然いい。地元の方も広島方面に出かけることが多いようです。

「生徒たちは遊びに行くっていうと、松山より福山。野球もカープファンが多かったりするんですよ」

そんな話で迎えてくれたのは弓削高校の教頭、山下先生です。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 山下先生は弓削高校に赴任して今年で2年目になります。

以前は松山市内の、県内で最も生徒数が多い高校に勤めていたそう。それに対し弓削高校は、県内で一番生徒数の少ない高校です。

昔、多いときには1学年で200人もいたそうだけれど、いまはその10分の1ほど。

2013年には入学者数が20名を下回り、統廃合の話まで浮上しました。

地域にひとつしかない高校がなくなってしまうと、若い世代がほかの地域に出ていってしまい、地域はますます衰退してしまう。高校だけでなく地域全体を取り巻く深刻な問題です。

「入学者数が20名未満の状態が3年続くと、学校はなくなってしまう。それで行政も一緒になって振興対策協議会を立ち上げ、どうしたらいいかを話し合ってきました」

「町から入学祝金の支給を受けたり、自転車用のヘルメットの購入費やフェリーでの通学費を補助したりして。近隣地域の中学校への広報も積極的に行って、なんとか入学者数を増やしてきたんですね」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA とはいえ、増えたと言ってもまだまだ1学年25名前後。町内の小中学校の生徒数は、数年後にはその数を下回ってしまうため、このままではあと5年先には20人の入学者の確保が難しくなってしまいます。

そんななか上島町が着目したのが、魅力ある学校づくりによって県内外から入学生を呼び込む「高校魅力化プロジェクト」でした。

まずは総合学習の時間を使い「上島学」を開きます。上島町にある“地域資源”を教材に、生徒たちに島のよさや課題を知ってもらいながら、これからの時代に必要なスキルを身につけるゼミ形式の授業です。

「たとえば、県外からやってきた移住者の方を講師としてお招きして、『地域おこし』をテーマに授業をしていただいています。地元の方にも俳句創作講座を開いていただいたり、『高齢者と食』をテーマに、地域の食材を使った高齢者向けの食品について考えるワークショップも行ったりしました」

上島学を進めていくうちに、昨年に町は高校魅力化プロジェクトを全国へ広めている株式会社Prima Pinguinoの藤岡さんと出会い、今度は高校連携型の公営塾も開設することになりました。

放課後に空いている教室を使い、どんな生徒も参加できる塾として、英・数・国といった教科学習のサポートや受験対策、進路指導からキャリア教育までを担います。

遠くの進学校へ通おうと思っていた子どもたちも、公営塾によって勉強できる環境を充実させれば、弓削高校を選んでくれるはず。

そういった目標がありつつも、公営塾をどう進めていくのか、まだ具体的には決まっていません。

そのため今回募集する人は立ち上げメンバーとして、仕組みづくりから携わっていくことになります。

「講師経験は必要ありません。勉強だけじゃなく、世の中のいろんなことを結びつけて、生徒たちの視野が広がるようなことを教えてくれる人。生徒たちから『先生のような人間になりたい』と言われるような人に来てもらえたらと思うんです」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA まずは、すでに他地域で行われている高校魅力化プロジェクトの“先輩たち”を真似ることからはじめるといいかもしれません。

広島・大崎上島や沖縄・久米島では、教科学習のほかにも「ちゅらゼミ」や「夢☆ラボ」といった独自のキャリア教育授業を行い、公営塾に参加する生徒が年々増加したり、難関校への合格者が生まれたりしています。

最近は、高校魅力化プロジェクトを進める全国5地域の公営塾対抗で、テレビ電話をつないで英単語テスト大会が行われるなど、横でつながる面白い動きも生まれています。

ただ、それぞれの地域や学校によって状況や特徴は異なるため、真似ると言っても、上島町に合った形の公営塾をつくっていくことが大切です。

学校や生徒たちは、どんな様子なのだろう。今度は授業を担当する先生方に話を伺いました。

写真左から、英語担当の瀬野先生と数学担当の石丸先生です。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 石丸先生は、以前は教頭の山下先生と同じ松山市内の高校に勤めていました。

都市部から島へやってきて、教育面でも大きなギャップを感じたといいます。

「前の学校では生徒たちが予習も宿題もやってくるのが当たり前でした。ここでも同じように授業を進めようとしたら、家では勉強できない子や、ひとりじゃ解けない子がいる。かと思えば、スラスラ解ける子がいたりして。人数は少ないけど、一人ひとりの学習進度がバラバラなんですね」

卒業後の進路も、大学へ行くのが当たり前ではない。専門学校や短大へ進学する人や、因島など広島方面で就職する人もいるといいます。

生徒一人ひとりに合わせた個別指導を、高校と一緒に公営塾でも充実させてほしいと石丸さん。

「ここに赴任して一番いいなと思ったのは、生徒たちですね。勉強も運動会も地域の行事も、本当に一生懸命頑張る。地域に見守られながら育った子どもたちなので、自転車を2人乗りするような子はいないし、一人ひとりが温かみを持っている。それはほかの学校に負けない魅力だと思います」

「生徒たちはいい子ばかり」という話は、どの先生からも聞こえてきたことでした。

隣に座っている英語担当の瀬野先生も、石丸先生の話に大きく頷きます。

「温かいというのはすごくありますね。多くの生徒たちは保育所からずっと同じ友達同士なので、すごく仲がいい。ぱっと一言声をかけただけで、お互いに分かり合っている感じで。たいしたもんやなって、いつも思うんですよ」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「ただ、石丸先生と同じように、自分のなかでも葛藤していることがあって」

葛藤していること?

「生徒たちはすごく純朴で、一生懸命な子ばかりです。先生に言われたことに『はい!』って言うのは素晴らしいんですけど、一方で自分の中の軸が弱いというか。本当はそうじゃないと思っているのなら、『違う』と自分の意思で言ってほしいんですよね」

「将来やりたいことを聞いても、明確なものがなかったりする。自分が何をしたいのか分からないから、今どうしたらいいのか分からないという生徒も多いです。自分の人生を自分で面白くしていけるような、そんな自立心を持った生徒を公営塾でも育んでいけたらと思うんです」

それは結果的に、勉強へのモチベーションアップにもつながると思う。

 
今回募集する人は、上島町の地域おこし協力隊としての雇用となります。

最長3年間の任期が終わったあと、どんな道があるのか不安に思う人もいると思う。ほかの地域では、公営塾スタッフから今度はプロデューサーとしてプロジェクトに関わったり、独立して教育やまちづくりに関する事業をはじめた人もいます。

弓削島にも、地域おこし協力隊を終えたあと、生業をつくって暮らしているご夫婦がいます。

弓削島の「食堂まるふ農園」を訪ねました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA ここを営む藤巻さんご夫婦は、2011年に東京から上島町へ移住。

現在は、自然農の畑で固定種の野菜を育てて販売するほか、自家農園の野菜が主役の食堂や農家民宿も営んでいます。

家や畑は地元の人の協力もあって見つけたもの。移住に関して、地域の人たちは快く迎えてくれたのだそう。

「弓削は昔から船乗りさんが多い島なので、視野が広い方が多く、比較的開放的な文化があると思います。『よそもの』に対しても寛容で、私たちがこの島に住み続けられるようにって、行政の人も地域の人も心配してくれて」

そう話すのは、藤巻光加(みつか)さん。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 上島町へ移り住んで約6年。はじめは協力隊の任期後にどう生業をつくるか、島にそのまま住み続けられるのか、見えないこともあったそう。けれども、いまはこの地域を心から好きになって暮らしているといいます。

「どこの田舎もそうかもしれないけど、ここは自然が豊かなだけじゃなくて、それを暮らしに取り入れる知恵と技術があるんですね」

「海で海藻や貝を採り、山でタケコノや野草を採るという、自然と結びついた暮らしができることが島にはまだ残っています。その土地にある限られた資源を最大限に享受して暮らす。すごくシンプルなことだけど、それが人として一番イキイキとした暮らしなんじゃないかって思うんです」

光加さんは協力隊のころ、東京でマーケティングの仕事をしていた経験を活かして、休校になった小学校で子ども向けアートキャンプを開催したり、離島経済新聞と共同で地域を伝える新聞づくりを企画したりと、教育方面でも精力的に活動してきました。

そのなかで光加さんは、「自然の恵みを享受して暮らす」ことがその土地に愛着を持つことにつながると気付いたそうです。

「今の島の子たちは海で泳ぎはするけど、何かを採って食べることをする子は少ないと思います。お年寄りたちに話を聞くと、いろんなものを海や山から自分たちで採って食べたり、つくっていたことがわかります。その土地にあるものによって自分たちの暮らしが成り立っていると体感することが、地域に対する愛着を育み、その土地の人になるということなんじゃないかって思うんです。そういう経験ができるこの土地は、私たちにとってはとても豊かな場所です」

「これから島に来てくれる人も、そういったことに興味を持って、子どもたちに『いいよ!』って伝えてほしい。地域のいいところを探して、地域を好きになれる人だとうれしいです」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA ほかの地域においても、公営塾を立ち上げ、よりよいものにしていくためには日々の試行錯誤が必要なようです。

ときには悩むこともあるだろうけど、そんなときは高校の先生方をはじめ、Prima Pinguinoの藤岡さんにも気軽に相談してみてください。

先輩移住者としても、藤巻さんご夫婦はいろんな相談に乗ってくれると思うから、ぜひ一度会いに行ってほしいです。

きっと、ここで働く人にとっても上島町はいい故郷になると思います。

(2017/7/10 森田曜光)