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ミシュラン2つ星の料理人が
33年かけて巡りあった
超軟水で出汁をひく

「世界には大きく分けて3つの料理が存在すると言われています。水と、油と、乳製品。そのなかで和食は水の料理です」

「今まで33年ほど料理をやってますけど、こんだけいい水で出汁を引くってなかったので。この水を知れた喜びは大きいですね」

熊本市内で日本料理店「新屋敷 幸福論」を営み、2018年のミシュランガイド熊本・大分版では2つ星を獲得した料理人の都原さん。

次なる挑戦のフィールドに選んだのは、熊本・黒川温泉でした。

筑後川の源流域から汲んだ“超軟水”で、出汁をひく、米を炊く。顔の見える生産者と会話しながら、旬の食材を仕入れる。山菜を採りに、野へ山へ。

あるものを活かし、ないものはないと割り切って、この土地で今提供できる最高の料理を届ける。ごまかしの利かない自然のなかで、料理人として新たな境地を切り拓こうとしています。

そんな都原さんとともに働く、ソムリエと調理スタッフを募集します。

新しいお店の名前は「翔隆(しょうりゅう)」。およそ3000坪の敷地に8棟のレストランが並ぶ食の拠点「Au Kurokawa」の一角に、今夏オープンします。

飲食店経験者は歓迎しますが、必須ではありません。経験以上に、自分の強み・弱みを開示できる素直さや、食や地域に対する好奇心をもった人に来てもらいたいそう。

「味覚が鈍るので、お酒は飲まない」「水の力を最大限に引き出すため、出汁は1℃ずつ抽出温度を変化させてデータをとっている」など、都原さんは聞けば聞くほどストイックな人。料理に対しては厳しいけれど、働き方やチームのあり方についての考えはとても柔軟だと感じました。

感性をひらいて、ぐぐっと成長できる環境だと思います。

 

黒川温泉を訪ねるとき、いわゆる“温泉街”を想像しているとギャップを感じるかもしれない。

静かな山のなかに点在する、30軒の旅館。「ここからここまで」という境界がおぼろげで、観光地でありながら里山の原風景が残っている。

それでいて年間の来客はおよそ100万人と、人の流れもしっかりある。絶妙なバランスのうえに成り立っている温泉街だと思う。

日本仕事百貨で紹介した黒川の求人は、過去2年間で7本。旅館のスタッフだけでなく、各旅館が立ち上げた新規プロジェクトでの募集も多い。

Au Kurokawaもその一つ。

旅館「奥の湯」の代表で、Au Kurokawaの仕掛け人でもある音成さんにまず話を聞いてみる。

旅館に泊まりつつ、食事は近隣の飲食店でとってもらう。「泊食分離」が実現できれば、旅館の人手不足や長時間労働といった課題を解決できるんじゃないか? と考えた音成さん。

黒川周辺には朝晩に営業している飲食店がほとんどなかったことから、8棟のレストランからなるおよそ3000坪のエリア・Au Kurokawaを立ち上げた。

「8棟のうち5棟がもうすぐ埋まるので。そのうち2つがミシュラン星つきのお店っていうのは、やっぱり話題になってくれるんじゃないかなと思いますし、PRにもさらに力を入れていきたいですね」

すでにオープンしているのは、パンとコーヒーの店「Au Pan & Coffee」、熊本の養豚家・永家さんが育てた豚を味わう「豚皇」、農場直送のあか牛の溶岩焼きやしゃぶしゃぶが楽しめる「褐-aka-」の3店舗。

そこに今年の夏、ジビエフレンチレストラン「KAZANE」と、日本料理「翔隆」が加わる。いずれもミシュランの星を獲得した名店が、新たなチャレンジの舞台としてここを選んだ。

「お店を移転するって、すごい決断ですよ。今のお店についているお客さんも当然いるわけですから。出店の決断をしてもらったことにはとても感謝してますし、できる限りのお手伝いができたらと思います」

Au Kurokawaは、旅館の課題を解決するだけでなく、飲食店にとってもメリットがある場にしていきたい。

たとえば、先々の集客が読めない一般のお店と違い、ここでは旅館からの送客が基本。黒川に人の流れがある限りは安定的に経営しやすいし、営業を夜のみの一回転と決めてしまえば、スタッフも健全に働きやすい。

音成さんが代表を務める奥の湯では、すでにAu Kurokawaと連携した宿泊プランをはじめていて、予約が増えてきたところ。今後は予約システムをほかの旅館と共有し、黒川のどの旅館に泊まっても利用できるようになる。

 

翔隆の料理人・都原さんも、このエリアに可能性を感じている。

「お客さんとしても、初日は日本料理で、連泊した次の日は全然違うフレンチが横で食べられますから。ここに8棟が揃ったときは、かなりおもしろいんじゃないかなと思います」

熊本市出身の都原さん。高校を卒業後、大阪と東京で修行を積み、フランスへ。

帰国後は横浜のフレンチレストランで働き、15年前に熊本市内で日本料理店「新屋敷 幸福論」を開業した。

ミシュランの2つ星も獲得し、お客さんもついていたお店。なぜそこを一度閉めて、Au Kurokawaへの出店を決めたのだろう?

「日本だと主要都市にいいお店が集まるんですけど、フランスは真逆でした。辺鄙なところに名店がある。なんでかというと、朝からみんなで野菜を摘みに行って、それを使って料理するんですよね」

都市には便利な配送網が整っている。どんな食材も、業者に言えば必ず手に入る。

競争は激しいし、ビジネスの面では厳しい。けれど料理人としては、意外とぬくぬくできるのが都会なんじゃないか、と都原さんは言う。

「こういう田舎だと、食材もないときはない。そっちのほうが、右脳が働きやすいっていうかな。ないなりに向き合っていかないといけないっていう意味では、根幹のところからの勝負になるんですね」

「ぼくはそこにエクスタシーを感じてるんで。一周まわってこっちが最先端だと思っているんです」

半年ほど前から黒川に通っている都原さん。訪れるたび、山に入るという。

どこに、どんな山菜が生えるか。自分の目と舌でたしかめている。

お店のすぐそばに自生している山菜もあるのだとか。

「あれはワラビです。こっちは木の芽。香りがいいでしょ? この距離感だから、営業前に人数分だけ採ってこれる。これも、都会のお店ではできないことですよね」

ない食材は、ない。裏返せば、四季に沿った旬のものだけがある、ということ。

今・ここでしか味わえないものを、お皿のうえでどう表現していくか。都原さん自身、この新しいチャレンジを楽しみにしていることが伝わってくる。

土地の味というと、まず食材をイメージする。

けれど都原さんが何よりも違いを感じたのは、水だった。

「ここから10kmほど離れた立岩水源というところがあって。超軟水なんですよ。自分で出汁をひいてみて、この水のすごさを痛感しました」

最初は従来通りのやり方で出汁をとってみる。すると、ひどく濁ってしまった。

1℃ずつ温度を変化させてデータをとっていくうちに、少し高めの温度で抽出するといいことがわかってきた。

「つい先週わかったことなんです。それも百発百中じゃない。気候とか、季節によっても条件は一緒じゃないので。たぶん1〜2年はスタッフに出汁をひかせないんじゃないかな。まず自分が理解しないと、人にも伝えられないので」

ここまで話を聞いていても、料理に対してストイックな姿勢を感じる。

一方で、働き方やチームのあり方について聞いてみると、とても柔軟な印象を受ける。

「料理長がいない店をつくりたいんです。全員がその道のプロフェッショナルで、ぼくよりもすぐれたものを持っていたら、いい意味でマウントがとれなくなる。そんな風通しのいい会社でありたくて」

すでに決まっているメンバーは、都原さん含め3人。黒川の宿泊客の3〜4割を占める外国人対応を見据えて、英語が堪能なミャンマー人のスタッフと、日本料理店で修行してきた人が加わることになっている。

今回は残る2枠として、ソムリエと調理スタッフを募集したい。

「ぼくはお酒を飲まないんですよ。飲もうと思えばバリバリ飲めるんですけど、次の日の味覚が変わるので、営業日前はもうずっと飲んでいません。なので、料理に合うお酒を自分の言葉でしっかり勧められる人がほしくて」

ソムリエの有資格者はもちろん、日本酒やワインが好きで、料理とのペアリングを突き詰めたいという人なら、学びの多い環境だと思う。

調理スタッフは、調理の補助からお客さんへの提供までを担う。ジャンル問わず、調理経験があると望ましいものの、未経験でも大丈夫とのこと。

「挑戦したうえでの失敗は、大いに歓迎します。ぼく自身海外に住んでみて、やっぱりミスを恐れずに挑戦する人たちが進化していくんだなと感じたので。どんどんチャレンジしてもらいたい」

「一番重視するのは、人間性です。思いやりのある人。条件としてどれだけ腕がよくても、そこが欠けていたらぼくは採れないです」

お店はカウンター12席で、18:00から20:30の1回転のみ。

13時出勤、22時退勤のリズムが基本で、週2回は定休日を設ける予定。「息が合ってくれば、休憩も2時間くらいとれるんじゃないかな」と都原さん。

「休憩中はそのへんでコーヒー飲んだり、本読んでる子もいたり。ぼくはたぶん木陰で寝てると思うんですけど(笑)。それぞれ好きに過ごしてもらって」

「スタッフとは『外でまかない食おう』って言ってるんです。このあたりはジビエがいっぱい獲れるから、バーベキューするとかね。わざわざ来てもらうからには、そんな感じのおもしろい会社でありたいと思っています」

 

取材後、お隣の九重町(ここのえまち)にある畑へ。

広々とした高原にハウスが並び、たくさんの野菜が育てられている。

ここを営んでいるのが、久保田園芸の久保田さん。都原さんとは、熊本市内のお店にお客さんとして訪ねたのがきっかけで知り合った。

「食べるのが好きなんですよ。店もあちこち行くし、自分で料理もするし、魚も捌く。都原さんにも『この魚何キロですか?』とか、初対面からズケズケ聞いて。そこから仲良くなって、うちの農園にも来てもらってね」

都原さんいわく、久保田さんのつくるカブが「過去最強にうまかった」そう。

久保田さんも「都原くんがほしい野菜があったら言ってよ。つくるから」と、この交流を楽しんでいるみたい。

「ぼくはもう、第一線でバリバリって感じでもないから、こういう料理屋さんに直接買ってもらったほうがいいと思ってて。そのほうがおもしろいじゃないですか」

畑をまわりながら、カブやニンジンの土を払ってさっそくかじり付く都原さん。

そのうち畑から離れて、道端に咲くタンポポを手に取りながら「今、茎の勉強してるんですよ。炒めものにしたり…」と話に花が咲いていく。

畑での時間を通じて、食への探究心が尽きない人だなとあらためて感じました。

自明のおいしさに満足せず、まだ出会ったことのない味を追い求めて。

都原さんとともに、食の世界を探究する旅に出ませんか?

(2026/05/10,11 取材 中川晃輔)

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