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今回の舞台は、北海道の北部に位置する羽幌町です。この町から西方24kmの位置に、日本でも有数の自然豊かな2つの島があります。
天売島(てうりとう)と焼尻島(やぎしりとう)です。
天売島は人が住む島の反対側で、絶滅危惧種のオロロン鳥やウトウをはじめとする海鳥が100万羽も生息しています。海鳥と人が共生する、世界中を探してもなかなかない島です。
焼尻島は、島の3分の1が多種多様な天然記念物の原生林で覆われている緑豊かな島。この島にある牧場でのびのびと育った羊の肉は国内最高峰と言われ、日本有数の高級レストランから注文が来るほどだといいます。

子どものため、島のため。何とかして島の未来をつなげようと立ち上がった大人たちの姿がありました。
天売島唯一の高校の存続を目指して、島外から入学生を呼び込む。今回は、その生徒募集業務を担当する人を募集します。
天売島と焼尻島で高齢者支援などの福祉業務を担当する人も募集するので、こちらに興味のある方もぜひ読んでみてください。
札幌駅前のバスターミナルで高速バスに乗り込む。ここから約3時間かけて日本海沿岸を進んで行くと、羽幌町に到着します。
町役場で話をうかがったのは、羽幌町教育委員会の春日井さん。

島で唯一の高校がなくなると、子どものいる若い世代は外へ出て行き、いっそう若い人が島からいなくなってしまう。人口減少もより加速していくといいます。
「とにかく働く世代がいなくて。除雪してくれる人や介護にあたる人も、だんだんと高齢化しているんです。島に通じる船は冬になると1日1便に減って、天候によっては出航すらできなくなる。陸にいる福祉サービスをする人が島へ行くことも難しいです」
そんな状況から、羽幌町では地域おこし協力隊を受け入れ、これまで4名の協力隊員が活動してきました。

だからこそ豊かな自然や本土とは異なる人情の厚い文化が今も残っているといいます。
春日井さんは数年前、天売島に2年間赴任していました。
「すごい心地よかったですね。島内で会う人は、みんな顔見知りになるし。とくに時間がゆっくり流れている感じが最高でした。」
島にはお店が少なかったり、トイレが水洗ではなかったり。いろんな不便はあるけれど、春日井さんは「このまま島に住み続けたい」ほどだったそう。
町役場をあとにして、羽幌港へ。
フェリーに乗って約1時間半で、天売島に到着します。
天売島で100万羽の海鳥が見られるのは夏のシーズン。人が住む島の反対側に世界でも希少な海鳥たちが巣をつくり、夕方になるとヒナにエサをやるため親鳥たちが一斉に島へ飛んで戻ってくる。
そんな光景を目にしようと、毎年1万5千人ほどの観光客が天売島を訪れるといいます。

島で運送業を営む齊藤さんは、こう話します。
「何百何千とある島々のなかでも、天売島にしかないものがあるんですね。けど、冬場には観光客が来なくて仕事が減るし、小さい島では新しい仕事もつくりづらい。人は減っていくし、小中学校では1人も生徒がいない学年ができちゃったりして」

島の地域課題の解決法を探るために、勉強半分でどこかに旅行へ行こう。せっかくなら天売島と同じ離島で、いま盛り上がっているところがいい。
訪れた先が“高校魅力化プロジェクト”で成功していた隠岐諸島の海士町でした。
高校魅力化プロジェクトは、高校に特別なカリキュラムや公営塾を設けることで地域外から生徒を呼び込み、地域活性化につなげようというもの。
廃校の危機に直面していた海士町唯一の高校は全国から生徒が集まる人気校になり、地域活性化の一躍を担う教育改革の先進事例として全国から注目されています。
天売島でも、地域の特色を活かした高校の魅力づくりができるのではないか。
齊藤さんは仲間6人と一般社団法人「天売島おらが島活性化会議」を立ち上げ、天売高校に働きかけて高校の魅力化がスタートしました。
「高校魅力化について島でディスカッションしたとき、夏の繁忙期なのに40人も島の人が集まってくれたんですよ。みんな高校の存続に関心があるんです。『外から生徒を呼び込むのはいいけど、誰が子どもの面倒を見るんだ!』って怒っていた旅館の旦那は、いま下宿先になってくれていて」
「昔からそうだったんですよ。過去にも廃校の危機があって、そのときは若い頃に高校に通えなかった年配の方が入学してくれた。子どもと同じように文化祭もして、修学旅行も行って。そうやって繋いできたんだよね、いままで」

チャレンジすることのほとんどは失敗だといいます。それでも島の将来のため、齊藤さんをはじめ天売島おらが島活性化会議の人たちは本業のかたわら無償で活動しています。
「何もしなくても食べるには困らないんですね。けど、やっとけばよかったって後悔したくなくて。少なくとも、子どもたちが自慢できる島にしたい」
「ここは街灯もないし周りが海だから、きれいな星空が水平線ぎりぎりまで見えるんですね。そういうのも島で育った僕らは『ああきれいだな』くらいにしか思ってなかったけど、島に来た人は『めちゃくちゃ星がきれい!』って喜ぶんですよ。そういうのを島の子どもたちにも見てもらって、何か感じて、自分の島を自慢できるようになってほしいなって」

地域の人や島外の人を講師に迎えて講義してもらう授業。これまで漁師さんに島の漁業の変遷を教えてもらったり、島にある海鳥研究所にやってくる大学院生に海鳥の研究を発表してもらったりしたそう。
今年3月まで天売高校の校長を務められていた田尻さんに、天売学について聞きます。
「いろんな人と話すことによって価値観が広がったり新たな目的ができたりするので、いい機会になると思うんです。それに、生まれ育ったところだからこそ意外と知らないことがたくさんあるんですよ。天売学で実際に海鳥を見ようと船に乗ったら、島で育った生徒たちは『はじめて見る』って。でも見たら、やっぱり感動しているんですよね」
「こういう授業をしながら、生まれ育った地域のことを知って、愛着を持ってもらうことが大切なのかなって。自分の生まれ育った島を知ってから、外へ出て行ってほしいです」

漁業後継者育成のため、ウニの缶詰やスモークサーモンなど、水産物の加工を行なう授業です。
また全校生徒数は一桁台。そこに10人の先生がいるため、少人数の環境で学ぶことができます。定時制の高校だから夜は高校で学び、昼は働くことができる。
つまり、この島にとって生徒は重要な働き手でもあります。学校の先生たちも島の人に比べればうんと若いから、島の人たちにとても頼りにされている。
「神輿の担ぎ手は生徒や学校の先生がほとんど。ウニ祭りでも、小中学校の先生は焼き係、高校の先生は販売係と決まっているんですね。地域に深く根付いているので、市街地のほうで学校が統廃合になるのとは訳が違うんです」
「ほかにはなかなかない学校だと思います。何とか残したいというのが切実な思いです」

さらなる生徒数の増加を目指し、今回生徒募集業務を担当する協力隊を募集します。入学者数によって高校の未来が決まるといってもいいほど。責任は大きい仕事だと思います。
具体的にやることは、天売高校の魅力をまとめて発信したり、その情報をもとに道内主要都市の中学校を訪問して広報したり。
「特徴のある地域なので、どんな生徒も合うわけではないと思うんです。来て早々に中学校訪問をしていただくのですが、まずは島ことを理解してもらうことも必要で」
昨年この業務を担当していた協力隊の方は、島の人たちを一軒一軒まわり、話を聞いて理解するところからはじめたそう。
高校や島の魅力を伝えるために必要なことは何でもチャレンジしてほしいといいます。裏を返せば、やることが決まってない。能動的に動ける人でないと難しいかもしれません。
「ただ業務自体はそんな難しくないと思いますよ。どんな仕事でも働いた経験のある人がいいですね。生徒の仕事についての悩みや人間関係の悩みも聞いてあげられると思うので」
「こういう島なので学校の先生は島外に何度も出ていけないんですね。協力隊の方はアクティブに動ける環境だと思いますので、何とか来ていただければ。いろんな行事にも参加して、地域の一員としてとけ込んでいってほしいです」

今回募集する人も、すでに天売島を訪れて知っていたり、島暮らしが好きな人がいいと思います。
天売島で活動する地域おこし協力隊の宇佐美さんは、天売島が好きになれる人に来てほしいと話していました。

もうすぐ3年の任期を終える宇佐美さんは、島に住み続けることを選びました。観光ガイドやゲストハウスなど、今後に向けて仕事づくりをはじめています。
「大変なんですけどね。不安もある。けど、のびのび暮らせるというか。ちょっと疲れても、展望台に行って海の景色や夕陽を眺めていたら疲れも吹き飛ぶんです。そういうところがいいんですよね」
「島民向けにシーカヤック体験を行なったとき、今まで島に住んでいる人でも『天売の海ってこんなに綺麗だったんだ』と再認識してくれて。天売島を訪れるお客さまにも『日本にもこんなに素晴らしいところがあったんだ』と言ってもらえるようになるのが目標です」

自然や海鳥で知られているけれど、都会の街中ではあまり感じられない人の温かみがあるのもこの島のいいところなんだと思う。
そんな島で高校の魅力づくりに携わり、島の担い手を増やしていく。島の将来を紡ぐ仕事だと思います。
(2016/4/22 森田曜光)