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最西端から最先端へ
半島の先端で希望を掴む

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

学びたいことを見つけて進学するか、社会に出て自立するか。

振り返ってみれば、高校で過ごす3年間は大人に向けて一歩踏み出す大事な時期だったと思います。

そんな繊細な時間を過ごす高校生のために、自分たちは何ができるだろう。それぞれの立場で、真剣に向き合う大人たちに出会いました。

四国の最も西の町、愛媛県・伊方町(いかたちょう)。

美しい海と緑に囲まれた町にあるただ一つの高校が、今回の舞台です。

県立三崎高等学校。およそ70年の歴史を持つこの学校は、年々生徒数が減り続け、近い将来なくなってしまう可能性をはらんでいます。

三崎高校をこれからも地域の学び舎として残したい。

そんな想いのもと、町と高校が共同で一昨年の春に立ち上げたのが、公営塾「未咲輝(みさき)塾」。三崎高校の生徒のために、学習サポートやキャリア教育を行う場です。

今回は、この塾の講師を募集します。


松山空港から車を走らせること2時間ほど。

景色はだんだんと緑豊かになり、遠くに海も見えてきた。三崎高校は佐田岬半島の先端の高台にある。

到着したのはちょうど放課後。

生徒たちは、廊下に集まって話したり、部活道具を持ってグラウンドに走っていったり。

自分の高校時代を思い出して、懐かしい気持ちになる。

未咲輝塾の教室は、校舎の3階にある。

迎えてくれたのは廣橋さん。塾の講師として、立ち上げから関わっている。

愛媛大学を卒業したのち、故郷の九州で働いていた廣橋さん。次のステップを考えていたところで、この仕事を見つける。

「資格を取っていたこともあって、教員や塾の先生もいいなって。伊方は何度か通ったことはあるけど、あまり深く知らなかったです」

「ただ、公営で塾を立ち上げるなんてやる気に満ちた町だなと思いました」

校舎の中にある未咲輝塾は生徒にとっても身近な存在。今では全校生徒の3分の1にあたる40人ほどが通っている。

生徒の目的はさまざまで、勉強の習慣をつけるために通う子もいれば、進学を考えて通う子もいる。

生徒が負担なく通えるように、今は基本的に自習スタイルをとっている。

学校の宿題やテスト勉強を自分で進めて、わからないことがあれば講師に質問。入試本番と同じ時間で問題を解いたり、定期テストの対策授業を開いたりすることもあるという。

「着任するまでは学校の先生みたいにずっと教壇に立つイメージだったんです。でも実際は学力の幅がかなり広いので、授業形式では一人ひとりに力がつきにくいんですよね」

「全員の学力を底上げしていくことを考えれば、一人ひとりに合わせた指導が一番。でも、なかなか難しいですね。同じように説明をしても『もう知ってるよ』って笑う生徒もいれば『はじめて知った』って驚く生徒もいます」

主に国語や世界史を担当している廣橋さん。テスト対策として、生徒の苦手に特化した教材をつくることもあるそう。

「どうしても単語が覚えられない生徒には一つひとつ説明して、テスト直前にオリジナルの問題集をつくるんです。それでテストの点数が50点も上がった生徒もいて。うれしかったですね」

月に一度、塾生全員と面談をするのも未咲輝塾ならではの取り組み。

「悩みを聞いたり、進路のアドバイスをしたり。自分に自信を持つきっかけになればと思って、自分の長所を周りに聞く宿題を出したこともありました」

「ただ、直接成績に結びつかない取り組みには、生徒から『これって意味あるんですか?』って聞かれることもあって。そう思われるのもしょうがないと思うんですけどね」

でもそういう経験って、大人になってから自分の支えになることもありますよね。

「そうですね。今ここでやっていることの意味って、すぐにはわからないかもしれない。それは読書と似たようなもので。あとから振り返ったときに、その子のためになることをしていきたいと思っています」


ここで「こんにちは」と元気に扉を開ける声が。

声の主は三崎高校の羽田先生。明るくはきはきとした方で、廣橋さんたちとも気さくに会話する姿が印象的。

三崎高校に勤めて4年目。塾と高校とをつなぐ窓口も担っている。

「生徒の学習時間を調べると、塾ができてから圧倒的に増えていました。勉強する雰囲気ができて、学校の雰囲気もさらに落ち着いた感じがしています」

「塾ができると聞いたときから、本当に楽しみにしていたので。もともと意識の高い先生たちが集まっている学校だから、うまくいけばいろんな取り組みが生まれて、高校の存続にもつながっていくんじゃないかって」

というのも、もし3年後までに新入生が41人以上にならなければ、三崎高校は近隣の高校の分校化の対象となってしまうことが決まっている。

そうなれば学校も徐々に小さくなっていき、いずれは廃校になってしまうかもしれない。

「生徒たちもなんとかしたいと、いろんな取り組みをはじめていて。たとえば今年は、プロのカメラマンや映画監督に手伝ってもらいながら映画をつくって、町で上映会をしたんですよ」

中心となったのは、総合学習の時間に生徒たちがつくった「せんたん部」。

進路や恋愛に悩みながら、まちおこしのチームをつくっていくという、フィクションとノンフィクションを織り交ぜた恋愛映画を撮った。

「制服のまま海に飛び込んだり、放課後に集まったり。学校や町をPRしようと必死になってつくったものを大勢のお客さんに見てもらえて、自信になったと思います」

「最初この学校に来たときは、ちょっと大人しすぎるくらい静かな学校だと思ったんです。けれどこの数年間で、生徒はちょっとずつ変わりはじめている。なんとかその芽を残したいと、僕たち教員も強く思っています」

生徒にとっていい学びを提供できたら。その思いは塾も学校も同じ。

「ただ、高校のなかに塾がある以上、塾の先生たちも私塾とは違う難しさを感じていると思うんです。当然気を遣わせてしまうこともあるだろうし、何もかもすぐ動けるわけでもない」

「ただ、連携ができないと生徒たちを困らせてしまいます。塾の先生が働きやすいようにバックアップはちゃんとしたい。それに塾は、僕ら教員ではなかなかつくれないチャンスをつくってくれているんです」

昨年の秋には塾スタッフのつながりで、オランダで開かれた世界ユースサミットに塾生を派遣。

世界190ヵ国以上の代表が集まり、人権や環境保護など世界的な問題を考える場に、最年少として臨んだ。

「そんな場に出られるなんてそうそうないことですよね。塾の先生たちがそれぞれのつながりを使って生徒の幅を広げてくれているのは、本当に嬉しいです」


まさにそんなふうに生徒と関わっているのが、長瀬さん。

海外で働いたのち、未咲輝塾の講師として半年前にやってきた。

「学生時代はアルバイトで貯めたお金で、よく海外に行っていて。その縁で卒業後はフィジーの語学学校のカウンセラーとして働きました」

さまざまな文化と触れ合うなかで、日本の文化や地域性を知りたいと考えるように。一度日本でも働いてみようと、塾の募集に応募する。

生徒の第一印象はどうでしたか?

「そうですね…すごく大人しいなって。ルールを破る生徒はいなくて、大人の言うことにしっかりと従う。自習もすごく上手です。そのぶん、自分の意見を主張するのは苦手な印象が強かったかな」

「僕が『これをやって』って言ったら、きちんと守るような純粋な生徒たちです。でもそれはやっちゃいけないなって。それは僕が本当にやりたいことではないので」

本当にやりたいこと。

「生徒自身がどう思っているのかを口にしてほしいんです。こちらから答えを提供するんじゃなくて、彼らで考えて行動してもらいたいなと」

たとえば、と教えてくれたのがある女子生徒のこと。

K-POPが大好きだという何気ない会話から、実は高校生のうちに韓国に行きたいと打ち明けてくれた。

とはいえ、高校の第二言語は英語だし、韓国に知り合いもいない。周りに韓国に行ったことのある人もおらず、現実的ではないと諦めかけていたそう。

「それなら、と僕の知り合いの韓国人とその子をskypeで繋いでみて。ハングルや現地の治安、物価についても教えてもらいました。『本当に食べ物が辛いんですか?』とか、生のやりとりをしていましたよ」
生徒にとってもはじめての機会。照れながらも楽しそうに話していたという。

「好きなことだから当然興味もあって、どんどん質問していました。直接お礼を言うのは恥ずかしかったようで、終わったあとに黒板に感想を書いて送っていました(笑)」

早く韓国に行きたいと、方法を一緒に考えるように。語学学校なら夏休みに行けると知り、パンフレットも取り寄せ、留学エージェントに電話もした。

「もし本当に行くとなったら、英語が必要だから授業もより真剣になるかもしれないし、日本とのつながりを知りたくなって歴史にも興味を持つかもしれない」

「K-POPでも漫画でもアイドルでも。興味を持ったことから学んで力をつけたほうがきっと力になるし、何より学んでいて楽しい。塾は好きなことを学べる場にしたいですね」

机に向かうだけでは得られない学びの形。

長瀬さんは、そんな場をつくりはじめているように感じる。

「いや、不完全燃焼なのが率直なところですよ。今はどうしても自習がメインで、こうした形の学びはあまりできていません。僕がやりたいことを押し付けてしまっては生徒の負担になるから、踏みとどまっている部分もあって」

「ただ、やりたいことはやれる環境にあると思っています。新しく来る人や高校の先生ともちゃんと話し合いながら、塾の方向性もあらためて考えたいですね」


取材に伺ったのは、塾のオープンからもうすぐ8ヶ月というタイミング。

講師の皆さんや学校の先生は、それぞれ試行錯誤しながら前に進んでいる。

その姿を「本当に頼もしい」と話すのは、町長の高門さん。

「三崎高校は、この町にたったひとつの高校ですから。人が減り続けるなかでほぼ唯一の希望がこれからの若い人たち。教育に力を入れていくのは当たり前なんです」

塾がはじまって、地域の人からいい評判を聞くこともある。その追い風に乗って、もっと多くの人に三崎高校を知ってもらおうと、昨年から生徒の全国募集もはじめた。

それでもやはり、近い将来に分校化は起こってしまうかもしれない。

「正直、甘くはないんです。でも私たちは、学校も塾も頑張っていることを知っているから大事にしていくことに変わりはない。当然、塾もそのまま残します」

「いい種をまいてもらったから、町全体でいい方向に伸ばしていきたいと思っています」

はじまったばかりの未咲輝塾。少しずつ形になってきた部分もあれば、これから変わっていく部分もあると思います。

分校化など、学校を取り巻く状況は甘くないかもしれない。それでも生徒のためにできることを考えている大人がいるこの塾は、大切な場のように感じました。

(2018/12/6 取材 2019/9/13 更新 遠藤真利奈)
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