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自分に向いているものを見つけたり、将来の夢に気づいたり。「自分にもできるかもしれない」ってわくわくする気持ちを、子どもたちに見つけてほしい。
きっとそれは、日々の行動を変え、未来をつくっていくものだから。
勉強だけじゃない、あたらしい教育にチャレンジしてみたい人はいませんか。
舞台は、新潟県阿賀町(あがまち)。
人口1万2000人、高齢化率45%という、少子高齢化の進んだ町です。
教育と過疎化は、とても密接です。
もしも学校がなくなれば、子どものいる家庭は町から出て行ってしまい、さらに過疎化が進んでしまうから。
そこで阿賀町では、教育から町を盛り上げる「高校魅力化プロジェクト」を導入しました。
「高校魅力化プロジェクト」のモデルとなったのは、島根県・隠岐島前高等学校。
一時は統廃合の危機にも面していた高校でしたが、地域を活かしたカリキュラム、学校と連携した公営塾、そして、県外からの学生を受け入れる教育寮という3つを柱とした取り組みで、国内外からも生徒が集まる人気校になりました。
このプロジェクトは、教育から町を元気にする取り組みとして、広島や沖縄、長野など全国に広がっています。
阿賀町では昨年導入を決め、9月に公営塾「黎明学舎」がスタート。
学校でも家でもない公営塾は、自分を見つめられる場所になりつつあります。
こんな教育が、これからのスタンダードになっていくとしたら。ここでの経験は、自分の未来をつくることになるかもしれません。
黎明学舎の4人目のスタッフを募集します。
プロジェクトの今を伺うため、阿賀町を訪ねました。
新幹線で、新潟駅へ。そこから車で一時間ほどで、山々に囲まれた阿賀町にたどり着いた。
町の真ん中には、一級河川・阿賀野川が流れる。
昔からボートがさかんで、選手も輩出している町。新緑や紅葉の季節には、川下りのお客さんでにぎわうそう。
はじめにお会いしたのは、教育委員会の教育長を務める清野さん。「高校魅力化プロジェクト」を町に導入した方です。
ニコニコしていて、お話も楽しい方。もともと、小学校の校長先生をしてらっしゃったそうだ。
「おととし教育長に就任したとき、町唯一の阿賀黎明高校は、年々入学者が減って、このままいくと統廃合の可能性も出ていました。地元の子どもを地元で育て、ここで活躍してもらう。そのことを町として放棄してはいけないと感じていました」
町の子どもたちは、6割が町外の高校を選ぶそう。
「黎明高校は『進学校という雰囲気じゃない』『人数が少ないから競争心が養われない』という印象があり、選ばれる理由がなかったんですね」
解決の糸口を探していたとき、県の議会議員の方から「高校魅力化プロジェクト」を進める株式会社Prima Pinguinoの代表である藤岡さんを紹介してもらい、講演会に招いた。
「講演会をお聞きして、これだ!って気持ちと、本当にできるのかな?という、どちらの気持ちもありました。けれど、これまでのやり方で変わらなかったんだから、この道をいくしかない。そんなふうに思って進めてきました」
自ら説明会を開いて、町のいろんな方に説明を重ねてきたという。
そして昨年、3人のスタッフを公営塾「黎明学舎」の運営のために迎え入れた。
スタッフとともにヒアリングやコンセプトづくりから携わり、昨年9月にスタート。現在、半年が経ったところ。
「この間の中学生の進路相談のときには『黎明学舎があるから黎明高校に入りたい』という中学生がいたんです。成果はあったと思います。わたしはスタッフに来てもらってよかったなあと思っています」
黎明学舎はどんな場所なんだろう?
塾長の川田さんにお話を聞いてみる。
以前は、人材採用会社で働いていたそう。企業の新卒採用の手伝いをする中で、学生が周りの価値観に合わせて会社を選ぼうとする姿を多く目にした。
自信をもって自分の価値観で選んでほしいと思っていたとき、日本仕事百貨でこの仕事を知り、すぐに飛び込んだ。
はじめは町や学校、高校生にヒアリングして歩いたといいます。
「高校生にヒアリングしたとき、一番はじめに、将来何になりたい?って聞いたんです。すると『消防士か、公務員か、介護士』って返ってきたんですね。それ以外は?って聞くと『わかりません』って」
「その3つは、町の中で多い職業なんです。おそらく、大学生やいろんな職業の人たちなど、人生のモデルケースがあんまり身近にないんですよね」
それに、とても素直な子たちだから、みんなの和を乱したくなくて、つい周りに合わせがちになってしまうそう。
「『自分はこれが好き、したい』っていう判断材料が少ないんじゃないかと思ったんです。そこで、黎明学舎のコンセプトは『チャレンジ』にしました」
「とりあえず、人に会うでもぼくらとしゃべるでも、勉強してみるでも、なんでもいい。チャレンジするから、考え方や行動の幅が広がると思います。ぼくらも積極的にそういう機会や活動を提案しています」
たとえば、Prima Pinguinoの藤岡さん、地元テレビ局の人、看護師をめざす看護学生など、いろんな人に話してもらう「人生授業」を企画したり、地域おこし協力隊がはじめたパン屋さんや、地元企業へ仕事体験をしに行ったり。
ほかには、教師を目指す高校3年の子に、先生役として下の学年に向けた授業をすることを提案したり。
生徒たちにとってピンとくるものもあれば、うーんと思うものもあるかもしれない。いずれにしても、一つひとつの体験がその子の判断材料になる。
「なんとなくこっち」と思っていたものが、だんだん「これがたのしい」に変わってくると、勉強の捉え方が変わってくることも。
「一緒に勉強のスケジュールを組んだり、勉強のやり方を教えたり。一人でもできるような、自主性を育てることを大事にしています」
塾は現在、全員で22名の生徒が通う。少ないからこそ、一人ひとりをしっかり見ることができる。
「とくに大事にしているのが、高校との連携です」
そのために、ときどき学校の授業を見に行くんだそう。
「やっぱり、普段のみんなの様子を知らないと、学舎の様子と比べることができないし、何が足りないかも分からない。逆に、先生が帰りに塾に寄って、生徒たちの様子を見に来ることもあります。先生とのコミュニケーションも、とても大事にしているんです」
続けてお話を聞いたのは、黎明高校教頭の池田先生。
担当教科は英語。「英語の楽しい雰囲気が好き」という通り、前向きで明るい先生です。
「町が黎明学舎をつくってくれて、スタッフたちが一生懸命やってくれている。本校の先生の、公営塾との連携の仕方も、だんだんうまくなっていると感じています」
この町らしいあり方ができつつあるんですね。
子どもたちは、どうですか?
「やっぱり変わりました。子どもたちが、自分たちの変化に驚きながらよろこんでいるんですよね」
「学舎に通うようになって、これまで家に帰ると携帯ばかり見てしまっていたのが、1時間でも2時間でも学校以外で勉強できるようになった。『自分もできるんだ』っていう自信がちょっとずつ積み重なって、ぼんやりと想っていたものが『実現できるかもしれない』っていう“夢”に変わっていっていると思います」
黎明学舎は、自分の好きなことを発見したり、自分の可能性を信じられるようになったり。
勉強だけじゃないことを学ぶ場になっているのかもしれない。
最後に、黎明学舎におじゃましました。
学舎があるのは、高校のすぐ目の前。
もともとセミナーハウスだったというこじんまりした教室には、いつでも質問できるよう3人の先生が座っている。
集中した勉強の時間になるまでは静かに音楽が流れていて、カフェのような雰囲気。
スタッフは3人。30代でキャリア経験のある川田さんのほかに、25歳で教員経験のある松本さんと、美大卒の女性の中野さん。
中野さんは、もともと出身の宮崎にある母校が大好きで、いつか帰るんだろうなと漠然と思っていたそう。
ひょんなことから藤岡さんのことを知り、日本仕事百貨で開催するイベント「しごとバー」で直接お話を聞いた。「地域で、教育でこんなおもしろいことができるんだ」と感動して、その日のうちに阿賀町に来ることを決めたという。
「決めたはいいけれど、よそものの自分に何ができるんだろうという不安もありました。実際に来てみるとそんなことはなくて。子どもたちにとって、わたしたちは、親や先生、友達ともまた違った、いわゆる斜めの関係性の人になれたんです」
3人はそれぞれ違う経験をしてきているから、子どもたちにとって「こういう進路も選べるんだ」という参考にもなる。
「いろんな生き方があるよ、っていうことを、行動で示せたらいいなって思っています」
行動で示す。
どんな場面なのかと思っていたら、ある男の子の話をしてくれた。
「その子は、はじめ学舎にきたとき、勉強熱心な子ではなかったんです。仲良くなっていろいろ話す中で、ある経済の本を貸しました」
彼はそれを読んで、「お金の流れは面白い、もっと知りたい」と経済が学べる学部に興味をもったそう。
「最初は『大学は県内のどこかにいければいいかな』って気持ちだったのが、だんだん真剣になってきて、大学をいろいろ調べて足を運ぶようになって。『こっちのほうが自分のやりたいことに近い』って、当初狙っていたところよりも、もうちょっと偏差値の高い大学を希望するようになったんです」
勉強も、休み時間にも集中するようになったのだとか。
「意識が変わったんだなあって瞬間を見ると、わたしたちが授業の枠を超えて教えていることが、ちゃんと生徒に響いているのかなって感じますね」
生徒たちからは「勉強だけじゃなく、いろんな企画をしてくれるのがいい」「リラックスしながら勉強にも集中できる場所」という声も聞きました。
「一方で、親御さんたちは、成績があがる塾としても期待しています。なかなか成績の結果に結びつけるところまでが、大変ですけれど」
「とくに、わたしと川田さんは教師をしていたわけではないので、英国数などの教科を教えることに関して手探りな部分もあります。もちろんうまくなるよう努めますが、教えることは学校の先生たちプロにお願いして、勉強の仕方などをわたしたちがカバーしています」
中野さんは、どんな人にきてほしいですか?
「子ども一人ひとりに向き合ってくれる人がいいです」
「それから、町ぐるみの教育なので、阿賀町にすっと入ってこれる人ですかね。この町は、子どももおじいちゃんもおばあちゃんも、みんな会ったら『こんにちは』って言ってくれる。気持ちのいい地域ですよ」
黎明学舎は、半年をかけて土壌を耕してきました。
これからの1年は、さらに変わっていくんだと思う。
みなさんと一緒に、あたらしい教育にチャレンジしてみませんか。
(2017/5/26 倉島友香)