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命めぐる
里山の温泉街の
ジビエフレンチレストラン

食べることは、命をいただくこと。

田畑や畜産の現場、海・山・川と、食卓とのあいだに隔たりがある現代では、なかなか実感しにくいことかもしれません。

その原点に立ち返るジビエフレンチレストランが、熊本・黒川温泉に生まれます。

生産者と直接やりとりを重ねて食材を厳選。山の湧水や、温泉の地熱を活かした蒸し調理、広葉樹の薪を使った薪窯料理など、食材もエネルギーも地域で自給していきます。

今回募集したいのは、調理とサービスに横断的に関わるスタッフ。調理経験があると望ましいですが、未経験も歓迎とのこと。

お店は8棟のレストランからなる食の拠点「Au Kurokawa」の一角に、今年の春以降にオープン予定。

福利厚生として、温泉も入り放題です。心身を整えながら、食べること、もてなすことに向き合いたい。そんな人を待っています。

 

高速道路や空港から離れた山のなかに、30軒の旅館が点在する熊本・黒川温泉。

それぞれの旅館は、離れ部屋。旅館をつなぐ小径は、渡り廊下。

地域全体をひとつの旅館と見立てる「黒川温泉一(いち)旅館」というコンセプトで人気を集め、今では年間100万人が訪れる。

強い寒波に見舞われた平日でも、通りには老若男女問わず、さまざまな世代の人が歩いている。海外からの観光客も多い。

里山の景観を守りつつ、ほどよい人の流れもある。

温泉地として理想的な姿のように思えるけれど、課題も抱えている。そのひとつが、旅館の従業員の働き方だ。

一泊二食付きが当たり前だった旅館業界。人手不足が進むなかで夕食を提供しようと思うと、長時間労働は避けられない。

そこで、旅館に泊まりつつ、食事は近隣の飲食店でとってもらう「泊食分離」ができないかと考えたのが、旅館「奥の湯」オーナーの音成さん

黒川周辺には朝晩に営業している飲食店がほとんどなかったことから、「Au Kurokawa」を立ち上げた。

3000坪の敷地に8棟のレストランが並ぶAu Kurokawa。黒川温泉一旅館のコンセプトに紐づけるなら、地域共有の“台所”にあたる。

すでにオープンしているのは、パンとコーヒーの店「Au Pan & Coffee」、熊本の養豚家・永家さんが育てた豚を味わう「豚皇」、農場直送のあか牛の溶岩焼きやしゃぶしゃぶが楽しめる「褐-aka-」の3店舗。

春以降、ここに和食の懐石料理店とフレンチレストランが加わる予定だという。

いずれの店舗にも共通しているのは、顔の見える生産者が育てた食材を使うこと。

可能な限り半径50km以内でとれる食材を使うことで、この土地ならではの食の豊かさを伝えることができるし、輸送にかかるCO2の削減にもつながる。

今回スタッフを募集するフレンチレストラン「kazane」では、メイン料理にジビエを活用する。

「このへんは野生の動物がいっぱいいます。とくに最近は鹿が増えすぎていて。山道を散歩していてもよく出くわしますよ」

周辺では、年間2000頭ほどの鹿や猪が獲れる。ただ、熊本県北にジビエ肉の処理施設がなく、猟師さん自ら解体して食用にする以外は廃棄されることも多かった。

そんななか、ジビエ肉の解体から精肉販売まで一貫して行う「時さん自然恵」がお隣の小国町に2023年オープン。

元料理人の時松さんがひとりで運営しているため、大量にさばくことはできないものの、ジビエを地元の飲食店で扱いやすくなった。

東京・表参道にあるミシュラン一つ星のフレンチレストラン「LATURE」との出会いも、ジビエ活用の後押しとなった。

LATUREは、オーナーシェフ自ら狩猟した肉を料理して提供するなど、ジビエに並々ならぬ想いで向き合ってきたお店。

そんな環境で腕を磨いてきたシェフの中井さんが、黒川の食材のポテンシャルに惹かれたことから、フレンチレストラン「kazane」の構想は本格的に動き出した。

 

「わたしから『やらせてください』って言ったんです。こっちは生産者さんとの距離も近いし、自分のやりたいことが実現できるんじゃないかと思いました」

今回が2回目の黒川への訪問だという中井さん。前日に物件を見てまわって、無事に住まいが見つかったそう。

これから入る人は、中井さんのもとで働くことになる。

大阪出身で、物心ついたときから食べることが好きだった。

沖縄・竹富島のホテルで1年働いたあと、LATUREへ。4年半の在籍を経て、今回のプロジェクトに関わることに。

中井さんのやりたいことって、どんなことでしょう?

「もともと地域食材に興味があって。将来自分でお店を持つなら、その土地でしか食べられないものを提供したいと思っていたんです。日本の魅力を、国内だけじゃなく世界にも発信していくって考えたら、地域の食材を活かすことが一番かなって」

ジビエだけでなく、野菜や山菜、果物、牛乳や卵など。黒川温泉周辺エリアでとれる食材は多様で、想いをもった生産者さんも多い。

この取材の翌日は、車で1時間ほど離れた高森町でヤマメやサーモンを育てている養魚場へ行き、帰りには草原維持のために羊を飼っている人たちのもとを訪ねるそう。

これから入る人も、キッチンのなかにとどまらず、新しい食材を探しにいったり、生産者さんを訪ねたり。食のルーツに関心を持って動ける人だといい。

「ほかのお店とも連携したいですね。フレンチって食材のいい部分を使うので、どうしても端っこが出てしまう。たとえばジビエならミンチにしてカレーに仕上げて、Au Panのカレーパンに使ってもらうとか。なるべくロスなくやっていきたいです」

加えて「kazane」で取り組みたいのが、自然のエネルギーを活かすこと。

たとえば、温泉の蒸気を活用した蒸し調理や、周辺の森で伐採された広葉樹の薪を使った薪窯料理など。自然の熱源を取り入れることで、料理の過程でもこの土地らしさを表現したい。

「溶岩石をお皿にしてもいいし、地域の作家さんの器も積極的に使いたいですね。お客さまに地域性を感じていただくには、料理の内容はもちろん、見せ方も大事だと思うので。“ここでしかできない体験”を一番の売りにしていきたいです」

今回募集するのは、調理とサービスに横断的に関わるスタッフ。

フレンチの調理は、繊細なイメージがある。調理経験はあったほうがいいですよね。

「いや、そんなこともなくて。初歩的なところから触れる仕事もあります。未経験でも大丈夫ですよ」

まずは食への強い関心が第一。調理経験がなくても、ワインや器が好き、自然や生態系について詳しいなど、料理をとりまくさまざまな分野に強みをもったメンバーが集まってくれるとうれしい。

もうひとつ、大事なポイントがある。

「料理って黙々とやるイメージがあると思うんです。でもわたしは、コミュニケーションをとりながらやっていきたくて」

未経験可とはいえ、フレンチには細かい技術が求められる。食材の保存方法や切り方ひとつとっても、意思疎通がとれていないと、店として出したいものとのズレが生じてしまう。

「調理だけでなくサービスにも関わっていただくので、そういう意味でもしっかり会話ができる方。生産者さんの想いやお店のコンセプトも、自分の言葉でお客さまに伝えられる方だといいなと思います」

また、飲食業も旅館業と同じく長時間労働になりがち。Au Kurokawaの目的からしても、働き方は工夫したいと考えている。

ランチ営業はせず、ディナーの1回転のみ。予約は旅館と連動しており、客数が事前に見込めてフードロスを減らすことができる。

出勤はゆったり11時。15時ごろまで仕込みをして、まかないを食べつつ1時間休憩。16時から清掃やテーブルのセッティングをはじめ、18時にお客さんを迎える。

ここで、音成さん。

「食事は2時間半ぐらいにしようと話していて。お客さんに合わせて、いつ帰れるかわからない飲食店も多いと思うんです。そういうことは起きないようにしようと。旅館への送迎の都合もあるので、閉店時間はしっかり決めさせてもらうつもりです」

20時半ごろに閉店、片付け。22時には帰れるようにする。

働き方や、調理とサービスの比重などは、営業しながら一人ひとりに合った形を探っていきたい。

「福利厚生で温泉は入り放題です。あとは、黒川温泉から車で15分ほど離れた小国町のまちなかに、単身者向けのコンテナハウスを用意してあります。そこに限らず、住居探しも手伝いますよ」

ちなみに中井さんは、移住に抵抗はなかったのだろうか。

「自分は田舎のほうが向いてるなって。ひと昔前だったら大変だったかもしれないですけど、今ってなんでもオンラインで買えるし、便利になっているので。全然暮らしていけると思います」

小さなまちなので、スーパーやガソリンスタンドで知り合いにばったり会うことも少なくない。

食に限らず、顔の見える関係性を楽しめる人が合うんだろうな。

 

「ジビエの加工場もぜひ」ということで、音成さんの運転で「時さん自然恵」へ。温泉街から20分ほどで到着した。

迎えてくれたのは、元料理人で猟師の時松さん。

自己紹介する間もなく、ジビエへの想いが溢れてくる。

「今の時期は雌鹿がいいです。妊娠期に入っていて、栄養価も高い。雄は秋の繁殖期の体力を回復するほど食糧をとっていないので、痩せている。3〜4月にツノを落としてどんどん大きくなって、暖かい時期は逆に雄がよくなる。雌は出産してお乳をやるので、どんどん痩せていってしまう。いろいろバランスがあるんですよね」

大きさにこだわらない加工場もあるなかで、時松さんは30キロ以上の個体に絞って精肉している。小さな個体は肉質が柔らかいものの、肉本来の味が出ないと考えるからだ。

また、止め刺し後の劣化を進ませないため、罠にかかったジビエはなるべく生きた状態で連絡を受け、必ず一頭ずつ解体・精肉しているのだとか。

「もともと料理をやっていたので、“自分が料理したくなるお肉を仕立てる”のがモットーですね。これどうかな?ってやつは、出したくない。こだわっているとお肉の在庫がなくなったりもするんですけど、やっぱりね、そこは曲げたくないかな」

黒川の旅館で働いていたものの、お子さんが社会人になる50歳のタイミングで独立。この加工場を立ち上げた時松さん。

まだ立ち上げて3年に満たないにもかかわらず、質のいいジビエを求めて東京、大阪、神戸など、都市部のレストランから注文が絶えない。

ジビエの生産者としても、料理人の先輩としても、時松さんから学べることはたくさんあると思う。

たまにここを訪れたり、狩猟に同行させてもらったりもできますか?と訊ねると、「もちろん」と返事がかえってきた。

「現場を見ていただくのは、すごくいいと思います。お肉ができていく過程を知ると、料理をするうえでの考え方も変わりますよ」

 

食材が生まれる現場が近いからこその、リアリティ。

その力強さに驚いたり、戸惑ったりする場面もきっと出てくるはず。

それでも命と向き合い続けるなかで、食べること、生きることにまつわる価値観の根っこが育っていく。そんなお店だと思いました。

(2026/01/22 取材 中川晃輔)

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