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渋谷の街中を歩いていると実感しないけれど、2050年には日本の総人口が1億人を割り込むそう。「人口減少社会」といわれるなか、定員割れによって統廃合を迎える高校は多い。
とくに中山間地域や離島で唯一の高校が消滅すると、地域力は大幅に低下してしまう。外へ出る子どもや家族にとっても、精神的・経済的な負担が掛かってしまう。
存続が危ぶまれる状況から、一躍全国から生徒が集まる人気校に。そんな大復活を遂げた高校が島根県海士町にあります。
隠岐島前高等学校。
地域活性化の一翼を担う高校づくりとしてスタートした隠岐島前高等学校の「高校魅力化プロジェクト」は全国に知れ渡り、いまでは日本各地へ広がっています。
今回の舞台は、瀬戸内海に浮かぶ離島の高校です。
広島空港からバスで竹原港へ移動し、大崎上島へはフェリーで25分ほど。
古くから造船や海運で栄え、いまも大きな船をつくる造船所が島内各地で続いている。温暖な気候に恵まれ、柑橘の栽培も盛んな島。
人口は約8000人。25年前とくらべて約3分の2に減少している。
この島にある大崎海星高等学校でも生徒数が年々減少。統廃合の兆しが見えていた。
「島に高校がなくなることで、確実に島は衰退していく。なんとしても島に高校を残さないといけん。話し合いをしても、なかなか出口が見えなかったんですね」
大崎海星高等学校の学校長、大林さんです。
様々な方法を模索するなか、大林さんは株式会社Prima Pinguinoの藤岡さんと出会う。
藤岡さんは、島根県海士町にある隠岐島前高等学校の高校魅力化プロジェクトに中心メンバーとして参画した方。現在は高校魅力化プロジェクトを全国各地に広めている。
高校魅力化プロジェクトは3つの柱からなる。
「その地域でしかできないカリキュラム」「教科学習とキャリア教育を受けられる公営塾」「人との出会いと気づきがある教育寮」。
この3本柱を軸に、それぞれまったく環境の異なる各地に合わせてローカライズ展開している。
大崎海星高等学校では町との連携のもと、高校魅力化プロジェクトが今年6月にスタートした。
「ここには離島ならではの宝物がいっぱいあるんですね。それらを教材として、子どもたちに島のよさや課題を知ってもらう。そして、これからの時代に必要とされる21世紀型のスキルを身に付けてもらおうと」
「最終的には、この島に帰ってきてもらって、島に貢献できる人材を育てていこうという大きな目標のもと、『大崎上島学』を高校で組んでいます」
もともと大崎上島は平家の落人が住み着いた島。その子孫が刀鍛冶、造船、海運など、時代に合わせて生業を立たせていたという。
そんな島の歴史をひも解いて「大崎上島学」というカリキュラムはつくられた。
時代の流れを読み解く「潮目学」、自分の得意なことや指針を持つための「羅針盤学」、プレゼンテーション・ファシリテーション・チームビルディングを学ぶ「航界学」の3つに分かれる。
「大崎上島学」は島全体がフィールド。校外へ飛び出て、地域の福祉施設に数日間インターンシップしたり、島の医療問題について提言して地域の方からフィードバックをもらう課外活動も行なったりした。
プロジェクトがはじまってまだ間もないけれど、生徒たちには変化が生まれているという。教員の石井先生はこんな話をしてくれた。
「商工会が主催で『島の仕事図鑑』というのをつくられたんですね。島にUターン・Iターンしてきた28名の方の紹介を通じて、島にはこんな仕事があると知ってもらうためのパンフレット。その28名の方のインタビューをうちの生徒8名が行かせてもらって、そこで生徒が変わったんですよ」
「デザイナーの方やシェアハウスをしている方もいて、『こんな人がいて、こんな仕事があったのか』と驚きの連続だったと思います。自分の気持ちをうまく表現できなかった子も、プレゼンテーションが上手になったりして。こういうことを機に、だんだんと『活動に参加したい』という生徒が増えてます」
大崎上島学での活動やカリキュラムを通して、生徒たちは答えのない世界で自らの答えを紡いでいくことを学ぶ。“21世紀型スキル”が身に付く高校を目指している。
高校魅力化プロジェクトは、日本の高校教育に変革をもたらす新しい取り組みでもある。慣れない形に、はじめは抵抗感を抱く先生が少なくなかったという。
石井先生もそのひとりだった。
「それでもやらないと。進めていくしかない。自分の出身校がなくなってしまった子が、どんどん増えているんですよ。『あなたたちが卒業した大崎海星高校はここにあるよ』って何年先になっても言えるように、僕らがしてあげないと」
生徒や教育のことになると、静かに熱く語り出す石井先生。
自分の学校にこんな先生がいたらうれしいだろうな、と素直に感じた。
「神峰学舎(かんのみねがくしゃ)」と名付けられた公営塾は、高校・自治体・地域住民と連携して教科学習とキャリア教育を行なっている。
スタッフは2名。どちらも島外からやって来たという。
「ふたりとも教育の現場にたった経験はありませんよ。教科学習の基礎知識は必要ですが、高校の教員も指導に入るのでサポートできる。経験よりも、地域のことやキャリア教育に興味があるとか、気持ちのほうが一番かなって。公営塾のふたりとも、熱意がすごいですよ」
公営塾の講師のおふたりを紹介いただいた。
写真左から、宮本さんと永幡さん。
今回募集する職種のひとつが、公営塾の講師。大崎海星高等学校の高校活性化策をお手伝いしたり、PR活動にも携わる。
宮本さんや永幡さんと同様に、大崎上島町の地域おこし協力隊として働くことになる。
宮本さんは22歳、永幡さんは25歳。ふたりとも若さを感じさせない落ち着いた雰囲気。話すととても明るい人たちで、親しみやすいと思う。
公営塾スタートから約半年、宮本さんと永幡さんが中心となって形づくってきた。
「学校の方も役場の方もわたしたちも、そもそもここにあるべき公営塾というものがどんなものなのか言語化できないところからはじまったんです。人手も足りない状況で、まずははじめることで、塾の体制を整えていこうと」
公営塾の基盤となる個別指導の教科学習を週5回まわせるように。
続けて、キャリア教育にも注力した。
公営塾では、高校の「大崎上島学」と連動した「夢☆ラボ」というキャリア教育プログラムを設けている。
マシュマロチャレンジといって、限られた道具を使っていかに高い塔を建てるかというチームビルディングのゲームをしたり。ある大学の法学部の学生と教授が島に来たときは、島が楽しくなるような条例を高校生が考えてチームで提案したり。
「夢☆ラボがあることによって、いままでの教科学習では活躍できなかった子が輝ける場所ができているんです」
今後はブラッシュアップを重ね、高校との連携強化のため仕組みを体系化していくという。
宮本さんは公営塾での業務以外にも、島で積極的に活動を行っている。
島の造船会社3社の協力を得て、協力造船業界の魅力の伝え方を考える「造船の島のアイディアソン」という3日間のイベントを決行。地元の人から実現不可能と言われた企画を成功させた。
昔から職人に興味があったという宮本さん。韓国・ドイツ留学を経て、「匠の島」として知られるこの島で、職人をひとつの切り口として何かできないかと思ったそう。
宮本さんは「造船の島のアイディアソン」のような活動が、これから大崎上島学や夢☆ラボに活かせないか考えているという。
一方、永幡さんは高校生のころから教育の現場に携わることを考えていた。広告代理店で1年働いたのち、公営塾事業に参画した。
「わたしたちができることは、環境を整えてあげることだと思っていて。勉強を教えたいとか、難しい問題を解けるようにしてあげたいという気持ちもあるんですけど。一番必要なのは、そこに行くまでのやる気スイッチを見つけてあげるとか、一緒にがんばろうって背中を押してあげることだとか」
「これなら頑張れそうっていうのが見つかると、子どもたちってどんどん進みはじめるんですよね。『自分はこれがやりたい!』って」
自分たちが本気で取り組んでいると、生徒たちも不思議と応じてくれるという。
「一緒にがんばろうと通じ合える瞬間があったりする。そんな子どもの反応を見るのが、すごく好きです」
まだまだスタートアップということもあり、やれることは山ほどある。なかなか多忙な毎日だという。
また、地域おこし協力隊は様々な企画を実現させるために、高校・地域住民との調整を行うことになる。地域のために思うことは人それぞれで、難しい面もあるという。
任期は最大3年間。時間も限られているなか、この仕事の先には何があるのだろう。
そう聞いてみると、ふたりは「ひとつのモデルをつくるということ」と答えてくれた。
「新しいことなので、分からないことだらけだと思うんですね。いまやっていることが果たして正解なのか、3年後になってみないと分からない。それでも自分の想いを持ってやってみたいとか、新しいことにチャレンジしたいとか。そんなバイタリティーの溢れる方だと楽しめると思います」
「想いがあるのに発揮できてない人とか、踏みとどまっている人とか、くすぶっている人が来たら思い切りできる場所かなと思ったりします。本当に自由なんですよね。『これやりたいです!』って提案したら、すぐに動き出すことが多くて」
めまぐるしく毎日が過ぎていくなか、ふと外を眺めると、島の自然豊かな風景が広がっている。
大崎上島での生活も、ふたりは楽しんでいる様子でした。
「観光の島じゃないんですよね。『この人に会いに行きたい!』っていうのがたくさんある島。そういうのがすごく好きだなって」
きっと仕事も生活もチャレンジの3年間になると思います。
不安を感じるよりワクワクするような方に、ぜひ飛び込んでほしいです。
(2015/12/1 森田曜光)