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福島県の西の端、新潟との県境に只見(ただみ)という町があります。周囲を切り立つ越後山脈などの山々に囲まれて、古くから “秘境”と呼ばれてきた町です。盆地のため夏は暑く、冬は里でも2、3メートルの雪が積もります。

全国で毎年50校近くが廃校になっているという高校の現実は、ここ只見でも他人事ではありません。
県立高校がひとつなくなるだけで、転出者が増え、億単位の経済効果を失ってしまうとのこと。ただ、裏を返せば人が集まる魅力的な学校ができれば、地域が抱えるお金・高齢化などの問題も解決できるかもしれないということ。
そんな取り組みをしているのが「高校魅力化プロジェクト」。島根や沖縄など全国に広がっていて、只見町でもはじまろうとしています。

今回はこの公営塾のスタートアップから携わるスタッフを募集します。
日々の学習のサポートや進路相談などを基本に、生徒の生活に寄り添った指導をしてほしい。思いがあれば、教員免許を持っている必要はありません。
気になった方は続きを読んでみてください。
東京から新潟方面へ電車を乗り継いで2時間。途中の小出駅で「絶景の秘境路線」と呼ばれる只見線に乗り換えます。
電車は1日に3本。乗り遅れると大変です。
ガタガタと揺れる車窓は、だんだんと田園風景から人の気配のしない濃い緑の渓谷・破間川へと変わっていく。

「只見は雪がとにかく降るところなんです。豊富な雪どけ水は水力発電や農業に使われています。夏になると川辺に霧が出て、朝なんかなんとも美しいんですよ」
只見町を案内してくれたのは、町の教育委員会・高校振興対策担当の酒井さん。

2014年にユネスコからユネスコエコパークに認定された只見。
ここでは人々の暮らしと雄大な自然が深く結びついている。きびしい自然に閉ざされた地域で育まれた民芸品や伝統芸能は、今でも大事に受け継がれているそう。
案内いただいている酒井さんは只見町出身の方。
一度は進学のために仙台に出たものの、就職で戻ってきて以来ずっと只見で暮らしている。子どものころは野球やクロスカントリーが得意なスポーツ少年だった。

「普通は市町村の教育委員会というのは県立高校には関わらないですよ。ただ、只見町ですと高校の存続が地域の将来に関わってくるんです」
只見町が只見高校の振興事業に力を入れはじめたのは今からおよそ15年前のこと。
1学年36人という定数を3年連続で下回ると、分校化・ついには廃校というルールを福島県が定めたことがきっかけになった。
町から高校がなくなると、高齢化は進み、町の経済にも影響が出てしまう。
そこで、当時から少子化が見込まれていた只見町は、“山村教育留学制度”というものをはじめる。これは、町主導で県内外から只見高校への入学者を集め、只見高校に3年間“留学”してもらおうというもの。
留学したいと思える学校にしようと、酒井さんたち教育委員会が行なってきた只見高校魅力化の取り組みを教えてもらいました。
まずは、有名進学塾と連携した勉強合宿や公務員試験の対策といった進路にまつわる学習指導。食費だけで入れる学習寮に、帰省や部活動にかかる費用の補助。海外短期留学の実施もしています。それに加えて只見ならではの自然体験アクティビティなどいろんな環境を用意してきたそう。

「今は寮に入りきらないほど留学希望者がいまして、増設してるところです。今後は1学年20名ずつの留学生を受け入れていこうと思っています」
なんだか十分魅力化の効果は出ている気がする。ここに公営塾を上乗せする意味はどこにあるんでしょうか。
「そうですね。ただ、地元の子は減っていってるんです。もうちょっと受け入れをしていかないと」
「大きな理由の一つに、只見には学習塾がないんです。大学進学を希望する地元の子は学習環境の整った進学校に通学するために、会津若松市内に下宿する子もいる。そういった子も地元で希望の大学へ進学できるように、勉強のサポートもしていきたいなと」
各学年2クラスしかない只見高校は、4年制大学や専門学校への進学者、就職希望者が一緒に授業を受けることもある。そのため習熟度別の授業を行なうなど、学力の底上げができるような取り組みも地道にしてきたそうだ。
ここからさらに、只見の子どもたち一人ひとりに合わせた学力を高める場所を提供したい。
高校での日々の学習の助けとなるような公営塾の構想は只見町の中では数年前から生まれていたそう。ここに、“高校魅力化”を全国で進めている団体PrimaPinguinoが加わることで、今回公営塾が形になることになった。
魅力的な公立の塾というのは、一体どんなものになるのだろう。
教育次長の増田さんにもお話をうかがいます。

「個別学習」に「課題解決」と「地域学」。普通の塾では並ばないキーワードが出てきました。
どういうことでしょう。
「個別学習というのは自立型学習。好きな時間に来て好きな時間まで勉強をするといった感じです」
「課題解決型学習の方は『今週は○曜日にやります』といった形で、町で話を聞いて見つけてきた課題、それを解決するにはどうしたらいいだろうとか、そういったことを考える時間です」
今回募集している塾のスタッフは、教科学習に対しての指導が主になる。生徒からの質問に答えたり、学習のアドバイスをしたり。生徒に足りていない学習を補ってあげるような、只見高校の先生と連携した指導をして欲しいそう。
地域学の指導にはPrimapinguinoのスタッフが担当することになるけれども、ときには地域学を手伝うこともある。塾全体で大学のゼミのような雰囲気を目指しているそうだから、生徒からいろんな相談を受けることもあるだろうし、とても距離感の近い付き合い方になると思う。
増田さんは今年で勤続25周年。生まれも只見で、子どものころからずっと地域のことを見てきました。
「夏休みとかは川で遊んだりしましたけど、最近はそういう子どもも少ないね。今はスキーする人も減ってしまって」
「人口は今4500人程ですけど私が学生のころは7000人くらいいました。今1年間で100人ずつくらい減っているんです。それは高校卒業したらみんな地元から出て行ってしまうから」

ただ、この問題を子どものときから考える機会をつくれば、なにか変わっていくのかもしれない。
「地域の問題を公営塾の中で考えると、じゃあ自分が大学に行って何を勉強するかといったときに指針になったりするでしょう」
「生徒が社会に出たときに課題を解決しようとみずから考えて、困難を乗り越える力も身につけられるといいな」
塾というと、偏差値を上げるためだけの場所というイメージがあった。けれども公営塾が目指しているのは、それだけではない。
いつか地域の問題を解決できるような大人を育てること。進学がそんな大人へのステップになるといい。
「一度はここを出たとしても地域に戻ってくる。そんな“ブーメラン人材”を育てたいな」
町のことを考えた記憶は、きっと大人になった生徒の目を只見町に向けるきっかけになると思う。それは地元の生徒、山村留学生も同じこと。
公営塾が育てているのは、生徒たちの只見町への愛着のような気がします。
最後に教育委員会で、酒井さんとともに高校振興の仕事をされている末谷さんにもお話しを伺います。末谷さんは、地域おこし協力隊として現在3年目です。

「高校生一人ひとりに町の教育委員会が声をかけ、進路や部活動の話をしたりするんです。この町は教育委員会であっても生徒と触れ合うことが非常に多いと思います」
只見高校魅力化のための振興事業の運営は、学校の先生たちと連携して進めている。イベントは教育委員会も主催するため、只見高校の生徒たちとの距離感はとても近い。
「高校に行くと、先生でもないんですけど『末谷さん今日どうしたんですかー』って子どもたちが普通に声をかけてくれる。これって普通の町ではないことだと思います」
末谷さんは今、山村留学生たちの住む寮で一緒に生活をしているそう。自治組織をつくらせてみたり、その運営費をかせぐための農園も生徒たちに管理させている。それは同時に、地域の耕作放棄地を活用するという勉強にもなっている。
生徒たちの“お兄さん”のようだという末谷さん。
どんな人に来てもらいたいか聞いてみます。
「生徒を怒れる人。ほめるのは誰でもできるんだけど、怒ることってすごく難しい。しかも怒りっぱなしではなくて、そのあとのフォローまでできる人。ここでは、ただ勉強を教えればいいということではないので」
ときには距離が近すぎて疲れてしまうこともあるようだけれど、生徒を大切に思う気持ちが伝わります。
取材後、教育委員会の建物を案内してもらっていると、ある部屋で小中学生向けのサマースクールの準備をしていました。
只見町では、夏休みのあいだ只見高校や福島大学の学生をアルバイトとして雇い、地元の子どもたちの先生になってもらっているのだそう。

すでにいろんな魅力化がはじまっている只見町で、町の未来のための人を育くむ。気になる方はぜひ応募してみてください。
(2016/9/24 遠藤沙紀)